<オピニョン>

―笹子トンネル崩落の新事実 (2)―
車両の接触事故が引き金か

西山 豊

2016年12月25日更新


1 はじめに

 笹子トンネルの天井板崩落の原因として、ケミカルアンカーボルトの経年変化による劣化などいくつかの要因があげられてきたが、今までほとんど注目されてこなかった車両の接触事故との関連について考察してみる。
 国土交通省のトンネル天井板の落下事故に関する調査・検討委員会(以下「事故調」とする)資料集(以下「資料集」とする)、194ページ、195ページに、「車両の接触等による天井板の損傷(中日本高速道路(株)報告資料)」がある[1]
 その中で「中日本高速道路会社が同社道路管制センター職員等に聞き取り調査をしたところでは、落下事故時に、天井板の損傷の直接的な原因となる事象(車両の天井板への接触等)は確認されていない。過去には、@、A、Bの天井板への車両の接触事故が確認されているが、天井板の剥離箇所のたたき落としで対応している」とある。
 天井板への接触事故、それへの対応「剥離箇所のたたき落とし」は、1985年の日航機墜落と伊丹空港での「しりもち事故」(1978年)との関係に類似しているように思える(後述)。


2 注目されなかった車両の接触事故

 中日本高速道路株式会社(通称はNEXCO中日本)は、2005年10月1日に旧日本道路公団より民営化され、設立される。NEXCO中日本が国土交通省に提出した車両の接触事故は大別して3件ある(@、A、B)(図1)。



図1 天井板接触事故の発生区間[1]

 笹子トンネル上り線の縦断図は図2の通りである[2]。図1は概略図で図2が正確な位置を示している。名古屋方面(図左)からトンネル断面ではL断面、M断面、L断面、S断面を経由して東京方面(図右)に進む。天井板落下事故が起こったのは東京側のL断面区間であり、天井板接触事故が多発していたのもこの区間であった。以下、詳細を見て行こう。



図2 笹子トンネル縦断図[2]



3 天井板落下区間と一致

@ 2005年9月までに発生した事故

 点検日時は2005年9月26日〜28日とあるので、事故は点検以前、つまり旧道路公団の時代のものである。点検では、つぎの天井板損傷を確認している(図3)。
 天井板損傷が確認されたのは、東京からの距離が81.851キロ〜81.972キロが5箇所、82.501キロ〜82.922キロが42箇所、83.868キロが1箇所、85.261キロが1箇所である。図でのKPの表示は東京からのキロ地点(Kilometer Point)を表している。
 いずれも、走行車線の天井板に車両の接触による擦禍痕または剥落(一部剥離片が残存)とある。
 最も多い82.501キロ〜82.922キロの区間(421m)は、2012年12月2日の天井板崩落事故の区間82.544キロ〜82.682キロ(138m)をそっくり含んでいるのは偶然の一致とは思えない。

 上り線で、この区間だけどうして接触事故が多発したのだろうか?
 トンネル入り口から天井板との接触なしに車両が進んだということは、この区間だけ天井板が下がっていた可能性が大きい。また、接触事故が多発したL断面区間は施工時から「特殊区間」として位置づけられていた[2][12]

 点検結果を受けた補修は、2005年9月29日〜9月30日に行われ、補修内容は「剥離箇所のたたき落とし」である。



図3 2005年9月までに発生した擦過痕[1]



4 4.95mの謎

A 2008年6月10日に発生した事故

 2008年6月10日、火曜日、11時55分頃、大型貨物車が普通貨物車(コンテナ型)を積載し高さオーバーで進入した為、トンネル天井に接触し、天井に擦過痕が残った。発生場所は上り線 84.4キロ〜81.4キロの間とあるので、トンネル全長(4417m)の約7割(3キロ)の区間にわたって接触したことになる。NEXCO中日本は道路損傷事故扱いにしている。積載車の高さは4.95mとある(図4)。



図4 2008年6月10日の事故(高さ4.95m)[1]


 国土交通省の配布資料では、道路面から天井板までの距離は4.7mとなっている(図5左)[6]。L断面の製図(図5右)でも、 図を拡大して見ると4700(mm) の数値を読みことができるので、4.95mは完全にオーバーしている。高さ4.7mのトンネルを高さ4.95mの大型貨物車がどうして通過できたのか謎である。



図5 道路から天井板までは4.7m[6]



B 2012年4月5日に発生した事故

 2012年4月5日、木曜日、11時40分頃、上り線で笹子トンネルへ流入する際、自動車がバウンドし、積荷の車両が跳ねてトンネル内の天井に接触した(図6)。85.8キロ〜85.9キロ(100m)の区間で、天井部接触痕のみ。道路損傷事故に至らず物損扱いにしたとある。積載の高さは約4.5m。



図6 2012年4月5日の事故[1]



5 無視できない衝突エネルギー

 ほとんどの天井板接触事故は、走行車線側で発生している(図7の左車線)。そして事故の処理は、「剥離箇所のたたき落とし」で済まされている。
 図7に示すように、天井板への接触は天井板の損傷だけでは済まされない。2枚の天井板と1枚の隔壁は下部CT鋼、左右の受台、天頂部のアンカーに連結されているので、車両が天井板に接触したときは、赤丸印で示したアンカーや接合部に衝撃力として伝わる。
 前述の接触事故@やAは接触区間が長いので、大型車両と天井板の隙間がわずかしかなく進行していたと思われる。

 10トン車が時速70キロで走行し、車両のバウンドにより進行方向に対して斜め上方に10分の1の角度で進行し、天井板に接触したときの衝突荷重について考えてみよう(図8)。

 時速70キロは秒速にすると約20m/秒である。これは、約20mの高さから自由落下したとき、約2秒後に地面に衝突する瞬間の速度である。
 衝撃荷重は「力積」で表すことができる。力(衝撃力)を F (N)、加わる時間をΔtとすると、F*Δt が力積で、これが「運動量」の変化に等しくなる。m は質量、v1, v2 は速度を表す。

  F*Δt = m(v2 - v1)

 車両が壁にそのままぶつかるとして、静止するまでの時間Δtを0.1秒とした時は、車両や壁には約200トンの衝撃荷重が、0.2秒とした時は約100トンがかかる。
 Δtを0.2秒として、車両がバウンドして、水平方向に対して10分の1の角度で斜め上方に進んで天井板に接触するなら、鉛直方向には10トンの衝撃荷重がかかる。20分の1の角度なら5トンである。
 アンカーボルト1本が4倍の安全設計で4トンの荷重を支えるとしても、車両の接触事故によって、アンカーは破壊することになる。
 車両はすべての天井板に接触することはないので、すべてのアンカーが破壊されることはなく、天井板は落下しないが、相当危険な状態になっていたことは推測できる。

 図8は車両のバウンドを想定したものですが、実際の接触区間は、天井板が低下していた可能性があるので、バウンドでない衝突イメージを追って説明します。



       図7 アンカーにも衝撃荷重[6]        図8 衝突のイメージ(10トン車が時速70キロで接触)



6 日航機墜落としりもち事故の関係に類似

 わずかな亀裂が一気に破断に向かうというカタストロフィー理論がある。この理論は数学者ルネ・トムが1972年に提唱したもので、自然現象や社会現象における不連続性を説明したものである。

 1985年8月12日におきた日本航空123便墜落事故[7]は、まさにこれを象徴するかのような事故であった。
 日航機墜落の直接の原因は後部圧力隔壁の損壊によるものであったが(図9)、なぜ圧力隔壁の破壊が突然起こったのか墜落当時は謎であった。
 その後の調査により、圧力隔壁の損傷は隔壁の接続部の金属疲労による亀裂が原因であると推定された。そして、この亀裂の発生は、1978年に起きた同機の「しりもち事故」(大阪伊丹空港)の際に、米国ボーイング社による修理が不適切なものであったことが判明した(図10)。ささいな事故への対応を甘く見た結果として大惨事となった例である。

 笹子トンネルの天井板への接触事故、それへの対応を「剥離箇所のたたき落とし」で済ませたことは、重大な見落としがあるのではと思われる。
 1本のアンカーボルトの損傷や欠落が天井板の落下につながり、さらには天井板の連結構造[11]により138mに渡って345枚が崩落するという大惨事をまねいたのは、日航機墜落と同じである。

    

   図9 ボーイング747型機の後部圧力隔壁[7]            図10 不適切な修理[7]


 事故調は資料を提供するだけで、主な原因を解明しなかった。ガラスはわずかな傷で突然割れることがある。笹子トンネル崩落を日航機墜落事故と対比して表にまとめた。亀裂の発生から破断まで、どちらも7年後、これは偶然の一致だろうか。

表1 亀裂から破断まで

(つづく)



(参考資料)

[1] 国土交通省「トンネル天井板の落下事故に関する調査・検討委員会資料集」2013年7月31日、194〜195ページ
http://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-council/tunnel/siryo/03.2.pdf
[2] 国土交通省「トンネル天井板の落下事故に関する調査・検討委員会報告書」2013年6月18日、笹子トンネル縦断図、2ページ
http://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-council/tunnel/pdf/130618_houkoku.pdf
[3] 国土交通省「トンネル天井板の落下事故に関する調査・検討委員会」第4回(2013年3月27日)配布資料、資料8 笹子トンネルの過去の維持管理履歴、8ページ
http://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-council/tunnel/pdf/43.pdf
[4] 国土交通省「トンネル天井板の落下事故に関する調査・検討委員会」第3回(2013年2月1日)配布資料、資料2-2 笹子トンネル(上り線)の過去の点検経緯、8ページ
http://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-council/tunnel/pdf/24.pdf
[5] 国土交通省「トンネル天井板の落下事故に関する調査・検討委員会」第2回(2012年12月21日)配布資料、資料2 天井板の車両などによる損傷、4〜6ページ
http://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-council/tunnel/pdf/13.pdf
[6] 国土交通省「トンネル天井板の落下事故に関する調査・検討委員会」第1回(2012年12月4日)配布資料、資料3 トンネルの概要、3ページ、6ページ
http://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-council/tunnel/pdf/4.pdf

[7] Wikipedia 日本航空123便墜落事故

[8] 林邦彦「紹介 重交通路線における対面通行でのトンネル改良計画 - 中央自動車道「小仏トンネルイキイキ計画」『高速道路と自動車』高速道路調査会、45(7), 57-60,5,2002-07.
[9] 小林康範、棟安貴治「関門トンネルリフレッシュ工事(天井板更新)」『建設の施工企画』2009年11月、20-23.
http://jcma.heteml.jp/bunken-search/wp-content/uploads/2009/11/020.pdf
[10] 警察庁「運転免許統計(平成27年版)」、Excel形式
https://www.npa.go.jp/toukei/menkyo/index.htm

[11] 西山豊「天井板の連結構造が大惨事をまねいた―笹子トンネル事故再考―」 日本科学者会議、第21回総合学術研究集会(龍谷大)、2016年9月3日
http://www.geocities.jp/ma85003/index9.html
[12] 西山豊「笹子トンネル事故を考える―科学者の社会的責任から」『日本の科学者』48(7), 34-40, (2013)
http://www.osaka-ue.ac.jp/zemi/nishiyama/articles/jsa9.pdf

各ホームページの最終閲覧: 2016年11月11日



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(にしやま・ゆたか:大阪経済大学、数学)