「遅くなったけど、入学おめでとう、朋美」

「朋美、おめでとう、勉強も頑張るんだよ」

 目の前には、お父さんとお婆ちゃんが腕によりをかけて作ってくれたご馳走が並んでいる。入学式のあの日、お父さんが言ってた入学祝いのささやかなパーティ。あたしの大好きなから揚げも出来たてで湯気が上がっている。みんなで「いただきます」して、早速ハシをのばした。

「あふっ、あつっ、おいしい! お父さん、おばあちゃん、ありがとう! でも良かったよ。みんな元に戻って」

「本当にご苦労様だったね、朋美や。仙道家の使命を立派に果たしてくれたの」

 おばあちゃんはそういってあたしの頭をゆっくりとなでてくる。ちょっと恥ずかしいけど、小さいころにはよくなでてもらったのが懐かしく、そしてやっぱり嬉しい。

「私たちも『水晶化』してしまっていたから、実際には襲われたと思ったら気づいたらもう解決していて、正直不思議な感じだよ」

「でも、もう三週間経ってるんだよ!」

「まだ世間の騒ぎは収まってはいないのう。落ち着くまではしばらくかかりそうじゃの」

 オーガたちとの激闘の末、なんとか彼(?)らを全員元の世界に強制送還したのが一週間前。その時にはまわりの町も含めて五千人以上が『水晶化』されてしまっていた。オーガに吸い取られた『魔力』はほとんどは自動的に戻って、みんな一緒に元通りになったんだけど、あちこちで火事や交通事故が起きたり、警察や自衛隊が出動したり、としばらくは大騒ぎだった。学校も臨時休校が続いていたんだけど、ようやく明日から再開できるということになっている。テレビや新聞も原因についていろいろ言ってるけど、たぶん本当のことを知ってるのはあたしたち家族だけだろう。

「あーあ、このこと、誰にも言っちゃダメなんだよね?」

「まずまともに取り合ってはもらえんだろうしなあ」

 昨日お婆ちゃんに聞いたんだけど、そもそもこの町が『異界』との接点が多く集まっている場所で、仙道家は代々オーガのような異界からの侵入者から現世を守る役割を持っていたみたい。人知れず平和を守るヒーローなんて、お話ではカッコいいかもしれないけど、実際に自分関わってみるとやっぱり友達には分かってもらいたいって思う。でも……

『ハァ? トロいお前があの化け物をやっつけたって? 何言ってんだよ!?』

なんてバカにする幼馴染の顔が想像できて、あたしは肩をすくめる。

「うん、やめとく。信じてもらえたとしても、ウワサとかになるのもイヤだし」

「そうだね、大きな力は良くも悪くも注目され、時には争いの元にもなる。友達も巻き込んで、ね」

「それに、『あの子』と一緒じゃないと力使えないしね」

「そういえば、あの『妖精』とは、あの後どうなっておるんじゃ?」

「毎晩お話ししてるよ? 向こうの国で、テレビ電話みたいな道具を貰ってきたんだ」

「ずいぶん仲良くなったもんだのう」

「一緒に過ごしたのは二週間ぐらいだけどさ、やっぱりいろんなことあったから」

「一緒に困難を乗り越えた絆、だろうね、いい友達ができたね、朋美」

「うん、もう一緒に戦うとかないだろうけど、きっとずっと友達だと思うな」

「……そのことなんじゃがの、朋美や。実は……」

 急に声の調子を落として、おばあちゃんが話し始める。あたしは、次の言葉が予想できてしまった。

「おばあちゃん、もしかして、これで終わりじゃない、とか……?」

「うむ、文献では、二百年周期で現れる魔物の資料もあってな、それがそろそろなんじゃよ」

「えーっ、また、あんな怖いのが来るっていうの!?」

 食べようとしていたから揚げが箸からポロリと落ちた。

 

「――なんて話なのよ。どう思う?」

「なんとなく、そんな気はしてたかなあ? トモミとまた直に会えるんじゃないかって」

 夕食、お風呂の後、二階の自分の部屋で、あたしは目の前の大きめの鏡に向かっている。鏡には自分の姿ではなく、緑色の髪をした目の大きな、可愛い女の子の姿が映っている。

「この前までは必死だったけど、やっぱり怖いよ。ちゃんとやっていけるか心配だよ」

「そんなこと言いながら立派にやってのけたじゃない。大丈夫だって!」

「うーん、まあ、なるようにしか、ならないよね」

「ねえ、トモミ。私ね、トモミと会う前は仲間うちでも目立つわけでもなくって、なんの取り柄もないって思ってたのよ」

「そんなの、あたしも同じだよ……」

「でもさ、一緒に変身してさ、あのオーガってやつ?やっつけたとき私も怖かったけど、でもそれ以上にドキドキして、自分じゃなきゃできないことがあるってのがすっごく嬉しかったの」

「……」

「戦いはつらいし、怖いけど、でもね、私トモミとまた一緒ならやっぱり大丈夫だよ」

「ありがと。そうだよね。あたしも頑張れそうな気がしてきた!」

「うんうん、その意気! また明日ね、おやすみ!」

「おやすみ!」

 異界との通信がおわると、女の子の姿は消えて、普通の鏡のようになった。あたしはベッドにもぐりこみながら、改めてこの三週間のことを思い返していた。

(つづく)