医療消費者ネットワーク MECON

医療の実態を知る④

がん治療の事故と医師のコメント

(『メコン・ニュース』No.38より)より/コメントは近藤医師による)

1.父が胆嚢がんと誤診され、手術後に死亡

 父(60代)は4か月前、CTのみで胆のうがんと診断された。手術をして細胞を病理に出したら、がんではなく、胆石による胆のう出血だった。胆のう腫瘍状になっていたため誤診した。
 その後、腸閉塞腹膜炎を起こして、なぜか敗血症で死亡した。解剖を了解したが、解剖所見が出るのに2か月かかるといわれた。納得できないので、費用は支払わず、保留にしてある。病院にカルテを求めたが、出してもらえず、要約(サマリー)だけ受けとった。どうしたらいいか。

★手術は、切除する範囲が広くなるほど、術後合併症の発生率が高くなります。胆石の場合には胆嚢だけ切除しますが、この方の場合、術前診断が胆嚢がんなので、肝臓の一部やリンパ節まで切除したのでしょう。それで腸閉塞や腹膜炎という重大な合併症が生じてしまった。ただどんな名手が手術しても、術後合併症は一定程度生じますから、技術的ミスがあったかどうかは不明です。が、胆石を胆嚢がんと間違えなければ、手術をしなかったかもしれないし、手術する場合でも胆嚢を摘出するだけなので、死ぬことはなかったでしょう。それゆえ、誤診したことと死亡との間には因果関係があるといえます(ただし、かりに訴訟になった場合、原告がわが因果関係を証明するのはかなり大変です)。

 問題は、胆石を胆嚢がんと見誤ったことに正当な理由があるか否かです。この点、CTで胆石と胆嚢がんの区別がつきにくいことが稀にあるようです。しかし、ふつうは超音波検査(エコー検査)で胆石と診断できます。なぜCTだけで、超音波検査をしなかったのか理解に苦しみます。超音波検査を施行しなかったのは過失といえそうです。
 病院がわがきちんと説明するまで、入院費用を払う必要はありません。原因究明のためには、次項を参照してください。

2.夫が早期胃がんの手術ミスで死亡

 大学病院で、夫(60代)が早期胃がんの手術ミスで死亡した。手術は午前中に終わったのに、夕方に酸素マスクをつけて病室に戻ってきた。その後も一向に回復する様子もなく、縫合不全腹膜炎だといわれ、1週間後に再び緊急の開腹手術が行われた。 しかし結局、3か月後に夫は多臓器不全で死亡。病院から打診されたので病理解剖を承諾した。
 3か月後に解剖所見がでてから病院側と話し合うことになっているが、なぜか主治医執刀医も本院からいなくなった。金銭は必要ないが、真相はうやむやにしたくない。どう話し合ったらよいか。

★ 術後1か月以内の死亡を「術死」と呼び、術後一度も退院できないで死亡する場合を「術後在院死亡」といいます。どちらも、がんの進行によるものは稀で(がんは一応切除しているから、そんな短時日では増大しない)、手術の合併症が原因です。胃がん手術後のそれらの率は、患者の年齢、体力、リンパ節切除の範囲、外科医の熟練度などによって異なります。高齢者では、術後在院死亡率が1割、2割にもなる病院もあります。

 このケースでは、縫合不全が生じて消化管内容物が腹腔に洩れ、腹膜炎になったといいます。早期胃がんの手術は、非常に数多く行われているので、その術後に合併症で亡くなるのは、おそらく技術的ミスがあったのでしょう。ただ、かりに訴訟になった場合に、技術的ミスがあったことを原告がわが証明するのは困難です。それゆえ訴訟では、死亡する可能性をきちんと知らされていたかどうか、あるいはそもそも手術が必要な早期胃がんであったか否か、などを争うことになりがちです。

 日本では、病院がわが真相を隠したいと思えば、いくらでも逃げまわれるという現状があります。それゆえ金銭が必要でなくても、損害賠償の訴訟を起こさなければならなくもなります。病院に何度も出向くと、病院がわが警戒してカルテを改竄する可能性があるので、話し合いをするかどうかは難しいところです。金銭的余裕があれば、証拠保全をするのが、真相究明にとって一番の近道でしょう。

3.父は、膀胱がんの手術後、腸がつながらない

 父(60代)は膀胱がんのため、全摘手術をして、人工膀胱をつけた。1か月半後に熱が出たので検査をすると、お腹に炎症(ウミ)があるという。入院してお腹の中に管を入れてウミを出すなどの処置を受けたが、治まらなかった。半年もたったのに、腸がつながっていないらしいとのことで、再手術を受けた。なぜつながらないのか。来週、部長に会うことになっている。父は20年前の交通事故で腸破裂の手術を受けたために腸癒着の症状があり、糖尿病がある。(娘)。

★膀胱全摘後の人工膀胱は、じつは小腸を使っています。小腸の一部を切りとって袋状にし、そこに腎臓からの尿管をつなぎ、尿をいったん小腸でうけるわけです(なお小腸の端は腹壁に開口させ、開口部の周囲にバッグを装着して尿をためる)。一部を切りとられた残部の小腸は、つなぎ直さねばなりませんが、このケースの場合、つないだ所が縫合不全を起こしたものでしょう。

 縫合不全の原因としては、技術的未熟さがまず考えられます。もし消化器を専門とする外科医が手術に入っていないで、泌尿器科医が腸の手術もしていたとすると、縫合不全の発生率は高くなるでしょう。以前手術をうけていて腸の癒着があれば、なおさら腸はつながりにくい。再手術のときには、腹部に炎症が生じていたため、初回手術時よりも、つながりにくくなります。糖尿病もきちんとコントロールされていないと、創傷治癒を不良にしますが、文面からは、どの程度の糖尿病なのか不明です。

4.高齢の母が胃ろうをつくる手術後に死亡

 母(99歳)は20年前に手術した甲状腺がんが胃と食道に転移しているのを見落とされ、死の2週間前にがんとわかった。胃ろうをつくるのに、内視鏡が食道を通らず2回失敗した末に、開腹手術でつくった。
 予想外に早く死亡したため、原因を知りたいと思い、病院からの申し出を受け解剖を承諾した。結果は1か月後に報告するといわれたが、連絡がないので電話すると、「手違いで送れなかった」と。しかし、その後もなしのつぶてだ。十分な説明をしてほしいし、死因が知りたい。どうしたらいいか。

★この方の死因は、おそらく手術の合併症です。99歳ですから、技術的ミスがなくても、ちょっとしたことがきっかけとなって死亡しやすい。それゆえ解剖しても、直接死因となるような目立った変化を発見できないかもしれません。

 手術するなら死ぬことを覚悟しなければ、というケースで、問題は、100歳にもなろうという方に手術を勧める医者の考え方ないし態度にあります。かりに家族のがわが手術を希望されても、危険性を伝えて別の方法を考えるのが医者たるものの務めです(もっとも、「転移しているのを見落とされ」とあるので、家族から見落しを追及されて何とかしなければという心境になった可能性もあります。胃や食道の転移を早期に発見しても治療はおおごとになります。99歳まで生きることができたのは、それ以前に見つけることがなく、したがって治療をしなかったため、という考え方も可能です)。

 このケースでは、訴訟は考えておられないでしょうから、担当医に再度連絡し、それでも埒があかないなら、病院長など職制が上の人に手紙をだされてはいかがでしょう。

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