ローマ字文の

読み方と学習法

Simizu-Masayuki

 

先日,会員のIさんから「ローマ字文を読むとき,いつも漢字を頭に浮かべて読んでいます.Rômazi no Nippon に本当の読み方を書いてください.」というお便りをいただきました.「ローマ字は読みにくい」ということもよく聞きます.

これに対しては,「ローマ字文を読みなれる」というのが標準的な正しい回答だと思います.小学校時代には,毎日のように「漢字の書取テスト」に苦しめられ,おとなになってからも,新聞だけでも,毎日,たくさんの漢字かな文を読んでいます.ローマ字文は,これの何百分の一かでしょう.この機会に,この対策を考えてみたいと思います.

 

1.           文章は3~5cmのかたまりで読む

 ローマ字の文章を読む場合,文字をつぎつぎと一文字づつ読むのではなくて,横幅で3~5cmづつかたまりとして読むことが分かっています.読書力の進んだ人は,この幅が広いので,速く読める,ということです.この雑誌で,2段組のページですと,1行を23回で読むのが標準です.

 これは欧米での平均的な話で,日本では,ローマ字文をこのように読める人はまだ少ないことでしょう.これは,なれていないからですが,これは「文字の学習法」とも深い関係があります.

 

2.英語の学習法

 わたしの記憶に間違いがなければ,イギリスなどでは,もう100年も前から英語の教科書の最初は

  This is a pen.

でした.日本でも,これがよく使われたようですが,わたしの時代には,最初のページは

  This is a map.

であったように記憶しています.

文字の学習は「の読み書き」から始めるのがふつうで,いくつか短い文の読み書きができてから,「単語に分ける」ことを知り,単語の認識ができるようになります.単語を分解して「音節」,さらに分解して「単音」というふうに学習するのが基本です.

 

3.漢字かなの教育法

 日本では,1872年(明治5)に学校制度ができましたが,この年にはじめてできた教科書が「官版単語篇」です.時代を反映してか,はじめから漢字ではありますが,「フリガナ」が付けられていて,単語からはじまっています.1904年(明治37)に「イ・エ・ス・シ」ではじまる教科書もできましたが,1910年(明治43)からは「ハタ・タコ」ではじまる「単語学習法」になっています.

 1933年(昭和8)に, 「サイタ サイタ サクラガ サイタ」ではじまる「小学国語読本」になって,今日まで「文の学習法」から学ぶことになっています..

 こうみると,漢字かなの導入期の学習法は,(漢文学習を別とすると)

a)      江戸時代までの「音節学習」(寺子屋)

b)      明治新政府の「単語学習」

c)       昭和の「文の学習」

という道を通ってきたものといえましょう.

 

4.ローマ字の教育法

 日本でのローマ字の学習は,英語教育の一部や,学校教育とは別の形で明治の始めから進められてきました.ここでは

 a   i   u   e   o

 ka  ki  ku  ke  ko

 sa  si   su  se  so

というふうな「五十音図」にしたがった学習が中心であったようです.これが1945年(昭和20)の終戦まで続いてきました.

 1947年に,小学校にローマ字教育が入りました.「ローマ字教育会」の発行する教科書 ”Tarô to Poti” が多くの学校で採用されました.この著者である鬼頭礼蔵さんが声高く勧めた教育法は

    Tarô

     Poti

     Gakkô

などの単語を文字の形として教える,「語形法」でした.語形法によると,小学生が1分に200語も300語も読める,ということでした.もちろん,この速さは声に出して読める速さよりはるかに速いものです.

 その後,

   Gakkô e iku.

   Hon o yomu.

などといった短い文はひとめで読むもの.ローマ字学習は,単語で始めるのではなくて,単語の集まりではじめる,という「語群法」が唱えられました.

 ローマ字学習と,漢字かな学習をくらべると,

 五十音図学習  →   音節学習

 語形法学習   →   単語学習

 語群法学習   →   文の学習

と対応しています.

 

5.ローマ字になれるために

 ローマ字によることばの学習は,漢字かなによる方法の数分の一で効果をあげることができると思いますが,現実には,百分の一も学習に使われていないことが多いでしょう.少しの努力で,「読みなれる」には,語形法が適当であろうと思います.

 英語の学習に用いた,「単語カード」を利用するのはどうでしょうか. Rômazi no Nippon のローマ字のページを拡大コピーして,よくでる単語や語群(たとえば, no de aru, dono yô ni, など)をカードに切り張りしておきます.これを繰り返し読んで,“チラッ”とみて分かるように練習する.これを400~500 語についておこなうと,「語形で読む習慣」がつくのでローマ字文を読むことが楽になるものと考えます.もともと読み書きできることばで,文字とことばの関連づけはできているのですから,苦労はありません.気楽に練習すればよいことです.

 

6.目的にあったローマ字学習

 ちょっと見には,ずいぶん遅れたローマ字教育法であったように見えますが,これには理由があります.ローマ字教育がもっとも盛んに行なわれた時代でも,小学4年生から週に1回程度でした.忘れたころにつぎの授業,というのでは,語群法はもちろん,語形法教育もとてもむつかしいようです.今は,せいぜい年に4~5 回,というところが多いので,語形法教育も,学校では無理です.

 また,そんなに速く読める必要はない,という意見もあります.残念ですが,ローマ字文を速く読まなければならないほど,現在は,ローマ字の本がたくさんありません.今の時代には,もっと大切なことがローマ字の読み書きにあるということです.

 ローマ字は,日本語の「ことば」と直接結びついています.ことばは,音と意味との組み合わせですから,ローマ字は音(発音)と意味(文法)に目を向けさせ,自分のことばに磨きをかけ,また日本語そのものの発達に役立ちます.ここでいう「文法」とは,いわゆる学校文法のことではなくて,「ことばの使い方」ということです.ことばの構造,文の構造,論理的な文章,などの意味です.さらに,新しいことばつくりを含めて,日本語のよりよい発展に向かわせることです.

 こういう点から考えると,すべての人にとって「ローマ字文を速く読むこと」だけが重要ではないような気もします.

 逆の発想もありそうです.現在の小学生は,学校ではほとんどローマ字を習っていないでしょう.でも,社会にはローマ字がいっぱいです.生まれたときの赤ん坊は,社会にあることばを「教えられる前に,覚える」のではないか!

 “nma”, “mama”, “opai”, “papa” から育った「生命力を持ったことばの学習」とおなじように,「生命力を持ったローマ字の学習」をめざした「音素法ローマ字学習」を考えています.これは,ローマ字のような音素文字にだけ可能な学習法です.