「新人研修DeathMetal!! 〜ビジネスマナーって美味しいの?〜」
Written by ユラ
祐巳は休憩時間の間、あちらこちらから妙に熱のこもった視線をびしばしと受けていた。
(なんか、みんなから見られているような気がするんだけど、気のせいかな? ふと左を
見ると志摩子さんが私に微笑んでいたし、後ろにいる瞳子ちゃんを見ると、慌てて、ぷい
っと顔を横に向けて視線を逸らす)
午前十一時ぴったしに、社長である聖は勢いよくドアを跳ね開けての入室だった。ホワ
イトボードに背を向けて、先ほど自分が座っていた席から話を始める。
「うぇ〜い、ごきげんお。さっき君らに有り難いお話をした社長さんだよ。なんと私自ら
手取り足取り色んなところを取りながら教えてあげようじゃないか。それでは早速資料を
配るからね」
(妙に分厚い資料だ。ざっと見ただけで三十枚以上ある)
数十枚の紙束を五人の机に配り終えた聖は再び自分の席へ戻り、立ちながら続ける。
「えっとまず初めに君達に知ってもらいたいことがある。それは『姉妹(スール)制度』
というものについてね。うちの会社には姉妹制度っていうのがあって、先輩や上司、そし
て同僚でも構わないから、二人一組のバディを組んでもらっているの。色々と悩みを相談
したり、仕事の手助けをし合ったり、夜のレッスンをしてあげたりと、君達の世界を作り
上げてもらいたい」
(姉妹制度かぁ。すごく興味深い制度だなぁ)
「さて、どうすれば姉妹になれるかだけど、うちの会社の売店売ってる専用のロザリオを
相手に渡し、相手がOKすれば無事姉妹になれると。ただし、ロザリオを受け取ってもら
った人は、その相手を年齢に関係なく『お姉さま』と呼ぶこと。いい?」
(あれ? 私の知っているスール制度と逆だ。でも相手の年齢を無視できるのは大きい。
年下の子相手に『お姉さま』と呼ぶのはちょっと違和感があるけど、それは許容範囲のう
ちだね)
聖の説明を聞き終えた瞬間、祐巳に向かって熱量を伴っているかもしれないぐらい熱い
視線が四人分向けられた。
志摩子は柔らかく祐巳に微笑み、由乃は自信たっぷりの笑みを浮かべ、瞳子は興味あり
ませんという風を成していたが、目線はいつも祐巳を追っており、乃梨子はクールな表情
とは裏腹に萌えるような情熱を静かに燃やしていた。
「じゃあ、まず何でビジネスマナーが必要なのかってことから話そうか。まず、第一に相
手を陥れるため」
聖は、素敵過ぎる笑顔と共にものすごいことをさらっと言ってのけた。
「そりゃあもうね、ビジネスは戦争だからね。食うか食べるかの世界だからよん♪」
(食うも食べるも同じじゃないですか?? いや、社長の言うことだからもっと深い意味
があるに違いない)
真っ直ぐな祐巳はそんなことを考えてはいたが、やはり、食う=食べるで正解である。
つまり同じ意味だということだったりする。聖は、黒色のマーカーで、ホワイトボードに
何か書き始めた。
神奈川県と大阪府の人口はほぼ同じ
(うわぁ、すごい含蓄のある言葉だなぁ。勉強不足な私には、あの文章が意味するところ
が、どういうことなのかさっぱり分からない)
さきほどの入社式と同じ真っ赤なスーツを着ている聖は、上着のポケットから一掴みの
ラムネを掴んだ口に放った。ちなみに味は全てレモン味である。
「次に、何故ビジネスマナーが必要かというと、それは蓉子が口うるさいから。ほら何、
見たまんまだしょ? 蓉子の成分の99%は天然純粋な真面目の結晶で出来ているから」
青色のマーカーで再びホワイトボードになにやら板書を始める。
BPM100の十六分音符はBPM200の八分音符と等しい
BPM200の八分音符はBPM400の四分音符と等しい
(すごいよ聖さま。ほんと無知な私では、あの文章の意味が分からな過ぎる)
「まぁ、理由はそんなもんでいいっしょ? はい、次に具体的な話をしようかな。ビジネ
スの世界で最も大切なことそれは『挨拶』ね。これ大事」
内ポケットからうまい棒(サラミ味)を取り出し咥えながらまたもや何か板書した。今
度のマーカーの色は赤である。
しっぺ、デコピン、馬場チョップ
(流石社長だけあって、書くことの重みがすごすぎて私には把握できないよ)
「挨拶の仕方について、まずは相手の目を見る。当然色気たっぷりな流し目で。心の中で
『いらっしゃ〜い』と言うとなおさら良し!」
実際にお手本ということで聖が五人に向かって魅力溢れる「大人の目」で見つめると、
その内の祐巳と志摩子にクリーンヒットし、二人は「誘惑状態」のステータス異常に陥っ
てしまった。
「ありゃ〜。五人中二人かぁ。私の腕も落ちたなぁ。まぁ現役退いて十八年経つし」
(え? そうなんだ。じゃあ聖さまは二十四歳じゃなかったんだ)
佐藤聖、聖句腹株式会社の社長でバリバリ現役の二十四歳であることには間違いない。
「そうだ、例えば『相手と初めて会った時』という設定で私がお手本見せてあげるから。
で、その相手役には……祐巳ちゃんにお願いしようかな」
(あわわわわ。私が聖さまのお相手だなんて恐縮です)
「祐巳ちゃんは適当で構わないから挨拶してみてね。じゃあ、スタート」
部屋の前方の真ん中あたりに祐巳は立たされ、右端から祐巳に向かって歩いてきた聖は、
祐巳の手前五十センチメートルの至近距離で立っている。相手の呼吸すら分かりそうなほ
どに二人の距離は近かった。そして聖は……
「ぎゃう!! ちょちょちょちょちょっと聖さま!!」
いきなり抱きつかれた祐巳は、怪獣ヴォイスを皆に披露してしまった。顔を真っ赤にし
て恥かしがる祐巳は、聖から体を離そうと精一杯押しのけようとするが、聖は腕に力を込
めて、より一層祐巳の体を腕の中に沈める。
(このままじゃあ聖さまの胸で窒息しそう……)
「う〜〜〜〜ん素晴らしい抱き心地……この世の宝だ!! グッジョブ祐巳ちゃん!」
まるで脳髄が溶けてしまったかのように顔に締りがなくなり、だらしなく恍惚の表情を
遠慮無しに振りまいている。その一方祐巳の方は、聖の豊満なボディに溺れ、深刻な呼吸
困難に陥っていた。
「十分堪能したことだし、もう離してあげよう」
やっとこさ聖の熱〜い抱擁から解放してもらった祐巳は、呼吸困難と恥かしさで、体と
頭がふらふらとしていて今にも倒れそうになっている。そんな祐巳に構わず聖は講義を続
けた。
「えっと、まず、相手の前に立ったときには潤んだ瞳で熱い視線を送り、相手に先制パン
チをお見舞いする。次に、怯んだ相手に最高の笑顔で『ごきげんよう』と可愛く挨拶。い
い? 可愛らしくよ? ほら、可愛いは正義っていうからね。じゃあ、祐巳ちゃん私に今
言ったことをやってみてよ?」
(そ、そんな……。いくらなんでも相手が聖さまっていうのが困る。失敗したらどうしよ
う……)
祐巳は不安に顔を曇らせながら、聖と相対する。
「そんなに硬くならなくていいから。そうだな、私を『自分のお姉さま』だと思えば気が
楽でしょう?」
聖の言った『お姉さま』という言葉には、ただならぬ意味合いが込められていたという
ことには誰も気が付いていなかった。
(私福沢祐巳、清水の舞台から飛び降ります!!)
聖目の前までぎこちなく歩いて近寄った祐巳は、じ〜っと聖に視線を投げかけ、そして
若干表情が硬かったものの、十分『可愛い』と呼べるレベルの笑顔と共に『ごきげんよう』
と挨拶をした。
「キタ━━━━━━(゜∀゜)━━━━━━!!!! 」
聖は叫んだ。
「すっげぇぜ祐巳ちゃん! 君は明日から私専用の受付嬢にけって〜い!」
至上最高な宝を発見し狂喜乱舞していた聖に「お仕置き」が突き刺さる。
「佐藤社長、至急水野の部屋まで来てください。以上」
蓉子は氷のように冷たい声で「召集令状」を読み上げた。その礼状に一気に顔が青ざめ
る聖。
「えっと、聞いてのとおり私行かなきゃならないから、今回はこれで終わり。じゃ」
聖は、そそくさと逃げるように部屋から走り去って行った。
「ごめんよ蓉子ちゃぁぁぁぁん!!」
続く?
初版2006年4月13日
作後贅言
今回の作品には、変な表現や誤植っぽい表現といったものが含まれていますが、これらは
基本的に「仕様」です(笑 確信的な物ですが、ひょっとしたら本物の誤植が混じってい
るかも知れません(汗
今回は、聖が大爆発(笑 書いていることの意味不明さに呆然としてしまいかねないぐらい
に爆発しちゃっています。
何故か出てきた姉妹制度。実は私の会社にはなんと「ブラザー制度」があるらしいです。
マジカヨ!?
それではまた。
ユラ
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