「魔法少女志摩子 〜Hyper Mode〜」


Written by 榎木津巽





プロローグ −君の為に右ストレート−


 五歳ぐらいの幼い少女が泣いている。
「うわーん。風船が木に引っ掛かったよ〜」
 女の子の側には背の高い木が生えていて、青々と生い茂った枝葉の先端に赤い風船がふ
わふわと漂っている。風船の高さまでは優に七メートルはあるだろう。道具でもない限り
取ることは不可能だ。
「私が来たからもう大丈夫よ」
 しっとりたおやかなる御声(みこえ)が空間に潤いをもたらす。
「誰?」
 女の子は涙目であたりをきょろきょろと見回した。
 白い光の塊が空間に現れまばゆい光を放つ。やがてそれは人の形を取をなした。
「ふわ……」
 驚きのあまり女の子の涙が止まってしまっていた。光の御方(おんかた)、それ即ち……
「魔法少女志摩子におまかせ」
 キタ━━━━(゚∀゚)━━━━ッ!!?
 フリフリのいっぱい付いた純白ゴスロリ風味なコスチュームに黄金色に輝く、先端にロ
ザリオを付けたステッキ。
見目麗しいという表現をはるかに超えた聖なる存在。あぁ。その御姿(おすがた)を拝見
できて私は生きてて良かったと心の底から思う。
「風船を取ってあげるから少しだけ待っていてね」
「うん。分かったおねえさん」
 志摩子さんを「おねえさん」と呼んでいいのは私だけだ!!
 と、乃梨子自律ツッコミ機能が働いたのを全力で抑えた。相手はまだ子供だからね。
 ちなみに魔法少女の正体を知っているのは妹である私だけで、世間の人々は知らない。
ヒロインにはこういった神秘性も必要なのである。そしてこの手のヒロインには善き理解
者という存在もまた必要不可欠だと私は信じる。よって私は非常に美味しいポジションに
いるのだ。羨ましいでしょ?
「はいや!!」
 腰の入った右ストレートを木の幹にぶっ放す志摩子さん。カッコイイ!!
 めきめきと音を立てて地面に倒れ砂煙を巻き上げた。これで風船を取ることができる。
「わぁい」
 倒れた木に駆け寄った女の子は枝に絡んだヒモを解き風船を取り上げると
「ありがとうお姉さん」
と砂場のほうへ走っていった。
「ご苦労様。志摩子さん」
 パチンと指を鳴らすと、志摩子さんの変身が解け、リリアンの制服姿へと戻った。
「ありがとう乃梨子。さて、帰りましょうか」
「うん」




Case1 −エンストはコワイ!−


「私が君とドライブするなんて珍しいこともあるもんだ」
 私は聖さまの車に乗って志摩子さんの家に向かっている途中だった。志摩子さんが私達
に見せたいモノがあるというので、聖さまの車に乗せてもらい小寓寺まであと十分ぐらい
で到着するはずだった。
 踏み切りの前で一旦停止、安全確認をして踏み切りを渡ろうとしたその時……
「ありゃ?」
 今まで機嫌よく回っていたエンジンが、急にギャリギャリと異音を発しあっという間に
止まってしまった。
「どうしたんですか??」
「いや、ちょっと待ってね」
 キーを回せど一向にエンジンがかかる気配が無い。
 カーン カーン カーン カーン。
 遮断機が降り始めた。マズイ。これは非常事態じゃないか。
「聖さま!!」
「コラ動け。このバカ。あ、ちなみにエンストってエンジンストップの略だと思ってる人
が多いけど、あれはエンジンストールを略したものなんだよ」
「今はそんなのどうだっていいですから!」
 絶対「ちなみに」の使い方間違ってるよ。脈絡無さ過ぎだもん。
 あのオレンジ色の物体は……ヤバイよ! あれは高尾行き快速だよ!
「私が来たから大丈夫」
 おぉ。癒し効果無限大なその御声は……
「魔法少女志摩子におまかせ」
 志摩子さんは車の後ろに輝きを放ちながら立っていた。
「志摩子蹴り!」
 志摩子さんは右足のかかとを突き出すような蹴り、いわゆるヤクザキックを蹴り放つ。
その瞬間鉄がひしゃげるものすごい音と衝撃が奔り抜け、遮断機をへし折りながら車は踏
み切りから勢いよく蹴り出された。
 それから何秒と経つことな快速列車は非常ブレーキで車輪を軋ませながら、踏切を二十
メートルほど通過してから停車した。
 今のはかんなり危なかった。心臓がばくばくいってる。
 踏み切りそして車両を飛び越え、翻るスカートを両手で押さえながら志摩子さんは聖さ
まの車のすぐ後ろにスタッと着地した。メッチャ可愛いなこんにゃろうめ。
「ありがとう志摩子さん!!」
「乃梨子。私は『魔法少女志摩子』だから、あなたの言う志摩子とは別人なのよ」
「てへ。ゴメンナサイ志摩子さん」
「乃梨子。あのね……」




Case2 −人のもの盗っちゃいけません。ダメダメ−


 今日は学校の帰り、M駅前にある佐藤書店に寄って某ライトノベルの新刊を買うつもり
だ。
「いらっしゃいませごきげんよう」
 どこかで見たことのあるデザインの制服に身を包んだ可愛らしい店員さんがスマイルを
振りまいて出迎えてくれる。う〜む。ココはいい店だ。
 さて、お目当ての本は話題作らしく「店長イチオシ」コーナーに平積みされていた。
「私は探し物があるから、また後でね」
「分かった。私はこの辺りをぶらついてるから」
 面白そうな本を見るとどうしても買いたくなってしまうので、予め決めていたものだけ
を手にとってさっさとレジへ向かい清算を終えた。
 ぼうっとうろつくこと五分。
「お待たせ。乃梨子はもう買ったの?」
「うん。志摩子さんは?」
「どうもこのお店には無いみたいだから、他を当たることにするわ」
 大方の書籍なら揃ってるこの佐藤書店ですら取り扱っていない本ってどんなだろう。
「あっ……」
 さっきから新刊コーナーでたむろしていた花寺の生徒の集団。そのうちの一人が商品を
自分のカバンにさっと手早く入れた。万引きだ。
「志摩子さん今の……」
「見たわ。いえ、見てしまったわ……」
 一瞬淋しげな表情を浮かべた志摩子さんは、指をパチンと鳴らし魔法少女志摩子へと変
身を遂げた。
 志摩子さんの変身方法は、壮大な前振りと見るもの全てを魅了するセクシーキュートな
この世最上の変身シーンを惜しげもなく披露するフルサイズバージョン(所要時間四十五
秒間)と、指パッチンで変身できる緊急時用バージョン(所要時間0.2秒)の二パター
ンある。これらのおかげで「どうして敵は変身している間に攻撃しないんだ?」というツ
ッコミを優雅にスルーすることができるのだ。流石志摩子さんソツがない。
「オイ待てぇ!!」
 志摩子さんが微笑みながら馬鹿者達を制する。
「なんだコイツ? 新手のプレイか?」
「今盗ったモン返さんかい!」
「何言ってんの? 俺は何もしてないゼ?」
「ウチの目は誤魔化されへんでぇ!」
「証拠は? 俺が盗ったっていう」
「ウチが生き証人や! 志摩子スマイル!」
 それはそれはもうマリアさまですら怯むぐらい素晴らしいスマイルでございました。
「あう……あう……あぁ」
「どないや? 自分の非を認めるんか? どや?」
「僕がやりました。申し訳ありません」
 志摩子さんの勝利。ここで一つ注意しなければならないのは正義が勝つのではなくて、
志摩子さんが勝つってこと。
「あなたのハートにギガンティア」
 素晴らしいゴッデススマイル!!




Case3 −神の息吹フゥーーー!!−


 今日は気温が高い上に物凄く空気が乾燥していて、水を飲んでもあっという間に喉が渇
いてしまう。
 誇張でも何でもなく四六時中何か飲んでいた。今日はそんな日だった。
 薔薇の館での仕事も、暑さのためだらけてしまい、とうとう祥子さまが「こんなに暑い
のでは仕事にならないわね」と、作業を中断もとい放棄し帰ることにした。
 どうしてあの館にはクーラー無いんだろうね。
 停留所へやってきた駅へ向かうバスに乗り込み、無事終点に到着した。
 が、その先が無事ではなかった。
「おい! アパートが燃えてるぞ!」
 駅の側に位置する木造三階建てのアパート。どこからどう見ても古い。築二十年はかた
いであろうそのアパートの二階部分から、もくもく黒煙が立ち上り真っ赤な炎がみるみる
うちに建物を覆いつくしていく。今日は酷く乾燥しているから火の回りが異様に速い。
「誰か! 誰かうちの子を助けて! まだ家の中にいるのよ!!」
 買い物帰りのお母さんらしき女の人が叫ぶ。ちょっとそれは尋常ならざることじゃない
か。
「志摩子さん」
 私の隣で心配そうに火事の様子を眺めていた志摩子さんは、首を縦に振り指をパチンと
鳴らした。
「魔法少女志摩子におまかせ」
 人込みの中突如現れる光の御方。麗しき存在。志摩子さん綺麗だよ。おっと、今はそれ
どころではない。幼い(はずの)子供に命の危機が迫ってるんだから。
「がんばって志摩子さん」
「任せておいて」
 左目を閉じてウィンクする志摩子さんは、こんな時でもサービスを忘れない素晴らしい
お方なのだ。
「志摩子ブレス!」
 すぅ〜っと息を思い切り吸い込み肺に限界許容量まで空気を取り込む。
 そしてそれを……吐き出した!
 お誕生日のとき、ケーキに挿した何本ものロウソクを、ふぅ〜と息を吹きかけて消すや
つのハイパーバージョンだと思っていただければ結構だ。
 志摩子ブレスにより炎の勢いが削がれ、あっという間に消え去ってしまった。そして、
焼け焦げて崩れやすくなった建物は、片っ端から瓦礫や破片を撒き散らしながら、ついに
は屋根をも失い結局柱しか残らなかった。
「あぁ……君子ちゃん」
 柱と床だけになったアパートから一人の少女がこちらに手を振ったのだ。
「うぅん……」
 ドサっと音がした方を見ると、志摩子さんが倒れていた。
「大丈夫志摩子さん!?」
「えぇ。大丈夫よ。ただちょっと酸欠気味なだけ」
 もう。志摩子さんたら。頑張り過ぎるんだから。でも、そこがいいところなんだけどね。
 子供も助かったし、これで一件落着!!
 でも、後で冷静になって考えてみれば、よくいたずらに延焼を促さなかったものだなぁ
と。こんな乾いた火に風を与えても勢いが増すだけだろうになぁとも思ったけど、そこは
魔法少女だから無問題。




Case4  −銀行強盗はアカン!−


 今年のお盆休み、京都や奈良に観光旅行へ行くことになった。志摩子さんと一緒に。ヤ
ッタ〜。
 というわけで、その資金を調達するために私は銀行へとやって来た。ATMには同じよ
うな目的で現金を引き出そうとするんだろう人々が列を成している。私の前には十人ほど
並んでいて、もうしばらくは待たなければならない。なぁに志摩子さんとの一時の為にな
らこれぐらいの行列は何の苦にもならないさ。
「動くな!!」
「キャアアアアア!!」
「いいか、おとなしく金を出せ!!」
 東京小笠原銀行三鷹支店は、突如日常から切り離された。
 この暑い暑い真夏の時期に、丁寧にも覆面を被った男が三人窓口のおばさんに拳銃を突
きつけて現金を強奪しようとしていた。
 けたたましく鳴り響く警報ベル。
「待て! 動くな!」
 警備員が二人走り寄り強盗犯を取り押さえようとする。
「じっとしてろ!」
 テレビの効果音を遥かに凌ぐ、撃鉄が弾丸を叩き火薬が炸裂する音。あまりの音の大き
さに私は耳を塞ぐ。
 そう。強盗犯は天井に向かって威嚇射撃をしたのだった。
 鼻に付く火薬の匂い。転がる薬莢。割れた蛍光灯。
 あの銃はモデルガンなんかじゃない。本物だ……
 私、二条乃梨子はたかだか十五年という短い人生で幕を閉じることになってしまうのか?
いくら何でもそれは悲し過ぎる。
「早くしろってんだろっ!!」
 引き金を引き絞り、今度は床に向けて威嚇射撃をした。
「うわぁぁぁ!!」
 我先に逃げる人々。でもそれは出来なかった。強盗犯の一味が出入り口を塞いでいたの
だから。
「勝手に動くんじゃねぇ!!」
 複数の男達は散弾銃を構えて威嚇する。敵は窓口にいる三人だけではなかったのだ。
「俺達関係無いじゃないか」
「黙れ!」
 先頭に立っていた男は、一番近くにあったATMに向かって撃った。
 無数の直径数ミリな鉛弾が液晶画面を撃ち割り、衝立を粉々に砕き、台を凸凹にへこま
せた。
「早く金を詰めろって!」
 二人の中年警備員は実銃の前には為す術も無いようで、固まっている。
 私達は無事にここから出られるの? 本当に私の人生ここで終わってしまうの?
 そんなのはイヤだ!
「し、志摩子さん……助けて!!」
「黙れこのガキ!」
 窓口で現金にたかっている三人のうちの一人が私に黒い銃口を向ける。
 黒い黒い穴。たった九ミリの鉛弾がそこから発射されれば私の命は一瞬にして……
「そこまでです」
 そ、その御声は……。
「魔法少女志摩子におまかせ」
「志摩子さん!」
「なんだおまっ……」
 なんだおまえは、と言おうとした強盗犯は志摩子さんの怒りの鉄拳に殴り飛ばされたの
だ。本当に文字通り殴り飛ばされた男は十メートルは吹っ飛び壁にその体をめり込ませた。
「私の乃梨子に銃を向けるとはまぁなんと恥知らずで命知らずな方達なんでしょう」
 うふふふふと可憐に微笑む志摩子さん。
「この女っ!」
 強盗犯二人は、志摩子さんめがけて拳銃を撃ちまくる。が、しかし……
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!!」
 亜高速な速さで繰り出される拳のラッシュ。志摩子さんの鉄拳の前には鉛弾なんて何の
意味も成さず、拳銃から撃ち出された弾丸はことごとく殴り落とされた。
 ガチ ガチ ガチ
 マガジンが空になっても引き金を引く。
「お、おい……」
「何で当たらないんだよ?」
 覆面をしていても、隙間から見える目が恐怖に染まるのが分かった。
「マリアさまが見ていらっしゃるから、あまり愚かな真似はなさらないで下さいね」
 ほんわかふわふわ巻き毛を揺らし、首を少しばかり傾げて志摩子さんはおっしゃった。
「は、はい……」
「分かりました……」
「でも、乃梨子を怖がらせた罪は……地獄すら生温い!!」
 志摩子さんは、天使の微笑から一瞬にして豪気羅刹な鬼神の如き人相へと豹変する。
「リリアン神拳流奥義 北斗百烈拳!」
 銃弾すらはじく鉄拳、そして目にも留まらぬ速さのラッシュ、いったい何発殴られたの
かカウントできないぐらい二人はボッコボコに殴られまくった。
「何だアレは?」
 外を見張っていた一味は現実を捉えきれないで立ち尽くしている。
 身内が肉塊にされてようやく何が起こったのかを理解した。
「この野郎!」
 志摩子さんに向かって「野郎」とは何事だコノヤロウ! と、言いたかったけど私には
到底立ち向かえないので口にチャックして黙っていた。
 合計六人の男達がせっかく固めていた出入り口から店内に押し寄せたため、その隙に中
にいた人達はあっという間に逃げていった。私はというと、一旦外に出て、出入り口の物
陰からこそっと覗き込むようにして志摩子さんの様子を見ている。
「やりやがったな!」
 一人の男がショットガンをぶっ放した。が、しかし……
「無駄だ」
 あれ? 瞬間移動したのか志摩子さんの立ち位置が違う。当然弾が当たるはずも無い。
「嘘だろ?」
「反省してくださいね」
 にっこり笑ってそう言う志摩子さん。その後が壮絶だった。
「志摩子の聖書」
 どこから出てきたのか全く不明だけど、驚くべきはその聖書のサイズと大きさ。
 大雑把に見積もっても大型冷蔵庫ぐらいのデカさとレンガの如き厚さを有している。
 それを片手で持ってるっていうのがまたまたすごい。
「これを読んで正しい行いをしてください」
 志摩子さんはその反則的なまでにデカイ聖書で横一閃。六人いる強盗犯を一瞬でなぎ払
った。なぎ払われた犯人達は吹き飛び思いきり壁に叩きつけられ、その身をひび割れ崩れ
かけた壁面へへばりつかせていた。
「志摩子さん!!」
 私は駆け寄った。
「乃梨子大丈夫だった?」
 とても心配そうに私の顔を見詰めてくれる。
「うん。平気。でも……怖かったよぉ」
「悪い人達はやっつけたからもう心配しなくていいのよ」
 そういって優しく頭を撫でてくれた。あぁ幸せ……
「じゃあ帰りましょうか」
「うん」
 遠くからサイレンの音が聞こえてきた。やっと警察のお出ましだ。といっても、強盗犯
が現れて実際には五分ほどしか経っていないんだけれどね。
 指をパチンと鳴らして志摩子さんは変身を解いて、私達は帰路に付いた。




エピローグ


「きゃあ! 引ったくり!」
 歩道を歩いていたおばさんのバッグを引ったくる若者。
「志摩子さん」
「分かってるわ。私の出番ですもの」
 指をパチンと鳴らして魔法少女に変身した志摩子さんは、逃走する引ったくり犯を追っ
た。
「待てコラァ!!」
 魔法少女志摩子がいるかぎり悪は決して栄えることは無いのだ。
 あっ。ドロップキックが犯人の延髄辺りに直撃し、思いきり派手に蹴り飛ばされた。




(了)




作後贅言


さてさて、魔法少女志摩子お楽しみいただけましたでしょうか?

え? 全然魔法少女らしくないですか?? 大丈夫です。あぁ見えてもおそらく色々魔法

が使われているはずです。多分(笑

それでは、また。