びっくり箱 別館
横丁の隠居部屋

隠居の寝言
「詐欺師・スリ」



 手品が観客を『騙している』のかどうか、と言う議論は繰り返し行なわれて居りますが、やはり手品に関わっている者としては『騙す』と言われるのは正直言って余り良い感情は持たないと思います。

 近松なども演劇は観客の目の前に“非現実”の空間を作り出すもの、と言って居ますから手品に限らず多くの『芸』は観客を『騙す』ことによって成り立っていると言うべきかも知れません。
 ただ、他の芸だって観客を騙して居るのに、何故手品だけが『騙す』と言われるのか、これは感情的に面白く有りません。

 ところで『騙す』ことで生活が成り立って居ると言えば詐欺師の皆様ですが、詐欺師を扱った小説は読んでいて本当に楽しくなりますよね。私もかつてミステリーやSF小説に狂っていた当時、主人公が詐欺師の小説は大好きなジャンルの一つでした。まあ、小説は小説、実際はもっと大変な世界なんだとは思いますが・・・

 何の本で読んだのかは記憶に有りませんが、2流の詐欺師は“立て板に水を流す様に”いろいろな事を喋ってカモを騙そうとしますが、彼は自分が喋っていることが真実では無いことを自覚しているのだそうです。従って相手にも彼が嘘を喋っていると言うことを容易に気付かれてしまうのだそうです。

しかし、1流の詐欺師は自分が本当のことを喋っていると思い込んで話をするのだそうです。演劇などで言う「役になりきる」と言う状態なのでしょう。
 こうなると相手も彼が本当の話をして居るのだと思ってしまい、嘘を見破られることも少ないのだそうです。

 更に超1流の詐欺師になると“真実しか喋らない”のだそうです。最初から最後まで本当の話をしている以上、相手に嘘を言っていると疑われる余地は有りません。
 真実だけを述べて詐欺が成り立つのか、と思われるかもしれませんがそれは可能です。つまり一連の真実の話の中の一部分を話しないことによって相手に誤った情報を与えるのです。

 詐欺師と共に手品師がお世話になっている犯罪者としてはスリが挙げられます。私はかつて手品とスリのどちらが難しいか、などと言う雑文を書いたことが有りました。私が高校生の頃に入り浸っていたデパートの手品用品売り場の常連さんの一人に昔警察官だったと言う方がいらっしゃって幾つかのスリのテクニックを教えて頂いたことも有りました。
 結論的に言えば観客の注目を浴びながら演じる手品と相手に気付かれない様にやるスリでは手品の方が遥かに難しいと思います。スリの方からの反論は有るでしょうか?

 最近は通勤時間帯の混雑した電車には滅多に乗りませんが、以前周囲の人を見ていると本当にスリにやられても不思議ではない、と言うような不注意な人を多く見かけたと思います。あれなら素人にだって・・・本気でそう思いましたよ。

 しかし、最近のスリの様に集団で相手を取り囲んで脅かして金品を奪うような連中が横行しては、昔の「美しい指先を誇る」スリなんかには出会えないでしょうね。ちょっと寂しい気もしないでは有りません。





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