訳註
[1]
G.E.ムーア(1873-1953)は20世紀前半を代表する倫理学者。ケンブリッジで教授を務め、ウィトゲンシュタインやラッセルと交流を持ちました。主著『倫理学原理』は邦訳があります。
[2]
ゴールトン(Francis Galton,1822-1911)はダーウィンの従兄弟で、優性学の創始者として知られ、1904年には優生学研究所を設立し、人間の改良運動を展開しました。また統計学における回帰分析の考案者でもあります。
ここでウィトゲンシュタインが言及しているのは「合成写真」の技術です。ゴールトンは、同じ種類の人格や民族の人々の顔写真を重ね合わせていけば人格や民族性の“観相学”的な本質が、写真上にはっきりと顕現するに違いないと信じ、重ね焼きによる合成写真を発明しました。例えば、犯罪者の顔を次々と重ね焼きして“理想的な犯罪者”を作り出したり、日本人の典型的な顔写真を作り出したりしました。
また、この写真の喩えは、後期の重要な概念である「家族的類似性」の萌芽とみなすことができるでしょう。
[3]
「事実(fact)」は、もちろん『論考』における「事実」と同じ意味で用いられています。従ってこの講話における「事実の叙述」は『論考』における「有意味な命題」に相当します。