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医療裁判の実例

1.埼玉医科大学 抗がん剤過剰投与事件

〜被害者の父、古館文章さんの手記〜

 「エッ」と絶句するようなお粗末な医師たちのデタラメ治療で命を奪われた娘のために、古館文章さん夫婦は、問題を徹底的に明らかにし、こんなデタラメが2度と起きないようにとこの問題を一生語り続ける覚悟で、今も闘い続けています。
  実は、これほどではなくても、こういうデタラメ医療は案外誰にとっても身近なところで起きているのです。しかし気づかなかったり、気づいても事なかれであきらめてしまう人が多いために、悪い医療が生き延び、ますますはびこる時代となりました。
  私たち市民は、古館夫妻の取り組みから学ぶことがたくさんあります。そして、医療被害の問題解決に必要な公的解決策を一緒に考え、行動化していく必要があるのではないでしょうか。?

1.埼玉医科大学 抗がん剤事件の本質とは

 「法政を2浪したが、親がバブルでチャンスだと思って埼玉医大に入った」とは、主治医が私ら夫婦に語った、埼玉医大に入った理由です。
 この私立の医科大学では、学納金その他で、初年度は約1,107万円、2年次から6年次は約582万円となっている。6年間のストレートで卒業した場合でも4,000万円を超える。また、それ以外に、任意の寄付金が募集されるという。

 主治医が言い放ったように、確かに、親にかなりの資産なり収入がない限り、とても入学することはできません。残念ながら、普通の家庭では、いくら頭のよい子供を授かったとしても、この医科大学に入学させることなど、到底、考えられるはずもありません。
  そのようなところでも、優秀な人材が入ってきているのであればまだしも、私の娘の事件に関与した医師らは、あまりにも信じ難いような人物ばかりでした。

  私の民事裁判の鑑定書を作成した某国立大学の全国的に有名なF教授は、鑑定書の中で、「基本的知識の欠如」「基本的な臨床医学情報の収集方法すら知らない」「医学になっていない」等々、はっきりと強く批判しています。
  私の娘が犠牲となった、埼玉医大抗がん剤事件は、医師が極めて杜撰で、科学的根拠に基づいた「すべきこと」をせず「してはならないこと」を行った結果です。すなわち無知と傲慢、および組織的怠慢によって患者を死に至らしめたというものです。

2.提訴に至った動機

 娘の死亡後には、病死とする死亡診断書を作成して私に渡す。霊安室では医局の医師ほぼ全員が揃って病死と説明する。また、亡くなった当日の夜にセンター所長、院長、教授の3人が自宅に来ました。その時の会話を友理の妹がテープに録っていたのですが、彼らの説明は知っている事実を正直に伝えているものではありませんでした。ましてや、謝罪など一言もありませんでした。さらに、「解剖させて」「葬儀はいつですか」などという発言や、その時の態度や、やり取りから、悪質さを感じたのはもちろん、非常に慣れているなと感じました。このようなことから、私らでは、とてもこの組織に対応できるものではないと感じました。それで、私は考えた挙句、110番通報をしたのです。

 テープを聴き直すと、所長は「誠意ある対応をね」と一言言っています。しかし、今もって、私が埼玉医大に誠意ある対応を受けたことはありません。
  私の110番通報で警察が動きました。マスコミも動き、埼玉医大も記者会見をするに至りました。その後、私はカルテをほしいと埼玉医大に掛け合ったのですが、「お父さんは本人じゃないからカルテは出さない。どうしてもほしいのなら法的に取れ、法的とは弁護士だよ」などと言い放たれました。

  当時、何がどうなっているのか、何が原因で、なぜこのような事態になっているのか、事実がまったくわからず、疑問だらけでした。それで、何度も何度も説明会を開くように申し入れました。ところが、埼玉医大がそれに応ずることは全くありませんでした。しまいには、埼玉医大の弁護士から「差し控えさせていただきます」と書かれた一通の文書が届きました。つまり、埼玉医大は私に対しケンモホロロという対応で、私の方はどうすることもできませんでした。それで、埼玉医大の事務長が言った「法的とは弁護士だよ」という言葉から、弁護士を探したということなのです。

  私もそうでしたが、弁護士とか裁判というのは別の世界の出来事のようであり、敷居も高く、裁判をしようなどとは夢にも思っていませんでした。しかし、相手がこちらを全く無視しているので、せざるを得なかったのです。

3.民事裁判の経過

 最近出された高裁の判決については、担当医だった研修医と虚偽診断書についての責任の認定が、地裁判決より前進したとも言えますが、結局、隠ぺいについては踏み込まれていません。地裁の判決においても、「隠ぺいではない」とする裁判所の論理は、あまりにも審理不尽、理由不備と言わざるを得ないものです。

  ビンクリスチンの過剰投与を私らに告げなかった点についての責任を否定する論理などは、これが本当に裁判官の行う事実認定なのか、と驚いてしまうようなものです。主治医は救命治療などできないし、してもいないのに、「救命治療をあせるあまり、医療ミスを告げられなかった」としているのです。また、「主治医が、指導医から過剰投与を告げることを止められたことによって、主治医には隠蔽の責任はない」などと結論づける始末です。しかし、実際には患者が抗がん剤の過剰誤投与で生死の淵をさまよう重篤な状態になっているにもかかわらず、過剰誤投与というその重大な原因、事実を告げることを止めさせることそのものを、世間では隠ぺいと言うのでしょう。裁判官の思考回路は異常過ぎるとしか言いようがありません。

  娘の事件では、死亡診断書に、抗がん剤についての記述は一切なく、「病死・自然死」のところに丸を付け、明らかに「病死」にしているのです。それだけでも、事故を隠そうとしたことが一目瞭然です。
 さらに、その前日に抗がん剤の過剰投与が発覚しているにもかかわらず、霊安室では、1時間ほどにわたり、教授を筆頭とし、医局員ほぼ全員が揃い、私らに娘は病死だと説明するのです。
  過剰投与を正直に説明するつもりであれば、決して難しい言葉は必要としないのです。「週一回の抗がん剤を7日間連続で打った」とか、「医療ミスがあった」と言えば、だれでも容易にわかります。教授らは霊安室で週とか日とか7倍だとか、そのような言葉を一切使っていませんし、「医療ミス」などという言葉も全く使っていません。

  医療ミスが明確なのに、言わないということは、隠したことに他なりません。教授や主治医らが、「医療ミスがあった」と言えば、それを聞いた私達は、「何で?」となっていくはずです。ましてや、私らは、主治医らの嘘の説明を単に聞いていただけではないのです。私が「それはおかしいだろう」と、その場で何回も何回も質問しているのです。私が何回も確認して聞いているのに、一言も事実を言わず、病死だと反論したのは、隠しているということに他なりません。これを隠ぺいと言わず、何を隠ぺいと言うのでしょうか。

 また、所長はリウマチが専門で、ビンクリスチンの毒性を良く知っています。所長は、後日、家内と電話で「あの薬を実際自分で使った経験がある故に、ああゆう使い方をされるというと、これは何が起きてくるかということは良く判っていますので」と話しています(平成12年12月28日)。また、所長は、弁護士の「これだけ人体に神経毒性がきわめて強いビンクリスチンを打ち込めば,細胞が死んでしまうということは,当然専門家としてわかりますね」という質問に、「はい。」と答えています(民事本人調書)。このように、最大週一回のビンクリスチンを7日間連続投与すれば、どういう事態が起こるのか、それを十分に把握しているにもかかわらず、始めから警察に届けるべき事態において、あえてそれをせず、なんとか病理解剖に持ち込もうと謀るとは許しがたいものです。所長は少なくとも、長らく医療に従事した末に、埼玉医科大学総合医療センターの最高責任者になっているのです。知らなかったでは済みません。犯罪そのものと言うべきです。

 東京女子医大のケースでは最終的には証拠隠滅の医師が逮捕されましたが、その他にも、当初医療事故でないと記者会見で言っておいて、後で認めるというのは稀ではありません。私は、私の娘の事件からして、医療過誤に隠ぺいは付きもので、この隠ぺい体質をなくさない限り、医療過誤は減らないと思っています。
  これほど明らかな私の娘の事件でさえ、裁判所が隠ぺいを認めないということは、これは、裁判所が隠ぺいをしても罪にはならないとお墨付きを与えているのと同じです。
  隠ぺいをなくさなければなりません。ここで私が引き下がることは出来ません。それが上告した最大の理由です。

※(委任弁護士:渡辺博弁護士、森谷和馬弁護士、樋口明巳弁護士)
2001年5月18日 さいたま地裁に民事提訴
2004年3月24日 さいたま地裁判決(隠ぺい認めず)
2004年4月6日 控訴
2005年1月27日 東京高裁判決
 (隠蔽認めず:虚偽診断書の慰謝料33万円認める・研修医の責任認める)
2005年2月8日 最高裁に上告

4.刑事事件の経過

 医療過誤に刑事が介入することは稀です。犯罪であれば、他の事件と同様に、本来は国家が捜査するべきです。それがなされない故に、被害者は真実を求めて、やむなく民事裁判を起こすのです。しかし、民事では強制力や捜査権もありません。さらに、こちらの求めに応じて、医療側が真実を述べなければならないという約束事もありません。

  埼玉医大は、民事裁判の書面で「本件においては、被告埼玉医科大学において相応の客観的な根拠に基づいて亡友理の死因を滑膜肉腫に起因する重症感染症による多臓器不全と判断し」などと主張しています。しかし、病死の客観的根拠などあるはずもありません。それでも平気でこのような主張を展開するのです。これはほんの1例ですが、これでは真実など解明できるはずもありません。

  私の民事裁判が負けるはずもないのは、委任している弁護士の力量が大きいことにありますが、それと同時に、警察官や検察官の取り調べの調書など、刑事事件の資料を民事裁判に証拠として提出しているからです。埼玉医大や被告らが、どのような理不尽な主張を展開しても恐れるに足りません。
  有名な弁護士の中にも、「医療は刑事にしないほうがよい」という論者もいます。また、医師性善説の現状では、刑事事件にすること自体が非常に困難ですが、できることであれば、刑事事件として扱われるようにすることが重要だと思います。

※2000年10月7日 110番通報(刑事介入)
2001年8月9日 刑事告訴(川越警察)
2002年9月10日 書類送検
2002年10月15日 主治医・指導医・教授を業務上過失致死罪で起訴
  研修医不起訴、主治医・教授の虚偽診断書作成罪を不起訴
2002年11月6日 さいたま検察審査会申し入れ
2003年3月20日 さいたま地裁判決 主治医禁固2年執行猶予3年
  (確定)
  指導医 罰金30万円  教授 罰金20万円
2003年3月31日 さいたま地検控訴(量刑不当)
2003年6月20日 検察審査会不起訴不当の議決(教授の虚偽診断書)
2003年8月26日 検察再不起訴
2003年12月24日 控訴審判決 指導医 禁固1年6月執行猶予3年
  (確定)
  教授 禁固1年執行猶予3年
2004年1月5日 教授側上告

5.厚生労働省に対して

 厚生労働省のホームページには「国民の求める医療提供の実現」「医療の安全を求める」などと記載されています。

  私の娘の事件では、その両方が呆れるほど満たされていません。日本の多くの医療被害は、本質的には、私の娘の事件と共通する部分があるのではないかと思います。   医療事故調査会によれば、医療過誤の原因の90%以上は「医師の知識・技術の未熟性・独善性」とされています。決して、ヒヤリハットが主原因なのではありません。

  では、厚生労働省はそれに対し何を行っていたのでしょうか。マスコミにも多く取り上げられた娘の事件を、調べに来たことは一度もありません。実際に調査した例はあるのでしょうか。それで実体を把握できるというのでしょうか。また、ある議員の部屋で厚労省の担当官と面談した時には、「免許更新でバラ色になるわけではない!!」と訳の分からないことを言った役人がいました。
  官(厚労省)だけに任せておいても、良くなるはずがありません。市民が厚労省に改善を求めたり、正当な意見を出さなくてはなりません。それは、市民としての権利でもありますし、義務でもあるはずです。

  以下は、私たちが厚労省へ申し入れたものです。

※2001年6月13日 申し入れ(埼玉医科大学について)
2002年12月4日 要望書(カルテ改ざん防止・他)
2003年3月24日 要望書・署名提出(カルテ改ざん防止)
2003年4月25日 抗議文(木村義雄厚生労働副大臣について)
2003年11月20日 (申入書)(主治医の免許取消)
2003年12月10日 署名提出(カルテ改ざん防止・他)
2004年3月15日 要望書(行政処分について)
2004年4月27日 要望書(日本歯科医師会について)

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