江戸時代の大学者・新井白石(1657〜1725)は,
「西洋記聞」のなかで,ローマ字の便利なことを紹介しています.




「日本思想大系35・新井白石」(1975,検注者・松村明,岩波書店)より
底本は,国立公文書館の自筆本


39ページ9行目から40ページ5行目に紹介されている.
「西洋記聞」中巻でまず,世界が五大州(ヨーロッパ,アフリカ,アジア,北アメリカ,南アメリカ)
に,分かれていることを説明して,ヨーロッパの言葉と文字を紹介している.
この部分を意味訳してみる.

ヨーロッパの国々では,言葉が違います.しかし,大きく分けて3種類に過ぎません.
ヘブライ語,ラテン語,ギリシャ語です.大事なことはすべてこれらの言葉で書きます.

ヘブライ語というのは,ユダヤの言葉です.(ユダヤというのはラテン語で,イタリア語では,
ジュデアといいます.漢(中国)の言葉では如徳亜(ニュイチヤア)と訳します.この国は
今は滅んでいますが,その国の子孫は諸国に散在していて,ユダヤ人と呼んでいます.
ラテンというのはむかしの国の名で,いまはどこにあったのかもはっきりしません.
ギリシャも,また同様です.                                
このうち,ラテン語は言葉と発音がどこの言葉とも通じるところがあります.そこで,
諸国の人は,みんなラテン語を学んでいます.                      
また,諸国で使われている字体は2種類あります.ローマ体とイタリック体です.ローマ体は
漢字の楷書体,イタリック体は漢字の草書体に似ています.                

ぞの字母はわずか20字余りで,すべての言葉を書くことができます.文は簡単で,意味内容は広く,
それで書けない言葉はありません.(ある説では,「漢字は1万以上あって,学力のある人でなくては
覚えることができない.それほどなのに,まだ言葉があるのに文字がないものがある.漢字は,字数が
多いといっても,まだ足りない.無駄に苦労するだけ」といっています.)                

ラテン語を学ぶ学問の,「文法」というのは梵語の悉曇(シッタン)があるように(その声音を習う学問),
「修辞学」というのは漢語に漢文があるようなもの(漢語を連ねて漢文を作る学問というものです.)

このほか,天文・地理,医術,技芸のこまかいところまですべて専門の学問があるという.