「Mahoo!テレビオークション2」


Written by ユラ



 春という季節は別れの季節でもありまた、新たな旅立ちの季節でもある。そんな三月の
ある日、しばらく鳴りを潜めていたアレが久方ぶりの胎動を始めた。

 卒業式で読み上げる送辞を書き終えた福沢祐麒は一息つくために、一階の居間でテレビ
を視ようと自室を出た。

 居間のテーブルに置きっぱなしのテレビのリモコンを手に取った祐麒はテレビをつけ、
とあるチャンネルに合わせた。

「ごきげんよう。司会の小笠原祥子です」

「みなさんごきげんよう! 助手兼裏の司会者の福沢祐巳です」

 そういえばこの番組視るの久しぶりだな。その理由は、まぁ色々忙しかったということ
にしておこう。放送コードに引っかかって放送禁止処分をくらったなんていうことは全く
無いと祐巳が言っていたけれど。

「祐巳。ちょっといいかしら?」

「はい、何でしょうかお姉さま?」

「この沈黙期間は何だったのかしら?」

 およそ三ヶ月ほどか。この番組が休みの間に祐巳の奴はポケモンと旅したり、「異議あ
り!!」って叫んだりと中々に楽しんでやっていたようだけどな。

「そんな些細なことどうでもよろしいじゃないですか。では、本日の出品者をご紹介いた
しましょう」

 祥子さんの質問を「どうでもいい」とバッサリ両断する祐巳。相変わらずな祥子さんの
扱いだ。

「本日の出品者はこちらの方々です」

 今回は、令さん、蔦子さん、江利子さん、蓉子さん、祥子さんの五名が出品するようだ。

「本日のテーマは卒業ということですので、落札者のみなさんは三年生の方のみとなって
います。みなさん、預金残高は万全ですか?」

 祐巳が客席にマイクを向けると「万全でーす!!」と皆声を揃えてこれに応えた。本番
前に練習したなこれは。

「それでは、今日一番目の出品者に商品のアピールをしてもらおうかしら」

「トップバッターの令さまお願いします」

「みなさんごきげんよう。黄薔薇さまやってる支倉令です。今日私が出品しようと思うの
は私が作ったケーキです」

 それを聞いた祐巳は指をパチンと鳴らすと瞳子ちゃんがカートにケーキを二つ乗せて、
スタジオへ運んできた。一つは試食用で、一つは売り物なんだろうな。

「令さまが焼いたケーキ、早速試食してみましょう」

 祐巳と瞳子ちゃんはナイフでケーキを八分割にし、それを皿に載せて出品者達へ振舞わ
れていく。正直に言おう。すっごく美味しそうだ。普段そんなに甘いものを食べないオレ
でさえ強く食べたいと思わせる。見た目はとてもオーソドックスなスポンジに生クリーム
を塗って上にイチゴが載っているタイプのものだったが、非常に丁寧な仕上がりで市販の
ものと何ら遜色が無い。

「美味しい」

 江利子さんのコメント自体はごくあっさりとしていたが、驚きの表情を隠さないかった。

「令さまこのケーキとっても甘くて美味しいです!! もう感激です!!」

 一瞬で食べ終えた祐巳はフォークを握り締めながら褒めちぎる。

「皆さんにも是非召し上がってもらいたいけれども、落札した人だけがこれを得られるの
で、財の限りを尽くして落札して下さい」

 会場を煽る祥子さん。そして一気にテンションが上がる客席。

「開始価格は一円からスタートです。入札される方はお手元の番号札を挙げて入札価格を
提示して下さい。用意はいいですか、では入札開始です」

 開始してから値段の上がり方は激しかった。一円スタートで、次に二千円、その次には
五千円、開始五分で…

「九万三千円!!」

「三十四番の方が現在最高価格です。もしこれ以上入札が無ければ終了となります」

「十万!!」

 瓶底メガネで髪をぴっちりと七三に分けた一見地味な容貌の生徒が入札した。が、この
人どこかで見たことがある。というかあんた由乃さんだろ?

「よ、由…乃?」

 令さんも気が付いたみたいだ。あれで変装してるつもりだったらそれはそれで可愛らし
いというか微笑ましいな。

「他に誰も入札者がいないようですので、それではお姉さま張り切ってどうぞ」

「十万円でハンマープライス」

 祥子さんは木槌を一度カツンと鳴らした。

「落札された方のお名前よろしいですか?」

「え? 名前?? えっと、鳥津由乃です」

「四十四番のトリヅヨシノさん落札おめでとうございました」

 あぁは言うものの祐巳も「トリヅさん」の正体を分かってるようで、目が笑ってた。

「商品は番組終了後にお渡しいたしますのでそれまで指でもしゃぶってお待ち下さいね。
次に出品される蔦子さんアピールの方お願いします」

「私武嶋蔦子が出品するのは二年間の高校生活で撮り貯めた秘蔵のお宝写真を集めた写真
集です。これサンプルの写真なんだけど」

 画面には桜並木の画像が表示され「本人の名誉のため写真の内容は出演者のコメントで
ご想像下さいませ」というテロップが下の方に小さくある。

「これは江利子さまの写真ですね」

「江利子あなた……こんなことまでやっているの?」

「そう驚くことはないじゃないの。これ、面白いでしょう?」

「蓉子さま、こんな写真もありますよ」

「あら? これは聖の写真ね。隣に写っている志摩子はいいとしてもう片方に写っている
のは加東さんかしら?」

「あの方らしい写真ですわね」

「全くあの女たらしめ。何人はべらすつもりなのかしら?」

「蔦子さん、もっとアレな写真って無いの?」

「いや、あるけどそれは……見せられない。さすがにピーーがピーとピーしてるところの
ピーーーーの写真なんていくらサンプルでも見せられないな」

「ひゃあ! それは本人のプライバシーだね。うん」

 な、何が写ってるんだ!! 気になる。すっげぇ気になるぞ!

 画像が消え、再び画面にはスタジオが映し出される。

「どんな内容の写真集か大体御察しかと思いますので、張り切って落札して下さいね。そ
れでは開始価格五百円からスタートです」

 さすが噂話が気になるお年頃なのか、それともさっきの「ピー」だらけの発言が好奇心
に火を点けたのか分からないが、値段の上がり方が半端じゃない。

「十四万八千円!!」

「十五万!!」

 開始三分で十五万。やっぱりお嬢様の経済力はすごいな。

「他に入札される方がいませんでしたら、終了となります」

「祐巳、もうこれ以上はなさそうね。では、十五万円でハンマープライス」

「次に出品されるのは、江利子さまです。アピールの方をどうぞ」

 江利子さんは床に置いてあった木箱から何か人形のようなものを取り出した。あれは仏
像か何かか?

「私が出品するのはこれ」

「江利子さまこれ何ですか?」

「分からないわ」

 なんだって!? 出品する本人も知らないのか??

「これあの人からお土産にもらったの。つい最近まで出張で奈良の遺跡発掘に駆り出され
ていたの」

 そういえば山辺先生は二週間ほど出張で休んでたな。ということはあれは奈良の遺跡で
発掘してきた何かか。いいのか? そんなものお土産にしてしまっても。

「仏像なんてもらっても使い道が無いから、他の誰かに譲ったほうがこれも喜ぶでしょ?」

「はぁ。そうですか。では、開始価格はいくらからにしますか?」

「一円で構わないわ」

 リリアンの生徒で仏像を欲しがりそうな人と言えば一人しか心当たり無いけど、今回は
三年生しかいないからなぁ。

「それでは、入札スタートします」

「三万円!!」

 は? 誰かいきなり三万の値を付けたぞ。あれは……

「乃梨子ちゃん!? でも、今回は卒業生だけだから似てる誰かかな?」

 さすがの祐巳もこれには少しうろたえている。というか誰でもそうなると思うけど。

「…………」

 何だ何だこの沈黙。こんな静かなオークション始めて見たよ。

「祐巳」

「え? あ、はいお姉さま。それでは他に誰も入札が無いので、二番の方が落札者となり
ます。二番の方お名前よろしいですか?」

「二条乃梨子です」

 おぉぉぉい!! 本人じゃないか!! 何で卒業生に紛れてるんだ?

「あなた白薔薇のつぼみにそっくりね」

「はい、よく言われました」

 あくまで「似てる人」で通すつもりか。ある意味すごいぜ乃梨子ちゃん。

「商品は後でお渡しいたしますので、それまで夢想していて下さいね」

 待て待て待て。今のところ三人中二人が卒業生じゃないぞ。いいのかそれは??

「次に出品される蓉子さま、商品のアピールお願いします」

「私が出品するのはこれ」

 蓉子さんが持っているのは一冊の本だ。ん? あの本どこかで見たことがあるな。そう
いえば小林のやつが学校に持ってきて見せびらかしていた本のような気がする。

「お姉さまこの本は?」

「あらあら祥子ったら。もう少し世間を知るべきだわ。これは私が書いた本で『お嬢さま
にも分かる法律入門』というの。出品するのは初回限定版で私のサインも付けちゃうわ」

 そう、それだ。確か初回限定版って今はプレミアが付いて七千ぐらいは軽くしたはずだ。

「さらに、おまけ本もお付けするわ。内容は当然ヒミツよ。でも、祥子みたいにこの本が
どういったものか知らない人もいると思うから、中身を少し紹介しようかしら」


以下 第三章「破産してしまったら」から抜粋


「蓉子。あのね、ちょっと困ったことになったんだ」

「何よ困ったことって」

「気が付いたらね、借金が一億円もあるの」

「一億!? 一体何をどうすれば一億もの借金なんて作れるのよ!!」

「いやぁ、祐巳ちゃんがね、服が欲しいとか、指輪が欲しいとか、車が欲しいとか、家が
欲しいとかっていうお願いを聞いてるうちにね」

「…………」

「蓉子先生?」

「返せる当てはあるの?」

「無い」

「…………」

「あぁ、その沈黙は勘弁して。ホント反省してるからさ。ね?」

「こうなれば最後の手段ね。破産するのよ聖」

「破産? どうすればいいの?」


「この続きは買ってから読んでくださいね」

 ちぇ、いいところだったのにな。

「それでは開始価格千円からスタートです」

 結局あのサインとおまけ本付きの初回限定版は二十万五千円で落札された。じょじょに
落札金額が大きくなってきてるぞ。

「さて、最後はお姉さまです。商品のアピールお願いします」

「私が出品するのは、『ミッドガル市移住権』よ」

 な、な、なんだってぇぇぇぇ!! 本気か祥子さん!?

「お姉さま? ミッドガルって何処にあるんですか?」

 っておい祐巳お前知らないのかよ! 新聞ぐらい読めよなまったく。

「祐巳、せめて朝のニュースぐらい見なさい。簡単に説明しておくと、現在、複数の先進
諸国が推し進めてる国際プロジェクト『ミッドガル計画』は、太平洋上に巨大な人口の
島を建造するというもので、そこに建設される都市の名前が『ミッドガル』っていうのよ。
私が出品するのは2025年に完成予定の第一期分の移住権よ。おそらく将来私もミッド
ガルに移ることになるわね」

「とにかくすごいモノなんですね! それでは皆さん準備はよろしいですか。入札開始で
す!!」

 開始間もなく祥子さんが出品したものの意味が分かった生徒から片っ端に携帯電話をか
けていく。自分だけでは判断し難い大きな買い物だから親に電話で相談してるんだろう。

「二千万円!!」

 うわ。いきなり八桁だ。額がやばいな。

「四千八百万!!」

 これは間違いなく億の値がつくな。もう俺たち庶民には追いつけない数字の世界だな。

「一億三千五百万円!!」

 いくらお嬢様っていっても億の買い物はやりすぎだと思うんだけど。

「お姉さま。私も入札していいですか?」

「構わないけれど、財布の中身大丈夫かしら?」

 待て!! とにかく無茶なことは止めろ祐巳!! 誰か止めてやってくれ!!

「入札価格は『私の残りの人生』です」

「祐巳?」

「私の残りの人生お姉さまに差し上げます」

 なんだってぇぇぇぇぇぇ!!! あいつ自分で言ってる意味分かってるのか??

「それは……一生私と共に過ごすということなのかしら?」

「はい」

 ………………。まぁ自分で決めたんならばそれを貫けばいい。

「分かったわ。これは祐巳、あなたのものよ」

「お姉さま……」

「祐巳……」

 ん? 待てよ? これオークションでも何でもないじゃないか!

「以上で全てのオークションが終了しました。ご参加くださったみなさまありがとうござ
いました。それでは次回があればお会いいたしましょう」

「ごきげんよう」

 なんか今日のオークションいろいろ変だったな。いや、俺の気のせいか?



続く?



作後贅言


久しぶりのMahoo!シリーズです。全体的に話の粒が揃っているようで小さなギャグ
を所々に仕掛けていますがお楽しみいただけたでしょうか?
今回は腹を抱えて爆笑というよりか、読んでいて「ぷっ」と噴出すような作品に仕上がり
ましたがどうでしょうか??
ちなみに「ミッドガル計画」は架空のものですが、私が書いた『BLACK WINTER NIGHT』の
舞台となってなっていますので、もしよろしければ。
それでは、また。



ユラ