「小ネタ祭り」
Written by 榎木津巽
小ネタその1
時は十二月の末。その寒さゆえに空気は引き締まり、更なる緊張感を生み出していた。
支倉の道場にて対峙するは有馬菜々と支倉令。菜々は面や小手を初めとする完全装備、そ
れに対して令は、ジャージ姿だった。
――私はどっちを応援すればいいんだろう……。というか令ちゃんがやたら軽装なのは余
裕だからなのかな。
由乃は二人の様子を道場の隅で、ただじっと見守ることしか出来ないでいた。
「私はいつでも構わないよ」
「私もです」
わかった、と令は菜々に向かって右手拳を向け、菜々は竹刀を握る手に力を込め、上半
身だけを左へ九十度向け、竹刀は垂直に天へ向いたままの姿勢。
――菜々……。令ちゃん……。どうして十五メートルも離れているの。剣道って近距離で
行うものじゃないの?
令が僅かに視線を落としたその刹那。左足を上げて大きく振りかぶって右手に握り締め
ていたボールを投げる。
菜々は飛翔するボールを全力でもって振り抜いた。
「野球かよ!!」
小ネタその2
ある晴れた日のこと。季節は秋まっしぐらの冷涼な気候。天気は快晴と外で遊ぶには絶
好の日和だった。
「ねぇ志摩子さん。こんなにいい天気だからさ、缶蹴りやろうよ」
「缶蹴り?」
周りが気を利かせてくれてのかは定かではないが、薔薇の館には乃梨子と志摩子の二人
だけしかいなかった。
「そう。缶蹴り。たまには中庭で走るってのもいいでしょう?」
「乃梨子、それではスカートのプリーツが乱れるしセーラーカラーが翻ってしまうわ」
「いいの! そんなことは気にしなくても」
「でも……」
乃梨子は志摩子の腕を掴み、有無を言わせず半ば強引に外へと連れ出した。
爽やかな風が時折中庭を吹きぬけ、志摩子の柔らかい髪が風になびく。乃梨子の視線は
志摩子に釘付けだ。
始めは外出を渋っていた志摩子も外気に触れたせいか、表情はいつにも増して穏やかで
肌を撫でる風に両手を広げながら全身で受けていた。
「乃梨子の言うとおり。こんなにいい天気の日には外に出てみるのもいいわね」
「でしょ? ところで缶蹴りのルールって知ってるよね?」
「えぇ。鬼が数を数えている間に隠れて、鬼が探し回っている隙に缶を蹴り飛ばす遊びで
しょう」
「そうそう。それ。じゃあ始めは……志摩子さんが鬼やってよ」
「分かったわ。私が百数えるからその間に隠れてね」
うん、と頷いた乃梨子は志摩子が数え始めると側から離れ、志摩子は乃梨子がどこから
か拾ってきた空き缶(缶入り汁粉のスチール缶)を足元に置き、目を閉じて数を数えだし
た。が、しかし……。
「十一。十二。十三?」
カウントを止めて志摩子は下を向いた。やたら足元がスースーする。
「乃梨子、そんなところで何をしているの?」
「何をって、隠れてるの。志摩子さんのスカートの中に」
「あのね、そこに隠れるのはダメよ」
「どうして?」
さも当然だろうと言わんばかりの真顔で尋ねる乃梨子。
「どうしてって、恥ずかしいわ」
「私はちっとも恥ずかしくない」
乃梨子は鉄仮面を被っているかのように全く表情を崩さない。そしてその表情には「私
は間違っていませんが」というニュアンスが簡単に読み取れる。
「と、とにかくスカートの中に隠れるのは禁止よ。いい? 乃梨子」
「分かったよ志摩子さん。それじゃあ悪いけどまた一から数えてくれない?」
ほっと、安堵の相を浮かべた志摩子は再び気を取り直してカウントを始めた。だがしか
し……。
「七。八。九? あら?」
志摩子は先ほどよりもゆっくりとした動作で首を下に向ける。足元がやたら涼しげなの
は気のせいだと思いたい。
「乃梨子? スカートの中には隠れないで」
「あっ! ゴメン志摩子さん。つい乃梨子としたことが。ウッカリさんだね私って」
てへ、っと可愛らしく微笑む乃梨子。志摩子は物凄い勢いで表情が緩んでいったが、な
んとか理性の大半を動員して気を引き締める。
「乃梨子、私のスカートの中は隠れちゃダメよ。いい? 次は気を付けてね」
「うん分かった」
返事だけは素晴らしく良かった。
志摩子は気を取り直して、また律儀に一から数え始めた。
「一。二。三!!」
全力で足元が冷えるというよりかもうスカートが全開で捲られた。
「乃梨子?」
「ついつい手が滑ってしまって。ゴメンなさい志摩子さん。でも……」
乃梨子は志摩子を後ろから抱きしめ何かを囁いた。
「外に出ようって言ったのは乃梨子なのに仕方ないわね」
「野外プレイもいいけれど館でじっくりと鑑賞したいから」
二人は手をつないで館へと戻っていきましたとさ。めでたしめでたしな訳がない!
志摩子さんいいのかそれで。本当にいいのか!?
小ネタその3
私、小笠原祥子はMahoo!テレビショッピングのスタジオに来ていますの。本番ま
での何時間かの間、スタジオではあらゆる意味で有名になってしまった祐巳の「歌による
商品紹介」のリハーサルが行われていたの。
今まで何度も祐巳と出演していたけれども、実のところ歌のリハーサルを目にするのは
初めてのことだったりするわ。だから普段見ることの出来ないものをこの目に収めること
が出来るとあって、私の胸は期待に膨らんでいるの。
今回の商品は「訳すぜベイビー」という自分の喋った言葉を、設定した言語にリアルタ
イムで翻訳してくれる、通訳という職業をこの世から抹消せしめんばかりのハイテクなも
のらしい。開発元が小笠原グループの関連企業なだけあって素晴らしいものを作るわね。
私のお姉さま、水野蓉子さまがギターのチューニングを終えたみたいだわ。
「お待たせ。それでは始めましょうか。用意はいい? 祐巳ちゃん」
どういったいきさつで、このメンバーが集まったのか未だに不明なのだけど、ギターは
蓉子さま、ベースは江利子さま、ドラムは聖さまでボーカルは祐巳が固定メンバー。
聖さまがスティックを鳴らしてリズムを取り、四拍後に演奏が始まった。
何度聴いても蓉子さまのギターには感心させられる。私もピアノだけではなくギターも
習っておけばよかったと少し後悔していたのだからお姉さまの技術は本物ね。大学生にな
ったら始めてみようかしら。
蓉子さまの高速疾走極悪重低音のバッキングも素晴らしいけれど、聖さまの叩きもかな
りすごいと思う。手元にメトロノームが無いから詳細な値は分からないけれど、おそらく
この曲のBPM(曲の早さを示す指標で、一分間あたりに鳴らす四分音符の数)は二百十
はあるはず。当然ツーバス。あぁ、堪らないわこの重低音の嵐。
驚異的な前奏が終わると祐巳はマイクを口元に近づけた。頑張って、祐巳。
『あなたのハートをキネンシス』
歌詞 本を売〜るな〜らブックオフ〜
対訳(マリア様はいつでもみていらっしゃる)
ネルネルネ〜ルネフォーユー あ、えっと僕ドラいモン
(あなたがクシャミをする時もコーラを飲んだ後にげっぷするところも全部)
ロサフェティ〜ダ、ロサキネンシ〜ス、ロサギガンティ〜アッギガンティ〜アッギガン
ティ〜アッ
(例えば学校では大人しくしていても放課後になったらはっちゃけるとことか)
ハイメガ粒子砲撃て〜っ
(萌えになんて興味はありませんわとお澄まししてるクセに愛読書は『アニメージュ』)
マイネームイズナターリアボシュノビネツィア え? あなたがマリア様?
(そんなあなたをマリア様はみていらっしゃる。いつでもそこにマリア様が)
ドリルドリルドリルドドドドドドドリルドリルドリルドドドドドド
(上からも下からも右からも左から つまり全方位からみていらっしゃる)
はんっ。私を萌えさそうと思うならばその三倍は持って来いというのだ
(己に素直になれ。欲望をむき出しに そんな重たい鉄仮面を脱ぎ捨てれば)
ぐあぁぁぁ!△L×◎F=〜H@乙!!
(楽園は、ほら直ぐそこに)
ゴメンナサイ
(ボーイズアンドガールズ ビー アンビシャス)
ちょっと。ちょっとちょっと何なのよコレは!! 私の間違いでなければ歌詞がとんで
もないことになっているというか超絶に意味不明。英語やフランス語を日本語に訳してく
れたり、日本語をイタリア語に通訳してくれるるものとばかり思っていたのだけれど、こ
こまで訳の分からないものまで綺麗に訳してくれるだなんて……本当にすごいわね。
ちなみに今回の収録の放送日は……まだ未定らしいわね。いつか放送される時が来るで
しょう。その時にまたお会いしましょう。それではごきげんよう。
あら。祐巳がリハーサルを終えたようね。
「お疲れ様祐巳」
「ありがとうございますお姉さま……」
終
作後贅言
僕の書くネタの半分は閃きです(笑
閃きと言っても突然パッと思いつくときもあれば、書きながらあぁこれはイケルかもと湧
き出してくるときもありますね。今回は半々ぐらいでした。はい。
さて、久しぶりに歌モノをやってみましたがこれはヒドイ(笑
あれ、対訳がなかったら本物の意味不明さですよ。
何をどうすれば「ぐあぁぁぁ!△L×◎F=〜H@乙!!」が「楽園は、ほら直ぐそこに」
って訳せるんでしょうね。
僕には全く分かりません。詳しくは開発元へお尋ねくださいませ(笑
それではまた。
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