2009/08/01 新規作成

 

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和薄荷について

 

1.始めに

 

 古代から日本列島にあったと思われるMentha属は、高知の牧野富太郎博士が命名した「ヒメハッカ」(姫薄荷 Mentha japonica Makino )と、その亜種の「ハイヒメハッカ」 Mentha japonica Makino f. prostrata )があることが知られている。

 

ヒメハッカ

ヒメハッカヒメハッカ

※=>「ヒメハッカ」の紹介記事   http://blogs.yahoo.co.jp/life196010/20605870.html 「戻る」でこのページに帰ってください

 「ハイヒメハッカ」は記録には残っているが、現存するかどうか不明。

 

 もう一種「エゾハッカ」(蝦夷薄荷 Mentha arvensis L. ssp. piperascens (Malinv.) Hara )も北海道開発期に発見されたと言われているが、こちらは学名に他の和薄荷同様「arvensis」(原生・野生の意)が付いていることから野生種ではあろうが、北海道に古代からあったものかどうかは定かではない。

 

エゾハッカ

エゾハッカエゾハッカ

※=>「エゾハッカ」の紹介記事   http://blogs.yahoo.co.jp/life196010/20606119.html 「戻る」でこのページに帰ってください

 

 「エゾハッカ」の外見は、「朝鮮産和種」Mentha arvensis L. CHOUSENSAN WASHU )、「欧州産和種」 Mentha arvensis L. OUSHUUSAN WASHU )、と酷似しており、いずれも背が低く匍匐性に近い、葉も他のMentha属に比べ小さくやや薄い緑色をしている。

※=>「朝鮮産和種」「欧州産和種」は近日紹介予定

※=>似た名前に「米国産和種」 Mentha arvensis L. BEIKOKUSAN WASHU )があり、ジーンバンクにあるが未入手

 

 上記の薄荷達はいずれも農作物として栽培されたものではなく野生種で、栽培用和薄荷の開発に用いられた形跡はない。

 

 ではいわゆる和薄荷とは何か? これは日本で開発・栽培された品種というわけではなく、メントール分の含有量で決められている。

 

 戦前はメントール分65%以上が和薄荷であるとされていたが、戦後開発された品種はいずれも75〜82%ものメントール分を含み、水蒸気蒸留して得られた精油を更に精製してできる白色針状結晶(薄荷脳)が、洋種薄荷に比べ多く得られるのが特徴である。

 

 このことは、洋種薄荷が和薄荷に劣っているというわけではなく、例えば「ペパーミント」(英語 Peppermint、学名 Mentha piperita L. )は芳香性の良い精油がとれ、この芳香は和薄荷よりもはるかに高い評価がされている。

 

 ちなみに洋種薄荷の代表格である「ペパーミント」は、「ウオーターミント」(英語 Water Mint 又は Marsh Mint、学名 Mentha aquatica 又は Mentha awualica )と「スペアミント」(英語 Spearmint 又は Curly Mint、学名 Mentha spicata (L.) Hudson M.SPICATA )の交配種で、「スペアミント」よりも「l‐メントール」分が多い強い香りを持っている。

 

ペパーミント

ペパーミントペパーミント

※=>「ペパーミント」の紹介記事 http://blogs.yahoo.co.jp/life196010/312429.html 「戻る」でこのページに帰ってください

 

 もう一つの代表格である「スペアミント」は、リラックス効果がある「カルボン」(LCarvone)を多く含み、欧米では広く料理等に使用されるが、一般的に日本人は「ペパーミント」に多い「l‐メントール」を主成分とする香りを好み、「スペアミント」に含まれる苦味成分「プレゴン」を嫌うためか、やや日本での使用率は欧米に比べて低いとされている。

 

スペアミント

スペアミントスペアミント

※=>「スペアミント」の紹介記事 http://blogs.yahoo.co.jp/life196010/268379.html 「戻る」でこのページに帰ってください

 

 

2.栽培用和薄荷の歴史

 

 日本の栽培用薄荷は、地中海沿岸ユーラシア地方が原産地とされ、シルクロード、中国を経て奈良時代に伝わったものと見られる。

 

 また、同じものがインド、エジプトを経由してヨーロッパに伝わり、ミントと呼ばれるようになったという説がある。

 

 正倉院文書の天平宝字6年(762年)の記述に「目草」(めぐさ)という名前があり、永観2年(984年)に丹波康頼が著した「神遺方」にも洗眼剤として記されている。

 

 薄荷については、江戸時代の「本草和名」「倭名抄」「伊呂波」「三才図会」など多くの書物に記述されており、民間薬としてもよく使われていたものと思われる。

 

 「大和本草」には、「生葉を刻み、膾に加え、又、煎茶、燗酒に和して飲む。本草にも、茶に代えて飲むといえり。痩弱の人久く食べからず。猫くらえば酔う。猫の酒なりと云う。猫の咬みたるに汁をぬるべし、相制するなり。」と薄荷の利用法が紹介されている。

 

 江戸幕府の「万延元年庚申某月、暴潟病ノ流行スルヲ以テ、其予防法ヲ頒布ス」という触留のなかに薄荷油を用いた処方が見られ、また、長崎に来ていたシーボルトが処方した処方せんのなかに薄荷油を用いたものを見ることができる。

 

 漢方における処方にも薄荷葉を用いたものが多く見ることができる。

 

 幕府は享保7年(1722年)に和薬改会所を設け、各地の薬種問屋の代表を集め、市場に流通する和薬の品種とその品質についての統一見解を求めているが、その中に和薄荷が見られることから、かなりの栽培が始まったものと思われる。

 

 また、全国各地に薬園が作られており、その栽培品目の中に、薄荷を見ることからも一般に広がっていたものと思われる。

 

 「本草綱目啓蒙」には、19世紀の初めに、城州山城の郷(現在の千葉県)、和州奈良(現在の奈良県)、泉州堺(現在の大阪府堺市)に多く栽出すと記されている。

 

 この当時栽培された品種は、「赤圓」(岡山、広島、山形、北海道)・「青柳」「赤茎」(岡山、広島)・「青茎」(岡山)・「白茎」「白花」(岡山)・「柳葉」(愛知)等と伝えられるが、現在保存されているのは、わずかに「青茎」「赤圓」の2種しか確認できない。

 

 この呼び名はすべて外見によるものと思われ、厳密に品種が区別されていたかどうか不明である。

 

赤圓

赤圓赤圓

※=>「赤圓」の紹介記事 http://blogs.yahoo.co.jp/life196010/164790.html 「戻る」でこのページに帰ってください

※=>「青茎」は近日紹介予定

 

 

 「赤圓」について、北海道北見市の北見ハッカ記念館・薄荷蒸溜館の館長様の情報では、「広島赤圓」「岡山赤圓」「山形赤圓」と区別されており、北海道で栽培されたものは、「山形赤圓」であったとのこと。

ジーンバンクには、「赤圓」「山形赤圓」が保存されており、「広島赤圓」「岡山赤圓」については、他の資料では発見できないうえ、品種が保存されているかどうかも不明。

また、ブラジルに移民した日本人たちが栽培した「赤圓」を選別し、「カンピナス701」と名付けたとされているが、これがジーンバンクに保存されている「MA701」と同種かどうかは不明であり、カンピナスがブラジルサンパウロ州の地名カンピーナスCampinas)であるかさえ不明。

※=>「山形赤圓」は近日紹介予定

※=>「MA701」は近日紹介予定

 

 文化14年(1871年)には、備中門田村(現在の岡山県総社市)で本格的な薄荷栽培が始まり、安政元年(1854年)頃に現在の山形県や備後助元村(現在の広島県駅家町)でも栽培が始まり、その後山形県が最も多く栽培された。

 

 明治28年(1895年)には、北海道上川郡永山村から紋別郡湧別村で、本格的な栽培が行われ、明治中期には北見地方が日本の中心的な産地となった。

 

 この頃から日本産薄荷の品質の良さが海外で高まり、昭和12年から14年当時は世界の生産量の8割以上を占めた。

 

 昭和14年(1939年)には、北海道での統計上最大の栽培面積(20,760ha)を記録したが徐々に減少し、ブラジルに移民した日本人達が和薄荷を過剰生産したため価格が暴落、また、合成メントールの進出等で昭和33年以降急減し、更に昭和46年10月には和薄荷の輸入が自由化され、平成17年(2005年)には、北海道滝上町で僅か2haでしか栽培されていなかった。

 

 

 この間に主に栽培された品種を列記すると、

 

 ・昭和28年(1953年)農水省認定、農林省札幌農事改良実験所北見試験地

中国種の「南通」×「赤圓」=「北交1号」=「はっか農林1号」

「まんよう」 万葉 Mentha arvensis L. var.piperascens Malinv. MANYOU

 

南通

南通南通

※=>「南通」の紹介記事 http://blogs.yahoo.co.jp/life196010/4501563.html 「戻る」でこのページに帰ってください

 

まんよう

まんようまんよう

※=>「まんよう」の紹介記事 http://blogs.yahoo.co.jp/life196010/345555.html 「戻る」でこのページに帰ってください

 

 ・昭和23年(1953年)発見、岡山県農業試験場倉敷はっか分場

偶然生えていた中国種と思われる不明種を検査したところ、生産性・精油収穫量が非常に優れていたため、主に備前・備中・備後地方(三備地方)で栽培されたが、系統が不明なため農水省の認定が受けられなかった

「さんび」 三美 Mentha arvensis L. var.piperascens Malinv. SANBI

 

さんび

さんびさんび

※=>「さんび」の紹介記事 http://blogs.yahoo.co.jp/life196010/241708.html 「戻る」でこのページに帰ってください

 

 ・昭和29年(1954年)農水省認定、農林省札幌農事改良実験所北見試験地

「南通」×「北進」(ほくしん)=「北交2号」=「はっか農林2号」

「すずかぜ」 涼風 Mentha arvensis L. var.piperascens Malinv. SUZUKAZE

 

北進

北進北進

※=>「北進」の紹介記事 http://blogs.yahoo.co.jp/life196010/329116.html 「戻る」でこのページに帰ってください

 

すずかぜ

すずかぜすずかぜ

※=>「すずかぜ」の紹介記事 http://blogs.yahoo.co.jp/life196010/267178.html 「戻る」でこのページに帰ってください

 

 ・昭和33年(1958年)農水省認定、岡山県農業試験場倉敷分場

「青茎」を選抜した「岡交2号」=「はっか農林3号」

「はくび」 博美 Mentha arvensis L. var.piperascens Malinv. HAKUBI

※=>「青茎」は近日紹介予定

 

はくび

はくびはくび

※=>「はくび」の紹介記事 http://blogs.yahoo.co.jp/life196010/288242.html 「戻る」でこのページに帰ってください

 

 ・昭和36年(1961年)農水省認定、北海道農業試験場遠軽試験地

「白花」× M.spaicate =「24−24」×「さんび」=「27−104」=「はっか農林4号」

「おおば」 大葉 Mentha arvensis L. var.piperascens Malinv. OOBA

※=>「白花」はジーンバンクにもない

 

スペアミント

スペアミントスペアミント

※=>M.spaicateは一般的なスペアミントの紹介記事 http://blogs.yahoo.co.jp/life196010/268379.html 「戻る」でこのページに帰ってください

 

24−24

24−2424−24

※=>「24−24」の紹介記事 http://blogs.yahoo.co.jp/life196010/3826485.html 「戻る」でこのページに帰ってください

 

おおば

おおばおおば

※=>「おおば」の紹介記事 http://blogs.yahoo.co.jp/life196010/202500.html 「戻る」でこのページに帰ってください

 

 ・昭和40年(1965年)農水省認定、北海道農業試験場遠軽試験地

「まんよう」×「さんび」=「31−81」× M.spaicate var crispa =「北交8号」=「はっか農林5号」

「ほうよう」 芳葉 Mentha arvensis L. var.piperascens Malinv. HOUYOU

※=>「31−81」はジーンバンクにもない

 

ほうよう

ほうようほうよう

※=>「ほうよう」の紹介記事 http://blogs.yahoo.co.jp/life196010/316984.html 「戻る」でこのページに帰ってください

 

 ・昭和41年(1966年)農水省認定、岡山県農業試験場倉敷はっか分場

「24−24」×「さんび」=「27−103」×「さんび」=「29−82」×「はくび」=「岡交5号」=「はっか農林6号」

「りょくび」 緑美 Mentha arvensis L. var.piperascens Malinv. RYOKUBI ) 

※=>「27−103」はジーンバンクにもない

※=>「29−82」はジーンバンクにもない

 

りょくび

りょくびりょくび

※=>「りょくび」の紹介記事 http://blogs.yahoo.co.jp/life196010/388477.html 「戻る」でこのページに帰ってください

 

 ・昭和43年(1968年)農水省認定、北海道農業試験場遠軽試験地

「さんび」の極高脳分系統「さんびS₁−1」× M.spaicate var crispa =「北交12号」=「はっか農林7号」

「あやなみ」 Mentha arvensis L. var.piperascens Malinv. AYANAMI

※=>「さんびS₁−1」はジーンバンクにもない

 

あやなみ

あやなみあやなみ

※=>「あやなみ」の紹介記事 http://blogs.yahoo.co.jp/life196010/178071.html 「戻る」でこのページに帰ってください

 

 ・昭和45年(1970年)農水省認定、岡山県農業試験場倉敷はっか分場

「ミッチャム種倍数体」×「さんび」=「岡交6号」=「はっか農林8号」

「しゅうび」 秀美 Mentha arvensis L. var.piperascens Malinv. SHUUBI

※=>「ミッチャム種倍数体」はジーンバンクにもない

 

しゅうび

しゅうびしゅうび

※=>「しゅうび」の紹介記事 http://blogs.yahoo.co.jp/life196010/265877.html 「戻る」でこのページに帰ってください

 

 ・昭和48年(1973年)農水省認定、北海道農業試験場遠軽試験地

「さんび」の極高脳分系統「J28−22」の極高脳分系統「J36−334」× M.spaicate var crispa =「北系15号」=「はっか農林9号」

「わせなみ」 Mentha arvensis L. var.piperascens Malinv. WASENAMI

※=>「J28−22」はジーンバンクにもない

※=>「J36−334」はジーンバンクにもない

 

わせなみ

わせなみわせなみ

※=>「わせなみ」の紹介記事 http://blogs.yahoo.co.jp/life196010/388610.html 「戻る」でこのページに帰ってください

 

 ・昭和50年(1975年)農水省認定、北海道農業試験場遠軽試験地

「あやなみ」の人為複2倍体系統「あやなみ四倍体」×((「まんよう」×「さんび」=「J32−263」)×(「さんび」の極高脳分系統「J28−22」)=「北系10号」)=「はっか農林10号」

「さやかぜ」 Mentha arvensis L. var.piperascens Malinv. SAYAKAZE

※=>「J32−263」はジーンバンクにもない

※=>「J28−22」はジーンバンクにあるが、未入手

 

あやなみ四倍体

あやなみ四倍体あやなみ四倍体

※=>「あやなみ四倍体」の紹介記事 http://blogs.yahoo.co.jp/life196010/178117.html 「戻る」でこのページに帰ってください

 

 ・昭和57年(1982年)農水省認定、北海道農業試験場遠軽試験地

「わせなみ」の人為複2倍体系統「わせなみ倍数体」×「さやかぜ」=「はっか農林11号」

「ほくと」 北斗 Mentha arvensis L. var.piperascens Malinv. HOKUTO

 

わせなみ四倍体

わせなみ四倍体わせなみ四倍体

※=>「わせなみ四倍体」の紹介記事 http://blogs.yahoo.co.jp/life196010/388635.html 「戻る」でこのページに帰ってください

 

ほくと

ほくとほくと

※=>「ほくと」の紹介記事 http://blogs.yahoo.co.jp/life196010/345452.html 「戻る」でこのページに帰ってください

 

 ・昭和54年(1979年)生産力認定試験開始、北海道農業試験場遠軽試験地

「ブラックミント四倍体」( Mentha x piperita L. BLACKMINT(4N) )×「北系J17号」=

「北海JM23号」  Mentha arvensis L. var.piperascens Malinv. HOKKAI JM 23

※=>「ブラックミント」については近日紹介予定

 

北海JM23

北海JM23号北海JM23号

※=>「北海JM23号」の紹介記事 http://blogs.yahoo.co.jp/life196010/163043.html 「戻る」でこのページに帰ってください

 

 ※ 現在唯一商業ベースとして北海道滝上町のみで栽培されている品種

 ※ 母にペパーミントの栽培品種を用いたため、香りはペパーミントに近いが、多収で集油率も極めて高い。

 

 ・平成2年(1990年)ジーンバンクに登録、北海道農業試験場遠軽試験地と思われる

系統不明

「北海JMM1号」  Mentha x piperita L. HOKKAI

 

北海JMM1

北海JMM1号北海JMM1号

※=>「北海JMM1号」の紹介記事 http://blogs.yahoo.co.jp/life196010/163206.html 「戻る」でこのページに帰ってください

 

 

3.現在の和薄荷の状況

 

 「北海JM23号」に記した通り、現在国内で栽培されている和薄荷は北海道滝上町でわずかに栽培されているのみで、国内外に流通している和薄荷を使った製品のほとんどは、インドや中国で栽培・精製した薄荷油や薄荷脳を加工したもので、採算性を重視するため新しく開発された品種が使用されている。

 

 したがって、当初国内で栽培された品種に比べ洋種薄荷の血統が強く、「赤圓」「はくび」等の淡く甘い香りというより、ミント系の強い香りが出てしまっている。

 

 販売ルートでは、和薄荷( Mentha arvensis L. )とひとくくりにされているが、願わくは採算性を度外視し、原種系薄荷のみを使用した製品も流通して欲しいと願ってやまない。

 

 

4.終わりに

 

 以上、諸先輩方が記していただいた貴重な資料に、私の主観や資料を加え読みにくい文書となってしまったことをお詫び申し上げます。

 

 文中に間違いを発見された方は、お手数ですが私のブログ( http://blogs.yahoo.co.jp/life196010/MYBLOG/yblog.html )に報告いただけるとありがたいです。

 

 

 

参考文献等

 

うっTさん   http://blog.goo.ne.jp/kakusuko0628/

 

土岐隆信氏   総社の地域紙『然』ZEN 2008年春号(Vol.12

「総社の薄荷」 http://blogs.yahoo.co.jp/life196010/161289.html

 

五十嵐龍夫氏  「はっか栽培技術体系」(平成18年版)

http://www.agri.pref.hokkaido.jp/fukyu/kit/saibai/pdf/hakkasyu1.pdf

 

北見市ホームページ http://www.city.kitami.lg.jp/

 

 

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