福沢祐麒は夕食を済ませた後、宿題や予習は既に済ませているため特にすることも無いので、居間でテレビを見ることにした。

ソファに腰を下ろし、リモコンを手にとってチャンネルを変えていく。

とあるチャンネルでリモコンを操作する裕麒の指の動きが止まった。

「おい…なんだよこれ」

そこには実の姉の福沢祐巳と、その上級生の小笠原祥子が映っていた。





「Mahoo!テレビショッピング」

written by ユラ





「みなさんごきげんよう。Mahoo!テレビショッピングの時間が参りました。司会の小笠原祥子です」

「アシスタントの福沢祐巳です」

なんだこの「Mahoo!テレビショッピング」って。こんな番組聞いたことないぞ。

しかもなんで司会が祥子さんと祐巳なんだ??

「本日もまた視聴者の方々に是非お勧めしたい素晴らしい商品がもりだくさんですわ。最後までお見逃し無く」

なんか妙に祥子さん生き生きとしてないか。

「では、本日最初にご紹介するのがこちら、防犯スプレーです」

祐巳が何かスプレーを取り出したぞ。でも、どこがどう防犯なんだ?

「祐巳、このスプレーのどこが防犯に繋がるのかしら?」

祥子さんも俺と同じ印象を持ってるようだ。

「はい。このスプレーは主に変質者撃退用の、護身用のスプレーなんです」

「なるほどね。痴漢なんかに出くわしたときに使えばいいのね。でも、私には何の変哲も無いただのスプレーにしか見えないのは、

私の見間違いかしら?」

「それは見間違いですよお姉さま。このスプレーは超高濃度のギンナン汁が100%使用されており、これを食らった相手は悶絶

すること請け合いです。ですからかなり強力な防犯スプレーなんですよ」

ギンナンの臭いは確かにキツイのだが、果たしてそれで変質者とか撃退出来るんだろうか?

「祐巳、それは本当なの? どうも信用できないわ」

「それでは、実際に使ってみましょう。変質者さんカモン!!」

祐巳がパチンと指を鳴らすと、番組のセットの右端から光の君こと柏木先輩が、リリアンの学園祭の「シンデレラ」の時に

着ていたあの王子様役の衣装を身に纏っていた。

こんなところで何やってるんだ、あの人は…。分からない。理解不能。

「さっちゃ〜ん」

あろうことか祥子さんの方に向かって走っていく柏木先輩。いくら婚約者同士でも、今この場ではまずいだろう。

「くらへ!!」

走る柏木先輩もとい変質者に向かってスプレーを噴射する祐巳。

「うはっ!? 何だこのスプレーは!! 目にしみる! しかもこれはギンナンの臭いじゃないかぁぁぁぁ!!」

ばたんと倒れ、床を転げまわって悶絶する柏木先輩。すげえ、ほんとに撃退出来るんだあのスプレー。

「この無神経野郎が!! お姉さまに手を出そうなんざ一億年早いわ!!」

ここぞとばかりにスプレーを噴射しまくる祐巳。追い詰めたゴキブリに殺虫スプレーをありったけばらまくのとおんなじ感覚だ。

さすがにそれ以上やったらショック死しかねないと思うが、全く攻撃の手を休めない祐巳。よっぽど思うところがあるんだろうか。

「祐巳、もうそれぐらいにしてあげたら」

「はい、お姉さま」

祥子さんの鶴の一声で柏木先輩の命は救われた。目の前で知人に死なれるのはちょっとアレだ。

「今のでこのスプレーの威力はお分かりいただけたこと思います」

「それは分かったけど、臭いが酷いわね。けほっ、けほっ」

心なしか周りの空気が黄色く見えるのは気のせいなのだろうか。とにかく威力はすごいことが痛いほどよく分かった。

「それでは気になるお値段です。この防犯スプレー『ギンナンEXTREME』は一本に八十ミリリットル入りまして、

お値段千二百八十円と大変お買い得になっています」

「護身用のアイテムとしては手ごろなお値段かもしれないわね」

「はい、そうですお姉さま。ご注文方法とお電話番号は番組の最後にお伝えいたします」

そういえば、いつの間にか床でピクピクと痙攣していた柏木先輩は担架に乗せられて、セットの外へ運ばれていった。

「祐巳、ちょっとあなたスプレーの撒き過ぎよ。臭いがひどくてたまらないわ」

「だって悔しかったんですもの。さて、臭いでお困りのそんなお姉さまにはこれです」

と、祐巳が取り出したのはスプレー。またスプレーかよ。しかもさっきと見た目はほとんど同じじゃないか。

「これは超強力瞬間消臭スプレーなんです」

「説明はいいから早くどうにかしてちょうだい」

だいぶ参ってるようだ祥子さん。涙目になってるし。

「もうちょっとだけご辛抱下さいお姉さま。さて、ここに取り出したるはリリアン女学園の制服です」

確かにリリアンの制服だ。毎朝祐巳が着ているのを見てるから見間違えるはずがない。

「ちょっと祐巳。この制服いやにギンナン臭くないかしら?」

「はい、そうなんですよお姉さま。この制服にはリリアンの銀杏並木のギンナン汁がたっぷりと、しっかりと付着してますから、

そりゃ強烈な臭いがします。臭いぷんぷんです。ちなみにこの制服はお姉さまの予備の制服です」

「なんですってぇぇぇぇぇ!!」

「清子小母さま、ご協力ありがとうございます」

と、ぺこりとお辞儀する祐巳。なんて可哀相なんだ祥子さんは。後で俺の制服が無事か確かめておこう。

「ちょっと祐巳!! 早くどうにかしなさい!!」

顔を真っ赤にして祐巳に怒鳴る祥子さん。お気の毒に…。

「まあまあ落ち着いてくださいお姉さま。では、スプレーを制服にシューっと一噴きしますと」

「あら? 臭いが薄くなったてきたわね」

「このスプレーを一噴きすれば、どんなしつこい臭いもたちまち消臭できちゃう優れものなんですよ。ですから、

狭い部屋でナニしちゃった後の残り香が気になるときには、これを一噴きしていただきますと証拠隠滅できますよ?」

「早く残りの臭いを消して」

祐巳がしばらくシューっと制服や、祐巳たちの周りにスプレーを噴射するにつれ、祥子さんにみるみる元気が湧いてくるように見えた。

よっぽど辛かったんだろうな、あの臭い。

「すごいわ祐巳!! 臭いが無くなったわ!」

両手ばなしに感心する祥子さん。でも自分の制服が生贄に捧げられたこと忘れてるんじゃないのか。でも、まあいいか。

「はい、お姉さま。では、この消臭スプレー『さよなら。ギンナン』は、一本に八十ミリリットル入りまして、お値段たったの

三百八十円と、非常にお買い得です。さらに、今、三本以上ご注文いただきますと一本プラスいたしますので、是非三本以上

ご注文していただきますよう、お願い申し上げます」

「この消臭パワーは本当にすごいわね。私も驚いてしまったわ」

消臭スプレーもすごいことが分かった。が、しかし、消臭スプレーではその制服に付いたシミまでは取れないと思うんだが…。

「はい、お姉さま。次にご紹介いたしますのは、缶入り汁粉です」

「お汁粉?」

「お汁粉です。この商品のご説明は歌でやりたいと思います」

「歌?」

「はい、そうなんですお姉さま。では」

祐巳がパチンと指を鳴らすと、祐巳達が立っている後ろの赤い幕が上がり、そこにはなんと、聖さん、蓉子さん、江利子さんの

三薔薇トリオがそれぞれドラム、ギター、ベースを携えてスタンバイしている。

本当に祐巳が歌うらしい。それはやめとけとテレビに向かって突っ込みたいがやめておく。

「お姉さま!? 何故ここにいらして??」

「祐巳ちゃんのお手伝いによ」

「では、いきます。福沢祐巳プレゼンツ『お汁粉応援歌』」

一、二、三、四と聖さんがリズムを取って、曲が始まった。

曲調はまさにヘヴィメタル、聖さんの高速のツーバスに、蓉子さんの超速早弾きに、江利子さんの機械じみた正確さの揺ぎ無いベース。

なんなんだこの人達は?? ってかめちゃくちゃ演奏上手いじゃないか!

超絶技巧なイントロが終わり、祐巳がマイクを握り歌い始めた。


朝から晩までお汁粉 お汁粉!!

グッドモーニンお汁粉 お汁粉!!

休み時間にお汁粉 お汁粉!!

お休み前にもお汁粉 お汁粉!!

一 二 三 四 五 六 七 お汁粉!!

二 二 三 四 五 六 七 お汁粉!!

お汁粉ボンバー!! ボンバー!! お汁粉ファイヤー!! ファイヤー!! お汁粉マンセー!! マンセー!!

お汁粉バカにするやつは お汁粉パワーで粉砕だ 生かしちゃおけない キ〜ル ユ〜!! キ〜ル ユ〜!!

お汁粉飲み干せごっくんと 甘ったるいのがいいじゃない 

お味噌汁代わりにお汁粉 お汁粉!!

牛乳代わりにお汁粉 お汁粉!!

ガソリン代わりにお汁粉 お汁粉!!

点滴代わりにお汁粉 お汁粉!!

三 二 三 四 五 六 七 お汁粉!!

四 二 三 四 五 六 七 お汁粉!!

お汁粉ラヴリー!! ラヴリー!! お汁粉チャーミング!! チャーミング!! お汁粉愛してる!! 愛してる!!

お汁粉無駄にするやつは お汁粉運動で排斥だ 生かしちゃおけない キ〜ル ユ〜!! キ〜ル ユ〜!!

みんなでやろうお汁粉パーティー 甘ったるいのがいいじゃない

間奏(四十五秒)


なんだこの歌は!! 面白いにも程があるぞ!! 笑いが止まらないじゃないかクソ〜祐巳め、おいしすぎるぞ。

しかも合いの手に入る御三方によるヘヴィなバックコーラスがたまらなく壺にはまる。 お汁粉!!

全くもって意外だったな。祐巳がヘヴィメタ歌えるなんて。

蓉子さんのアホみたいに早いギターソロ(祐巳にはもったいないぐらい上手い)が終って曲も終盤へ向かう。


今日の朝飯お汁粉 お汁粉!!

今日の昼飯お汁粉 お汁粉!!

今日のおやつはお汁粉 お汁粉!!

今日の晩飯お汁粉 お汁粉!!

五 二 三 四 五 六 七 お汁粉!!

六 二 三 四 五 六 七 お汁粉!!

お汁粉サイコー!! サイコー!! お汁粉命!! 命!! お汁粉結婚してくれ!! 結婚してくれ!!

お汁粉飲まず嫌いするやつは 耳の穴から注入だ 生かしちゃおけない キ〜ル ユ〜!! キ〜ル ユ〜!!

お汁粉様に手を合わせ ごきげんようって言うじゃない

今日から君も お汁粉マスター ウオオオオオッ シャアア!!

一日百本 飲み干すぜ ウオオオオオッ シャアア!!

飲まない奴は ギロチンドロップ ウオオオオオッ シャアア!!

全ては お汁粉の名の下に ウオオオオオッ シャアア!!

お汁粉ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!  ボンバァァァァァァァァァァァァやぁぁぁぁぁぁ!!!


終った。壮絶な祐巳のシャウトで曲は終了した。しっかしまぁなんて熱い歌なんだこれは。ってかどんだけお汁粉好きやねん!!

「ご清聴ありがとうございました」

「祐巳」

「はい、お姉さま」

「あなたのことちょっと見直したわ」

えええ!? 本当ですか祥子さん!! 確かに色々と凄かったのは事実なんだが…

「缶入り汁粉、一本に百八十ミリリットル入りましたのが二十本セットで、お値段なんと千円ぽっきりなんです」

「本当に安いわね。皆さんもこれを飲んでお汁粉マスターになって下さいね」

いやいやなりたくないからさ、それ。

そういえば、またいつの間にかセットが元に戻っていて聖さん達の姿が見えない。もう帰っちゃったのかな。

「では、本日最後の商品をご紹介いたします。最後はCamon社製の最新式デジタルカメラです」

「デジタルカメラなんて使ったこと無いわ」

家ではたしか父親が持ってたはずだ。祐巳の運動会とかで撮りまくってたし。

「ここに、このデジタルカメラで撮影した写真を現像したものを何枚か用意してみました」

「いやぁぁぁぁ!! 祐巳!!」

はい、と取り出した写真はなんと祥子さんが自宅の部屋で眠っている写真だった。妙に色っぽい美しき眠り姫。

「いつ誰が撮ったのよ!?」

「昨日蔦子さんが撮影しました。蔦子さん、撮影ご苦労様でした」

と、ぺこりとお辞儀する祐巳。その一方祥子さんはあまりの恥かしさに顔が真っ赤だ。

「とにかく返しなさい!」

「いいですよお姉さま。あとでまた蔦子さんに現像してもらいますから」

顔が真っ赤から一気に蒼白になった。元を断たねばいくらでもこの写真は湧いて出てくるのである。

「他にもこれとかもありますよ?」

そこには図書館でうつ伏せになって居眠りをしている祥子さんが写っていた。あっ、ちょっとだけよだれがたれてる。

「やめてぇぇぇぇ!! 祐巳、本当に勘弁して」

おお!! 祥子さんが祐巳にお願いしてるぞ。ちょっと珍しいかも。

「まだありますよ、こんなんとか」

そこには廊下でくしゃみをしている祥子さんが映されていた。涙や鼻水やよだれなど顔から出る主要な体液が出ている。

「本当にこれ以上は勘弁してくださいませ祐巳さま」

ついに祥子さんからさま付けで呼ばれてる祐巳。偉くなったなあ。

「実はまだあるんですよ。ほら」

今度の写真は画面には映されず祥子と祐巳だけが見ている。一体どんな写真なんだ??

画面右下には「本人の名誉のため写真の内容は司会者達の反応でご想像下さい」というテロップが表示されている。

「うわ! 志摩子ったら意外と大胆ね」

「ほんとですね。聖さまの方が地味に見えますね」

「令ったら何が熟年カップルよ。熟年カップルがこんなに甘々なわけがないじゃない!!」

「由乃さん気持ちよさそうだなぁ…」

「何か言ったかしら祐巳?」

「いえ、何も。あっ、これ見てくださいよ。ほら」

「江利子さまもすごいわね。これじゃあどちらが年上か分からないわね」

「うらやしいなぁ江利子さま…」

「祐巳、まだ写真はあるの?」

「まだまだありますけど、それはまた後でじっくりと拝見しましょう。さて、この最新式デジタルカメラ『激写蔦子百式』は、

びっくり超特価二万二千二百二十二円とひっくり返りそうなほどお買い得になっています。是非、この機会にお買い求め下さい」

あのクオリティの写真が撮れるデジカメがこの値段というのは確かに安いな。お年玉いくら残ってたっけか。

「じゃあ祐巳、今日の商品をおさらいしてみましょうか」

「はい、お姉さま。一番目の商品は『ギンナンEXTEREME』で一本千二百八十円です」

「本当に臭いがきつかったわ。無理オホホ」

あれは本当に辛そうだったな。実際にも効果あるみたいだし。

「二番目の商品は『さよなら。ギンナン』で一本が三百八十円。三本以上ご注文されますと一本おまけで付いてきます」

「これは本当に素晴らしいわ。あのいやな臭いがすぐに消えてしまうんだから」

祥子さんまだシミのこと気が付いてないのかな。

「三番目の商品は『真・缶入り汁粉 祐巳DX』で一ケース二十四本入りでたったの千円です」

「これに関しては多くは語らないわ」

面白かった。お汁粉はどうでもいいけど。そんなこと言うと祐巳に怒られるかもしれないな。

「最後の商品は『激写蔦子百式』で一台二万二千二百二十二円です」

「盗撮かっこ悪い」

蔦子さん、あんた偉いよほんとに。さすがエースだ。

「ご注文は代引きのみとなっておりまして、お電話番号は0120−1313−9999です。送料に関する詳しいことは、

係りの者にお尋ねくださいませ。では、また来週お会いしましょう。ごきげんよう」

「ごきげんよう」

なんか色々と凄いテレビショッピングだったな。ん!? また来週? あれ毎週やってるのか??

一ヶ月ほど前に某テレビ局を小笠原グループが買収し、いつのまにやら小笠原テレビなる会社になっていたことを祐麒はまだ、

知らなかったのである。新聞はちゃんと読もうね祐麒君。





FIN




初版2005年11月29日




作後贅言

ここまで読んで下さいましてありがとうございます。ユラです。

今作はユラ史上最もおバカな作品となりました。個人的にな一番の笑いどころは『お汁粉応援歌』です。

不覚にも自分で作った歌詞を自分で笑ってしまいました。「今日の朝飯お汁粉 お汁粉!!」でっせ。

『お汁粉応援歌』 作詞・作曲:福沢祐巳 BPM200なんですよ。

ちなみに薔薇様トリオのバックコーラスは「朝から晩までお汁粉 お汁粉!!」のリピート部分全てと、

「お汁粉ボンバー!! ボンバー!!」のリピート部分全てと最後の「ウオオオオオッ シャアア!!」でした。

想像するだけで笑えます。曲調がヘヴィメタルなのはもろに私の趣味です。趣味満開です。

ところであの写真には何が写っていたんでしょうか? みなさんのご想像にお任せいたします。

この作品はかなりお気に入りなので連載する可能性が高いので、シリーズ化したらよろしくお願いします。

では、また。

ユラ