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     第八章 運動戦への発展

 抗日遊撃戦争の戦略問題の第五の問題は、運動戦への発展の問題であり、それが必要であり可能であることは、やはり、戦争の長期性と残酷性からくるものである。もし、中国が急速に日本侵略者にうち勝ち、急速に失地を奪回することができ、なにも持久戦ではなく、また残酷な戦争でもないなら、遊撃戦が運動戦へ発展する必要はない。ところが、事情はまったく反対であって、戦争は長期でしかも残酷であるため、このような戦争に適応するには、遊撃戦が運動戦に発展する以外にない。戦争が長期で残酷であることから、遊撃隊は必要な鍛練をうけ、しだいに正規の部隊に変わっていくことができ、したがって、その作戦方式もしだいに正規化して、遊撃戦が運動戦に変わるのである。遊撃戦争の指導者たちが、運動戦への発展の方針を堅持し、それを計画的に遂行するには、このような必要性と可能性をはっきり認識しなければならない。現在、多くの地方の遊撃戦争は、たとえば五台山などのそれのように、正規軍が強力な支隊を派遣しておこさせたものである。そこの作戦は、ふつう遊撃戦であるが、はじめから運動戦の要素をふくんでいた。戦争が長びくにつれて、このような要素はしだいに増加していく。これは、こんにちの抗日遊撃戦争の長所であって、遊撃戦争を急速に発展させるばかりでなく、それを急速にたかめるものであり、それは東北三省の遊撃戦争にくらべて、条件がはるかにすぐれている。
 遊撃戦をおこなう遊撃部隊を運動戦をおこなう正規部隊に変えていくには、量の拡大と質の向上という二つの条件をととのえなければならない。前者については、部隊にはいるよう人民を直接動員するほかに、小部隊を集中する方法をとってもよいが、後者については、戦争のなかでの鍛練と武器の質の向上に依存する。
 小部隊を集中するには、一方では、地方の利益だけを考えて集中をさまたげる地方主義を防止しなければならず、他方では、地方の利益を考えない軍事一点ばり主義をも防止しなければならない。
 地方主義は地方の遊撃隊および地方政府のなかに存在している。それらの人は、とかく全局の利益をわすれて地方の利益だけを考え、あるいは集団生活になじまず分散活動に夢中になる。主力の遊撃部隊または遊撃兵団の指導者たちは、このような事情に注意して、地方にひきつづき遊撃戦争をくりひろげていく余力を保たせるように、しだいにまた部分的に集中していくという方法をとらなければならず、また、小集団を大集団に融合させるように、まず協同の行動をとらせ、そのあとで、もとの編制をこわさずその幹部もかえないで一つに編成していくという方法をとらなければならない。
 軍事一点ばり主義は、地方主義とは反対で、主力部隊の人たちが、自己の拡充だけをはかり、地方武装組織にたいする援助を考えないあやまった観点である。遊撃戦の運動戦への発展は、遊撃戦を廃止するのではなく、遊撃戦を広範にくりひろげていくなかで運動戦のできる主力をしだいに形成していくのであって、この主力をめぐるものはやはり数多くの遊撃部隊であり、広範な遊撃戦争でなくてはならないということを、かれらは知らないのである。そのような数多くの遊撃部隊は、この主力の有力な手足となるもので、この主力をひきつづき拡大させるためのつきることのない源泉でもある。したがって、主力部隊の指導者は、もし自分が地方民衆と地方政府の利益を考えない軍事一点ばり主義のあやまりをおかしたならば、それを克服して、主力の拡大と地方武装組織の増大にそれぞれ適当な位置を占めさせなければならない。
 質を向上させるには、政治、組織、装備、技術、戦術、規律などのそれぞれの面で改善をくわえ、しだいに、正規軍を手本にし、遊撃隊の作風をすくなくしていかなければならない。政治のうえでは、指揮員や戦士たちに遊撃隊から正規軍へと一歩たかめていく必要性を認識させ、そのために努力するようにみんなをはげますとともに、政治工作によってそれを保障しなければならない。組織のうえでは、正規の兵団に必要な軍事と政治の機関、軍事と政治の要員、軍事と政治の活動方法、および補給と医療などの恒常的な制度を、しだいにととのえていかなければならない。装備の面では、武器の質の向上と種類の増加をはかり、必要な通信器材をふやさなければならない。技術と戦術の面では、遊撃部隊の技術と戦術を、正規の兵団に必要な技術と戦術にまでたかめなければならない。規律の面では、整然とした統一的な制度が実施され、命令や禁止が厳格に守られる程度にまでたかめ、自由、放漫な現象をなくしていかなければならない。これらすべてのことをやりとげるには、長い努力の過程が必要であり、一朝一夕にやれる仕事ではないが、この方向に発展することはどうしても必要である。こうしなければ、遊撃戦争の根拠地での主力兵団をつくりあげることはできず、敵にいっそう効果的な打撃をあたえる運動戦の方式を出現させることはできない。このような目的は、正規軍が支隊または幹部を派遣したところでは、比較的順調に達成することができる。したがって、すべての正規軍には、遊撃隊の正規部隊への発展をたすける責任がある。


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