「Mahoo!ニュース」
Written by ユラ
福沢家の居間。壁にかけられた時計が狂いも無く時を刻む。福沢祐麒は、居間に置いて
ある液晶テレビの前に正座して時を待っていた。
午後九時五十九分五十秒。十時まであと十秒。
五秒前。四、三、二、一……。
午後十時。リリアンの制服を着た祐巳が三頭身にデフォルメされたアニメーションが流
される。バリバリのヘヴィメタルがBGM。色とりどりのお花畑を背景に祐巳はスキップ
しながら小道を歩き、これまた三頭身にデフォルメされた制服姿の祥子さん現れ、祐巳の
手をとり一緒に踊り始める。
そして七色の色彩が眩しい虹が画面左端からアーチを描き、右端まで辿り着くと、その
虹の曲線に沿って、花が開くように文字が表示される。
M a h o o ! ニ ュ ー ス
ちょっと待て、これどう見てもNHK教育テレビにありそうな、お子様向けなオープニ
ングじゃないか。
「福沢祐巳ですごきげんよう。Mahoo!ニュース、今夜もまたエキセントリックなニ
ュースをお届けしたいと思います」
ニュースキャスターとして祐巳が出演している。
「解説の小笠原祥子ですごきげんよう」
そして解説が祥子さん。またこの二人だ。最近この面子でまともな番組を見たことが無
い。不安だ。すっごい不安だ。
「さて、今日一番目のニュースです。今年の四月一日より、武蔵野市が『小笠原区』とし
て東京特別区に編入され、東京二十四区としてスタートしてから二週間が経ちます」
待てぇぇぇぇい!! そんなこと初めて聞いたぞ! なんだよ「東京都小笠原区」って。
「東京二十四区制に伴い、山手線の路線拡張工事も進められ、来年春には開通を予定して
いる模様です」
いやちょっとそれはやり過ぎじゃないか? 余計歪になるぞ。山手線。
「二千十年には、都庁が小笠原区に移転される計画も進められ、新都心として注目を浴び
ています」
マジかよ!! なんかすげぇぞそれ。
「嘘ですけど」
ナンダッテ? 今祐巳は何て言ったんだ?
「そうそう、このニュースは私と祐巳で考えた嘘ですものね」
からからと笑う祥子さん。公共の電波で笑えない冗談は止めて下さい。
「次のニュースです。以前より熱い議論が交わされ、必死の研究にも関わらず謎のベール
に包まれたままだった、瞳子ちゃんの盾ロールの長さが判明いたしました。そのVTRを
ご覧下さい」
映像がスタジオからVTRに変わった。
「ごきげんよう。特派員の二条乃梨子です。今日は、瞳子の盾ロールの長さが解析出来た
ということで、東京都小笠原区にある『でこっぱち研究所』へ来ています。それでは所長
の鳥居江利子さんにお話を伺いましょう」
「ごきげんよう。鳥居です。解析の結果なんだけど、56ピコグラムね」
え? グラムって「重さ」の単位じゃあ……。ちなみに「ピコ」は一兆分の一を表す単
位だったはず。
「えぇ!! 56ピコグラムなんですか? 乃梨子びっくり!」
俺に言わせれば乃梨子ちゃんの物言いの方が「びっくり」だよ!
「うん。まぁ大体そんな感じ」
「大体」とはなんか適当だな。というか全然やる気無いよこの人。
「以上、二条乃梨子がお伝えしました」
これでVTR終了。なんだ今のは?
「お姉さま、コメントをお願いします」
「そうねぇ、私の財布には十五万円ほど入っているわ」
意味が分からん! しかも一介の高校生にしては金持ち過ぎるよってそれは当然か。
「次のニュースです。由乃さんと令さまが、九万九千九百九十二回目の破局を迎えました。
今回の破局の原因は、「たこ焼きにかける調味料」が原因でした。ソースだけが好きな由
乃さんに対し、ソースにマヨネーズのダブルが好きな令さま。結局口論となり、間もなく
武力衝突し、由乃さんが令さまを占領しちゃいました」
占領?? それって破局って言えるのか?
「あの二人も困ったものね。喧嘩するほど仲がいいって普通は言うのだけど、由乃ちゃん
は、たまに本物の殺意がこもっているわね。令もよく生きていること。おほほおほほ」
怖っ!! 由乃さんだけは怒らせないでおこう。
「次のニュースです。映画『佐藤と蓉子さん』が空前の大ヒットを記録しています。その
レボートをまとめたVTRをどうぞ」
「ごきげんよう。特派員の二条乃梨子です。今日は映画館の取材です。最近世間では『佐
藤と蓉子さん』という映画が流行っているみたいなので、その映画を見た方々の感想を伺
ってみましょう」
また乃梨子ちゃんだ。仕事熱心だな。その乃梨子ちゃんは映画館から出てきた人々に、
マイクを向けて映画の感想を伺った。
「すっごい良かったです。なんか普通に感動しちゃいました」
「可愛い。蓉子ちゃん可愛すぎるよぉぉ」
「佐藤もカッコイイよね? はぁ、うっとり」
「大人な映画だよね」
「このように、映画はすごい反響ぶりです。それでは映画の内容を少しご紹介します」
蓉子の私室で聖と蓉子で時間を過ごしている。蓉子の机に置かれたデジタル時計は、午
前一時二十七分三十二秒を表示していた。
背の低い小さく縁が赤く塗られているテーブルには、アイスコーヒーの入った透明なグ
ラスが二つ。開け放たれた窓からは心地の良い春風が入り込み二人を撫でる。
音が無い。動きが無い。あるのは沈黙のみ。
「抱いて……」
蓉子は聖にだけ聞こえるぐらいの小さな声でそう囁いた。
「え?」
想定外な台詞に、あまりにも間の抜けた声と表情の聖。
「ふふふ。冗談よ」
顔を上げて天井を見つめ、笑う蓉子。細い首。白い喉が笑い声に震える。
「じょ、冗談なんだ」
季節外れな量の汗をかいた聖は、グラスを手に取りアイスコーヒーを飲み干した。中の
氷がカランと涼しげな音を立てる。
「でも抱いて」
「はぁ? 冗談って言ったのは?」
蓉子の真意をはかりかねている聖は訝しげな視線を蓉子に向ける。
そんな視線を意に介さず、蓉子は聖の目を見る。
「これは本気よ。いつも祐巳ちゃんにやってたみたいに抱いてよ」
「なんだ、そんなことか……」
聖は、床に置いたクッションに座っている蓉子の細い腰に後ろから手を回し、自分の方へ
強く引き寄せ、首筋顔を押し付ける。聖は膝立ち。そのため、蓉子の体を上から包み込む
ような柔らかな抱擁。
「あれ? 『ぎゃう!』とか無いの?」
「あるわけないでしょう?」
「そりゃあそうだわ。あははは」
「はい、こんな感じで本編は進められていきます。私も志摩子さん抱きたいなぁ」
いや、ちょ、その発言は公共の電波ではまずかろう??
「以上、二条乃梨子がお伝えしました」
映像がVTRからスタジオへ変わる。祐巳や祥子さんの表情はどこかしら呆けているよ
うに見えた。
「うわぁ。いいなこの映画。お姉さま明日一緒に観に行きませんか?」
「そうね、行きましょう」
自分達がテレビに写っているってことをすっかり忘れてるのか?
「次のニュースです。本日リリアン女学園の体育館で行われた、太仲女子高校とのバスケ
ットボールの練習試合は、リリアンが987対23で勝利しました」
そんな点数バスケでは有り得ないから。マジで。一体どんだけスリーポイント決めたん
だか。
「本日のMVPに選ばれた可南子ちゃんのインタビュー映像をご覧下さい」
新聞部の真美さんがマイクを可南子ちゃんに向けている。新聞部が何時の間にやら報道
部に趣旨変えしてるみたいだな。
「今日の活躍すごかったですね。確か一人で七百点以上稼いだんでしたっけ?」
「はい。正確には七百四十六点です」
「これからも頑張ってください」
「火星にいる祐巳さまにも応援してもらえるように頑張ります」
ん?? 火星にいる祐巳?? なんのこっちゃ?
VTRが終了し映像はスタジオへ。というかこの番組妙にVTR多くないか?
「地球にいる祐巳さまはいつでも応援してるからね」
「地球にいる祐巳のお姉さまもいつでも応援しているわ」
じゃあ福沢家にいる俺も応援しようかな。
「明日のお天気を、志摩子さんお願いします」
「ごきげんよう。お天気お姉さん役の藤堂志摩子です。明日のお天気は、日本列島全域が
高気圧に覆われ、所により雨が降るかもしれない確率が二の九乗分の十八でしょう」
おいぃぃぃ!! 高気圧って普通晴れるだろ? しかも雨の降る確率分かりにくいった
らありゃしない。
「明日の東京の天気は多分アレでしょう」
そこで指示代名詞使うの禁止! 分からないから。ほんとに。
「明日の東京の降水確率は、上から88、57、82でしょう」
それ誰のスリーサイズだよ!? ま、まさか志摩子さんのか??
「明日の東京の最低気温はマイナス三百度、最高気温は三百度でしょう」
カット!! 摂氏って最低は−273,15度だったはず。だからマイナス三百度とか
有り得ないだろ?? というか、さっきから柔らかな笑顔でとんでもないこと連発で言う
のは止めような志摩子さん。
「今日のニュースはおしまいです。それではまたお会いいたしましょう。ごきげんよう」
「あまり出番が無かったような気がするけれど、ごきげんよう」
はぁ、俺もつっこむのに疲れたから寝る。お休み。
FIN
初版2006年4月18日
作後贅言
今回はテレビショッピングではなくて、「ニュース番組」です。
さり気に主要キャラがほぼみんな出ています(名前だけも含む)。でも、あまり豪華な気
がしないのはなんででしょうね?(笑
さて、中盤あたりに何か書いてますね。聖蓉モノにも見えるのですが流石に短いので、作
中作ということにしておきませう。いわばオマケみたいなものですね。
それでは、また。
ユラ
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