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     第二節 反「包囲討伐」の準備

 敵の毎回の計画的な「包囲討伐」にたいして、もしわれわれが、必要な、また十分な準備をしていなければ、必然的に受動的地位におちいる。そのときになってあわてて応戦するのでは、勝利の確実性はない。したがって、敵が「包囲討伐」を準備しているそのときに、われわれも反「包囲討伐」の準備をすることが、ぜひとも必要である。われわれの隊列内にかつてあらわれたような準備に反対する意見はふきだすほど幼稚なものである。
 ここには、論争を引きおこしやすい一つの困難な問題がある。それは、いつ味方の進攻をうちきって、反「包囲討伐」の準備段階にうつるかということである。なぜなら、味方が勝利の進攻をつづけ、敵が防御の地位にあるときには、敵の「包囲討伐」の準備は秘密のうちにすすめられており、かれらがいつ進攻をはじめるかをわれわれが知るのはむずかしいからである。われわれが反「包囲討伐」の準備活動を早めにはじめると、進攻の利益が減少することはまぬがれず、しかも、ときには、赤軍や人民にいくらかわるい影響をあたえることもある。なぜなら、準備段階での主要な段どりは、軍事上の退却準備と、退却準備のための政治的動員をおこなうことだからである。ときには、準備が早すぎたため、敵を待つことになり、ながいこと待っても、敵がやってこないので、ふたたび自分から進攻をはじめなければならなくなることもある。また、われわれがふたたび進攻をはじめたばかりのときに、ちょうど敵の進攻の開始にであい、困難な立場に立たされることもある。したがって、準備をはじめる時機を選ぶことは、重要な問題となる。このような時機の断定には、敵味方の双方の状況と、両者間の関係からみていかなければならない。敵の状況を知るためには、敵側の政治、軍事、財政および社会世論などの各方面から資料をあつめなければならない。またこれらの資料を分析するときには、敵の力全体を十分に評価しなければならず、敵の過去における失敗の程度を過大にみてはならないが、敵の内部の矛盾、財政上の困難、過去の失敗による影響などを評価しないようなことがけっしてあってはならない。自分の側についてはL 過去における勝利の程度を過大にみてはならないが、過去の勝利がもたらした影響を十分評価しないようなこともけっしてあってはならない。
 しかし、準備をはじめる時機の問題では、一般的にいうと、おそすぎるよりも、むしろ早すぎる方がよい。なぜなら、後者の方が、前者よりも損失がすくなく、その利益としては、備えあれば憂いなしで、根本的に不敗の地位にたつからである。
 準備の段階での主要な問題は、赤軍の退却準備、政治的動員、新兵の募集、財政および糧秣《りょうまつ》の準備、政治的異分子の処置などである。
 赤軍の退却準備ということは、つまり、赤軍を退却に不利な方向にむかわせないこと、あまり遠くまで進攻しないこと、赤軍をあまり疲労させないことである。これは敵が大挙進攻してくる前夜において、主力としての赤軍がとるべき措置である。このばあい、赤軍の注意力は、主として、戦場の創造、資材の調達、自己の拡大と訓練などの計画にそそがれなければならない。
 政治的動員は、反「包囲討伐」闘争における第一の重要な問題である。それは、敵の進攻が必至であり切迫していることと、敵の進攻が人民にたいして重大な危害をもたらすことについて、また、敵の弱点や、赤軍のすぐれた条件、われわれはかならず勝利しなければならないという決意、われわれの活動の方向などについて、赤軍の成員と根拠地の人民に、明確に、決然と、十分に説明することである。そして赤軍および全人民に、「包囲討伐」反対と、根拠地防衛のためにたたかうようよびかける。軍事機密をのぞいて、政治的動員は、公然とやるべきであり、しかも、革命の利益を擁護する可能性のあるすべての人びとにゆきわたるようにつとめなければならない。その重要な環は幹部を説得することである。
 新兵の募集は二つの面から考えていかなければならない。一つは、人民の政治的自覚の程度と人口状態を配慮することであり、もう一つは、その時の赤軍の状況と反「包囲討伐」戦役全体のなかでの赤軍の消耗の可能な限度を配慮することである。
 財政と糧秣の問題が、「包囲討伐」反対闘争において重大な意義をもっていることはいうまでもない。「包囲討伐」の期間が長びくかもしれないことを配慮しなければならない。主として赤軍、さらには、革命根拠地の人民が反「包囲討伐」闘争全体で必要とする物資の最低限度を計算しておくべきである。
 政治的異分子にたいして、かれらを警戒しないのはいけないが、かれらの裏切りをおそれるあまり、過度の警戒手段をとるのもいけない。地主と商人と富農のあいだには、区別をつけるべきであるが、主要なことは、かれらに政治の面から説明し、かれらの中立化をたたかいとるとともに、民衆を組織してかれらを監視することである。逮捕などのきびしい手段をとってもよいのは、ごく少数のもっとも危険な分子にかぎられる。
 反「包囲討伐」闘争の勝利の度合いは、準備段階での任務の完成の度合いと密接に結びついている。敵をみくびることからうまれる準備怠慢、敵の進攻におびえることからうまれるあわてふためきは、いずれも断固として反対すべきわるい偏向である。われわれの必要とするものは、熱烈であるが沈着な態度と、緊張しているが秩序のある活動である。


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