「Mahoo!テレビショッピング5」


Written by ユラ



 アレが帰ってきた。三ヶ月の空白時間はいったいこの番組に何をもたらしたのか、その
答えが今まさに提示されようとしていた。

「みなさんごきげんよう。司会の小笠原祥子です」

「みなさーん!! ごきげんよう!! アシスタントの福沢祐巳です!!」

 祐巳のやつ初っ端からテンション高いな。

「今日ご紹介する商品のテーマはズヴァリ『新生活』です。もうすぐ学校を卒業されて、
進学されたり就職されたりする方にはうってつけのすっごい商品目白押しですよ!」

「そうね。私はリリアンの大学へ通うからあまり必要ないかもしれないわ」

 そういえば令さんは「体育大学」へ進学するんだっけか。で、祥子さんはリリアン女子
大に進学。

「それでは一発目の商品はこちら!! じゃん! MOYASIスーツです」

 見た目は普通の背広とズボンだけど問題点がいくつかある。まず、「エムオーワイエー
エスアイスーツ」というムダに長い名前。次に色。何で血の様に真っ赤なスーツなんだ。
そして多すぎるポケット。四つはいらないだろ? 最後に異様に歪な形のネクタイ。色も
濃淡が激しい茶色だ。ところどころ焦げたように見えるのは気のせいか?

「祐巳。名前は何かの略なのかしら?」

「はいそうですよお姉さま。『Mnosugoku OyatutoYumega Ahu
reru Suggoi Iketeru』の頭文字を取ったものなんですよ」

 で、それがMOYASIになるのか。モヤシ?

「祐巳、商品の説明をお願いするわね」

「はい任せてください!! まず、この真っ赤なスーツにはなんとポケットが四つもある
んです!!」

 背広というよりかポケット多い作業服みたいだなあれ。胸ポケットも含めると六つもあ
るぞ。

「そして、そのポケットにはなんとガムとラムネとキャンディとグミがいっぱいいっぱい
詰まっているんです!!」

 何!? ポケットに一杯のラムネを入れるサラリーマンとかいるのかよ!?

「もちろん今ポケットに入ってるおやつはサービスでお付けします」

 無くなったら自分で補充しろってことか。

「さらに!!」

「さらに?」

「このネクタイはスルメなんです!!」

 だから形が歪で色が変だったのか。っておい! スルメって何だよ!!

「スルメなの?」

「最近は禁煙ブームで愛煙家の皆さんは肩身の狭い思いをされていますので、口がさみし
くなったら、このスルメネクタイをしがんで下さい。そうすればいつかきっとタバコを卒
業できますから!!」

 本当にそうなのか? タバコを吸うよりかスルメかじる方がよっぽど健康的なのは確か
だけど。

「今ご紹介しているスーツは男性用ですが、女性用もございますのでおやつをいつも持ち
歩きたい女性の方にもうってつけです!!」

「それは素晴らしいスーツだわ祐巳」

 嘘!! マジで言ってるのか祥子さん!?

「気になるお値段の方は何と一万円です!! 送料は別途かかりますのでご注意下さい」

 真っ赤でおやつを山盛り持ち歩けるスルメネクタイのスーツが一万円。花見の席では使
えるかもしれないな。いや無理か。

「それではちゃっちゃと次の商品をご紹介しましょう」

「次は何かしら?」

「次にご紹介する商品はこちら!! ジェラルミンの鞄です」

 見た目は頑丈そうな鞄だな。特に変わったところは無さそうなのが逆に恐い。

「こちらの鞄はドイツ製の商品で見た目どおりにクールでスタイリッシュでメタリッシュ
なものなんです」

「祐巳? この鞄嫌に重たくないかしら?」

 祥子さんが試しに持ってみようと手に取った。重たそうだなあれ。

「重さにはヒミツがあるんですよお姉さま。この取っ手の部分に仕込んであります内緒の
ボタンをぽちっと押せば……」

 鞄の底から二本の足が、取っ手の部分から頭が、両側面からは手が出てきた。

「変形するんです!!」

「すごいわ祐巳!!」

 すごいけどすごくない!! というか変形させる意味が分からん!! 試しに自分で使
ったところを想像してみる。


「福沢君。例の書類を出してくれたまえ」

「はい課長」

 ポチ。ウイーンウイーンガシャンウイーンガチャン。

「おぉ、君の鞄変形するのかね!!」

「はい、恐縮です課長」


 入社一日目で間違いなくクビだな。

「さらにオプションパーツのマシンガンを装備させればもう立派なモビルドールです。こ
のマシンガンに使用されている弾丸はBB弾ですから殺傷能力は皆無ですのでご安心下さ
い」

 昼休み、会社の屋上でモビルドールの決闘をしてるところを想像してみる。


「行け!! ユキチ三号!!」

「まだまだ青いな。さぁ、やるんだ柏木二十八号」


 ちょっと楽しそうかもしれないな。いや待て、落ち着け俺。惑わされてはいけない。

「祐巳。この鞄の値段が気になるわ」

「お姉さま。よ〜く聞いて下さいね。お値段は……税込み三万三千三百三十三円なんです!」

「えぇ!! この鞄がたったの三万三千三百三十三円なの!!」

 うわぁヤラセくさいリアクションだなぁ。

「変形機能は紳士淑女の嗜みですから、是非ご注文くださいませ!!」

「次はどんな商品なのかしら?」

「ご紹介したいのは山々なんですが、ここで一旦CMに入ります。チャンネルはそのまま
でお待ち下さいませ」


卒業式や入学式にはキレイな写真が撮りたいな

それならばcamonの『蔦子百式』を使うといいよ。このカメラはフラッシュの有無
やシャッター音の有無まで設定できるから、式の間でも構わず撮りまくれるよ

camonは写真を愛でる全てのカメラマンを応援します。


私、無実の罪を着せられちゃったんだけどどうしたらいいの?

そんな時には福沢法律事務所へ相談するといいよ

どんな弁護士なの?

ズヴァリ、ハッタリが得意でしょう。


さくらんぼ味の缶入り汁粉好評発売中!! 全国のPCショップで取り扱っています。


山百合自衛機構です。『ギンナンEXTREME』で助かった事例が三十万件を突破しま
した。自分の身は自分で守るしかありません。カバンには一本『ギンナンEXTREME』
を忍ばせておきましょう。


「さて、本日三発目の商品はこちら!! 革靴です」

 これもまた見た目は少しごつごつした感じの以外は特徴が無い革靴だ。でもさっきのこ
とがあるから油断は禁物だ。

「お姉さま、試しにこれを履いてみてくださいませんか?」

 やっぱり普通の革靴だな。一体これにはどんな仕掛けがあるんだ?

「履けましたら、かかとの部分にあるスイッチを入れてください」

「きゃっ! 祐巳、これ体が浮いてるわ!!」

 嘘だろ? スイッチを入れた途端祥子さんの体が床から十センチほど浮いた。

「なんとこの革靴には『亜光速ダッシュ機能』が付いているんです。あとはこのリモコン
で操作すれば何処へでも字の如く一っ飛びです!!」

「慣れてくると楽しいわねこれ。祐巳リモコンを貸してちょうだい」

「はい、お姉さま」

 すげえや……。靴であんなに軽やかに飛べるんだ……。

「朝寝坊して遅刻しそうな時には、この機能を使えば遅刻なんて怖くありません。この靴
は最高時速二千キロまで加速できますから、東京ー大阪をたったの十五分で移動できる優
れものなんです!!」

 いやいやいやそれは優れ過ぎるだろう。この靴があれば近い将来新幹線や国内線が駆逐
される日が訪れるかもしれないな。

「お値段は限界までコストを削った結果、四万八千円でご奉仕させていただきます」

「この靴本当に愉快だわ!」

 約五万か。高いけど便利そうだな。

「本日四つ目にご紹介する商品はこちら!! 非常持出袋です」

「これは災害にあった時に用いる袋ね」

「そうなんですお姉さま。備えあれば嬉しいなということで、何時災害というものはやっ
てくるのか分かりませんので、日ごろの備えが重要になります」

 それが重要なのは分かったから、中身を教えて欲しいな。

「祐巳、この袋には何が入っているのかしら?」

「よくぞ聞いてくださいました!! この袋には、スプーンが一人分、輪ゴムが一箱、画
鋲が一ケース、植木鉢が一個、目薬が一個入っているんです」

 はぁぁぁぁぁぁ??? 待て待て待て待ておい。非常時に画鋲や植木鉢がどう役に立つ
っていうんだ?

「素晴らしいチョイスね祐巳」

 そんなわけ無いだろ祥子さん!!

「やっぱりそうですよねお姉さま!! あぁ今直ぐに輪ゴムが必要なのに手元に無いって
いうこともありますしね」

 非常時に、どういう状況になれば輪ゴムが必要になるんだよ?

「この非常持出袋『あるある君』は一袋三千円ととっても経済的ですので、一家に一つ備
えておくことを強くお勧めいたします」

 はっきり言ってこれはいらないと。

「新しい環境での生活で気を付けたいのが食生活です。そこでお勧めしたいのがこちらの
商品です!!」

 あの四角くて白いボディの鉄の箱は電子レンジか。

「祐巳これは電子レンジなのかしら?」

「はい、こちらの電子レンジ『黒焦焼蔵(クロコゲヤクゾウ)』は快適な調理環境を提供
してくれる優れものなんですよ。試しに清子小母さまに差し入れていただいたお弁当を温
めてみましょう」

 祐巳が手にしてるのはいたってオーソドックスな唐揚げ弁当だ。清子小母さまのことだ
から、あの唐揚げは鶏を育てるところから始めたんだろうな。

「これをレンジに入れて一分ほど温めてみます」

「温めるのはいいけれど、これは市販のものと何がどう違うのかしら?」

「よくぞ訊いて下さいました!! この『黒焦焼蔵』はそんじょそこらのレンジに比べて
圧倒的に火力が違うんですよ!!」

 ちょっと待て、レンジと火力は関係ないだろ? 

「祐巳、何かものすごく焦げ臭いのだけど本当に大丈夫なのかしら?」

「大丈夫ですよお姉さま、順調に萌えていますから!!」

 燃えるの字が違う!! そっちじゃないだろ!! 間もなくレンジから黒い煙がもくも
くと立ち昇り始める。

「はい、一分が経ちました。ご覧下さい、ものの見事に真っ黒焦げ!! どうですかみな
さまこの素晴らしい火力!」

「祐巳!! これでは食べられないじゃないの!!」

「はい、そうですよ? 言ってませんでしたっけ。これは残飯処理用だって」

 うぇぇぇぇ!! 言って無いぞそれ!!

「聞いてないわそんなこと!!」

「でもご安心下さい、さっきのお弁当はレプリカですから、本物は楽屋に置いてますので」

「そう、それならばいいわ」

 っていいのかよ祥子さん!!

「こちら残飯処理用レンジ『黒焦焼蔵』はポックリ価格の一万円、一万円でお買い求めい
ただけます」

 ポックリじゃなくてポッキリじゃないのか?

「社会人になられると会社での業務にはパソコンが必要不可欠になってきます。そこでみ
なさまにご紹介する商品はこちら!! 番組限定壁紙付きのノートパソコンです」

「壁紙付き、というのはどういうことなの?」

「もう、せっかちなんですからお姉さまったら。それでは早速特典の壁紙を少しだけお見
せいたしましょう」

 瞳子ちゃんがノートパソコンを台に乗せて運んできた。祐巳はそれの電源を入れて、起
動させ待つこと一分。ウィンドウズが立ち上がり、壁紙がディスプレイに映し出された。

「いやぁぁぁ!! 駄目!! ストップ!! 祐巳何なのよこの壁紙は!!」

 壁紙に映るものを見た瞬間に祥子さんはものすごい勢いでパソコンを閉じてしまった。

「あぁ! お姉さま、せっかくみなさまに見ていただくんですから隠しちゃ見れないです
よ」

「駄目。こんなもの見せられるわけが無いでしょう」

「えぇそんな勿体無い。お姉さまのタオルケットを蹴り飛ばしている脚がちょっぴり扇情
的なだけじゃないですか!」

 そう、あの壁紙は自室で眠っている祥子さんの写真だったのだ。ピンクの寝巻きからの
ぞくすらっと長い脚に否が応でも目がそっちにいってしまった。すごい壁紙だ!!

「祐巳、肖像権という言葉を知っていて? だから無闇に私の写真を撮らないで頂戴」

「そんな……ご自分の美貌を独り占めするなんて私的独占です!! 眺めるぐらいいいじ
ゃありませんか」

「うっ……そう言われてしまうと返す言葉が無いわね」

 いやいやいや、そんな抗弁が通るわけが無いだろう。祥子さんが正しいと思うぞ。

「他にも壁紙がありまして、他にはこんなものまで」

 祐巳はマイピクチャに保存されている画像を開いた。おや? これはもしかして……

「ストップ!! っていうかアウト。どうしてこんな写真まであるのよ!!」

 おそらく祥子さんが小学生の頃で、遠足に行ったときの写真だろうおにぎりをナイフで
切り分けて食べているところが写されている。

「幼いお姉さまも素敵ですね。はぁうっとり」

「他にはどんな写真があるのよ?」

「それはですね、ピーやピーなところ、さらにピーピーピーなものもありますけど」

 それを聞いた祥子さんは顔が真っ赤に染まっていた。恥かしくてモノも言えない状態に
なっている。な、何が写ってるんだ!!

「特典画像は千七百五十六枚収録されていますので、日替わりで表示してもおよそ五年は
保ちますので、じ〜っくり堪能してくださいませ。スペシャルな特典画像がお腹一杯収録
されているこちらのノートパソコンお値段もビックリドッキリ価格の十万円ポックリです
ので今がチャンスです! 是非お買い求めくださいませ」

 祐巳のやつは「ポックリ」という単語がマイブームなのか?

「本日最後の商品はこちら!! 超高機能ベッド『オレに惚れるなよ』です」

 ものすごい名前だな。何がどうなれば『オレに惚れるなよ』って名前になるんだ??

「祐巳、名前はともかく私にはただのベッドにしか見えないけれど」

「能ある鷹は爪隠すって言うじゃありませんか。普通のベッドに擬態してるだけなんです
よ。例えばこんなところにはこんなものが」

 あれ? 祐巳が手に持っているものにモザイクがかけられていて分からない。放送禁止
な何かだろうか??

「祐巳、これは何に使うのか知っていて?」

「はい。知ってますよ。このベッドには到るところに夢の世界へ誘ってくれる素敵アイテ
ムが隠されているんですよ。必要な時がくればきっとお役に立つことでしょう」

「祐巳、じゃあこれは何なの?」

「えっと、そうですね、私に訊くよりも広辞苑でお調べになったほうがいいですヨ?」

 そのベッドには何が仕込んであるんだよ??

「この超高機能ベッド『オレに惚れるなよ』は様々な隠しアイテムをお付けしてなんと、
四万円四千四百四十四円とお釈迦様をぶったまげる大特価商品です!!」

 俺にしてみればその四だらけの価格の不吉さのほうがぶったまげるな。

「それでは今日の商品を振り返ってみましょう」

「はい、お姉さま。今日一発目の商品は『MOYASIスーツ』で一万円です」

 どうしても受けを狙わなければならない時には使えるかもしれない。けれど、あくまで
「かもしれない」程度だな。

「このスーツ優さんに着てもらおうかしら?」

「二発目の商品は変形機能付きの鞄が三万三千三百三十三円です」

「祐巳、後でこれの勝負しましょう」

 鞄としてじゃなくて、これはオモチャとして扱うべきだと思う。

「三発目の商品は『亜光速ダッシュ機能』付きの革靴が四万八千円です。ご注文の際にご
希望のサイズを指定して下さいね」

「私は明日からこの靴で通学しようかしら?」

 俺もちょっと欲しいかも。これ。

「四発目の商品は非常持出袋『あるある君』が三千円です。非常時にはこれ一つで全ての
アクシデントに対応出来ます」

「私も注文しておこうかしら」

 その袋の中身では全てのアクシデントに対応なんか出来るわけ無いだろう!!

「五発目の商品は残飯処理用電子レンジ『黒焦焼蔵』が一万円です。一台あれば色んなも
のを黒焦げにできます」

「自分にとって不都合な写真もこれで隠滅できるのかしら?」

 使い道がよく分からないな。これ。

「六発目の商品は番組限定の壁紙千七百枚以上収録されているノートパソコンです。私は
後でこれを注文します」

「みなさん、私の名誉の為にもくれぐれもご注文は遠慮して下さいね」

 俺も欲しいな。でも十万なんて持ってないからなぁ。

「ラスト七発目の商品は超高機能ベッド『オレに惚れるなよ』が四万四千四百四十四円で
す。素敵な夜を過ごしたいカップルにはもってこいな商品ですよ」

「私は後で祐巳に使い方を教わろうかしら」

 分からん。あんな不鮮明な説明じゃ何がなんだか。

「ご注文は、当番組HPからもお申し込みできますので是非ご利用くださいませ!!」

「ご注文お待ちしてるわ」

「それではごきげんよう」

「ごきげんよう」



FIN



初版2006年3月9日


作後贅言


ひさしぶりのMahoo!テレビショッピングお楽しみいただけたでしょうか?

今回のコンセプトはキャラじゃなくて商品を壊してみました。

こうも変な商品ばかりだとつっこむ祐麒も大変ですね(笑

今回は「歌」がありませんが、また近いうちにでもと思います。

では、また。



ユラ