ダークマターって何?

 宇宙にはまだまだ人類にとって分からないことだらけです。しかし、天文学者というのはけしからん人たちでして(笑)、分からないものには「ダークなんとか」っていう名前をつけてわかった気になります。「ダークマター」や「ダークエナジー」や「ダークエイジ」などなど、、、
 今回は、そんな分からないものの代表選手、「
ダークマター」を取り上げたいと思います。


「ダークマター」とは一体なんでしょうか?簡単に一言でいうと、「
目に見えない質量」です。宇宙には星や銀河など色々なものが「見えます」。それは、星などが光を放っているからです。天文学者は、その星からの光を解析して、星や銀河の質量を見積もることができます。一方、質量は天体の運動からも見積もることができます。物体の運動は万有引力に支配されており、その万有引力は質量と密接な関係があるため、天体の運動を詳しく解析することで、質量を求めることができるのです。
 このように、質量の求め方にはいくつかの方法があるのですが、どのような求め方をしたにせよ、答えは一致するのが筋ですよね。でも、実際にはこの二つの求め方で求めた質量が一致しないので、大問題なんです。

この不一致の例として最も知られているのが、
銀河の回転曲線問題です。水素の21cm線という特殊な光のドップラー効果を観測することなどで、我々は銀河の回転速度を求めることができます。回転速度が分かれば、あとは簡単な計算で、その銀河にはどれだけの質量が「なければならないか」が計算できます。一方、星の質量や、銀河の中に存在する星の数というのは大体分かっているので、そこから、銀河の中に存在する星の質量の合計を計算することができます。この二つの結果が一致しないんです。ちょっとだけ一致しない、とかいうレベルじゃありません。なんと約10倍も違うのです。このことから、星などのように目で見えるもの以外にも何かあるはずだ、という結論に至ります。この「目に見えない何か」をダークマターと呼ぶのです。このほかにも、銀河団やCMBの観測など、独立した別のからもダークマターの存在が示唆されています。
 ということで、「ダークマターが存在する」というのは、ほぼ疑いようのない事実として広く専門家たちに受け入れられています。


 以上のような流れから、この宇宙にダークマターなるものはおそらく存在します、というか、存在してくれなければ困るのです。次なる問題は、「では、その
ダークマターの正体は一体何か?」ということです。
 
 まず最初にぱっと思いつくのは、「光っていない天体」「光っているが暗すぎて観測できない天体」でしょう。有名どころとしてはブラックホール(ブラックホールについては「ブラックホールって本当にあるの?」を参照)なんかそうですね。ほかにも、中性子星・白色矮星・褐色矮星・惑星など、暗すぎて観測できない星が、我々が考えているよりも宇宙には数多くあるのではないか、と考えることができます。このようなダークマター候補のことを"MAssive Compact Halo Object"略して"
MACHO(マッチョ)"と言います。ですが、最新の宇宙生成理論から、宇宙に存在するバリオン(詳しく説明すると難しいのですが、ここでは「普通の物質」という程度の理解で問題ないと思います)の量はどれくらいでなければならないかということが知られているなど、MACHOだけではダークマターを説明するには全然足りない、ということが知られています。観測的にも、重力レンズ効果を用いてブラックホールを見つける観測などから、ダークマターを説明するほどブラックホールは存在しないことが知られています。このことから、MACHOはダークマターの主要構成要素ではない、というのが現在主流の考え方です。

 ということで、現在ダークマターの主な構成要素として挙げられているのは「
未知の素粒子」です。
ダークマター候補の未知の素粒子を総称して"Weakly Interacting Massive Particles"略して"
WIMP(ウィンプ)"と言います。ちなみに、英語の"WIMP"という単語は、「弱虫」という意味があります。ブラックホールなど、大きくて重くて強そうなダークマター候補"MACHO"の対比として、小さくて軽い素粒子のダークマター候補を"WIMP"と名づけるところなんか、すごいセンスを感じますね!

 先ほど述べたとおり、MACHOではダークマターを説明できないので、WIMPこそがダークマターの最有力候補だと現在では考えられています。では、具体的にWIMPにはどのような素粒子があるのでしょうか?まず最初に考えられてきたのは
ニュートリノです。ニュートリノとは、非常に軽い素粒子の一種です。小柴昌俊氏がマゼラン雲での超新星爆発からのニュートリノを検出してノーベル賞を受賞したのは記憶に新しいですよね。当初、ニュートリノには質量はないと考えられていたのですが、(素粒子の標準理論によると、ニュートリノには質量があってはならない)太陽ニュートリノ問題等で知られる「ニュートリノ振動」という現象が発見され、このことから、ニュートリノは質量を持つはずであるということが最近分かってきました。(つまり、素粒子の標準理論を書き換える必要がある)。具体的にニュートリノがどれくらいの質量を持っているのかというのは、まだ詳しく分かっていないのですが、この宇宙はニュートリノに満ちているので、もしニュートリノが質量を持つのなら、ニュートリノこそがダークマターなのではないか、と考えるのは自然な流れです。
 しかし残念なことに、最近の他の色々な研究から、
ニュートリノでも全然足りない、ということになっています。例えば、もしニュートリノがダークマターだとするならば、宇宙初期の銀河形成時にニュートリノが強く働きすぎて、今のような銀河はできないはず、というシミュレーションの結果などが、その理由として挙げられます。

そんなこんなで話をまとめると、
ダークマターの候補は「ニュートリノ以外のWIMPということになります。そんな素粒子、理論的な候補はいくつかありますが、現時点ではまだ何も発見されていません。ということで、「ダークマターの正体は、結局分かりません」というのが現在の結論となります。


以上が今回のテーマ、ダークマターのお話でした。ダークマターの正体を突き止めようとする研究は、天文・素粒子の両面から最先端の研究が数々なされていて、近い将来、ダークマターの正体はきっと分かるだろうと期待されています。
ダークマターの正体を突き止めた人は、確実にノーベル賞がもらえます!これはもう、間違いありません!!(一方、ダークマターと似て非なるものであるダークエナジーの正体は、ほうとにもう、さっぱり分かりません状態ですが)。こんな感じで、天文学というこの世の中でもっとも大きなモノを扱う学問と、素粒子物理学というこの世の中でもっとも小さなモノを扱う学問とが、このように密接に関連しているというのは、非常におもしろくありませんか?