「教えろ!! 聖先生!!」


                 Written by ユラ



 「佐藤書店」はJR中央線K駅から徒歩一分の場所にある。

 外見は、リリアン女学園高等部にある「薔薇の館」の床面積を大幅に増したものであり、
厳かさと建材独自の柔らかさを備えた味のある木造建築である。

 この佐藤書店の店長名は「佐藤 聖」という。

 店長の彼女の他、チーフには水野蓉子、その他の従業員には鳥居江利子、小笠原祥子、
支倉令、福沢祐巳、藤堂志摩子、島津由乃の計八名が勤務していた。

 今日は新入社員である二条乃梨子、松平瞳子、細川可南子の三名の新人研修の日である。

 その指導には店長である聖自身が直々に当たるという。接客経験に極めて乏しい乃梨子
のその胸中は不安という名の黒い塊が渦巻いていた。


 あぁ、初めての接客業だけど私なんかにできるのかなぁ? というか、全くの素人なの
どうして採用されたんだろう。確か面接した人の名前「藤堂志摩子」って書いてあった。

 従業員用入り口を入ると、壁にタイムカードが並んでいた。さらに今日は誰が出勤して
いるのか分かるように、マグネット板に書かれた名前の下に「出勤」というマグネットが
貼ってある。

 今日は……「佐藤聖」「水野蓉子」「小笠原祥子」「福沢祐巳」「藤堂志摩子」「鳥居
江利子」「支倉令」「島津由乃」の計八人が出勤してるみたいだ。この佐藤という店長っ
てどんな人だろう……。

 従業員用入り口を入って数歩歩くとドアに「事務室」というプレートが貼ってある部屋
が目に入った。

 ドアの前で深呼吸をし、覚悟を決め、そしてドアをノックした。

「すいません。今日から勤務する二条です」

 すると間もなく、ドアの向こうから声が聞こえる。

「はいはい。入ってちょうだい」

 失礼します、とノブを捻りドアを開けるとそこは事務室というより休憩室のような部屋
だった。

 縦に長い部屋の真ん中には卵形のテーブルが置かれていて、その上には紅茶やコーヒー
のカップやお茶菓子なんかが乗っている。部屋に入った瞬間のいい香りはこのお茶の香り
  だったと気が付いた。

 事務室には一人しかいなかった。彼女の名札には「店長 佐藤聖」とハッキリ書いてあ
る。この私と同じ日本人には見えない彫りが深く、色素の薄い美人が店長であるらしい。

「おはようございます。今日からお世話になる二条乃梨子です」

「おぉ君が乃梨子ちゃんか。私は店長やってる佐藤聖。ヨロシクね。じゃあ早速だけど、
制服に着替えてもらおうかな」

 部屋の壁沿いには十一のロッカーがきちんと並べられている。一番左端のロッカーには
「聖さま」という名前が書いてあるシールが貼ってあり、そこから順にメンバーの名前の
シールが貼ってあった。右から三番目には私の名前もある。

 ロッカーの上に保管されている「宮廷社」と書いてあるダンボールを下ろし、そこから
制服を一着取り出して渡してもらった。が、しかし…

「これが…制服ですか?」

「そうだよ?」

 これ、どうみてもリリアン女学園高等部の制服だ。「制服」には間違いないけどこれは
さすがにコスプレじゃないのだろうか? そもそも本屋でこれはアリなのか?

「アリだよ乃梨子ちゃん」

 な、何で私の考えが分かったんだろ? 私百面相キャラじゃないのに!

「着替えは向こうの部屋でやってね。別にここでも私は構わないけど」

向こうの部屋ですね」

 わざと「向こうの」を強調して確認し、渋々着替えることにした。

 着替えを終えて備え付けられている鏡で恐る恐る自分の姿を確認すると……

「恥かしいなこれ……」

 いつまでも篭っているわけにはいかないので違う意味で決意を固め部屋を出た。

「お? 以外に似合ってるじゃないか? 乃梨子ちゃんはぱっと見洋服より和服が似合い
そうだと思ったけど、これはこれでなかなかに……美味!!」

「美味…ですか?」

 何がどう美味しいのか全く訳が分からなかったけれど、一応褒められているらしい。

「実はね、ここだけの話乃梨子ちゃんが一番最後なの」

 え? え? え? それはショックだ。てっきり私が一番かと思ったのになぁ……

「あと、ここではお互いのことを下の名前で呼ぶこと。同期の子にはさん付けで、先輩に
はさまをつけて呼んでね。オッケー?」

「はい、分かりました」

「じゃあ行こうか」

 店長に連れられ部屋を出て、通路を真っ直ぐ歩き扉を開けるとそこは売り場だった。

 もう既に他のメンバーは売り場のレジの前で集合していた。今から朝礼をするらしい。

「みんなごきげんよう。今日は新しく三人のメンバーが加わるからね。市松人形みたいな
和風なこの子が二条乃梨子ちゃん、縦ロールが特徴のこの子が松平瞳子ちゃん、背が高い
バスケットが得意なこの子が細川可南子ちゃん」

 皆それぞれ口々に「はじめまして」や「よろしくね」といった挨拶を交わしていった。

「では、朝礼やりますよ。新人の君達は聞いてるだけでいいからね」

 隣にいた「福沢祐巳」さまがこそっと耳打ちをする。

「聖さまの言うことは突っ込まなくていいから。私が何故か突っ込み役に指名されてるの」

 ん? 突っ込み? それと朝礼どう関係あるんだろ?

「今日も佐藤書店で働く君達に言いたいことがある。よぉく聴け。
一つ。お客さんが入ってきたら元気よく『おかえりなさいませご主人様』と言え」

「それメイド喫茶じゃないですか!!」

 店長のボケにすかさず突っ込む祐巳さま。このネタって魔邪?

「一つ。祐巳ちゃんの月給は二十四万三千五百円だ」

「そんなことバラさないで下さいよ!!」

 百円単位で支払われるんだ。給料。

「一つ。祐巳ちゃんは弁護士だ」

「いやいやいや。今は本屋の店員ですから!!」

 弁護士? そういえば確かに。

「一つ。私は祐巳ちゃんが好きだ」

「…………」

「それには突っ込みないのかあんたは!!」

 と、私が突っ込みそうになるのをぐっと我慢する。祐巳さまは頬を赤らめて照れるばか
りでモジモジしていた。

「はい、以上で朝礼終わり。紅薔薇チームは荷物もう来てるから品出ししておいてね。黄
薔薇チームと志摩子は店内の掃除を、新人の君達は私と緒に来て。じゃあ解散」

 店長らしくぱっぱと指示を出していき、私は朝礼の時とのギャップに少し驚いた。

「じゃあ君達三人は私と一緒に来てね」

 佐藤書店は二階建てになっていて、一階にはコミックやゲームの攻略本に週刊誌等の雑
誌類が、二階には文庫本や文芸書、実用書に参考書が展開されている。

 私達は一階の売り場で作業をすることになった。

「はぁいちゅうも〜く」

 店長は右手人差し指で頬にかかる髪をかきあげる。あれは金八先生のつもりか?

「ここに置いてある荷物は雑誌とコミックなの。そこで君達には加工をしてもらおうかな。
まず、カッターかハサミで紐を切る。次に中に入ってる納品書と中身と冊数が合っている
か確認する。そこまでをやってみて。分からないことがあったら何でも訊いてくれていい
よん。じゃ、始め」

 レジを置いてあるカウンターの足元にはいくつものビニールで包装された小包が置いて
ある。これらのうち適当に一つ取ってそれを開封し、検品をする。

 とりあえず一つ取ってハサミで紐を切って開封してみた。商品をキズから守るために、
包んである紙を取って商品を確かめてみる。

 納品書 1−1
「お嬢様にも分かる法律入門 コミック編」×20冊
「あなたのために異議ありと叫ぶ 4巻」×10冊

 商品のタイトルと冊数を確認し、一タイトルごとに冊数のところにペンで丸をつける。

「店長。あの、この本一冊足らないんですけど?」

 私の隣で作業していた可南子さんが店長に訊ねる。

「ん? 足りない? どれどれ」

 店長も冊数を確認してみるとやっぱり一冊足りていなかった。

「じゃ、その本と納品書はおいといて。後で私が処理しておくから」

 二十ほど包みや箱があったにも関わらず検品作業は割と手早く終った。ま、四人もいれ
ば早いのは当たり前か。

「ようし、終ったね。次に、この子たちを加工してやるの。まずは雑誌から説明するよ。
始めに付録の付いている雑誌とそうでない雑誌とに分ける。そして付録の付いている雑誌
には紐をかける。肝心の紐のかけ方だけど、見本として一つやってみるよ」
 ビニールの紐をかける手順は以下のとおりだった。

1、紐の端を持って、雑誌の表面上辺の真ん中に合わせる。
2、その端を右手親指で動かないように押さえ、左手で紐を左辺中央に引っ掛けるように
  引っ張る。
3、左辺中央で引っ掛けたら、紐を雑誌の裏側から表側の下辺中央まで持ってくる。
4、下辺中央から表面右辺中央まで持ってきた紐を裏側へ。
5、裏側から表側上辺中央まで持ってきて右手親指で動かないように固定する。
6、表面上辺中央から、右辺中央へ引っ掛ける。
7、裏面右辺中央から表面下辺中央まで紐を持ってくる。
8、表面下辺中央から、表面左辺中央へ持ってきた紐を裏面へ回す。
9、裏面左辺中央から裏面上辺中央へ持ってきた紐を適量の長さで切ってくくる。

 以上の手順どおりに縛り、雑誌にかけられた紐が表裏ひし形の形にとなっていれば成功。
 当然一度訊いただけでは上手くいかないので、何度かチャレンジしたり、店長に訊いた
りしているうちになんとか様にはなるようになった。

 まだ慣れない手つきながらも入荷していた雑誌の加工は一応全て終わった。

「雑誌の方は大体めどが付いたから次は、コミックの加工の方ね。コミックはサイズによ
って入れる袋の大きさが異なるから注意ね」

 コミックは一般的に三つのサイズがあるという。一つ目はジャンプ、マガジン、チャン
ピョン、サンデー等、少年向けコミックの単行本、二つ目は青年向けコミックの単行本で
主に月刊雑誌のコミックが多い。三つ目は「〜完全版」や「〜アンソロジー」といった、
ちょっと特殊なコミックである。

 荷ほどきした商品をそれぞれのサイズに見合ったビニールの袋に入れていくのが次の作
業のようだ。

「まず、袋を何枚かいっぺんに取って底の部分を適度に切り取る」

 雑誌以外の書籍には「スリップ」と呼ばれるしおりのようなものが挟まれている。お客
さんが本を買われる時に、このスリップを本から引き抜くことになっていた。スリップは
主に本を注文する時に用いるもので、このスリップに記載されている製品番号で注文する
そうだ。そのスリップを引き抜くために袋の底を切るということだった。

「そして、袋の底を上にして本を入れるの。頭からすっぽり被せるということね。入れた
ら次に、背表紙の反対側を折る。折ってセロハンテープで止める。そこまでやったら後は
本の下の部分をテープで止めると完成」

 簡単な作業だと思ったけれど意外にこれが手間取った。始めはどうしても袋にシワが出
来たり(正確にやれば目立つようなシワは出来ない)していた。

「これも慣れれば手早くキレイに出来るから、多少不恰好でも気にしなくていいよん」

 時計の針は九時五十分ちょうどを指している。佐藤書店の開店時刻は朝の十時だから、
あと十分で開店となる。でも、コミックの加工がまだ四割ほど残っているが、一時それを
中断して開店準備にとりかかった。

 「開店準備」といっても実際にする作業はそう多くない。レジを起動し表のシャッター
を開け、看板の電源を入れればおおむね完了となる。これらの作業を店長に教わり、指示
されながらこなし十時ぴったしに開店できた。

「まず、レジの打ち方なんだけど、商品のバーコードをこのスキャナで読み込む。すると
その値段がレジの画面に表示される。そして読み込んだら小計を押す。すれば、消費税込
みの値段が表示されて、あとは預かった金額を入力して、現計を押す。簡単でしょ?」

 百聞は一見にしかずということで、実際にやってみた。

「これを下さいな」

 上品なおばあさまといった感じな年配の女性が今日一番目のお客さんだった。教わった
とおりにスキャナでバーコードを読み込み、小計をボタンを押した。

「消費税込みで1995円のお買い上げになります」

 店長は嫌味の無いスマイルで、表示された金額を読み上げながら商品を手早く紙袋に入
れ、口を折りたたみセロハンテープでさっと止めた。

「じゃあ一万円札でお願いね」

 おばあさまが赤い革財布から福沢諭吉を一人取り出し、受け皿へ乗せ、それを確認する。

「一万円お預かりします」

 預かった金額を入力し現計ボタンを押すと、画面には「お釣り8005円」と表示され
レジから五千円札一枚と千円札三枚、五円玉一枚を取り出しレシートと一緒に渡した。

「8005円のお返しになります。ありがとうございました」

 商品とお釣りを受け取ったおばあさまは軽く会釈して帰られた。

「接客は初めてって聞いていたけど思っていたより大丈夫そうだね」

「そうですか?」

 表面では平生を装っていたけれど、内心では心臓ドッキドキで緊張で思考がぼやけてい
た。

 開店から二時間ほどは残っていた加工の作業とレジ打ちをしていた。

「じゃあ乃梨子ちゃんには『返品』をしてもらおうかな」

「返品ですか?」

 一緒に来て、と店長の後に付いて行き売り場の右隅の扉を開けると倉庫のような場所で
たくさんの本が所狭しと積まれている。

「乃梨子ちゃんにはここにある本を全部返品してもらいたんだ」

 え?? これ全部? 軽く見積もっても二、三百冊はありそうな雑誌やコミックや書籍
を私だけで返せるんだろうか?

「ちょっと話が長くなるからメモを取りながら聞いてね。
 まず、返品は雑誌、コミック、文庫本、書籍の四種類に分けるの。だからごちゃ混ぜに
はしないでね。
 次に具体的な返品の方法だけど、この『ハンディ』と呼ばれる機械でバーコードを読み
込み冊数を入力するだけ。それをここに置いてあるダンボールが満タンになるまで繰り返
す。ここまではオッケー?」

 この部屋には本の他に折りたたまれたダンボールが束になって積まれていた。このダン
ボール箱に読み込んだ本を満タンまで入れればいいということか。

「はい、分かります」

 うんうん、優秀優秀と頷いた店長は先を進める。

「じゃあ、これからこのハンディの使い方を説明するよ。
 始めに電源ボタンを押して、『返品』を押し、次に返品する本の種類を選んで押す。今
は仮にコミックの返品をするとして、『コミック』を押す。そこまでやると後はスキャン
して冊数を入力して箱に詰めていくだけ。
 箱が満タンになったら『個切れ』を押すと一箱分の返品は終わり。あとは同じように処
理していくだけ。
 そして全ての返品が終ったらこの充電器にハンディを差し込み、『終了』を押してその
次に『印字』を押して伝票を印刷するの」

 ……一回の説明ではちょっと理解できたかどうか怪しいな。実際にやってみないと。

「とりあえずここまでやってみて。私は今からレジに戻るけど、何か分からないことがあ
ったらそこの内線で呼んでよ。じゃ、よろしく」

 返品作業は思っていたよりもずっと単純で簡単なものだった。言われたとおりに手順を
踏むだけで、特に困るようなアクシデントも……あった。

 入力冊数を間違えたり、個切れを押し忘れて二箱分読み込んだりと、単純な作業だけど
集中していないと小さなミスから大きなミスまで起こり得るということが身に染みて理解
できた。

 午後二時に一時間の休憩時間をもらい、事務室へ戻るとそこには志摩子さんが一人で紅
茶をすすっている。

「ごきげんよう。あなたは…」

「二条です。二条乃梨子っていいます」

 志摩子さんのまとう柔らかい空間に疲れがほぐされ、毒気を抜くような感覚が疲労を打
ち消していく。薄茶色のくせのある巻き毛と、とびっきりキレイな容貌が麗美な西洋人形
をイメージさせる。天使が人の形を成すと志摩子さんみたいなんだろうな、とふと思って
しまった。

「仕事は慣れたかしら?」

 イスをすすめられ、それに甘えた私は志摩子さんと向かい合うように座っていて、軽い
緊張に体が強張る。

「は、はい、少しですけど」

「そう。まだまだ覚えなければならないことはたくさんあるのだけれど、一歩ずつ着実に
進んでいけばいいわ。自分のペースで、ね」

 ふふ、と微笑む志摩子さんに私は神性を知覚した。すっごいキレイだな、志摩子さん。

 休憩時間というものは儚いもので、一時間という時でさえあっという間に過ぎてしまう。
私は昼食を摂りながら志摩子さんと取り留めの無い会話を楽しんでいた。そして午後三時、
休憩が終わりいよいよ勤務も後半へ。

 私は返品の続きを任されたので、作業を片付けていく。とりあえず八箱分の読み込みと
伝票の印刷を完了した。

「乃梨子ちゃん仕事早いね。読み込みが終ったら、この伝票を該当する箱に入れて、ガム
テープで止めて、ビニール紐で縛るの。それをそこの台車に積めば作業は終わり。一つ注
意だけど、本はすっごく重たいから気をつけてね」

 重い。本という物は本当に重たい。一冊二冊では大したこと無いけど、これが十冊二十
冊ともなるとずしりと重たくなる。だから本で満タンな箱を紐で縛るのは結構体力がいる
仕事だ。

 八箱全てを縛り終え、台車に積み終えた私は残りの時間は再びレジ打ちに徹した。

「ありがとうございました。今は夜の七時だから乃梨子ちゃんには『整理』をやってもら
おうかな。まぁメンテナンスと言ってもいいけど」

 『整理』は呼んで字の如く、売り場を整理する作業のことだと教わった。はたきを片手
に売り場に溜まった一日分のホコリを叩き落とし、乱れた売り場をもとの状態に戻すのが
整理と呼ばれる作業だ。

 売り場の乱れ方が一番ひどいのは悲しいことに女性向けの雑誌のコーナーだった。この
コーナーにはファッション雑誌や女性週刊誌にアイドル雑誌が置いてあるけれど、ものの
見事な乱れっぷりに開いた口が塞がらない。

「な、何これ? 何をどうすればこうなるの?」

 文句を言っていても始まらないので、商品を整理しはたきでホコリを落としていった。
このコーナーだけで思っていた以上に時間をとってしまい、閉店時間の八時に間に合うか
心配になってくる。

   次の男性向けの雑誌のコーナーは……見なかったことにしよう。うん。汚いから。

 雑誌コーナーは立ち読みをするお客さんが多いため一日でかなり売り場が乱れるという
ことがよ〜く分かった。今度別な本屋さんで立ち読みをする場合はもう少し気をつけよう。

 整理が終ったのは七時五十五分。閉店五分前。よく間に合ったなと自分でも思った。

 午後八時なって看板を店内に戻したり、電気を落としたり、レジを閉めたりと閉店作業
が滞りなく進められ本日の業務は無事終了。

「はぁいお疲れ様。今日一日乃梨子ちゃんどうだった?」

 事務室で店長がブラックのコーヒーを飲みながら今日の仕事の感想を訊ねた。

「分からないことばかりでしたけど、勉強になったと思います」

「これからもよろしく頼むね」

「はい」

 私の佐藤書店での仕事はまだ始まったばかり、明日、明後日と続いていき、日々自身の
向上に努めるべく今日もまた。

 ちなみにレジを閉める直前に仏像の雑誌を買ったら盛大に驚かれ、笑いの種にされた。
そんなに変なのかな私の趣味は?




FIN


初版2006年3月4日



作後贅言


本屋の店員の一日を話しにしてみたのですがいかがでしたでしょうか?
あんまりにも細かいところは端折ったので、ちょっとここで補足説明なんかを。
本の原価はいくらかご存知でしょうか? 原価は、定価に76%ないしは77%を乗じた
ものが原価となります。
よって定価が410円のコミックの原価はおよそ310円になります。
もしかしたら取次ぎによって掛け率が多少変わるかもしれませんがおそらく76〜77%
ぐらいと思います。



では、また