ブラックホールって本当にあるの?


 私が天文学を専攻しているというと、宇宙に興味を持っている人から宇宙に関する質問を受けることがよくあります。意外に宇宙に関心を持っている人って多いんですね。んで、そのときによく聞かれる質問は「ブラックホールって本当にあるんですか?」です。今日はこのご質問にお答えしましょう。

 結論から言いますと、ブラックホールは本当にあります。理論だけの産物ではなく、観測的にもいくつも確認されています。という事なので、実際に観測されたブラックホールをお見せしましょう! 下の写真はNGC4261という銀河の中心に存在する円盤状のガスと塵を伴ったブラックホールです。

 ブラックホールって、光も出てこれずに見えないからブラックホールなんですよね? そんなブラックホールがこんな感じで写真が撮れるというのは何か変な感じがしませんか? じつは、これはブラックホールそのものを見ているのではなく、ブラックホールに落ち込んでいる周りのガスを見ているんです。ブラックホールそのものはもちろん光さえも出てこないので、直接見ることはできません。

 ではまず、光さえも出てこれないって一体どういうことなんでしょう?まずはその辺の話から始めましょう。例えば、あなたが地球上で野球ボールを投げたとしましょう。一体そのボールはどうなりますか? もちろんどこかに落ちますよね。それは地球には重力があるので、その地球の重力がボールを地球側に引っ張っているため、ボールは落ちてくるんです。では、例えばランディー・ジョンソンがボールを思いっきり投げたとしたらどうでしょう? もちろんボールは落ちます。しかし、あなたが投げたよりもっと遠くに落ちるはずです。つまり、当たり前ですが、速く投げればそれだけ遠くに落ちるという事ですね。では、こんな感じで、投げる速さをどんどん速くしていったらどうなるでしょう? 落ちる場所はどんどん遠くになっていって、最終的には地球を一周してしまいますね。そうなってしまうと、以下の図を見てもらえば分かるように、もうそのボールは地球に落ちません。人工衛星はこのようにして地球の周りを回っているんですね。このようになる速度のことを、第1宇宙速度といって、約秒速7.9kmです。いいですか!秒速ですよ!キロメートルですよ!ものすごい速さですよね。でも、人工衛星がいっぱい打ちあがっているという事は、人類はもうこの速度は比較的簡単に実現できるというわけです。すごいですね。

 しかしこの状態では、まだ地球の重力圏の中にいます。地球の重力圏を突破するためにはもっと早い速度が必要です。この速度のことを第2宇宙速度(脱出速度)といって、約秒速11.2kmです。さらに、第3宇宙速度というのもあって、それは太陽の重力圏を突破するための速度です。これは、約秒速16.7kmです。

 星の重力は、その星の質量が大きくなれば強くなります。という事は、脱出速度も大きくなるということです。アインシュタイン相対性理論によると、光速より速い速度はありえないため、星の質量がどんどん大きくなっていき、脱出速度が光速を超えると、ありとあらゆる全てのものが出てこれなくなってしまいます。このような天体のことをブラックホールといいます。詳しい計算は一般相対性理論を使わなければならないのですが、実際にそのような計算をしてブラックホールの存在を理論的に予測したのは、シュバルツシルドという人です。今でも、ブラックホールの大きさのことをシュバルツシルド半径といいます。また、このような天体をブラックホールと名づけたのは、ジョン・ホイラーという人です。そして、実際にブラックホールが観測で初めて確認されたのは、Cyg-X1(「キグナスエックスワン」と読む。Cygとは白鳥座のこと。)という天体で、1970年代のことです。

 ブラックホールには、大きく分けて2種類あります。恒星質量ブラックホールと、大質量ブラックホールです。名前の通り、これらは質量の違いで、前者はだいたい普通の星と同じ位の重さで、後者は太陽質量の1万倍とかの質量を持ちます。次は、これらのブラックホールがどのようにできるのかというお話です。
 恒星質量ブラックホールは、
星の死体のようなものです。実は星は生きていて、太陽も例外ではありません。太陽などの星は、その中心で核融合反応をしているのですが(詳しくは『太陽は宇宙でどうやって燃えているの?』を参照)、いずれ核融合の燃料が切れてしまいます。すると星の中心部は収縮し、温度が上がり、また別の物質が燃え出すといった感じで、赤色巨星など別の状態に進化していきます。そして、質量が思い星が最終的に行き着く状態がブラックホールなんです。もう燃料がなくなってしまい、自分の重さを支えきれなくなって、つぶれてブラックホールになってしまうんですね。ブラックホールになるのは主系列星時代に太陽質量の20倍程度以上の質量を持った星です。これらの星は、進化過程で物質を恒星風などで外に放出するので、最終的なブラックホールの質量はかなり軽くなり、理論的には太陽質量の20倍より大きなブラックホールは普通の恒星進化ではできないと考えられています(赤色巨星や主系列星については『星にはどんな種類があるの?』を参照)。
 一方、大質量ブラックホールは、銀河の中心にあります(銀河については『銀河にはどんな種類があるの?』を参照)。銀河などという大きなシステムを中心の重力で支えるためには、中心部にはものすごい質量が密集していなければならず、それはブラックホールでなければ不可能だということです。もちろん、私達の住む
天の川銀河の中心にもブラックホールは存在し(天の川銀河については『天の川って何?』を参照)、その天体の事を
Sgr-A(「サジタリウスエースター」と読む。Sgrとはいて座のこと)といいます。このような大質量ブラックホールは、恒星質量ブラックホールが多数合体してできたと考えられています。
 先ほど、太陽質量の20倍以上の恒星質量ブラックホールは理論的にできないと書きましたが、
ULX(超高光度X線源)と呼ばれるタイプの天体がいくつか見つかっていて、それらは中心に太陽質量の20倍以上の質量のブラックホールがあるのではないかと考えられています。このようなブラックホールを中間質量ブラックホールといいますが、まだきちんと確認されていません。中間質量ブラックホールは、恒星質量ブラックホールがいくつか合体してできたという説と、PopulationVとよばれる宇宙で最初にできた星からできたという二つの説が有力です。ちなみに私は、PopulationV関連の研究をしているため、後者の方が正しいと嬉しかったりします(笑)。この辺は自分の現在の研究と絡んでいるため、最後はちょっとマニアックになっちゃいましたね。

 ブラックホールの近くでは、あまりにも重力が強く時空が歪んでしまっているので、私達の常識が通用しません。そこは、一般相対性理論を使って考えなければならない世界です。どのように世界が違うかというと、時間の流れが遅くなります。(この段落の説明はやや難しいので、分かんなかったらとばしてね)
 例えば、のび太君が宇宙船に乗ってブラックホールに近づいていき、その様子を地球上から望遠鏡を使って静香ちゃんが見ていたとしましょう。のび太君は、もちろんブラックホールの中に入ることができます(もう出てこれないですが)。しかし、のび太君がブラックホールに入る瞬間を静香ちゃんは見ることはできません。なぜなら、ブラックホール近傍は、あまりに強い重力のため、一般相対論の効果により、静香ちゃんから見て、のび太君の時間がゆっくり流れているように見えます。そして、ブラックホールの入り口(シュバルツシルド半径)の所では、時間は無限に伸びてしまいます。そのため、のび太君がブラックホールに入る瞬間を見ることができないのです。逆に、のび太君から見ると、地球の時間は速く見え、ブラックホールに入った瞬間は、地球の時間は無限の速さで流れていくように見えます。従って、もし後ろを向いて地球を見ながらブラックホールに入っていったとすると、ブラックホールに近づくにつれ、静香ちゃんはものすごいスピードで老けていく様子が見えるでしょうし、ブラックホールに入る瞬間は、地球の終焉、というより宇宙の終焉を目にすることができるはずです。

 宇宙には、光っていない質量がたくさんあることが分かっており、それをダークマターといいます。ダークマターの正体はまだ分かっていませんが、その候補の一つが、ブラックホールです。ブラックホールは光っていない重い天体なんだから、まさにダークマターのイメージぴったりですね。しかし、大マゼラン雲重力レンズ効果観測により、ダークマターのほとんどは、ブラックホールや中星子星などのコンパクトスター(MACHO)では無いという事が確認されました(中性子星などについては『星にはどんな種類があるの?』を参照)。
 重力レンズ効果とは、光が重力によって曲げられる現象です。光には質量はないですが、一般相対性理論によると、重力によって時空が曲げられるため、その時空上を進む光も曲げられるんですね。ブラックホールなどの重力の影響で光が曲げられ、、レンズのように、その背後にある天体が明るく見える現象が重力レンズ効果です。簡単に言うと、大マゼラン雲を観測して、どれだけ重力レンズ効果が起こるのかという事を調べると、天の川銀河にどれくらいのMACHOがあるかという事が調べられるんです。その結果は、天の川銀河に存在するMACHOの量では、ダークマターを説明できないというものでした。現在では、ダークマターは主に
WIMPSという、ニュートリノなどの小さな素粒子ではないかと考えられていますが、まだ結論は出ていません。ダークマターの正体を調べるというのは、現在の天文学における最も重要な課題の一つです。

 今回はブラックホールがテーマという事で、後半はちょっと難しくなってしまいました。ごめんなさい。とにかくここで知ってもらいたかったことは、「ブラックホールはSFの世界のものではなく、現実に存在するもの」という事です。一方、ブラックホールと並び称されるものに「ホワイトホール」というものがありますが、こちらは現実には存在しないと考えられています。理論的にはあってもいいんだけど、実際に見つかっていないし、実在すると思っている学者は非常に少ないでしょう。ただ、たとえば「ビックバンは一種のホワイトホールだ」という事はできるかもしれません。確かに、全ての物質はビックバンから出てきたわけだからねぇ。モノは考えようといったところでしょうか。
 何でも吸い込むブラックホール。その周りは常識が全く通じない世界で、その中心では全てが破綻している。こんな不思議なものが宇宙に実在するなんて、やっぱり宇宙は不思議ですね。