医療消費者ネットワーク MECON

患者・被害者から学ぶ

カルテ改ざんで息子の死は闇に

藪見 紀子(兵庫県)

〔I〕カルテ改ざんで息子の死は闇に

『メコン・ニュース』No.54より

はじめに

 神戸と姫路の中間に位置する東加古川から来ました藪見紀子です。第11回医療事故調査会シンポジウムのプログラム、80頁(後に掲載)を見ていただきながら、話を進めていこうと思います。

 本当に元気だった19才の息子が虫垂炎の手術の麻酔事故で死亡しました。1時間余りで亡くなる、人間をこんなにも簡単に死なせてしまう医療行為もあるのかと疑問に思い、真実を知りたいと思い続けて11年がたちました。

 5年半続いた一審姫路地裁の医療裁判は、問題は残りましたが和解で終結させました。
 話したいことがいっぱいありますが、3点ほどに絞ってお話しします。

医療裁判に至るまでの煩悶・猛勉強

 いったい手術中に何があったのか、本当のことは裁判の場を借りないと話してもらえないことを知るに至り、時効1か月前にやっと遅い提訴に至りました。

 それまでの4年11か月の間は、いろいろ自問自答しました。浩行に隠れた重い病気があったのではないか、アレルギー体質ではないのか、心臓・肺・頭の中・血液動態は本当に元気な19才だったのか、もし重い持病があったのなら医師ばかりを責めるわけにはいかない、と。
 そして浩行の体のこと・病気のことについての公平な意見を求め、たくさんの医師を訪ねました。
 その一方、誰が見ても裁判を起こせる事例なのか、医療裁判とは何なのか、についても色々な本を何回も何回も読み返し、そう、猛烈に読みました。
 同時に、色々なグループにも参加しました。その中でメコンの皆様にはよくしていただき、心癒されることもありました。グループはこうありたい、ととみに感じるこの頃です。

 また、被害者はどんなにむつかしいと思っても、自分でカルテを解読しなければなりません。人任せではダメです。自分で解読できなければ裁判は起こせない位に思いました。カルテや病理所見の英字の解読には医学の英語辞典があります。

 「カルテは語る」です。来る日も来る日もまるで謎解きをしているようでした。私の手元のカルテのコピーはよれよれになりましたが、カルテは本当に色々語ってくれました。

一審の姫路地裁で裁判官は和解を勧めた

 5年も裁判を続けても本当のことは出てこず、真相は藪の中のままでした。
 そんなとき、裁判官が言いました。「被告がお金を出すということは罪を認めたことになるのです。原告も早く普通の生活に戻ってほしい」と。

 和解させたい裁判官の意図だ、と思いました。死なされているのになぜ和解なのかと思いましたが、その一方で、「本当だよ、私もそうありたいのですよ」と思うと、張りつめていた力がいっぺんに緩んでいくのがわかりました。
 「裁判官が解ってくれている、もうこれでいい、とことん突き詰めなくていいよ」と言うもう一人の自分がいました。

 私はもう年も若くはないし、次の大阪の高裁へはどうしても行きたくはなかった。それに、裁判に反対の夫とぎくしゃくした状態で11年、一人で裁判してきて心はもう限界でした。不整脈にも悩まされるようにもなりました。
 もうこれ以上裁判を続けるのは「アホらしい」という気持ちもあり、和解を受け入れることにしました。(『メコン・ニュース』49号を参照)

医療事故の解決策・防止策は国の力で!

 今日は医療過誤に遭った仲間たちの代表としてここに座っています。私たちは皆、こんな苦しみは自分たちだけでたくさん、二度と起こしてほしくない、と悲痛な思いを持っています。

 しかし、現状はそうではありません。医療ミスは次々と起こっています。誰にもいつでも起こり得るものになってきています。医師やその家族も被害に遭っている昨今です。

 今日のテーマに、「医療事故は避け得ないものゆえに、国家が法律を土台としてより有効な防止策と争いのない解決法を考慮し、実践…」とありますが、本当にその通りだと痛感します。これは心ある人々の間で叫ばれ始めたばかりです。

 では、何をどうすればよいのか?
 被害者、加害医師とその病院との三者だけへの課題ではないのです。いつでも誰でも患者は被害者に、医師は加害者になってしまうことがあり得る国民レベルの問題だということを、皆で考えていかなければなりません。また、被害にあった私たちの、かつ死んでいった者たちの胸の内を反映させなくてはならない課題でしょう。

裁判でまかり通るカルテ改ざんやり放題

 息子のカルテは、同じ場面のカルテが内容を少しずつ違えて3枚もあり、どれが本当なのか解りづらくしたり、薬量を微妙に変えていたり、間違った治療法を書き換えたり、それはひどいものです。あろうことか、裁判の場でもそれがまかり通ってしまうのです。

 どうか裁判官、カルテ改ざんに罰則をつくってください。カルテ改ざんで人は死なないといいますが、薬量・使用方法の違いで人は死んでいます。改ざんは死因を工作し、隠ぺいすることになるのです。なぜ裁判所はそれを放置するのですか?

 医療裁判が良くならないのは(ひいては医療が良くならないのは)、死因さえも隠蔽するカルテ改ざんを安易に許してしまう「裁判被害」にも原因があるのではないでしょうか?

麻酔医がいない病院で事故が多い

 麻酔事故がひとたび起きれば、患者は死亡するか植物状態になるか、そのいずれしかない厳しい医療行為だということを、医師は知っていてください。

 能書きには「熟練した麻酔専門医が行うこと」と定められていますが、臨床の場ではとても守られていません。麻酔医なしで、看護師や若い内科医に手伝わせて、外科医が麻酔も手術も一人で行う病院で事故が多発しています。
 息子の場合もまさに、麻酔経験の全くない若い内科医に命に直結した呼吸バッグを握らせて呼吸管理をさせていたのです。

 一方、麻酔の資格のない外科医がかなり居るということですから、患者は気をつけてください。ちなみに麻酔専門医は5年更新制を義務付けられています。

筋弛緩剤サクシンについて

 サクシンは、息子の手術に使われた三種類の麻酔薬のうちの一つです。
 サクシンは劇薬指定で保管を厳しく義務付けられていますが、サクシンで患者を死なせたり、それを殺人に使用する事件が新聞をにぎわせています。麻酔専門医は20年位前からサクシンを使用していないのに、息子の執刀医のように、サクシンを安易に使う外科医がいます。

 サクシンを使う外科医には最近の麻酔の勉強のやり直しを義務付けてほしいものです。あるいは、こう言いたい。
 「外科医よ! もう麻酔に手を出すな!」

 サクシンで亡くなる子を救うために、サクシンを常備する病院は必ず、ダントロレンをセットで置くように義務付けてほしいと思います。

背中に息子の死骸を背負って生きる母

 裁判は自分の感情むき出しではやれませんので、裁判を始めて、自分の感情を横に置くようになりました。
 でも、子どもを亡くした母親はしばしば、ひどい自己嫌悪に陥ります。死んだ子はもう何もできないのです。私だけがうれしそうに楽しめません。今日もテレビを見てご飯を食べて、そんな自分がおぞましいと思うときがあります。

 こんな詩を見てしまいました。今の私の気持ちにあまりにもピッタリです。

「人は/背中の荷を/早くおろせという
/背中の荷は/息子の死骸だ」

草壁焔太

初めは誰も医療過誤と思わない、がしかし…

藪見 紀子(兵庫県)

 平成7年10月30日、藪見浩行19才。当時の岡山県牛窓町立病院、定金外科医院長(47歳)に虫垂炎と診断され、午後6時より手術始まる。
 虫垂を切除して処置をし終えた時、重篤な血圧低下になり、お腹の切り口を閉じる段になって、午後7時心停止する。その後蘇生するも全く呼吸も戻らず、一度も意識を回復せずに午後9時死亡。
 気管内挿管下の全身麻酔は、麻酔専門医を付けずに、執刀医の定金医師が一人で行った。しかも、人工呼吸器を止めて、手押しバッグで空気を肺へ送る作業は内科医が行っていた。術中の一番大事な呼吸管理を、麻酔の経験が全くない若い内科医にさせていたのだ。
 麻酔薬は三種使用する。いずれも劇薬指定。笑気ガス、筋弛緩剤サクシン、フォーレン。「若くて元気な男の子、暴れられると困るから」と、麻酔の深度も維持も通常より深くしている。特にサクシンの量が大分多い。
 ここでも沢山のカルテ改ざんの実体がある。死亡原因は「心不全」と「無症状型突然死」。何かの刺激で不整脈が止まらなくなったとの説明があった。「もし手術に成功して家に帰ったとしても、近い将来心臓移植しないと生きられない子です」と定金医師は言う。
 「私は麻酔医の資格をもっているので麻酔は間違っていない。手術もうまくいった」と釈明するばかり。
 手術中にいったい何があったのか? 裁判の場でしか話してもらえないことを痛感する。やっと平成12年9月、随分悩みながらの提訴。平成17年3月、和解(司法の壁・  心身の限界)。この和解については新聞でも報道された。
 浩行は、幼稚園から高校までほとんど学校も休まず、風邪も余り引かないほど元気な子でした。そして自分のやりたいことに向かって元気に第一歩を踏み出したばかり。
 息子はなぜ死ななければならなかったのか?「心臓だから仕方ない」と簡単に何かとすり替えようとする彼らと一緒になって、息子の死を闇に葬り去る訳にはいかない。
 このように病院で人が死ぬのは、当たり前なのでしょうか? 死んだ家族を返せないのなら、せめて真実をありのままに話して欲しいとお願いしているだけです。
 裁判でしか解決できない現状は情けない限りです。
 裁判官よ、常識化しているカルテ改ざんに罰則を!

(第11回医療事故調査会シンポジウムと第5回 日本予防医学リスクマネージメント学会学術総会の合同集会のプログラム、80ページより)

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