談話室お題小説企画2 http://lostgarden.toypark.in/novels/kikaku2nd.html お題:「長台詞」「キスシーン」「ト・ヘン」 執筆:max ------------------------------------------------------------------ ふたつ咲いた口紅の薔薇 ------------------------------------------------------------------ キーワードは3つだ。 【日没を恐れるシンデレラ】 【実現(は)不可能(だった)】 【決して二度と出来ることのない、貴重なキス】 ヒントの提示だけで精一杯。 「ねぇ、ほらちょっとくらいいいじゃない。減るもんじゃないんだしさ?」 「減るわよ。目いっぱい減るわよ。目減り率脅威の200%超よ」 「ビクともしないってば」 「する。絶対する。厳密にはビクッとする」 「感じる?」 「恐怖をね!!」 さてさて本日のわたくしの日常歌劇をご覧のみなみなさま。 斯様な経験をなさったこと、あります? ないですよね。あったら引きます。 状況は説明するまでも御座いま――もとい、説明したくも御座いませんが、職務遂行を至上命題と致しますところのこのわたくし、誰に任されたでもない自己負担自己満足自己表現の説明任務……すなわち【愚痴】を実行させて頂きます。スタンバイ・オーケー? あ、オーノーですか。Oh,No! いやまぁ聞いてくださいよ。 学校帰りにいつものメンツで帰ってたら友達が一人わたくしの肩を叩いてひとつ。 「ねぇ、ちょっとふたりきりで話したいことがあるんだけどいいかな?」 「……そこでわたくしは思ったのです。唐突に『ふたりきり』なんて言われて不気味だな、ってこの時点で気づいていればあんな悲劇は回避できたかもしれないのに……って、そういう展開にならない?」 不安全開のわたくしと、自信満々の友達の、 「心配ご無用よ!」 そんな会話。公園に連れ込まれるわたくし。ああー。 公の園なんだからもうすこし公務員とかがいてもいいような気もするんですけどもそんなことはどうでもいいような、きわめて重要なような。具体的には警官とかいてよ! って話。 言い寄られてるんです。わたくし。 「ね、ちょっとだけだからさ」 「ちょっとも何も無いじゃない!」 「ちょっとよ! ちょっと唇と唇を合わせるだけ!」 「ちょっとって言葉は度合いを表すのに使うってことわかってる!? キスなんてデジタルよ! するかしないかの二択! ザ・デジタルリマスターよ!」 「デジタルリマスター版!! ナイスアイディアよ!!」 「そこ食いつくの!?」 「食いつくに決まってるじゃない! 夕焼けに照らされた人気の無い公園に佇む美少女ふたり。彼女たちの間にはいつしか淫靡なエモーションが漂い始め、気づけばその距離は容易に接近限界を突破して瞼の接近限界もついでに突破。目を閉じて唇は接触を求めて突き出されてああもう限界よ両の手はとっくの昔に恋人つなぎの要領で皮膚のぬくもりを伝え微風にスカートが揺らめいてもその中身を確認することも出来ないくらいふたりの距離は近づきすぎていて何これ分かんないもしかしてあたしたちひとつになっちゃったんじゃないそれならなんて素敵なのかしらこんなこと夢見たことすらなかったけど今こうして実際に体験してみるとあたしたちが生まれてきた理由ってこれなんじゃないかしらお父さんとお母さんがこうやった結果ここにいるのがあたしなんじゃないかしらあんたもそうなんじゃないかしらふたりのお父さんとお母さんに感謝感激雨霰奇跡が起きた十数年後にまたこの夕焼けに照らされた人気の無い公園で奇跡が再現されることそれ自体が奇跡なんじゃないかしらって美少女の美貌と明晰な頭脳とちょっぴりの性的興味関心がうずうずうずうず脳幹の奥深くからシナプスを刺激してくるわけよ。そうしているうちに物理というのは素直で愚直なもの。目測でもメジャーを利用してもふたりの距離はゼロ。メートルでもキロメートルでも、逆にミリメートルでもインチでもノットでも尺でもヤードでもどんな単位を使おうが万国共通! ふたりの距離はゼロ! 万国共通の愛の表現濃厚なキッス! 接吻! くっはーたまんないわよねっていうその光景、その一瞬にしちゃうには勿体無くてしょうがないから気づけばキッスはディープキッスに自然昇華。えろえろですなーぐふふふふ。あっしはちょっとした出歯亀根性が御座いましてな。ここに取り出したるはデジタルカメラ。一眼レフタイプの山盛りメガピクセル。最新鋭の技術の粋を集めた画像で魅惑の愛世界を保存&バックアップ! ついでに加工もやりたい放題! そうすればふたりのキスシーンは世界中にワールドワイドウェブって寸法よ!?」 「間に、で、デジタルリマスターなんの関係あるのよってツッコミ入れようとしたら見事にタイミング逸したわ」 「納得してもらえたかしら」 「ええ」 「幸いだわ」 「なら要点だけ話しなさい。あるいは警察を呼びなさい」 「要点を話すわ。警察なんかじゃあたしを止められない。無駄骨よ」 「やだ何その確信こわい」 「あたしとキスしてちょーだい」 「えらくフランクに来たわねー。断固お断りよ」 「おふざけも大概になさいませ!」 「古風にしても無駄骨だし、何より断固お断りよ」 「ケチー」 「どうきたって断固お断りよ」 「山」 「断固お断りよ」 「川」 「断固お断りよ」 「わーん」 ああもう、こいつったら。嘘泣きならまだ可愛いもので許したりしばいたり色んな方法論で攻防あれこれ考えることも出来たりするんだけども、こういう場面じゃガチ泣き。涙ポロポロ流したりするもんだから対策も何もあったもんじゃない。困るだけ。 ま、救いなのはすぐに泣き止むこと。 で、困ることはすぐに復活すること。 「断られてもキスできる方法を思いついたんだけど実行してみてもいいかしら?」 「断固お断りよ」 「し、しまった……」 油断は禁物。 でもよっぽどキスしたいのだけはいよいよ伝わってきた気がしないでもないわね。 なんか口に指まで当てて悩んでるし。このままじゃ二十歳を待たずに煙草でも吸い始めそうな感じ。 「あたしとしたことが迂闊だったわ……いちいち確認することの手間は将棋でたとえるところの……」 「――の?」 「……一歩ずつ進む香車」 「うぜえ」 「でも恋ってよくよく考えてみたら一歩ずつ進むものよね一足飛びに進んだ恋なんて面白みも話題性もドラマ性も意外性も男性も女性もないものね。ところでドラマ性って日本語にすると何なのかしらたぶん劇画性? でも別に劇画に限らないわよねドラマって。邦画? 洋画? 映画? 鳥獣戯画? あたしよくわかんないけど要するに恋ってよくわかんないものなのよねきっと。だから恋は邦画であり洋画であり映画であり裸婦画なのよね。分かるかしら、いえむしろ分かって欲しくなんてないわだって恋はよくわかんないものでありながらもキスは恋と同じカテゴライズを獲得したよくわかんないものだしそれすなわち裸婦画性を踏まえた行為に他ならないものね」 あれ、おかしいな別に眩暈もなにもしない。 この程度じゃ長台詞にすら感じられない不感症になっちゃったのかしら。もう影は超長くて地平線に届くんじゃないかって勢いの真っ赤な夕日だけど。 「このままあんたの演説聞いてたら文字通り日が暮れちゃうからさ。まとめていい?」 この美しいまでのわたくしの閑話休題。そしてそれを兼ねた集計。万能万全磐石万雷の拍手。 「あんた、このわたくしとキスしたいと」 「ざっつらいと!」 「その理由は?」 「女の子同士だから!」 あれ、おかしいな急に眩暈かなにかがした。 とするとアレですか。女の子なら誰でもいいっていうアレですか。 「んなわけないじゃない。あたしが心に決めた唇パートナーは、たった一人、よ?」 「うれしくないし感激もできないし――」 「――キスは辛うじてできるし」 「できるかっ!!」 「できるできる。ちょいと、ちゅっ。ね?」 「あーもー! まとめても一瞬で終わっちゃうし結局話戻るし!」 というか話が進んでない。 「それはね」 優しく諭す言い方しないで大体読めちゃうから続きが。 「あたしと、キスしてくれないからよ」 「そもそもなんで女の子とキスなのよ。男じゃダメなの?」 「じゃあ逆に聞くけど、キスって何よ」 うわ。 「はぁ? キスは唇と唇を合わせる――」 「それをすれば絶対にキスなの? 人工呼吸は何?」 「あれも広義のキスには違いない気がするけど」 「もしも人間を食べる風習があったとして、唇を食べる、その瞬間はキス?」 「知らないわよ」 「愛をささやきながら人はキスをするけども、もしもキスが唇と唇を合わせる行為を示すとするのなら、どうしてそこに愛情表現なんていらないものが付与されちゃったの?」 だーもー。 「わかったわよ訂正するわよわたくしが悪ぅございました誠に申し訳ございません謝罪の言葉もありませんどうか頭を地面にこすり付けつつお許しを乞うわたくしを哀れんでご慈悲をお与えくださいませ」 「そんなパネェ卑下、今は聞いてる時間ないわよ! キスってなんなのいったい!」 まぁなんと言いましょうか、物語はいよいよ核心に触れてきたってところでしょうか。 そろそろこの無駄極まりない議論を終わらせる最後のピースが見えてきそうな気がしてきた。どちらにしてもそろそろ出てきてもらわないと本当に日が暮れてしまう。シンデレラが夜中の12時にビクついていた理由が本当によく分かる状況。 「どれだけ考えても結論が出ないわ。きっとそれはあたしたちが知らないキスの真の姿が隠匿されてるからなのよ。現代社会が巧妙に覆った飾り気のない素直で真実のキス。あたしはそこにたどり着くために――時間がないわ。手短にいきましょう」 「無駄話しすぎでしょ」 「まずは愛を取っ払うの」 「え?」 「男女のキスには社会的背景から愛だとかなんだとかが入り乱れちゃうから、まずはそれを取り除くの。だからあたしは女の子同士に注目してる」 「その先に得るものは?」 「ただ本当のキス。あるいはその仮説」 「まぁいいけど」 「それは原初のキスかもしれない。この世界に最初に誕生した、唯一孤独で、原型で、定義で、なおかつ実現不可能かもしれないキス。理想のキス。キスの理想郷。ユートピアン・イディール・キス。あるいはプラトニック・キス・ト・ヘン。そういった存在に、今こそたどり着かないといけないの!」 なんだかえらく話がややこしくなってきたわね。 結局こういうことなのかしら。 「決して二度と出来ることのない、貴重なキスをしたい、ってこと?」 「ま、平たく言うとそう表現できるわね」 満足げなこいつ。 こういう突飛な言動にももうすっかり慣れてしまったわたくし。悲しい。 「さあもう日も暮れるわ。これがラストチャンス。あたしたちに許された時間はもう残ってない」 「確かにね。でもわたくしとしてはこのロスタイムを逃げ切るのに必死よ」 「そんなこと言ってもいいのかしら?」 不敵な笑み……不適なシチュエーション……わたくしは……心底震え上がる。 そうなの、だ……。 ああ、こわいこわいこわい。こいつが何を言い出すのか恐ろしくて仕方が無い。 だって、この、ふざけた、わたくしと、こいつが、女の子だっていう、状況は―― 「全部、まやかしだって忘れたの?」 笑みが深まる。それは口の端が吊り上がることだけで表現される、射すくめる笑み。 「このまやかし、永遠のものにしてもいいと?」 「――やめろ! わかった! キスでもなんでもしてやるからそれだけはやめてくれえっ!!」 - k - i - s - s - y - o - u - 悪夢だ。 始まったばかりの夜闇がそれを象徴する。 このキスは、悪夢だ。 ふたりのキスはほんの数秒で、終わった―― - g - a - m - i - g - a - m - i - 「で」 正座するこいつ。 「で」 激怒する俺。 「で」 反省する気はきっとないこいつ。 「で」 詰問する俺。 「返事がないから促すが、この事態、どう収拾してくれるつもりだ」 具体的な質問だったからだろう。こいつもさすがに返答した。 「むぅ」 すかさず拳骨。また考えてなかったのか。 普段からわけのわからんことを言い出してはわけのわからん事態を引き起こしてはもっぱら俺を巻き込むこいつの習性には慣れきってしまったものの、個別の事態には毎度泣かされる。 こないだのロケットも効いたが、今回の女性化には心底うちのめされた。 「しかも、しかもだ。お前も気づいているだろうが……!」 「そうだな。俺たちはキスの真髄に迫れなかった」 キーワードは3つだ。 【日没を恐れるシンデレラ】 【実現(は)不可能(だった)】 【決して二度と出来ることのない、貴重なキス】 ヒントの提示だけで精一杯。俺はもう泣きたい。 家に帰る前に公園の水道を目一杯利用しようと決意して俺は歩みだした。日常へ。いつもの世界へ。 「また、今度挑戦しよう。真実のキスに」 「今日のキスは最低だったから、パスだ」 と、返事するや否や、非日常に拳骨して、俺は蛇口に一直線に向かった。 ……俺とこいつのゼロ距離で起こった悲劇については、各自で予想の上、補完して欲しい。 終 ------------------------------------------------------------------ あとがき maxです。 まさかの続編です。 前回と違ってお題に強烈なの(ト・ヘン)が入ってたので悩みました。 けどすぐに「長台詞」と「キスシーン」で話作って「ト・ヘン」を詰め込もうと決めました。 前回に男2人のおしゃべりやったから今回は女2人にしよう。とか。 それならぐだぐだ長い台詞の後キスシーン突入だな。とか。 続編にしたらオチ部分としていいんじゃないか。とか。 幸い無茶苦茶な設定に堪える設定だったし。とか。 プラトニック・キス・ト・ヘンってなんやねん。とか。 まぁ意味だけ伝わってください。無理やりだと思うなら、パスだ、の直後に注目してください。 無理やりだ。 この企画楽しくなってきたのでまた次回を期待しています。 max |