医療消費者ネットワーク MECON

患者・被害者から学ぶ

歯科医療被害に遭って

岡野 恵子(神奈川県)

〔I〕医原性顎関節症患者が警鐘を鳴らす

『メコン・ニュース』No.48より
歯医者さんのテクニカルエラーに気をつけて!
行き当たりばったりの咬合調整の先には顎引き地獄!

はじめに

 私は約3年前に‘奥歯の痛みの早期治療に’と受診した歯科医たちの不適切な治療により、子どもの頃から培ったかみ合わせ (咀嚼システム)を破壊されてしまい、医原性の顎関節症に陥りました。その結果、全身に及ぶ体調不良で日々の生活もままならぬ状態になり、未だにゴールの見えない修復治療に苦しんでいます。

 顎関節症になると、顎位が不安定になり、歯の痛みと接触による緊張で夜も全く眠れず、痛む歯でそっと食べるしかなく、食べられるものがどんどん少なくなってしまいます。これでは元気がなくなって当然なのに、それを「精神的におかしい」などと患者側に責任を転嫁する歯科医。自らの歯科治療が思いもよらぬ方向に泥沼化し、テクニカルエラーとも言うべき過ちを犯した歯科医から厄介者扱いされる実態を私は体験することになりました。

 私のケースは決して特別なものではありません。同じようなことが日々起こっていると言っても過言ではありません。歯科被害に遭って、何か所もドクターショッピングし、まるで歯科ジプシーのようになる人がたくさんいます。
 私のような患者の再発防止になれば、との思いで、私の体験をお話します。

通院の経過

(1)平成14年5月中旬、私は家に遊びにきた友人と食事中に、左下奥歯に痛みを感じました。
 翌日早期治療と思い、以前に無料歯科検診を受けたことのあった近所のA歯科医院を受診しました。その日は院長が不在とのことで、若い勤務医に診てもらうことになりました。

 レントゲン撮影の結果は左下奥歯(7番)が急性化膿性歯根膜炎(後にカルテにて確認)との診断でした。私は若い担当医の説明に不安を感じ、院長による処置を希望しましたが、「とりあえず咬合調整だけします」とのことで、十分な咬合検査をすることもなく、左下7番の咬合調整が始められました。
 翌日からは院長が担当することになりました。左下7番の咬合調整が継続されました。左下7番の痛みはなくなったのですが、今度は他の歯の当り具合が強くなりました。咬合調整の部位は左側に収まらず反対側も含め数本の歯の衝突部分が削られて、次第にかみ合わせの違和感が強くなり、顎位が不安定になってしまい歯が当たって、痛みで夜も眠れなくなりました。

 10回通院しましたが、このまま治療を継続していては、症状が改善するどころか悪化すると本能的に危険を感じたため、転院を決意しました。

(2)転院先のB歯科医では、かみ合わせを治せばよくなる、かむ位置が低くなりますとの簡単な説明だけで、(後で判ることですが)まるで行き当たりばったりの咬合治療が行なわれました。

  私のかみ合わせは、子供のころから培ってきたものとは異なって低くなり過ぎたように感じて、もしかしたら治療が泥沼化しているのではないかと不安になり、「治療が進むにつれてかみ合わせがどんどん低くなり、ものが全くかめなくなってしまいました」と不安な気持ちを投げかけました。すると、B歯科医は「かみ合わせは年をとれば低くなる。低いなりに合えばよい」と簡単に答えました。
 そしてその後も、「ここが当たっている」などと言いながら咬合調整を継続し、最終的には下顎前歯の上面までもが削られました。

 その結果、かみ合わせはさらに低くなり、下顎が後退し(顎引き)、顔が歪み、口を大きく開けることができなくなってしまいました。
 さらに、左顎の下にはシコリができ、左顔面の筋肉の痛みに悩まされ、痛みで全く眠れず、ものをかむことすらできなくなって流動食に頼るようになり、きちんと話すこともできなくなる程に、悪化してしまいました。体調不良は全身に及び、家事どころか、痛み疲れでフラフラ感が生じて歩行もままならず、通院以外はほとんど家に閉じこもるようになりました。

(3)歯および左顔面の筋肉の痛みが一向に治まらないため、口腔外科があるC病院で診てもらうことにしました。診断の結果は、「両側顎関節症」と言う聞き慣れないものでした。
 B歯科医の漫然とした補綴および咬合調整などの、結果的に加害行為と言うべき咬合破壊による咀嚼障害から、私は全身に及ぶ体調不良を伴う両側顎関節症に陥ってしまっていたのです。

 C病院(口腔外科)での診断結果をB歯科医に伝えたところ、B歯科医は、自らの歯科治療が思わぬ結果を招いた事実を省みようともせず、その原因を「患者の精神的なもの」などとの言い逃れを始めました。歯科医のこのごまかしは、身体的なダメージに苦しむ私にとって、思いもよらぬ精神的な追い討ちとなり、私は心身ともに深く傷つき、駅で歯科医院の看板を目にするだけで恐怖感がこみ上げ、電車に飛び込んでしまうのではないかという程のまるでPTSDのような重篤な状態に陥ってしまいました。

(4)知人の紹介でD歯科医院へ転院しましたが、改善の兆しはありませんでした。

(5)その後、夫の職場関連のE歯医院へ転院しました。不適切な削合部分および補綴物を修復する治療が始まりました。試行錯誤の治療は今も継続中で、通院回数も150回を超えました。全身に及ぶ体調不良などは改善しましたが、咀嚼障害についてはいまだに完治の目途は立っていません。

B歯科医のその後の態度

 B歯科医による不適切な咬合治療とごまかしにより、私は心身ともにダメージをうけて寝込んでいました。夫がB歯科医に対して説明を求めたのですが、B歯科医の対応には誠意が見られませんでした。

 夫は神奈川県歯科医師会の医事紛争処理の窓口に相談をもちかけ、医事紛争処理を担当すると紹介された歯科医への状況説明などを行ったのですが、実務の発動には、歯科医師会員としてのB歯科医自らの処理要請が必要とのことでした。
 夫がこの件をB歯科医に申し入れると、B歯科医から、歯科医師会の保険ではなく自己加入の損害保険会社に処理を委ねて相応の処置をとるとの回答を受けました。私どもはこの回答を誠意ある行動であると期待し、B歯科医が加入する損害保険会社での対応を承諾しました。

 約半年が過ぎ、B歯科医から、回答書が郵送されてきました。そこには、「現在の歯科治療水準に照らして治療には落ち度はなく賠償責任もない。以後交渉については弁護士に依頼する」とのものでした。この内容は全く予想外であり、到底承服しかねるものでしたので、判断根拠(誰が何を証拠に判断したのか、歯科治療と顎関節症の関係を正しく理解している歯科医の判断が加わっているのかなど)についてB歯科医および損害保険会社に再三にわたり説明を求めましたが、一切応じてはもらえませんでした。

最後にたどり着いたE歯科医について

 心身ともにダメージを受けた私は、患者の歯、身体、心、および家族との生活を滅茶苦茶にしても何とも思わず、保身のためなら平気で嘘をつく冷酷な歯科医の態度にとても恐怖を感じたため、一人で通院することができなくなっていました。

 夫が職場の医療関係者に相談を持ちかけ、E歯科医を紹介してもらいました。
 このE歯科医は、私がそれまでに受けた治療や状況などをよく理解した上で、一般診療が終わった後の時間外に、夜遅くまで十分な時間をかけて、試行錯誤の修復治療(削りとられてしまった部分へのレジン(プラスチックのような合成樹脂)の付け足し(咬合挙上)等を根気よく続けてくれています。

 この修復治療と夫の全力での付き添いなどのサポートにより、後退してしまった下顎が元の状態に近づくにしたがって、全身に及んでいた体調不良はかなり改善しました。しかし、今でも箸で切れるぐらいのものしか食べられず、いまだに完治の目途は立っていません。

真相解明・追及(カルテなどの請求と証拠保全)

 私は、このような被害に遭うまで、「顎関節症」について知りませんでした。今回の件でもがき苦しんだあげくに、わらをも掴む思いでMECONなどの医療消費者関連の集まりに参加し、私と同じように歯科治療が原因の顎関節症に苦しんでいる方々が数多くいることを知りました。また、書店の医療関連コーナーにも歯科治療と顎関節症をテーマにした書籍が数多く並べられていて、歯科治療(特に、不用意な補綴咬合治療や複数の歯を一度に削る咬合調整など)が引き金となっている顎関節症患者の急増が社会問題となりつつあることも知りました。
 そして、まだごく一部ではありますが訴訟を起こしている被害者の方がいることも知りました。
 私自身も、どうしてこんなことに巻き込まれてしまったのか真相を解明、追求したい。また、治療前の元々の歯の状態とA歯科医およびB歯科医での詳しい処置内容を把握することがE歯科医での修復治療に役立つものと思い、カルテ等の開示を求めることを決意しました。

(1)A歯科医のカルテについて

 数回の面談を通じて、やっとカルテの写しを入手することができました。渋々とコピーされたカルテには表紙(1枚目)がありませんでした。カルテの表紙には、受診者名、傷病名、主訴、歯列図などの記述があり、歯科診療契約の締結を証明するためには重要なので何とか表紙も入手しました。レセプト(診療報酬請求書)も開示請求により揃えました。見慣れない歯科用語を苦労して翻訳してみると、やってもいないことの記述、やったのに書いていない、さらには、思いもよらぬ記述がありました。
 この歯科医は面談の途中では慰謝料についての話題まで持ち出していましたが、最終的には「患者が単なる憶測で誹謗中傷をくり返した…」などと開き直りの態度へ豹変しました。

(2)B歯科医のカルテについて

 面談などによる説明とカルテの開示を再三求めましたが、B歯科医からは「もうこれ以上かかわり合いになりたくない…」などという言葉が返ってきました。交渉を続けると、今度は「損保の弁護士に一切任せてある」の一点張りの態度を貫きました。
 私は、MECONの会合などを通じて証拠保全申し立ての手続きを勉強し、横浜地方裁判所民事部に自ら申し立てを起して、カルテなどの証拠物を入手しました。
 そして、目の当たりにしたカルテの記述内容は、何と、B歯科医の都合のよいシチュエーションに辻褄が合わされたものとなっており、愕然とするものでした。埒の明かない個人的な交渉に時間を費やさずに、もっと早く証拠保全をやっておけばよかったと後悔しています。
 個人による証拠保全やレセプトの開示請求の具体的な手続きなどについては、またの機会に紹介したいと思っています。

医原性顎関節症の再発防止を願って

 医学文献と関連書籍によると、①微妙なバランスと協調関係を保っている歯列咬合と顎口腔系に対して、歯を削る咬合治療は不可逆的治療であり、一旦生理的咬合のバランスを乱した場合には顎関節症を誘発する可能性があり、②それゆえにそのことを十分に認識する必要があり、③咬合治療を行う場合には、事前の十分な検査、治療方法の説明、そして患者の承諾を得て、常に患者の状態に応じた細心の処置を施す注意義務がある、ということです。
 このような情報を私たち患者側でも容易に入手できるような状況にあるにもかかわらず、B歯科医からの回答書にある「現在の歯科治療水準に照らして、治療には落ち度はない」とは一体どういうことなのでしょうか?

 さらに、歯科医は自らの咬合治療をうけて症状が悪化していく患者を目の前にしながら、予想外の結果を招いた原因を、自己の処置判断の甘さにではなく、こともあろうか患者側の精神的気質にあるなどと責任を転嫁するわけですが、そのような欺瞞的行為を許すわけにはいきません。

 私と同じ境遇にある、不適切な歯科治療による医原性の顎関節症患者たちの切なる訴えが、患者側の精神的欠陥によるものとして無残に闇に葬られている事実が多々あることをご存知でしょうか?
 歯科治療によって生み出されるこのような医原性の顎関節症の再発防止のためにも、私は真相を明らかにしなくてはなりません。

 私は歯科医全体を敵対視しているわけではありません。自分に何の得にもならないのに、患者の話を聞いて受け入れ、治癒への努力を惜しまない歯科医も探せばいます。大学で教わっていないこと(歯科治療によりバラバラに壊されたかみ合わせの修復)について自修するための努力を惜しまない歯科医も少数ではありますが存在します。

 人は年をとれば歯が悪くなります。ほとんどの人が歯科医療のお世話になるのだから、被害に遭わないように良い歯科医を探しておかなければいけません。
 そして被害に遭わないためには、ある程度の歯科医療や保険点数の仕組みなどの知識を身につけておくことも大切です。

 そして不幸にして、医療過誤の疑いをもった場合には、カルテ改ざんを防止するためにも、証拠保全をしてから、話し合いの場をもつことを勧めます。

 また、不正請求を見破るためにはレセプトとの照合が有効です。ただし、レセプトを請求するタイミングを見はからう必要があります。レセプトの開示申請をすると、医療機関側に確認の通知が出されるため、カルテ改ざんを未然に防ぐためには、まず証拠保全でカルテを押さえてからレセプトの開示請求を開始することを勧めます。

 当初は難しいと思っていましたが、証拠保全も疎明(広辞苑:[法] 係争事実の存否につき、多分確かであろうとの推測にとどまる程度の裁判官の心証。また、裁判官にこの程度の心証をいだかせるための当事者側の行為)方法を勉強すれば、必ずしも弁護士に依頼しなくても個人で申し立てができます。

 歯科医のテクニカルエラーに遭って、一度かみ合わせを崩されると、ダブル被害、トリプル被害に遭い、最後は精神科に回されるという話をよく耳にします。「歯科医療は算術」と考える歯科医たちは自らが作り出した被害者を厄介者と見なすからです。
 こうして、被害者は悲しみのどん底に突き落とされ、私と同じような患者で歯科医にドクハラをうけている人や、どこの歯科医院に行ってもよくならず大学病院を転々としている人もたくさんいますし、あまりに酷い症状のため家族とも離れて暮らしている人や、何度も自らの命を絶とうとまで考えた人もいることをMECONなどの会合で知りました。
 私も以前は、世の中にこのような現実があることを知る由もありませんでした。

 医療消費者として、私のような歯科被害の再発を防止し、歯科医療を良くして行くためには、泣き寝入りを強いられている歯科医療被害者が多くいる実態をクローズアップしていく勇気と同時に、救済の受け皿をつくるように訴えていくことも必要だと思います。
 みんなで声を上げていかなければ、「歯科医療は算術」という歯科医たちのごまかし、ひき逃げ同然の行為を止めることはできません。

むすびに

 私は、むずかしいとも言われている歯科医原性の顎関節症の判例を作るまでは一歩も引くつもりはありません。それが、こんな歯と身体にされ、人を信じられなくなってしまった自分と苦労をかけた家族への償いだと思っています。

 顎関節症はとても恐ろしい病気です。食べたいものを食べることもできず、自由に寝返りを打って眠ることもできなくなりました。食事に対する苦痛のため食卓における家族の団欒もなくなりました。普通に食事をすることができないため体力がなくなり、これまでの交友関係も維持できず孤独になります。なかなかゴールが見つからないため挫折感を何度も味わうと、判断力がなくなり、人を信じられなくなってしまいます。

 これから歯科治療を受ける方々が私のような悲しい被害者とならぬように、私の体験談が少しでもお役に立てば幸いです。転ばぬ先の杖として、こうした医療被害から学び、医療消費者としての意識の向上を真に望んでいます。

 また、歯医者さんたちにも、保険点数稼ぎに走るのではなく、今一度、歯科医としての任務を思い起こし、万が一テクニカルエラーを起こしてしまったら、決してごまかすのではなく、謝る勇気を、悩み苦しむ患者へ手を差し伸べる勇気をもってもらいたいものです。

歯科医師法 第1章総則「歯科医師の任務」

歯科医療及び保健指導を掌ることによって、公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もって国民の健康生活を確保するものとする。

 治療に当る歯医者さん、テクニカルエラーを起こさぬように、治療の質を上げてください! 歯科医療の質の向上を願って。

(2005.9.14)

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