「Mahoo!電話相談室」


Written by ユラ



 日曜日の正午。福沢祐麒は、父親が最近購入した32型のプラズマテレビの前に正座し
ている。今日この日に、Mahooの名を冠した番組が放送されるという。その名も「M
ahoo!電話相談室」、番組進行役は現白薔薇姉妹である乃梨子と志摩子が担当する。

 あの二人の番組ならば多分きっとマトモな番組なはずだ。そうに違いない。

 さて、真相やいかに。



「Mahoo〜でんわ〜そうだんしつ〜ハイッ!」

 おや? 妙にハイテンションだな。乃梨子ちゃん。

「ごきげんよう。番組進行役及び相談役の二条乃梨子です」

 ぺこりと一礼する。きびきびした動作が気持ちがいい。

「ごきげんよう。助手の藤堂志摩子です。よろしくお願いしますね」

 市松人形とフランス人形の揃い踏み。おぉ、なんて絵になるんだろうかこの二人は。ん?
待てよ。どうして志摩子さんが助手なんだろうか?

「この番組では、視聴者の皆さまからのご相談に私達二人が回答しようというコンセプト
の元に進行して参ります。さて、本日一発目のご相談は、東京都にお住まいのペンネーム
『お姉さま』です。『お姉さま』と電話が繋がっているようですね。もしもし」

 乃梨子ちゃんは手元にある真っ白な受話器を耳に当て、志摩子さんも同様にする。相談
者一人に対し、相談役二人という形式で進めていくんだろう。

『もしもし。今日はよろしくお願いしますわ』

「はい、よろしくお願いします。それでは相談内容のほうをどうぞ」

『相談したいことというのは、他ならぬ「妹」のことなの。私の言う「妹」は血縁関係に
あるというわけでは無いのだけれど、この説明は端折らせていただくわ。妹、名前は……
Yとしておこうかしら。Yは元気で素直な子なのだけれども、どうにも私に対する態度が
おかしいというのか、何と言えばよいのか……』

 あれ?? オレの聞き間違いじゃなければこの声の主を知っているのかもしれない。

「そのYさんは、どういった態度をとるのでしょうか?」

『えっとそれは……今までに私が遭ったことを述べると、まず制服をギンナンまむしにさ
れたり、学校の写真部のエースに、寝室の始めとするありとあらゆる場所においての盗撮
を依頼したり、あまつさえその写真をパソコンの壁紙にして販売したり、カラスの肉を食
べさせられたり、そう、あと盗聴もされたりもしたわね』

 悲惨だ。どんな妹だよそれ。何かとてつもない恨みでも買ったのか祥……いやいや「お
姉さま」は。

「はぁ。よっぽど嫌われているみたいですね」

「乃梨子、そう結論付けるのは早計というものよ。人の愛し方というのは千差万別、人の
数だけパターンがあるものなのよ。だからYさんのそういった行動も『お姉さま』に対す
る愛情表現の裏返しなのだと思うわ」

 なるほど。物は言いようだな。だけど、いくら何でもちょっといき過ぎなんじゃ?

「志摩子さんの言うとおりかもしれないね。『お姉さま』、Yさんのそういった行動は愛
情表現の一種という風には解釈できませんか」

『そうなのかしら? 言われてみればそんな風にも思えてきたわね』

 いやぁ、オレはそうは思えないな。祐巳のやつ、あれは本気だったと思うぞ。番組収録
した日は一日中スッキリした表情してるもんな。でも、被害者本人が納得すればアリなん
だろうなぁ。

『ありがとう。なんとなくだけど、胸のつかえが取れたような気がするわ。それではごき
げんよう』

「はい、ごきげんよう。ふぅ。ちょろいもんよ!」

 今何て言った乃梨子ちゃん!?

「単純な方で良かったわね」

 志摩子さん??

「さて、二発目のご相談は、東京都にお住まいのペンネーム『へたれ』さんからです。も
しもし」

『はいもしもし』

 この声もどこかで聞いたような気がする。たしか……

「相談内容の方をお願いします」

『相談したいことは「妹」のことなんだけど、私の言う「妹」っていうのは血の繋がって
る妹じゃないんだけど、そう、従姉妹なんだ。その妹は、勝気で猪突猛進のやきもち妬き
で、怒りっぽい子なの。名前は……仮にYとしておくけど、Yがここ最近ちょっとしたこ
とで怒るんだよね。やれ後輩の指導が親切過ぎだの、やれ無駄に愛想振りまくなだの、些
細なことで怒りの火山が噴火しちゃって』

 なんだか惚気話にしか聞こえないのは気のせいなのか? 乃梨子ちゃんもろくに相談内
容なんて聞かずに、受話器を手で塞ぎながら志摩子さんと楽しく雑談してるし。

『あの、もしもし?』

「は、はい聞いてますよちゃんと。それはねぇ、実力行使に出てやるといいでしょう。そ
う、そのやきもちヤキーなYさんを抱いておやりなさい。さすれば大人しくなるというも
の。これにて一件落着。ふぉっふぉっふぉっ」

 ナンダッテー!! の、乃梨子ちゃん!? 君は何を言ってるんだ?

「羨ましいわね由乃さん」

 志摩子さん実名出しちゃダメだってば!! 伏せて伏せて。

『そうか、実力行使に出ればよかったんじゃないか! 何でそんな簡単なこと今まで気が
付かなかったんだろう。ありがとう乃梨子ちゃん』

 令さんそんな回答で納得しちゃっていいのか!?

『今晩早速実行に移してみるよ。じゃ、ごきげんよう』

「はい、ごきげんよう。勇敢な貴女に幸あれ」

 知らないぞオレ。まぁ合意の上であればいいのか。いや、そもそもそんな問題なのか?

「次の、第三発目のご相談は東京都にお住まいのペンネーム『苗字無しのごんべえ』さん
からですね。もしもし」

『もしもし。今日はよろしくお願い申し上げます』

 この声には聞き覚えないな。やっと身内以外の人からの相談ということか。

「よろしくお願いします。それでは相談内容をどうぞ」

『はい、私の相談というのはその……「苗字」が無いのです。どういうわけなのか私は高
校に入ってからずっと下の名前、「桂」っていうのですが、それで呼ばれるのです。それ
は学校の風習でもあり、嫌というわけではないのですが自分の苗字が分からないというの
は、とても気持ちの悪いものなんです。どうしたらよいでしょうか?』

 オレにはよく分からない相談内容だな。苗字が無い? う〜ん、それはどうしようも無
いような気がするなぁ。

「はぁ。これは中々病巣が深いものでありますね。どうしましょうか志摩子さん」

「そうね。そもそも『苗字無しのごんべえ』さんの存在は、その程度ものだったと言わざ
るをえないのですから、そこは作者に直談判した方がよろしいのではないでしょうか」

 そうだよな。ここで勝手に苗字を考えても、それが世間に浸透しないと意味が無いし。
でも、他の脇役達には意外や意外、結構苗字が設定されていたりするんだよな。どうして
彼女にだけないんだろう?

「というわけで、残念ですが作者の御方に直接申し上げた方が良ろしいのではないでしょ
うか」

『そうですか……分かりました。今度機会があれば訊いてみます。ありがとうございまし
た。ごきげんよう』

「はい、ごきげんよう。そこがメインとサブの差という奴だね」

 なんか今日の乃梨子ちゃん黒くないか?

「重要度の差といえばいいのかしら?」

 さり気にナイフみたく鋭い発言をする志摩子さん。なんかいつもと違うような。

「はい、ちゃっちゃと次いきますね。次。で、四発目のご相談は東京都にお住まいのペン
ネーム『赤薔薇メタル』さんからです。もしもし」

『あっ、もしもし乃梨子ちゃん。ちょっと個人的な疑問で申し訳ないけれど訊いてくれる
かな?』

 こ、この声はまさか!? 祐……巳?

「はい、何でもどうぞ。皆さまの相談に私たちが回答するというのがこの番組のコンセプ
トですから、相談内容の選り好みなんて出来ませんので」

「そうよ祐巳さん。どんなことでも相談に乗るわ」

『ありがとう二人とも。あのね、私ってたまにヘビメタな曲を歌うじゃない?』

「そうですね。何某ショッピングで歌ってらっしゃいますけれど。それがどうされたので
しょうか?」

『いやぁ、私はヘヴィメタルがとっても好きなのだけれど、どういうわけか日本じゃ流行
ってないじゃない? オリコンのチャートトップテンにそういった曲がランクインしたっ
て話は聞かないし、そもそも日本にはどれぐらいの数のメタルなバンドがあって、彼らが
メジャーデビューしてるんだろうって思うのね。どうも世間受けはよろしくないんじゃな
いのかなって心配しているの。そこんところ乃梨子ちゃんや志摩子さんはどう思う?』

「いやぁ難しい相談というか質問です。言われてみるとそうですね。ヘヴィメタルは、演
奏するには高い技術を要し、歌うのにもトレーニングが必要、そう簡単には演奏できない
ものであるので、これらをこなせるというのは高度な演奏能力を有するということなので
すが、何故か流行らない。つまり、世間のニーズに合致していないからではないでしょう
か? でも、ヘヴィメタルとは違うのですがハードロックなX JAPANが大人気だっ
たことを踏まえると、益々混乱してしまいますね」

「ごめんなさい祐巳さん。私は聖歌しか知らないのでどう答えて良いのか分からないの」

 なるほどな。ミュージックステーションでデスボイスで歌うバンドなんて、ほとんどい
ないし。

『謝らなくて大丈夫だよ。ちょっとした個人的な疑問だったから。ありがとう』

「お役に立てなくて申し訳ありません」

『聞いてもらえただけでも嬉しかったから。じゃ、ごきげんよう』

「はい、ごきげんよう。中々に難しい相談でしたね。それでは本日最後のご相談に参りた
いと思います。相談者は、東京都にお住まいのペンネーム『腹ペコおおかみ』さんからで
す。もしもし」

『やっほ〜。聖さまだよ』

 うぉぉぉい!! 聖さんあんた何の為にペンネーム使ってるんだよ!

「お久しぶりですお姉さま」

 志摩子さん普通に挨拶しちゃってるよ。

「ごきげんよう聖さま。どういったご相談なのか、内容をお願いします」

 乃梨子ちゃん冷静だな。怖いほどに。だって目が据わってるし。

『ちょっと訊いてくれない? あのね、事ある毎に蓉子がムチで私のこと引っ叩くんだよ。
知ってる? ムチで叩かれるとそりゃあ痛いのなんのって。げんこつで「聖のバカ」って
ぽかりと叩くのならば、私も「ゴメンネ蓉子」とキスの一つでして許してもらおうってな
流れになるじゃない? それなのに蓉子ったらムチでバシンだからね。時には拳で殴って
くるんだけど、これがまた痛い。何か格闘技でもやっていたのかってなぐらいな威力と正
確さ。もうこれじゃあ浮気なんてした日には考えるだけでも恐ろしい』

「すいません。惚気話は地面に穴を掘ってそこに向かって叫んでください」

 オレも乃梨子ちゃんと同感。

「お姉さまは人気があるのですから、ちょっと可愛そうな気がしないでもありませんが、
蓉子さまを大切にしてあげて下さいね。失ってから大切さに気付くなんてひたすら愚かな
事ですから」

「いいですか聖さま、志摩子さんの言うとおり浮気なんてダメです。というわけで以上」

『え? あれ? これでいいのか? そうだな、そもそも私の行動が原因だから。う〜ん
分かった。私は真っ直ぐに見ることだけを専念するよ。ありがと、じゃあ』

「はい、ごきげんよう。ふぅ。あ、志摩子さん。私は絶対にそんなことしないからね」

「分かっているわ乃梨子」

「志摩子さん……」

「乃梨子……」

 あ〜あ、見せ付けちゃってくれるよなまったく。君達こそいちゃつくなら穴を掘ってそ
こでやってくれ、と言いたいところだけどまぁいいか。だって見ている方もなんか幸せな
気がするし。

「というわけで、浮気はダメ。ゼッタイに。それではごきげんよう」

「ごきげんよう」





FIN

初版2006年6月3日


作後贅言

最近現白薔薇姉妹がお気に入りのユラですごきげんよう。

さて、とある作品に出てきた「Mahoo!電話相談室」を書いてしまいました。

所々ギャグらしからぬ展開もありますが、楽しんでいただけたのならば幸いです。

それではまた。

メタルの信奉者ユラ