「冬のヒマワリと太陽」
Written by 榎木津巽
十二月二十五日は、世間でおいてキリストの誕生日だと認識されているけど、私にとっ
ては、聖の誕生日という認識を持っている。申し訳ないけど、キリストのお祝いは二の次
になる。
二十五日当日。
お互い学生で、特にアルバイトもしていなかったから、特に問題なく時間を作ることが
出来た。
今日の集合場所は、聖の家の最寄り駅、約束の時間は午後七時。
携帯電話の液晶を見ると、時間まであと十分ほどある。駅前の商店街では、まだクリス
マスな飾り付けをしている店舗もあるけど、中には正月用の飾り付けをしているものもあ
った。
今年もあとわずか。聖と私は進学先は別々になったけれども、なんだかんだいって割と
会っていたように思う。リリアンの学園祭にも行けたし。
「ゴメン蓉子。お待たせ〜」
七時になる一分前に聖がやってきた。
「じゃ、行こうか」
「行くってどこへ?」
「えっと、それはまぁ着いてからのお楽しみ」
聖は顔をにやつかせながら改札の方へと歩いていってしまった。
実は昨日突然電話がかかってきて、今日この場所に時間を指定してきたのだった。聖の
こういった突発的な誘いはたまにあるので、慣れてしまえばなんてことはない。けれども
会って何をするのか、どこへ行くのかは全く何も教えられていない。
「はい、コレ」
切符を手渡され、聖の後について改札を抜け、階段を上りホームで電車を待つ。
あの出来事からもう二年が経った。彼女との別れ以降しばらくの間、聖の不安定さは本
当に冷や汗をかかされた。けれども今の聖にはそういった脆弱さは無い。
「どうしたの蓉子? そんな難しい顔して」
この話題をするべきかどうか悩んだ。でも、今の聖なら大丈夫だと思って、話を振った。
「二年経つのねって思ってたの」
「あぁ。そういえばそうだ」
快速電車がホームに進入。徐々に速度を落としやがて停止した。
「これに乗るよ」
車内にはあまり乗客がおらず、二人分の空きはすぐに見つかった。
ドアが閉まり、電車は動き出す。快速列車だから次の停車駅まで結構通過駅がある。私
をどこに連れて行くつもりなんだろう。
「もしかして、私のこと心配してる?」
「いいえ。もう大丈夫だと信じてるから」
「ありがと。蓉子がいるから大丈夫なんだよ」
さり気なく聖はそんなことを漏らした。そんな一言でもすごく嬉しくなってしまう。
忘れないうちにバッグの中から、それぞれ色の違う包装紙にくるまれた小包を二つ取り
出し、隣に座る聖に渡した。そう、誕生日とクリスマスプレゼントだ。
「え? なんで二つもあるの」
「え? じゃないでしょ。誕生日とクリスマスプレゼントなんだから二つあって当然じゃ
ない」
「そんなの一つにまとめてくれても良かったのに」
「それはイヤなの。コレはコレ、ソレはソレなんだから分けて然るべきなの」
そう私がハッキリ言うと、聖は目を丸くし、ちょっぴり照れくさそうに頬を掻いた。
「ありがとう」
「いいの。私が好きでやってるんだから」
聖は二つの包みを、そっとトートバッグの中にしまった。
しばしの間沈黙。車窓から見える民家の明かりは、徐々に乏しくなっていき、代わりに
闇夜の割合が増えてきた。どうも山の方へ行くみたい。
次の停車駅を告げる車内アナウンスが流れてきた。でも聖は降りる気配を見せない。
「次で降りないの?」
「うん降りない。あまり行き先は気にしなくていいよ。でも、変なとこへは行かないから
安心して」
やがて列車は駅に停まり、乗客を吐き出して次の駅へ向かう。
外の闇が占める割合はますます増え、電灯の明かりがかなり乏しくなってきた。
結局終点まで乗ってしまった。駅前なのに人気が少なく、なんだかすごい遠い所へ来て
しまったのかもしれない。
「少しだけ歩こうか」
私は聖に言われるまま後に従う。
駅から歩くこと十分。公園らしき開けた空間に到着した。公園といっても、特に遊具が
あるわけでもなく、どちらかといえば登山道の休憩地点の方がニュアンスが近いかもしれ
ない。
「こっちだよ」
聖の後を追って歩く。
「ほら見て」
聖の手がかざすほうを見る。そこには暗夜に浮かぶ東京の夜景が一面に広がっていた。
べたな表現だけど、百万ドルの夜景に匹敵しそうな美しさで、私達の立っている場所から
見る人工の光の奔流は、幻想でも見てるかのような感覚を与える。
「どう? 綺麗でしょ。ここから見える景色がすごいって教えてもらってね、蓉子と一緒
に見に行こうと思って誘ったんだ」
嬉しかった。
綺麗な景色が見れたこともそうなのだけれど、何よりもまず、聖がこれを私と一緒に、
と思ってくれたことが堪らなく嬉しかった。
「勘違いしないでね。これは私のクリスマスプレゼントじゃないから。あくまでこの夜景
はオマケで、メインは別にあるんだから」
「違うの?」
そう私が問うと、聖は一度大きな咳払いをし、視線を逸らしながら恥ずかしそうに言葉
を紡ぎ始めた。
「形あるものはいずれは壊れてしまうわけで、じゃあ壊れないものって何と考えたところ、
私にはこれしか思いつきませんでした。私の時間を蓉子にあげる」
「……時間?」
「そう。私の時間をプレゼントしちゃうの。だから私の中で蓉子の優先順位は一番上。時
間が許す限り側にいようって思うんだけど迷惑かな」
何をくれるのかと思ったら、なんと自分の時間くれるという。迷惑だなんてそんなわけ
がない。逆に私を最優先して大丈夫なのか心配になる。私という存在が負担になってしま
うのではないかと。だから私は訊いてみた。
「負担? そんなことあるはずがないよ。蓉子がいなければ今頃私は土に還っていたかも
しれないんだから」
聖は地面の方に向けていた視線を真っ直ぐ私へと向けなおした。
「えぇっと、一度しか言わないからしっかり聴いてね。私はね、ヒマワリになろうと思う
んだ。知ってる? ヒマワリの花言葉って『あなただけを見つめる』って意味があるんだ
よ。だからヒマワリ。それでね、蓉子にはなって欲しいものがあるんだ」
「私は何になればいいの?」
「それはもちろん太陽に決まってるでしょ? ヒマワリは、その成長期において太陽のあ
る方へと花を咲かせるの。 私は一生成長期をやめるつもりが無いから、ずっと蓉子の方
を向き続けようと思うんだ」
溢れる感情押さえ切れなくなった私は、とうとう落涙してしまった。次から次へと涙溢
れてくる。でも、決して嫌な涙じゃない。まさに感極まってという状態。
「あれ? あれれ? ゴ、ゴメン。泣かせちゃって」
「いいの。大丈夫だから。でもあなたの口からそんな台詞が出てくるなんて思ってみなか
ったから」
「おや〜? 蓉子ちゃんは普段私をどう見てるかなんとなく分かった気がするよ〜」
「もう。聖のバカ」
そう私が呟くと、二人して笑い合った。
「さぁて、帰るとしますか。いやぁゴメンね。わざわざこんな所まで連れ出しちゃって。
帰りに何か暖かいものでも食べていこうか」
「そうね。聖のおごりで」
「う〜ん……いいよ。だから行こう」
夜はますます深まり、気温がぐんと下がる。でも、私には繋ぐ手があるから、寒さなん
て気にならなかった。
「うわ。蓉子の手あったかい」
「聖のもね」
「それだけだったの?」
お姉さまは、ホットコーヒーのカップに口を付けようとする姿勢のままで尋ねる。
「えぇまぁ」
「じゃあ今でも『大切なものが出来たら一歩退いて』接してるわけ?」
自分でヒマワリになるって言ってしまったから、一歩退くどころか四、五歩前に出て接
してしまってる。
「いえ、残念ですが私にはそれが出来そうにないみたいです」
「そうだと思った。本当に好きなものに対しては目が無いというか猪突猛進というか。で
も私は聖のそんなところも好きよ」
私はアイスコーヒーのグラスを空けた。
「それはありがとうございます」
「でもね、客観的な視点は忘れないこと。自分で危ないなと思ったら私に言いなさい。話
ぐらいならいつでも聞いてあげるから。それじゃ、蓉子ちゃんと末永くお幸せに」
そう言うと、お姉さまは伝票を持ってさっさと出て行ってしまった。
やっぱり蓉子もだけど、あの人には一生敵わないと思う。さて、今から蓉子の家にでも
行きますか。今日こそはなんとしてでも……。
(了)
作後贅言
自分で言うのもアレなんですが、ちょっと小恥ずかしいですね。これ(笑
僕自身この手の作品を書くことが少ないため、会話や話の流れが多少ぎこちないかもしれ
ません。
そこはもう練習を重ねて克服です。頑張りまっす。
でもヒマワリを一度作品に使ってみたかったので、そこは満足です(笑
余談ですが、あの夜景のポイントを聖に教えたのは聖のお姉さまという設定だったりしま
す。
僕は聖のお姉さまが実は結構お気に入りです。是非とも名前が欲しいですね。そうすれば
もっと登場させられるのですが。
それでは、また。
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