医療消費者ネットワーク MECON

医療の実態を知る

誰もが遭うかもしれない医療被害の実例に学ぶ

世の中には、ごく普通に患者の心身にやさしい優れた日常医療もあれば、経営や未熟さのため患者の心身を傷つけてしまうようなひどい日常医療もあります。また、 人間ゆえの間違いからくる多種多様な医療事故もしばしば起ります。

理不尽な苦しみを抱える医療被害者を少しでも減らしたい。そのために、多くの方々に、被害者の体験から学んで、わが国の日常医療の負の実態を知ってほしい! いい医療わるい医療を見分けたり、手遅れにならないうちに転医したり、といった医療消費者に必要な選択眼や判断力を育てるのに役立ちます。

医療の実態を知る①

よくある医療被害と医師のコメント

(近藤誠著『よくない治療ダメな医者』(三天書房)より)

1.検診で勧められた検査を受けたら、急病に

 検診で引っかかり、妻(50代)が胆管と膵臓の検査(ERCP)をうけたら、急性膵炎になってしまった。病院と話し合いで賠償金額を出すように言われた。どのくらいが妥当か。

★ ERCPの正式名は「内視鏡的逆行性胆道膵管造影」で、十二指腸まで内視鏡を入れて胆道と膵管に造影剤を注入してエックス線写真を撮る検査です。膵管に造影剤を入れたとき、何かのきっかけで膵液が漏れて、まわりの組織を溶かしてしまい(膵液は強力な消化酵素を含みます)、急性膵炎が発症するわけです。

 急性膵炎と聞くと急性の上気道炎(つまりかぜ)程度の症状を想像するかもしれませんが、かぜとは桁違いに症状が重い。脂汗を流すほど激烈な腹痛があるので本人は死ぬかと思うはずです。そしてERCPで急性膵炎が生じることは決して少なくなく、本当に死亡する場合もあります。(以下略)

2.乳がんを切除した後に、乳がんではない、と

 昨年、2センチ強のしこりが乳がん(クラス5)という診断で、わたし(40代)は乳房全摘手術をうけた。ところが手術後の再検ではクラス2の判定。別の検査では線維腫。がんではなかった。病院がわもミスを認め、弁護士同士の話し合いに入っている。賠償金額はどのくらいか。

★ 線維腫は良性の病変ですから、乳房切除の必要はありません。このように良性の病変が顕微鏡検査(病理診断という)で乳がんと誤診され、乳房を切除されてしまうことは少なくありません。

 わたしの診療経験を言うと、他病院で組織や細胞の検査をして「乳がんです。乳房切除です」と言われてから鞍替えしてきた人たちの標本を取り寄せ、病理医に再度診断してもらうと、「良性」に変更されることがしばしばです。患者さんがそのまま乳房切除をうけていたらと考えると恐ろしい。
 それで、92年に「月刊 文藝春秋」(9月号)誌上で、「(日本の乳がん手術の10%)年間2千人以上が良性なのに乳房が切除されているのかもしれない」、と書きました。(以下略)

3.喉が腫れて座薬(解熱鎮痛剤?)を挿入したら、植物状態に

糖尿病の夫(60代)が喉が腫れて受診。急性喉頭炎で入院のため、看護婦が鎮静剤の座薬を挿入したとたん、夫はケイレンを起こして呼吸停止。緊急の手当もなく植物状態になった。担当医はきちんと説明もできず、耳鼻科医長は「力不足でした」と頭を下げたが……。

★ 植物状態というのは、意識を喪失し、呼びかけにも答えることができない、いわば永遠に眠りつづけている状態です。心臓が止まったりして脳へ行く血液(ひいては酸素)が足りなくなると、脳は数分で不可逆的なダメージをこうむります。そうなる前に人工呼吸や心臓マッサージなど適切な救命救急措置が取られれば回復するのですが、そうでないと植物状態になってしまうわけです。
 この方の場合、「緊急の手当がなく」というのですから、救命救急措置がなされなかったようです。それができる医師がそばにいなかったのでしょうか。

 急性喉頭炎は、ときに細菌感染が原因となることがありますが、大部分はウイルスの感染によるものです。使用された座薬はおそらく、ボルタレンやインテバンなど非ステロイド系の消炎解熱鎮痛剤(以下、解熱鎮痛剤と略す)で、みなさんがかぜをひいて病院へ行かれたときに「熱さまし」として出される薬と同系統のものです。
 この方は断定はできませんが、解熱鎮痛剤を用いたことによる副作用で急性のショック(血液の循環がストップする状態)が生じたようです。このように、解熱鎮痛剤にはたいへん危険な側面があります。

4.脳外手術で顔面マヒに

 父(60代)が顔面ケイレンのため脳神経外科で手術をうけたが、よくなるどころか顔面麻痺も出て、「再手術が必要」と。転医すると、「こんな手術をして」と言い、大学病院を紹介してくれた。ところが、大学病院の医師と前医が知り合いで、「前医に了解を取るように」と。前医は「責任をもってやる」と言ったが、患者からすれば「もう結構!」という思いだ。さらに、他の専門医(助教授)も訪れると、「残念ながら失敗です」と言った。

★顔面神経が麻痺したようですから、口元が垂れて閉まらなくなって涎が流れ出したり、目をつぶれなくなるなどの症状があるはずです。
 脳神経外科医に聞いてみると、「おそらく開頭して、筋肉の小片などをはさんで、顔面神経と聴神経とのあいだに距離をおくようにする手術だろう。うまくいけば症状が改善して、患者さんも満足する素晴らしい効果がある。しかし、ときに神経や血管を傷つけて後遺症が生じる。ある大学病院で、患者さんがこの手術で小脳出血を起こし、亡くなって訴訟になっている」とのことです。

 このケースは、腕が悪い脳神経外科医に当たってしまったようです。傷ついた神経は、再手術をしてもおそらく治りません。

5.手術後、MRSAに院内感染して症状が悪化、歩けなくなった

 母(50代)が慢性関節リウマチで手術をうけたあと、MRSAに感染して、病状が悪化した。入院前は歩けたのに、今は下半身は全然だめである。病院でこうなったのに、退院を再三せまられている。病院の対応に納得できない。

★ MRSAは「メチシリン耐性黄色ブドウ球菌」の略で、ペニシリンなどの抗生物質が効かない病原菌です。抗生物質の濫用がたたって発生した細菌で、世界中で問題になっていますが、日本ではこの細菌が住み着いていない病院はないはずです。

 ただ、医師や看護婦の鼻の穴にもよく住み着いているのに、それら医療従事者にMRSAによる症状が発生しないことをみても、健常な人に格別の危険はありません。しかし病気で体力の落ちた人や、手術をうけた方に取りつくと、抗生物質が効かないことから、病勢が悪化しやすいのです。

 この方は、手術したあと歩けなくなったと言いますから、たぶん股関節か膝関節あたりの手術をうけたられたのでしょう。関節はことのほか細菌感染に弱く、手術には厳密な無菌性が要求されます。しかし現実には、ずいぶんと不潔な手術室で手術しているところが多い。

 この患者さんの場合、本人に原因があって感染したのではないのですから、病院が面倒をみる責任があります。それなのに病院が退院をせまるのはおかしな話で、退院する必要はありません。

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