「新人研修Death Metal〜自己紹介をしてみよう〜」
Written by ユラ
「聖句原株式会社」へ就職することになった祐巳。研修初日には、この会社の社長であ
る、聖が講師を勤め、「ビジネスマナー」についての講義の途中、聖は、蓉子の呼び出し
に血相を変えて研修室から飛び出していった。
それから十五分後、研修室にやって来たのは蓉子だった。
薄いグレーのスーツを着た蓉子は、部屋の前方に置いてある三組のイスと机の、真ん中
の席に座った。そして机に両肘を突いて手を組み、手にあごを軽く乗せる。
「お待たせ。それでは研修の続きを始めましょうか」
(あれ? 聖さまはどうなったんだろう?)
「ちなみに佐藤社長は封印しておきましたので、みなさんは決して封を解いてはいけませ
ん。いいわね?」
(聖さま封印されちゃったんだ。あとで見に行ってみようかな?)
「祐巳ちゃん、決して近づいてはいけないのよ。分かったかしら?」
「え、ははい! 分かりました」
(うわぁ。なんで私の考えてること分かったんだろう?)
「えっと、研修を始める前にみなさんには自己紹介をしてもらいたいと思います。内容は、
名前、学生生活でやっていたこと、自分の趣味、特技、これからの目標について話しても
らおうかしらね。それじゃあ……そこの盾ロールのあなたから」
蓉子は右手を瞳子に向けて自己紹介をするように言う。
「わ、私は『盾ロール』じゃありません! 『縦ロール』です!」
むき〜っと怒りをあらわに縦ロールを震わす瞳子。
「あらあら私としたことが。それでは自己紹介をどうぞ」
席を立ち、背筋を伸ばして真っ直ぐと蓉子に視線を向け、綺麗な渦を巻いている髪に指
を絡ませながら瞳子は自己紹介を始めた。
「私は松平瞳子と申します。学生生活では演劇のサークルに入って女優やっていました。
四年間ずっと所属していましたので、人を欺く演技は得意中の得意ですわ。私の泣き真似
で何人かの先輩や後輩をゲットしたことも……。あら、今のは冗談ですわおほほほほ。
趣味についてですけれど、私の趣味は演技の練習です。休みの日には、演じるキャラク
ターの服装をして、演技の練習に励んでいますわ。
特技はハッタリかますことと、素直じゃないところでしょうか。
目標はアカデミー主演女優賞を獲ることです。以上です」
「65点」
蓉子は無感情に点数を告げた。
「は? 何が65点なんですの?」
瞳子は首をかしげて不思議そうに蓉子の顔を見つめる。
「あなたの自己紹介の評価値のことよ。そうね、まぁ可もなく不可もなくといったところ
ね。自己紹介とは目立ってなんぼの世界だから」
蓉子は、自己紹介とは「人に顔を覚えてもらう」とは言っていないことに留意されたい。
要は「目立てば」何でもいいと言っているのである。ほとんど芸人の一発芸に近い観念だ
と捉えてもらえば、良いだろう。
「はい、次の方は……それではそこの市松人形さん」
市松人形と呼ばれた乃梨子は、瞳子のように突っ込みをいれずにただ立ち上がった。そ
して手を後ろ手に組んではっきりとした口調で始めた。
「カトリックの学校出身の仏像愛好家、二条乃梨子といいます。学生生活では主に釘を打
ち込んでいました」
「ぷっ」
蓉子は吹いた。「打ち込んだ」という言葉の意味合いの違いに気付き、笑ってしまった
のだった。
「本当は仏像をただ愛でるだけではなく、自分で彫るようにもなりました。そうですね、
年間二万体ぐらい彫ったと思います。私の趣味は教会巡りです」
「ぷっ」
蓉子はまたもや吹いてしまった。乃梨子が繰り出す微小なボケの笑いが累積した結果で
ある。
「特技は抜刀術で、千切りは得意中の得意です。最後に目標ですが、可愛らしい人とスー
ルになりたいと思います。以上で終わります」
蓉子に一礼して乃梨子は静かに着席した。
「今のは中々良かったわね。80点。これからもその調子で頑張ってください。はい、そ
れでは次は……黒い天使のあなた」
志摩子はふわりと軽やかに立ち、両手を前に組み自己紹介を始めた。
「藤堂志摩子と申します。よろしくお願いします。大学では主に宗教論について学んでお
りました。まずは世界中に伝播しているキリスト教の教義について学び、そのあと仏教に
ついても同様で、最終的にはキリスト教と仏教をミックスした『リリアン教』を開き、迷
える子羊をことごとく奈落の底へと叩き込んでおりました」
「今のはジョークよね?」
「マジです」
「……」
蓉子は下を俯いたままだった。何とも言えないような複雑な表情をしている。
「私の趣味はシスターごっこをすることです。うちの実家はお寺なんですけど、修道院の
真似事をしています。楽しいですよ。何も知らないかわいそうな人を見るのって。特技は
ケーキ作りです。目標は……そんなことどうでもよろしいのではありませんか? 以上で
終わらせていただきます」
「あ、あのね志摩子さん。あなたが言うと何故だか分からないけれど、冗談に聞こえない
わ。うん。その、あまりイメージをぶっ壊すような発言は止めた方がいいと思うのね」
「そうでしょうか。私はそう思いません」
志摩子のとんでも発言に、研修室の空気が凍り付いたように固まってしまった。
「えっと、じゃあそこのお下げのあなた、期待しているわよ」
「はい!」と元気よく、声を上げて起立した由乃は、手を後ろに組んで、ごほんと咳払
いを一つした後、自己紹介を始めた。
「自分は島津由乃、所属は首都防衛隊、階級は軍曹であります! 自分が通っていました
国立専守防衛大学では、ひたすら己を磨き、先輩のシバキ方、後輩を味方に付ける手段な
んかを学び、実践してまいりました。オス!! ごっつぁんです!!」
「いいわよ、その調子で」
蓉子は、先を期待した熱い眼差しを由乃に注ぐ。
「自分の趣味は、実銃の発砲と、竹刀で人をぶっ叩くことです! 好きな拳銃はM93R
であります。拳銃なのに三点バーストは熱いです! 特技は、いつでも暴走状態になれる
ことであります! 暴走状態の自分は、能力値が大幅に上がりますが、一定時間経ったら
電池が切れて止まってしまうのが欠点です! 技術部門に、改造を要請します! 目標は
先輩後輩問わず、腑抜けた輩の根性を叩きなおすことであります! 以上で終わります」
「うんうん。良かったわ。76点。それじゃあ、最後、祐巳ちゃんどうぞ」
「はい! それでは始めさせれいただきます」
(うわ、緊張して噛んじゃったよ……)
「可愛いわ……」
「え? あの、え〜っと私の名前は福沢祐巳といいます。大学は、リリアン女子大学の文
学部英文科に通っていました。学生生活では、友達と遊びに行ったり、アルバイトしたり
して過ごしていました」
「ちょっといいかしら?」
右手を挙げて、質問をする蓉子。彼女の目つきは真剣そのものである。
(なんだろう!? 何かマズイこと言っちゃったのかな?)
「はい、どうぞ……」
緊張のせいで心拍数が上がり、祐巳の額や背中には、冷や汗がとめどなく流れていた。
「今日の朝食は何を食べてきたの?」
「コーンフレーク……ですけど」
「可愛いわ。とても。そこの盾ロールのあなたは?」
蓉子は、妖精か何か、キレイで可愛らしいものを見るような表情を浮べている。ハッキ
リ言って、幸せそうである。
「ベーコンエッグですけれど何か?」
蓉子の緩んだ表情が一気に冷めてしまった。わざわざ後ろを向いて、溜め息をまで付い
ている。
「ふ〜ん。止めてしまってゴメンなさいね。続きをどうぞ」
瞳子は「ちょっと何ですの? 私はいじられキャラなんかじゃありませんから」と一人
ブツブツと呟いていた。
「趣味は、音楽を聴くことと、カラオケに行くことです。好きな音楽のジャンルは、バリ
バリのヘヴィメタルがとってもスキです」
「そうなの? それじゃあ私がギター弾くから、祐巳ちゃんバンド組みましょう。バンド。
江利子はベースで、聖はドラムね。あぁ……夢が膨らむわ」
蓉子は、勝手に妄想モードへと突入してしまっていた。今、彼女頭の中では、自分がラ
イブで、祐巳と一緒に演奏している光景が浮かんでいるであろう。
「あうぅ、その、今度一緒にカラオケに行くということで……。特技はというか、人から
よく言われるのですが、私は表情がコロコロと変わるようです。百面相だとか。目標は、
素敵な方とスールになってみたいです。以上で終わります」
「可愛らしい自己紹介ありがとう。85点あげちゃう。皆さんも、相手に覚えてもらえる
ような自己紹介を、心がけてくださいね。それじゃあ今日のところはこれで解散」
FIN
初版2006年5月16日
作後贅言
私も研修では、一体何回自己紹介させられたことでしょう(笑
イヤになるほどさせられると思いますので、簡単でいいですので、考えておいた方がい
いと思います。
瞳子が……微妙にいじられキャラが定着しつつありますがこれでいいんでしょうか?
志摩子が……真っ黒になっちゃいましたゴメンナサイ(汗
由乃が……軍人になっちゃいましたがいかがでしょうか?
それでは、また。
ユラ
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