「宝物」


Written by 榎木津巽



 学校中が、『いばらの森』という作品の著者が聖だという噂でもちきりだったある日、
私は聖と二人きりで薔薇の館にいた。私一人抜け駆けのようで少しばかり良心が痛んだけ
れど、どうしても真相を知っておきたかった。
「聖、私にだけは本当のこと教えて。あの作品あなたが書いたものなの?」
「いいや。蓉子に誓って言うけど、私じゃない」
 私は聖の目をじっと凝視する。聖は私の視線から一ミリたりとも逸らそうとしない。
 それで分かった。聖はシロだと。そう思う根拠はと問われると困ってしまう。何故なら
ばそんなものは「無い」のだから。強いて挙げるならば、共に過ごしてきた年月による
「勘」というものだろう。
「あなたは書いていないのね。分かったわ」
「おや? 案外すんなり納得したね? 私がウソついてるかもよ」
「それは無いわ。私には分かるの」
「そう。ところでさ、私ね、この騒ぎに便乗して私小説ってものを書いてみたんだ。読ん
でよ」
 ほい、と手渡された原稿用紙の束。いつの間に書いたの、と訊ねると授業中という回答
が帰ってきた。あなた受験生なんでしょう? 人事ながら少し心配になる。それはともか
く、私は受け取った紙束の一枚目から目を通し始めた。



『私の過去』
(そのまんまのタイトルじゃないの)

Written by 佐藤聖だがお〜。
(何このペンネーム。ちょっと不愉快だわ。というかこれはそもそもペンネームなのかし
ら?)

 私の前世はオオカミだった。おわり。
(短っ!! しかもそれは過去とは言えないじゃない! 更になぜ狼なの??)



「ちょっと聖。この失敗作は何?」
「あぁゴメンゴメン。それは下書きだから次読んで」
 そういうので私は一枚目をくしゃくしゃに丸めて床にぺいっと投げ捨てる。ちょっとだ
け腹が立ったから。



『俺の過去』
(あなた女でしょ!)

Written by 俺様
(いやだからあなた女でしょ? 違うの? 違わないよね?)

 俺様は女だ。俺様の前世は俺様だ。
(俺様俺様ってくどい!! しかも女の子が「俺様」なんて一人称使っちゃいけません!)



「聖。あなた真面目に書く気があるの? これどうみてもゴミにしか見えないわ」
「うわっひどっ!! それの何がダメっていうの?」
「全部よ全部!」
「まぁそれも練習みたいなものだから、次から読んでみてくれない?」
 一体練習に何枚費やすのか知らないけれど、資源の無駄遣いは感心できない。



『いばらの木木木で森』
(胡散臭いタイトルね)

Written by シュガー聖
(これまた胡散臭いペンネームね)

 私、水野ヨーコ十八歳。ぴっちぴちの高校三年生。スリーサイズは……
(………………え?)



「ってこらぁぁぁ!! どうしてあなたが私のそんなところまで知ってるのよ!!」
「ん? 保健室で盗み見たからに決まってるじゃないの。あはははは」
「そこ笑うところ違う!」
 聖はどこまで私のこと知ってるのか聞くのが怖い。もしかしたら私自身ですら知らない
ことまで知っていそうだ。
「ねぇ蓉子? 『どうして私が主人公なのよ』って突っ込まないの?」
 私の個人情報暴露に気が入ってしまってそっちのことをすっかり忘れていた。
「どうして私が主人公なのよ? これはあなたの私小説なんでしょう?」
「創作上の偶然」
「ふざけないで! 私小説に創作的な要素を入れるなんて意味が分からないわ!」
 なんでそんなことをしれっとのたまうのかねこの人は。少しツッコミいれるの疲れてき
たわね。
「そう怒らないでちょうだいよ。今までのはほんの軽〜いジョークだから。ね? 次のや
つからマジの大マジだから」
 読んでみて。お願いなんて言われたら私だって鬼ではないから、ついつい聖の言うこと
聞いてしまう。ふぅ。どうにも聖に対して甘いわね。私は。



『私について』
(それっぽいタイトルね)

Written by 佐藤聖
(作者名も問題無し)

 唐突ではあるが、私について語ろうかと思う。
 私は蓉子ちゃんが好きだ。
(はえっ!? な、何て書いてあるのかもう一度読み直そう……私のことが好き?)



「あ、あのね。聖、ちょっとこれは……」
「ん? 何か変なこと書いてある?」
 いや、決して変なことは書いていないのだけれどもこれは……
「私小説だから『事実』しか書いていないはずなんだけど」
 う。そんなちょっと意地悪そうな顔して。私が恥ずかしがっているのを間違いなく楽し
んでるわ。
 あぁもう恥ずかしいやら嬉しいやら。こんな複雑な感情初めてよ。まったく聖ったら……
「どうしたの蓉子ちゃん? 顔が赤こうございますが?」
「……バカ」
 聖の顔を真っ直ぐに見ることが出来ない。
「いいじゃん。本当のことなんだから」
「この作品私に頂戴」
「え? そうだなぁ……。いいよ。あげちゃう。それをどうするかは蓉子に任せる。人に
見せびらかすのも良し一人で眺めてにやつくのも良し」
「そんな言い方やめてよ。まるで私が陰湿な人みたいじゃないの。でも、これはありがた
く頂戴しておくわ。ありがとう」




(了)




作後贅言

この作品のジャンル、ギャグなんだかラブなんだかよく分からないものになってしまいま
したね。

落として上げるっていうのもアリかなぁと思ったので、こんな形になったのです。いかが
でしょうか??

それでは、また