「O嬢の物語」ポーリーヌ・レアージュ 澁澤龍彦 訳 

〜注意!!R18指定(爆)〜

1954年、パリで発表された"知る人ぞ知る"エロティック文学の大傑作です。 原題は「Histoire d'O」。
作者名の※ポーリーヌ・レアージュという女流作家は実在せず、未だに正体が明かされていないようです。
寺山修司脚本による映画「上海異人娼婦館 チャイナ・ドール」(1981年)はこの小説が原作となっています。

パリに住む、マドモアゼルOは、ある日、恋人のルネに公園に連れ出されます。
公園の一角の街路の隅に止まっているタクシーに誘われるままに乗り込むO。自動車の中で所持品を奪われ、目隠しをされた彼女が車を降りたのは謎の大きな城館の前でした。

案内された部屋には18世紀の小間使いのようなコスチュームを着た二人の若い女性がいて、Oは入浴と化粧を施されます。
この館の女性たちは皆、アイシャドーと濃い口紅を塗り、皮の腕輪と首輪を身につけ、コルセットやふんわりした大きなスカート、という独特の服装。男性たちは紫色の長いガウンを羽織り、ベルトには皮紐の鞭を差して歩きまわっています。
この館の女たちは男性に対して絶対服従。男たちが望めば、否応なしに鞭で打たれ、何人もの男たちに陵辱されるのも、じっと受け入れなければなりません。
こんなアンダー・グラウンドな館に連れてきたのはOと愛し合っているルネ。彼もまた、この館の謎の男たちのメンバーであり、Oを愛しているからこそ、ここに連れて来たのです。
「前から君に淫売をさせてみたかった。」Oはルネに従属するものであり、ルネの所有物であるOは彼のいかなる要求にも応じなければならない。この館にいる限り、Oは館の男たちの共有物であり、ルネが見ている前でも、男たちに身をまかせなくてはならない。
ルネを深く愛しているO。ルネもまた自分を愛している、と実感しているからこそ、Oはあっさり拘束状態を受け入れ、自分自身を放棄していきます。
しかし、Oがこの城館を去る日が突然やって来ました。
この館で過ごした女性はその証として、鉄の指輪を与えられます。一般社会でこの指輪の秘密を知る男性に出会ったら、進んで彼の思いどおりにしなくてはならない、と申し渡され、Oはルネと一緒に車に乗り、館をあとにします。
この城館は小さな村落にありました。道路標識に書かれた村の名はロワッシー。

住み慣れたアパートに戻ったOは再び、愛するルネとの共同生活を再開します。
実はファッション・フォトグラファーであるO。仕事復帰を果たしますが、以前の彼女とは明らかに何かが違っていました。
ある日、Oはルネにある男性と引き合わされることになります。 ルネより10歳ぐらい年上のイギリス人男性、ステファン卿。血は繋がっていないけれど、兄弟同然のように育ったステファン卿をルネは敬愛しており、自分の恋人であるOをステファン卿と共有しようと考えていたのです。ステファン卿に喜んで欲しいから自分が最も慈しんでいるものを差し出し、献上しようとしているルネ。
二人に従属することをステファン卿とルネに半ば強引に承諾させられたOですが、次第に自分の心がルネからステファン卿に支配されていくのを認めます。

カメラマンであるOはロシア系の売れっ子モデル、ジャクリーヌは絶対にルネとステファン卿の気に入るに違いない、と踏んで彼女の写真を差し出します。 そのせいで「ジャクリーヌをロワッシーに連れ出すためにうまく誘い込め」とステファン卿から思わぬミッションが課せられてしまいます。
可愛いジャクリーヌを騙し、あんな恐ろしいところへ連れ出すなんて、いくらステファン卿の命令でも、行動を起こすのが憚られてしまいます。

躊躇し、プロジェクトが進まないでいたある日、Oはステファン卿に再び呼び出され、彼と同年代のマダムを紹介されました。彼女の名はアンヌ・マリー。
実はとんでもないオバサンで、ステファン卿はなんとOに自分のイニシャルの入った重い鉄輪をOの両脚の間に装着させ、お尻に焼き鏝を刻むためにアンヌ・マリーの家に送り込んだのです。本編の中でここの描写が一番強烈でした。ここの部分は何度も顔をそむけながら読みました。
しかし、Oは何の抵抗もなく受け入れてしまうのですね。
「お前の体はもう自分の物ではない」と何度も調教され、拘束されることに喜びを見出してしまった彼女は愛するステファン卿のイニシャル、それも一生消すことができない烙印を喜んで自分の身体に刻みつけるのです...。

そしてラストのフクロウの仮面を被せられ、鎖でつながれて夜の舞踏会に出かけ、見せ物にされる驚愕の場面。Oはもはや人間ではなく、オブジェとして、完全に人格を奪われてしまいます。自由奔放だった一人のパリジェンヌがある男性と出会ったことにより、その肉体を傷つけられ、性器を封鎖され、最後には人間性までも奪われてしまうという、まさに戦慄のラヴ・ストーリー。読んだ者にとって、このシーンは一生頭から消えないのではないでしょうか?忘れてしまったとしても、意識のHDにしっかり記憶されていて、何かの拍子にファイルが起動してしまうに違いありません。

実は最後の章が削除されていて、私は最後まで読んでいません。 最後の章ではOは再びロワッシーに還り、ステファン卿に捨てられるようです。愛する男に捨てられることに絶望したOが彼の許可を得たうえで、自殺することになっているらしいのですが、この結末はどこか切なくて泣けます。
続編として「ロワッシーへの帰還」(おそらく削除された章)が日本でも翻訳版が刊行されているみたいですが、今は絶版となっていて入手困難なようです。

ヒロインの名前になっている"O"。まるで記号のようですが、これは女性器の形をなぞらえた物だとされています。余談になりますが、池田満寿夫の小説「エーゲ海に捧ぐ」の"エーゲ海"もこれを暗喩しているそうです。
エロティック描写ばかりが取り沙汰されがちですが、ほんとは実にスタイリッシュでかっこいい作品だと思います。
例えば、Oが撮影したジャクリーヌの写真をいっぱい並べたテーブルの上で、ステファン卿に押し倒され、写真に取り囲まれた、という描写があったのですが、これがまた実に映像的で映画の一場面のようだと思いました。
翻訳者である澁澤もあとがきの中で「たとえば、唇と膝とをけっして閉じ合わせないことを、O嬢はロワッシー館で男たちから厳命されるが、そんな姿勢のマネキン人形やファッション・モデルを、当今、読者諸君は高級洋裁店のショー・ウインドーや服飾雑誌のグラビヤ・ページなどにながめたことはないだろうか。とくに近ごろ、流行の先端を行くスタイルの女の子は、ほとんど唇を薄くあけ、膝を大きく開いているのにお気づきではないだろうか。」と記述しています。
やはりこの「O嬢の物語」は時代遅れで野暮ったいどころか、今でも斬新で強烈なインパクトを放ち続ける不朽の名作なのです。

2005年8月29日


※追記
ポーリーヌ・レアージュの正体は20世紀後半の半世紀にわたって、敏腕の編集委員にして著名な批評家、翻訳家であり、また権威ある文学賞の審査員などを務めたフランス文学界の重鎮ドミニック・オーリ女史であったことが彼女の死後、ようやく明らかになったそうです。 男性説(批評家ジャンポーラン氏)もあったそうですが、やはり女性だったのですね。

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