その日の新聞のテレビ欄にはいつものお馴染みの番組名は記載されてはおらず、代わりに似たような名前がそこにはあった。



「Mahoo!テレビオークション」

written by ユラ

「ごきげんよう。Mahoo!テレビオークション司会の小笠原祥子です」

「皆さんごきげんよう。アシスタントの福沢祐巳です。本日は、残念ながら諸事情によりテレビショッピングはお休みですが、

代わりになんとオークションをやっちゃいます」

何? オークションだって? 誰が何を出品するんだろうか。

「祐巳。本日のゲストをご紹介してちょうだい」

「はい、お姉さま。本日の豪華ゲストはこちらの方々です。どうぞ!!」

どうぞ、と呼び出されてスタジオに登場したのは、聖さん、令さん、乃梨子ちゃんの三名。失礼だがなんとも言えない組み合わせだ。

「本日は、こちらのゲストの方々から一品ずつ商品を出品していただき、それらを、今この番組のスタジオ内にいるリリアン女学園の生徒、

一年、二年、三年各五十名ずつの計百五十人が落札いたします。客席の皆さんごきげんよう」

「ごきげんよう!!」

笑っていいともの「そうですね」並みに声が揃っている。多分収録前に練習したんだなこれは。

「では、オークションのトップバッターは、令さまよろしくお願い致します」

こちらへ、と令さんは祥子さんと祐巳の間に立たされた。

「みなさんごきげんよう。黄薔薇さまの支倉令です」

「きゃ〜!! 令さま〜!!」

おぉ。さすが黄薔薇さまだけあってなかなかに人気がある。さて、何を出品されるんだろうか。

「今日私が出品するのは、私が焼いた手作りクッキーです」

クッキーか。無難なところだな。

「令、どんなクッキーを焼いてきたのかしら」

「バタークッキー、チョコチップクッキー、あとイチゴクリームサンドやコーヒークリームサンドもあるね。

あっ、そうそう、試食分としてちょっと別に焼いてきたけど祥子や祐巳ちゃん食べる?」

「いいんですか!? 令さま」

食べる気満々な我が姉。黒さに加えて食い意地まで張っちゃって俺は悲しいよ。

「構わないよ。聖さまや乃梨子ちゃんもどうぞ」

「じゃあ、お言葉に甘えていただきますか」

試食した面々の感想は…

「美味しいです令さま」

「さすが令ね」

「やるじゃん令。おいしいよ。でも、私はもう少し甘さ控えめが好きだなぁ」

「令さま、今度作り方を教えてください」

非常に好評である。祐巳がカメラに向かって「ほら」とチョコチップクッキーを一枚手にとって見せる。

それをどアップで見せ付けられるとなんか悔しくなってきた。俺も食べたくなるじゃないか。

「客席の皆さんは、是非自らの力で手に入れてから堪能してくださいね」

いい感じに客席を煽る祥子さん。これは結構熱いオークション合戦になりそうだ。

「はい、では令さまの手作りクッキーのオークションに参りましょう。入札される方は挙手の上、入札金額を提示してください。

心の準備はよろしいですか。では、入札を開始します」

客席の反応は早かった。いやもうびっくりするぐらいに。

さすが客席の多くはお嬢様だけあって一介の女子高にしてはかなり懐が裕福ゆえ、入札金額が五百円、千円、二千円、一万円と、

すごい勢いで跳ね上がっていき、今、最高入札額はクッキーには思えないぐらいの高値がついている。

「六万六千円!!」

「六万六千五百円!!」

おいおい。クッキーに諭吉六枚だぞ。六枚。

「七万!!」

うわ。やりやがった。とうとう七万だ。

やはりお嬢様といえど懐には限界があるようで、結局落札金額は「七万円」也。

「他に入札される方はおられませんか。おられないようでしたら落札となります」

客席からは特に反応が無い。ということは、

「入札を終了いたします。お姉さま、よろしくお願いします」

「七万円でハンマープライス」

祥子さんは、右手に持った小さな木槌をタン、と打ち鳴らした。

ハンマープライス? あれ? どこかで聞いたことある単語だな。

「おめでとうございます。落札者の方恐れ入りますがお名前をお願いします」

「田沼ちさと、と申します。令さまのクッキーが落札できてとっても嬉しいです」

「商品は番組終了後本人の手から直接渡していただけますので、それまでもうしばらくお待ち下さい」

さっきからなんか変だ変だと思ったら、祐巳が真面目にちゃんと番組を進行させてるじゃないか。う〜んジレンマ。

「祐巳。次はどなたの商品なのかしら」

「はい、お姉さま。次は乃梨子ちゃんです。では、乃梨子ちゃん出品する商品の説明よろしくね」

乃梨子ちゃんは令さんと入れ替わりで祥子さんと祐巳の間に立った。

「皆さんごきげんよう。白薔薇つぼみの二条乃梨子です。本日私が出品するのはこれです」

はい、と取り出したのは何かの冊子みたいな本だ。表紙にはどこかのお寺のイラストが描かれている。

「乃梨子ちゃん? これは何なの?」

「はい、祐巳さま。これは真我寺(まがじ)というお寺が発行した同人誌なのです」

同人誌? あぁそういえば小林のやつが無茶苦茶いっぱい持ってたな。なんか色々と凄かったし。

あんなんとか、こんなんとか、そんなんとか。

「この本には真我寺が所蔵している仏像が、たくさんカラーの写真で紹介されいて住職ご本人の解説文まで付いているのです」

そちらに詳しい人ならば涎モノな本なんだろうけど、花寺の学生でも欲しがるやついるのかな。

「ほ〜。どれどれ、ちょっと見せてよ」

聖さんが本をぱらぱらとめくっている。聖さんが興味を示すとはちょっと意外だ。こういう変わった物に興味を示すといえば、

鳥居江利子さんの専売特許だったと思うのだが。

「あっ、これって志摩子ん家にあるやつじゃない?」

ぱらぱらとページをめくる手が止まり、聖さんはある写真を指差した。

「残念ながら違います。志摩子さんの小寓寺にあるのは幽快の弥勒菩薩像で、こちらのは幽怏の弥勒菩薩像なんです」

「ん? あぁ、同じ仏像でも彫った人が違うってわけね」

そのあと乃梨子ちゃんの仏像講座が十五分ほど続いた。ここまでくると博士号とか取れるんじゃないのか?

「さらに、この本は部数限定本で世の中にはたったの三十冊しか出回っていません」

「乃梨子ちゃん。そんなに貴重な本を本当に出品してしまってもいいのかしら?」

それもそうだよな。よりによってこの場で落札してもらうよりも、Yahoo!オークションとかに出品すればいい値がつくと思うけど。

「祥子さま。それは心配には及びません。なにせ、私はこの本をもう一冊持っていますから」

すげぇ。単純にすげぇや乃梨子ちゃん。

「ま、まぁそれならば構わないわね」

「では、入札を開始いたします。入札を希望される方は挙手でお願いいたします」

「三万円」

何? いきなり三万円の値がついたぞって、入札したの志摩子さんじゃないか!!

「あれ? 志摩子さん? どうしてここに?」

「祐巳さんたらご冗談を。私だってリリアンの生徒ですもの。参加する権利はあるでしょ」

結局志摩子さん以外入札者がおらず、そのまま志摩子さんが落札者となった。

「三万円でハンマープライス」

祥子さん木槌叩くの楽しそうだな。

乃梨子ちゃんはものすごくうれしそうだな。満面の笑みとは多分こういっ笑顔のことを言うのだろう。

「志摩子さん、商品は後で乃梨子ちゃんから受け取ってね」

「祐巳、私、今気が付いたんだけど、さっきからほとんど同じ台詞しか喋ってないわ」

「それでいいんですよお姉さま。機械の様に坦々と仕事をこなすお姉さまはとっても素敵ですよ」

「そ、そうかしら?? 祐巳がそういうのだったら本当なんでしょう」

恥かしげも無く姉バカ妹バカなこと言ってるよ。まぁ、それはそれでいっか。どっちもいい感じだし。

「お次は皆さんお待ちかねの、聖さまです。どうぞこちらに」

乃梨子ちゃんと交代で聖さんがそこに立ったが…

「ぴぎゃっ!!」

「おうおう、やっぱこの抱き心地はたまりまへんな」

後ろからセクハラ親父モードの聖さんの熱い抱擁をうける祐巳。ところで、「ぴぎゃっ!!」とは新しいボイスだな。

「聖さま。今、私は真面目さんモードなんですから勘弁してくださいよ」

「私は黒くてもそうでなくてもお構いなし。むぎゅむぎゅ」

どうしても祐巳は聖さんには勝てないんだろうな。でも、まんざらじゃないんだろ?

「早く商品の説明してくださいってどこ触ってるんですか!!」

「祐巳ちゃん牛乳飲もうね。牛乳。それは置いといて、では説明しますか」

ようやく祐巳が解放された。その聖さんの手には何も無いし、スタジオ内にも特に用意をしている風でもない。

じゃあ一体何を商品にするんだろうか。もしや…。

「私が出品するのはこれ」

ほいと、掲げたられた右手が摘んでいるものは、何かの鍵のようだ。

「これ、私が乗ってるぶーぶーの鍵よ」

「えぇぇぇぇぇぇ!!!!」

出演者のみならず、客席の生徒達も皆驚いた。当然俺も驚いた。聖さんの車っていくらぐらいするんだろう。

「聖さま。さすがに車はどうかと思いますが…」

「何言ってるのよ祐巳ちゃん。そんなんじゃ愛国者になれないよ。車のことはいいから進める」

「うぅぅ、分かりました。では、入札を開始いたします」 かなり強引にオークションが開始された。入札するやついるんだろうか?

お? 客席の生徒の中には急に携帯電話で何か話し出す生徒がちらほらと。もしかして、資金の相談かも。

「五十万円!」

うわぁ。やっちゃったよおい。いきなり五十万だって。こんな金額自分の小遣い超えまくってるだろうな。金持ちパパに感謝すべし。

「七十五万円」

志摩子さんだ。まだ何か買うつもりだ。乃梨子ちゃんの同人誌だけでは満足できないのか?

「百万円」

このよく通る美しい声の主は確か、えぇっと…、そうだ! ロサカニーナこと蟹名静さんだ。

でも待てよ。祐巳が言うにはイタリアに留学してるって話だが…。

「静さま!?」

「ごきげんよう聖さま。祐巳ちゃん」

「静。いつ帰ってきたんだ」

「今日の朝です。私はさよならは言ってませんので」

そして、入札はどんどん続き金額がもうなんかすごいことになっている。やり過ぎだろ? それは。

「千百万円」

「さすが志摩子さんね。カンツォーネを知るもの来たれ! 千二百万円」

額の上がり方がやばすぎる。俺はもう付いていけない。

「静さまもやりますね。寺社を知るもの来たれ! 来ました千三百万円」

ん? もしかしてこれって相手の潰しあいじゃないのか? チキンレース同じ様な感覚だな。ギリギリまで追い詰めてさっと身を引く。

その引き際の限界を見出すのが難しいし、あまりにも頑張りすぎると自滅してしまう。

「ピザを知るもの来たれ! 千四百五十万円」

これベンツより値段高くないか?

「寺社資金投入。千六百万円」

しんと静まり返る客席。勝者(でもある意味負け)は志摩子さんに決定するのか。さぁ、勝負の行方はいかに。

「ローマ帝国知るもの来たれ! 千八百万円」

漢(おとこ)だ。静さん、あなたはまごうことなき真の漢だ。でも…

再び訪れる静寂。志摩子さんはどうでるのか、それともここで決着がつくのか。

「入札が無いようですので、締め切らせていただきます。では、お姉さまお願いします」

「千八百万円でハンマープライス」

「楽しかったわ志摩子(覚えてやがれ。次は負けんぞ)」

「私もですわ静さま(私の勝ちね。おとといきなさい)」

さて、以上でゲスト三人の出品が終った。これで番組は終了かと思いきや…

「お姉さま。私も何か出品してもいいですか」

「それは別に構わないけど、あなた今、出品できるようなものを何か持っているの」

「もちろんですお姉さま。私が出品するのは、『私との一日デート権』です」

……祐巳のやつ自分を売り物にしやがったぞ。いいのか?それ。

「ゆ、祐巳! あなたそれは本気なの!?」

「本気ですお姉さま。一日ということは朝から晩まで私とお付き合いできる権利ですよ。何処で何をするのかは落札者が自由に予定を、 決めていただいて構いません。一日中だらだらしたり、あんなところでこんなことしたり…

さて、それでは入札に参りたいと思います。お姉さまに聖さまや令さま、乃梨子ちゃんも参加してくださっていいですよ。

では、入札を開始いたします」

「二億」

今、とある大金持ちのお嬢様が瞬速で入札してしまいました。

「へっ?」

「祐巳、聞こえなかったのかしら? 私は今、二億円と言ったのよ」

小笠原グループの資金投入。その額二億円也。あははは。なんかもう笑いしか出ない。

祐巳のファンが多い一年生には可哀相だが相手が悪かったと思って諦めるしかないな。相手が祥子さんじゃねぇ…。

ものすごくあっけなく入札が終ってしまった。ほんとうにこれでいいのかすご〜く疑問が残る。

「せっかく盛り上げようとしたのにお姉さまったら、本気出しちゃダメですよ」

「あら、そうだったの。ごめんなさいね。でも他の誰かに祐巳が取られるのは勘弁ならんのじゃい!!」

またか。また姉ばか発言か。ここはギャグの世界なんだ。ラブは他所でやってくれ他所で。

「お姉さま…」

「祐巳…」

おいおい。生放送中なんだろこれ? いいのかよ。

「こほん。あぁ、そのなんだ、今祐巳ちゃんや祥子は自分達の世界に逝っちゃってるから、代わりに私が進めるね」

司会代行聖さん。上手くやれば次はメインを張れるかも。

「以上でMahoo!オークション終了。落札した商品は今から十分後に渡すから、落札者はこちらまでお願いね。

その他の皆は帰ってよし。今日はおつかれさん。出口で記念品受け取ってから帰ってね。じゃ、ごきげんよう」

きれいにまとめて番組終了。結論、お金は大事だよ。




FIN?



作後贅言

今回はいつもと少し毛色が違いますがいかがでしたか? 皆さんお金は計画的に使いましょう。

いるのかどうか分かりませんが祐巳ちゃんの曲を楽しみにされていた方すいません。今回はお休みです。次回作では出てくるはずです。

今作は全体的におとなしめになっています。特に祐巳ちゃんは真面目に番組を進行していましたし。

前二作のような派手な面白さが無い代わりに小さいネタを所々に仕掛けてみましたが分かってもらえたでしょうか。

さて、本文中に「同人誌」という単語が出てきますが皆さんご存知でしょうか?

これは、存在自体はかなり昔からあるようで、短歌や俳句、小説等を掲載していた文学的な雑誌だったようです。

今、我々が使っている「同人誌」とは全然趣や方向が違います。我々の言う同人誌とは極端な話、二次創作のことだと思います。

さてさて、一つ疑問に思ってるのですが台詞の中に固有名詞が出てきて、それを「」を使って表現したい場合どうすればいいんでしょう。

私は『』で代用していますが、本来『』は書籍の名前の表記に用いるものなので、用法としては正確じゃないんですが…

では、また。

ユラ