「胸を焦がし身を焼く」
        written by ユラ


 ある晴れた冬の日の放課後、私は薔薇の館で一人読書にふけっていた。

薔薇の館には、珍しく私以外誰もいない。

蓉子は予備校、江利子は歯医者へ検診、祥子は私用、令と由乃は部活、志摩子は風邪のため病欠

と、ものの見事に不在。もし来るとしたら祐巳ちゃんぐらいなものか。

「ごきげんよう」

ビスケット扉が開き、愛しの祐巳ちゃんの入場だ。

「ごきげんよう祐巳ちゃん」

「ごきげんよう白薔薇様。今日は聖さまだけですか?」

「うん。そうだよ。今日は私と祐巳ちゃんだけ」

「そうですか。私お茶入れてきますね。聖さまは…」

「いつものようにホットコーヒーのブラックで」

「少し待っててくださいね」

祐巳ちゃんが私のためにコーヒーを入れてくれてる間も、私は読書を続けていた。

粉末状になった豆をフィルターと呼ばれるろ紙に適量入れ、そのフィルターにお湯を注いでいく。

当然フィルターの下にはふたを開けたポットを置いておく。

注いだお湯が全てポットに落ちればコーヒーの完成である。

ただお湯をどばどば注げばいいってもんじゃなく、始めは少量を全体を蒸らすように注ぎ、

そのあとゆっくりと、フィルターの中心から外周へ向かって円を描くように細くお湯を注いでいく。

大体五周ぐらいで、一番外側まで注ぎきればOKである。

そして、あとはお湯が落ちるのを待つだけである。

多少本格的なコーヒーをいただくには結構手間暇がかかるのである。

インスタントコーヒーならばもっと手軽に短時間にできるのだが、やはり、この方が味わい深くて私は好きだ。

「おまたせしました」

「サンキュ祐巳ちゃん」

そう言ってコーヒーを受け取る。

「じゃ、いただくね」

祐巳ちゃんはミルクティー、私はコーヒーをそれぞれ口につけた。

使ってる豆は市販のもので、そう高いものではないのに祐巳ちゃんのコーヒー美味しい。なんというか、味が

やわらかく感じる。苦味と柔らかさ。この不思議な組み合わせを私は気に入っていた。

ちなみに祥子のコーヒーは固く、志摩子は丁寧、令は繊細、由乃ちゃんはパワフルな味がする。

ほんとは誰のものを飲んでも味にはそう大きな違いは無く、入れてくれた本人の気持や気分によって味わいは左右される。

と、私は思う。

「祐巳ちゃんの入れてくれたコーヒーはおいしいね〜。」

「いえいえ、そんなことないですよ」

ぴょこんと、ツインテールを揺らしながら照れる祐巳。かあいいね〜。

「ところで、聖さまは何を読まれてるんですか?」

「ん? これ? これは『持ちたる者の強さ』っていう本でね、主人公が未来と過去のどちらを取るかの葛藤を描いたものなんだ」

「難しそうですね」

「いや〜主題はちょびっと難解だけど、書いてることは全然難しくないから大丈夫。読み終わったらかしてあげるよ」

「はい。今度かしてくださいね」

会話が途切れしばらくの間、館は静寂に包まれた。部活動の真っ最中で、グラウンドから元気のいい掛け声が聞こえてくる。

外は快晴。雲一つ無い本当にいい天気だ。

こんないい日にこそ、告げなければならない。まさに今が好機。

「あのね、祐巳ちゃん」

「なんでしょうか? 聖さま」

「確かめたいことがあるんだ」

「えっ? 確かめたいことですか?」

祐巳ちゃんの目をしっかりとみつめ、私はさらに続ける。

「祐巳ちゃんは私の過去って覚えてる?」 私にとって世界の終わりに等しいあの別離。しかしそれはもう過去の出来事。

「…はい。覚えてます」

うつむき加減で申し訳なさそうに祐巳ちゃんは答えた。

「いや、別に怒ってる訳じゃないんだよ。むしろ、覚えててくれたほうがいいの」

私はまだ温かみの残るコーヒーをぐいっと飲み干した。祐巳ちゃんは私が飲み終えるの

を待っていた。さて、一息ついて本題に。

「あのね、私はあのときから人であれ、物であれ物事に深く入れ込むことを止めたんだ。あんまり深くまで浸かってしまうと

それを失った時のダメージが大きすぎるからね。実は栞のことに関しては自分でも驚いてるんだよ。

今まで一つのことにあんなに夢中になることなんて無かったんだから。

しかしね、深入りするのを止めたはずなのにまたその兆しが、いやもう起こってるのかな。駄目だっ

て分かってるのにもう止められないんだよ。もう祐巳ちゃんは私が何を言いたいか分かってるよね?」

「いえ、その…」

祐巳ちゃん。こんなとき百面相はやめておこうよ。だって、顔には私は分かってますって書いてるじゃないか。

「ふふ。珍しく私と祐巳ちゃんの立場が反対だ。こんなこともあ

るんだね。仕方ないな、祐巳ちゃんが言えっていうなら言うよ」

これを言ってしまえば私の最後の歯止めが壊れる。壊れた後どうなるかは分からない。分からないというよりか、

この先の未来平穏無事で過ごせるのか、再びあの痛みを味わうのか、どんなことになるのか予測がつかなくなる。

祐巳ちゃんと出会って数ヶ月ほどしか経っていない。しかし、その短い間でも祐巳ちゃんは私に無いものをいろいろと

分けてくれた。それだけで、私はうれしかった。ほんとは、これ以上多くを望むのは罰当たりと思う。

でも、私は望むことを止められない。

私の乾いた心に祐巳ちゃんという存在は慈雨の如く降り注ぐ。なんて優しい。なんて心地良い。

私の過去を知った上でこうして一緒にいてくれる。もっと祐巳ちゃんと同じ時間を共有したいと望むことは

そんなにいけないことなのだろうか?

そうして、私は歯止めを壊すことにした。

「祐巳ちゃん」

改めて祐巳ちゃんの目を見る。

「はい。聖さま」

そして、祐巳ちゃんも私の目を見る。

「祐巳ちゃん、君を愛している」










FIN




初版2005年11月2日

第二版2005年11月25日

作後贅言(いわゆるあとがき)

は〜いこんにちわ。ユラです。最後まで読んでくださて本当にありがたいです。

一人称の文章が苦手と言ってはばからない私が、初めて一人称の文章に挑戦してみました。

不自然な表現、分かりにくい表現が多分あっちこっちにあるかもしれません。ごめんなさい。

これからも頑張りますのでそこは大目にみてやってください。

さて、内容に関してですが、例えるなら苦苦チョコレートです。しかもすんごいところで終わってます。申し訳ありません。

あの告白の後、どういう結末を迎えるかは皆さんの脳内で自己完結しちゃってください。

非常に卑怯くさい締めですいませんが、では、また。

最後に、改行の仕方に多少不自然なところがありますが、それは「仕様」です。

ユラ