「あなたのために異議ありと叫ぶ File2」


written by ユラ



9月15日 8:21 一年桃組


一年桃組に限ったことではないのだが、朝からの話題といえば「祥子の窃盗容疑」についてであり、高等部はそれ一色に染まっていた。

右を向けども左を向けども、廊下や教室等の到る所において、この話題以外の事柄は無かったと言っても過言ではない。

たった一生徒の問題にしてはいささか喧騒が過ぎるようではあるが、祥子が次期薔薇さま候補であるということも騒ぎの一因である。

「ごきげんよう祐巳さん」

「ごきげんよう桂さん」

「話聞いたよ、今日の裁判で祥子さまの弁護するって。何か私に出来ることがあったら言ってね」

祐巳は友人の親切に心底感謝し、せっかくの好意に甘えさせてもらうことにした。


〜桂さんの近況〜


「じゃあ、昨日クラブ活動とかで何か変わったことってあったかな?」

なんとはなしに訊いた質問に桂は右手人差し指をクチビルに当てながら考えること数秒。

「事件と多分関係無いと思うんだけどね、テニス部の備品箱が失くなっちゃったの」

(衣装が失くなった備品箱が失くなった? う〜んもう少し詳しく訊いてみよう)

「それは箱だけが失くなったの?」

「そうなの。中身は無事で、箱だけが誰かに持って行かれてしまったの。変な話よね。箱なんて何に使うつもりなんだろう??」

『テニス部備品箱』を証拠品ファイルに綴じた。


『テニス部備品箱』 事件当日に誰かに持ち去られた備品箱。現在もまだ行方不明。


(普通持ち去るとしたら中身のほうだと思うけど、どうなんだろう。その「箱」に何か意味があるのかな)

「もう他に変わったことって無かった?」

「変わったとまでは言わないんだけど、ちょっと気になることなら」


〜気になること〜


「その気になることってどんなこと?」

桂は右手人差し指でクチビルを触りながらその「気になること」について語り出した。

「昨日箱が失くなったんだけど、その日のうちに新しい箱が届いたの。でも、それだけだと前のは古いから交換したんだなって思うけど、

私達が体育倉庫に行ったとき箱の中身がばら撒かれていたの。交換したのならそんなことしないよね?」

(ということは、箱はやっぱり交換のためじゃなく、何らかの意図で持ち去られたってことかな)

「こんな変な話、役に立つかな?」

「うん大丈夫。ありがとう桂さん」


桂との会話を終えた祐巳は自分の席に着き、今までの証拠品を検証しようとした。

「ごきげんよう祐巳さん。調査のほうは進んでる?」

「あっ、蔦子さんごきげんよう」

蔦子は昨日と同様にお気に入りのカメラをぶら下げながら祐巳と挨拶を交わす。

「あのね祐巳さん……」

「どうしたの蔦子さん??」

急にかしこまる蔦子の様子をいぶかしむ祐巳。

「今日の裁判に私が証人として出廷することになったの」

少し申し訳なさそうに自身のことを伝える蔦子。

「そうなんだ……」

(もしかして、これ紅薔薇さまが仕組んだのかな?)


〜今日の証言〜


「蔦子さんは今日の裁判で何を証言するの?」

「この話祐巳さんにしたっけ? 実は私第一発見者なの」

初めて耳にする事実に祐巳は盛大に驚きの色を露にした。

「そ、そんなこと訊いてなかったよ!! どうして言ってくれなかったの??」

「いや、まぁとにかくごめん。今度祥子さまの写真あげるからそれで勘弁してよ?」

祐巳は祥子写真というエサに釣られそうになったが、とりあえず話を元に戻す。

「今日はどんなことを証言するの?」

「あんまりしゃべるとマズイから、少しだけね。私が証言することは、祥子さまが部屋に入ったことと、証拠写真についてなの」

(そういえば写真もう現像終ってるはずだけど、どうなんだろう)

「昨日撮った写真はもう出来上がってるの?」

「うん。現像は終ってるけど、裁判まで見せられないの。ごめんなさいね」

すまなそうな蔦子はぽりぽりと頬をかいた。

「じゃあもう少しだけ話を訊かせてよ。新聞部の築山三奈子さまのことなんだけど……」


〜三奈子について〜


「昨日三奈子さまに訊いたんだけど、事件のとき蔦子さんを館の外で見たって」

「あぁ、うん、私は館の周辺にいたから見られても仕方ないけど、それがどうかしたの?」

(そう、もし三奈子さまが言ってることが正しければ、蔦子さんも同じこと言うはずなんだけど……)

「昨日は蔦子さん中庭には行っていないの?」

「中庭? 行ったというか、いたよ。」

「事件が起こる直前に、中庭で祥子さまと三奈子さま以外の誰かを見かけたかな?」

左手人差し指でほほを押さえながら昨日のことを思い出す蔦子。そして思い出せたのか、両手をぱんと合わせ出来事を述べ始めた。

「そういえば令さまを見たわね。結構大きな段ボール箱を抱えていたと思うけど?」

(なるほど。ということは三奈子さまは……)

「ところで、蔦子さんは三奈子さまとお話されたの?」

「したよ少しだけ。祥子さまの様子が変だって言ってたけど。その後中庭からクラブハウスの方へ戻ったみたいよ」

その話を訊いた祐巳は少し安心したような表情を浮かべていた。

(これで一つ崩すことができる。あとは三つ。本番までに少しでも情報が欲しいな)

「ありがとう蔦子さん。すごく参考になったよ」

「そう? じゃ、また後でね」


同日 12:14 新聞部 クラブハウス


昨日の三奈子の「また遊びに来て構わないから」という発言を額面通りに受け取った祐巳は、新聞部のクラブハウスへ遊びに(調査のため)行った。

「お邪魔します」

横開きのドアを開けると、そこには三奈子の姿はなく彼女の妹である山口真美が自分のデスクに座って昼食を摂っていた。

「ごきげんよう福沢祐巳さん。私は築山三奈子の妹、山口真美と申します」

「ごきげんよう真美さん、はじめまして。あの、いきなりだけど、三奈子さまはどちらに?」

お弁当の箸を止めた真美は、祐巳の質問に答えた。

「お姉さまの居場所は私にも分からないわね。何か訊きたい事があるのなら私でよかったら相手になるけどどう?」

(まぁ、この際真美さんの話を訊くのもいいかな)


〜三奈子の行動〜


「昨日、事件があったころ三奈子さまはどちらにいらっしゃったかご存知ですか?」

デスクに置いてあるボールペンを一本手に取って、それをくるりくるりと指で器用に回しながら思い出す真美。

「夕方四時過ぎはお姉さまはこの部屋で記事を書いてた思うわ」

「どんな記事を書かれていたんですか?」

まだ下書きだけど、と言って真美は「リリアンかわら版」の次の号の見本を見せた。

「まだ書きかけなんだけど、お姉さまは昨日はこれの記事を書いていたはずよ」

『リリアンかわら版見本原稿』を証拠品ファイルに綴じた。


『リリアンかわら版見本原稿』 書きかけの未完成原稿。執筆者は築山三奈子。


〜原稿〜


(三奈子さまのウソを確実に証明するには、もう少し手掛かりが必要だな)

「この原稿についてもう少し詳しく話を訊かせてもらってもいいかな?」

「記事の内容は無理だけど、その他のことならばお答えするわ」

「三奈子さまはいつもどうやって原稿を書かれているの?」

真美はボールペンを指でくるんと回しながら答えた。

「いつもあのノートパソコンで書いてるわ。出来上がった原稿はプリントアウトして、レイアウトを決め、印刷してるの」

真美のデスクの隣が三奈子のデスクであり、そのデスクの上には一台のノートパソコンが置かれている。

常に電源が入っているようで、画面はスクリーンセイバー独特のカラフルなパイプが絡まるアニーメーションが表示されていた。

「真美さん。記事の内容は見ないから、いつ記事が更新されたか確認してもいいかな?」

祐巳の意図を図りかねている様ではあったが、ボールペンをアゴに当てて思案した真美はオッケーを出す。

「多分祐巳さんにはどのファイルか分からないと思うから私が見てあげる」

三奈子のノートパソコンを操作し、最新のリリアンかわら版の原稿ファイルの最終更新日時を調べた。

すると、それは「9月14日 16時27分」であることが分かった。

『原稿ファイル』を証拠品ファイルに綴じた。


『原稿ファイル』 三奈子のノートパソコンに入っている原稿ファイル。最終更新日は9月14日 16時27分


「ありがとう真美さん」

「いえいえどういたしまして。また何かあったら寄ってね」


同日 某時刻 薔薇の館二階


事件に関係のありそうな場所と言えば、残りはこの館の二階と屋根裏部屋しかない。

そう思い立った祐巳は自分の昼食を我慢してまでも調査を開始した。

薔薇の館には人気が無く、誰もいない館はひっそりと静まり返っている。

いつもは誰かが二階で昼食を摂っているのだが、事件翌日ということもあって誰の姿もない。

しかし、この無人の館は今の祐巳にとっては好都合だった。

(誰もいないから、人目をはばかることなく調査が出来る。待ってて下さい祥子さま)

昨日、令が言ったとおりビスケット扉を開けたすぐ側に「小道具箱」が置かれている。

シンデレラの劇で使用する小道具が色々と箱には入っていたが、事件の手掛かりとなりそうなものは無かった。

祐巳は三奈子からもらった「館見取り図」を眺め、屋根裏部屋へ向かおうとする。

(部屋には梯子や階段なんて無いんだけど、どうやって行くんだろう?)

ふと、部屋の天井を見上げる祐巳。

(あっ! 天井に取っ手が付いてる。これに何かを引っ掛けて下ろせるかも)

祐巳は一階の部屋へ向かい、急いでシャッター棒を探し始めた。そしてそれは直ぐに見つかり、再び二階へと。

(ふぅ。ちょっと疲れてきたな。でも、もう少しで……)

先ほどの場所に立ち、シャッター棒の先を取っ手部分に引っ掛けそれを引くと梯子が下りてきた。

(やった。これで屋根裏部屋に行ける)

木製の古そうな梯子を、やや恐々と上ってゆく祐巳。

(この梯子大丈夫かな? さっきからギシギシうるさいんだけどポッキリ折れないでね)

梯子を上り終えると、そこは暗く埃っぽい空間が広がっていた。普段使用されることの無い場所なため衛生管理を望むのは無理がある。

(ゴ、ゴキブリとかいないよね?? ネズミも勘弁してほしいけど)

屋根裏の光源は小窓から差し込む太陽光のみであるゆえ、視界が非常に悪い。外は真昼間なのに関わらずここは真っ暗闇である。

この屋根裏部屋は高さがちょうど人一人分、厳密に述べれば生徒一人ぐらいの高さのため、成人男性では少し腰を屈めないと頭をこすってしまう。

そんな屋根裏部屋で祐巳は恐る恐る調査をし始めた。

(懐中電灯持ってくればよかったよ……)

ざっと周りを見渡して怪しそうな場所は一つ、それは屋根に備え付けられた小窓である。

暗さのため近寄らないことには、はっきり確認できないが「何か箱のような物」が置いてあった。

一歩歩くごとに軋む床に怯えながら、及び腰でそこへ進んでいく。

(ほんと恐いなこの場所。あっ? これって……)

辿り着いた祐巳はそこでいくつかの証拠品を発見した。その証拠品とは「ロープ」と「テニス部備品箱」である。

(何でこんなところにロープが? あと、今朝桂さんが言ってた備品箱もどうしてここにあるんだろう?)

『ロープ』とを証拠品ファイルに綴じ、『テニス部備品箱』のデータを書き換えた。


『ロープ』 およそ三十メートルほどの長さがあるロープ。屋根裏部屋の小窓の側で発見。


『テニス部備品箱』 テニス部が使用しているプラスチック製の箱で、フタで閉じることが出来る。このフタには固定された取っ手が付いている。

          屋根裏部屋の小窓の側で発見。箱の色は真っ黒で底に泥がこびりついている。


この二つの証拠品を不審に思った祐巳は、窓を開いて地面を覗いてみた。

(地面の四角い模様みたいなものは何だろう? この形ってもしかしてこの箱と同じ?)

しばらくの間うろうろと証拠品を探していた祐巳だったが、昼休みももう間もなく終ってしまうため教室へ戻ることにする。

(でも最後にさっきの模様が何なのか確かめてから戻ろう)

上から見えた四角い模様、それは「何かが」置かれていた泥のアトであった。

事件の前日には雨が降っていたため、地面はぬかるんでいた。そこに何か物を置けばその置いたアトが残ることも当然ある。

このアトは一階の部屋の窓の側に残されており、ここから事件があった部屋の様子を容易にうかがい知ることも可能であった。

(これどうみても備品箱と同じ大きさだよね。ちょっと試しにサイズを測ってみよう。……ほぼ一緒。ということは衣装はここから屋根裏へ?)

『泥のアト』を証拠品ファイルに綴じた。


『泥のアト』 事件現場の側にある窓に下に残されていた四角いアト。『テニス部備品箱』とほぼ同じ大きさ。


(証拠品はおそらくこんなもんかな。あとは今日の裁判で祥子さまの無実を証明するだけ。絶対に負けませんから紅薔薇さま!!)


9月15日 15:52 薔薇の館二階


「祐巳……」

祥子が不安そうに祐巳の方を見つめている。

「大丈夫ですから祥子さま。きっと無実になりますから元気出してください」

事件があって以来、祥子には覇気と言うものがすっかり失われてしまっていた。普段の彼女ならばこんな弱気な態度を人に見せるはずが無い。

「そうね。祐巳の言うとおりだわ」

祐巳と祥子のもとへ白薔薇さまこと佐藤聖が歩いてやってきた。

「やっ、祐巳ちゃん。どう? 今日の裁判」

「白薔薇さま! 今日は……絶対に無実を証明して見せます。」

「そうそう、そのいきだよ。私の方もいろいろとやってみたんだけど、どうにもね蓉子の根回しがあるみたいでなかなか有力な情報がねぇ」

困ったもんだと一つため息をつく聖。

(ここまできたらやるしかない!!)

「祥子さま、もう裁判が始まるみたいなので行ってきますね!」

「そうそう、今日の裁判私も弁護側として一緒に出廷するからね。がんばろうね祐巳ちゃん」

「はい!! 頑張りますから!!」


同日 16:00 薔薇の館二階 特設裁判所


法廷には、裁判長である学園長、弁護側には祐巳と聖が、検察側には蓉子が出廷している。

被告人席には当然祥子が座っており、他には陪審員として藤堂志摩子、鳥居江利子、山口真美の三名が出廷していた。

部屋には一般生徒が傍聴人としてひしめきあうように座っており、今ここには容量の限界に近いぐらいの人間が集っている。

薔薇裁判は、裁判長と三名の陪審員の意見を調整した結果が反映され、この陪審員としての出廷は希望者によって構成されていた。

「これより本日の二年松組小笠原祥子さんの裁判を始めたいと思います。では始めに検察側から事件の概要を説明してもらいます」

検察側である水野蓉子は、事件の概要が記されたメモを読み上げ始める。

「先日9月14日の午後四時十五分、薔薇の館一階に保管されてたシンデレラの衣装が盗まれました。その時間の前後に部屋へ出入りしていた

小笠原祥子を衣装の窃盗容疑の容疑者として生徒指導室へ呼び出しました」

「分かりました。ですが小笠原さんの犯行の現場を目撃した生徒はいるんですか?」

裁判長の質問に、自信満々の面構えで答える蓉子。

「それはもちろんです。今からその証人を呼びます。第一発見者の武嶋蔦子さん、証言をお願いするわ」

呼び出された蔦子は証人台へ向かい、これより見たこと、聞いたことについて証言を始める。


蔦子の証言 〜証拠の写真について〜


「あの、ほら私カメラマンでしょ? だから常に被写体を追っているの。

事件があった日は館の周りをうろついていたの。そしたら祥子さまが部屋に入ってくるのを見たわ。

私がいた場所は館の外で、その近くの窓から様子を見ていたの。

祥子さまが部屋の中をうろついているところや、衣装を着せていたマネキンに手を触れるところを見たし、その場面をカメラで撮ったわ。

そして祥子さまが部屋から出て行くのも見てるの」


「なるほど。では武嶋さんはほとんど一部始終を見ていたのね」

裁判長が確認するように蔦子に訊ねた。

「えぇ、はい、そうです」

「検察側はその場面を撮影した写真とネガを証拠として提出するわ」

『現場の写真』と『写真のネガ』を証拠品ファイルに綴じた。


『現場の写真』 祥子が衣装に手を触れている。写真には他の誰も写っていない

        部屋の窓は閉まっている。窓ガラスが一枚欠けている

        以上四つの事実が確認できる。


『写真のネガ』 二十七枚撮りのフィルムの二十七枚目に証拠写真が撮影されている。


「これを見ると小笠原さんが犯人としか思えませんね」

(いやいや、尋問する前から決め付けないで下さいよ……)

「裁判長の心象は良くないね。でも負けちゃダメだからね祐巳ちゃん」

聖の励ましに祐巳は力強くうなずいて応える。証言が終ると次は弁護側の尋問が待っている。

証人の言葉にウソはないかを確かめるための弁護人の権利である。


尋問開始 〜証拠の写真について〜


「あの、ほら私カメラマンでしょ? だから常に被写体を追っているの」

「事件があった日も?」

蔦子は左手人差し指でほほを押さえながら発言する。

「そうよ。時間が許すなら何時でも何処でも美しき被写体を追っているの」

(うぅん。それってほとんどストーカーじゃないのかな?)

「証人。どうぞ先を続けて構わないわ」

「事件があった日は館の周りをうろついていたの。そしたら祥子さまが部屋に入ってくるのを見たわ。

私がいた場所は館の外で、その近くの窓から様子を見ていたの」

「他には誰も部屋にいなかったんですか?」

やれやれと肩をすくめて呆れる蓉子は、親切に(その割にはやけに嫌味が含まれてもいたが)祐巳に教えてあげた。

「祐巳ちゃん。ちゃんと証拠品は確かめておかないとダメよ」

(え? あっ?? 『現場の写真』には誰も写っていないということはやっぱり誰もいなかったんだ)

「祥子さまが部屋の中をうろついているところや、衣装を着せていたマネキンに手を触れるところを見たし、その場面をカメラで撮ったわ。

そして祥子さまが部屋から出て行くのも見てるの」

「では犯行の瞬間も見ていたはずですよね?」

蔦子は左手人差し指でほほをトントンと叩きながら尋問に答えた。

「そうよ。見てたわよ。それが何か問題でもあるのかしら?」

「異議あり!! 本当に見たんですか蔦子さん?」

台をバシンと両手で叩いて異議を唱える祐巳に少し面食らいながらも蔦子は続ける。

「だからそう証言したでしょ」

「もしそうだとしたら、どうしてその瞬間の写真が提出されていないんですか!」

祐巳の発言に法廷がどよめきに包まれる。それにまず反応を示したのは陪審員である江利子だった。

「祐巳ちゃんの言うことも別に変じゃないわね。せっかくカメラがあったのにこの写真は『その瞬間』じゃなくて『直前』が写されてる」

「黄薔薇さまのおっしゃるとおりです。私もそれは少し気になりましたから」

江利子に続いて志摩子が自身の持つ感想を述べた。

「蔦子さん。もしかしてあなたはこれのせいでその瞬間を撮影することが出来なかったのでは?」

『蔦子のフィルム』をつきつけた。

「あっ、それは私のフィルム」

祐巳は腰に手を当てながら自身の推理を語り始めた。

「何時でも何処でも美しき被写体をそのカメラに収めようとしている蔦子さんが、こんなシャッターチャンスを

みすみす逃すはずはありません。何か事情が無い限り。そう、その事情とはフィルムが切れてしまったことなのです!!」

「うぅぅ……」

あからさまにうろたえる蔦子に救いの手が差し伸べられた。その手の主は当然蓉子である。

「異議あり!! 祐巳ちゃん。どうして蔦子さんのフィルムが切れていたと思うの? その理由を説明してくれないかしら」

蓉子の異議に祐巳は手にある証拠品を基に自信を持って答えた。

「それは簡単なことです。なぜならこの写真が撮られた際に使用されていたフィルムはメーカーに注文しないと手に入らない

特別な代物です。二つ有ったうちの一つは使われ、残りのフィルムも一つしか残されていません。

ということは写真撮影時、蔦子さんには予備のフィルムがなかったと言えます!!」

「そ、そうなの!? 証人?」

スバリ理由を示されわずかにうろたえの様を呈している蓉子は蔦子に確認をとる。

「えっ、いや、その、祐巳さん? 事件の時には予備のフィルムが無かったとしても、その時に使ってたフィルムが切れていなかったという

ことも有り得るでしょ? ね?」

蔦子の抗弁に祐巳は『写真のネガ』をつきつけた。

「異議あり!! このネガをよく見てください」

裁判長はネガを天井の照明にかざして見てみる。

「どうやらこのネガは全て撮り終わっていますね」

「そうです、この二十七枚撮りのフィルムの二十七番目にこの証拠写真が撮影されているということは、犯行の瞬間にはフィルムが

切れていたとしか言えないのです!!」

「うひゃぁぁぁぁ!!!」

祐巳の異議の衝撃に蔦子のメガネがズレ落ちてしまった。

「静粛に! 静粛に!」

騒ぎを鎮めようと裁判長は木槌を叩いて傍聴人に静粛を促す。

「ナイス祐巳ちゃん! これでカメラちゃんの証言は崩れたね」

(カメラちゃんって蔦子さんのことなんだろうなぁ)

「祐巳ちゃん。証人は一人だけじゃないのよ。裁判長、検察側は次の支倉令を証人として召喚します」

「分かりました。次の証人の話を聴きましょう」

蓉子に促されて次に証言台に立ったのは支倉令だった。

「では、証人。早速証言を始めてもらおうかしら」


令の証言 〜祥子が部屋を出た時〜


「祥子が部屋に入って行くのは見ていません。

そのとき私は美術部から出来上がったばかりの小道具を箱に入れて、それを運んでいましたから。

館に着いた時にちょうど由乃がいたので、二階へ運ぶのを手伝ってもらいました。

そのときに祥子が部屋から出て行くのを見たんです」


「小笠原さんが部屋に出入りしていたことは間違いないようですね。では弁護人、尋問を始めてください」

(令さまの証言、妙に表現が薄いような?)


尋問開始 〜祥子が部屋を出た時〜


「祥子が部屋に入って行くのは見ていません」

「令さまは出て行くところしかみていないのですね?」

右手人差し指でこめかみを押さえながら令は尋問に答える。

「そう。私が用事を頼まれていたからね」

(ここは問題なさそうだな。話の続きを聴いてみよう)

「そのとき私は美術部から出来上がったばかりの小道具を箱に入れて、それを運んでいましたから」

「それ、とはこれですか?」

祐巳は証拠品ファイルから『小道具箱』のデータを令に見せ、確認をとった。

「うん、そう。今は裁判があるからもうどけてあるけどね」

「祐巳ちゃん、令に頼まれ事があったのは事実だね。だから先を聴こうか」

「館に着いた時にちょうど由乃がいたので、二階へ運ぶのを手伝ってもらいました」

「ということは、館に着くまでは令さまお一人で運ばれていたんですか?」

右手人差し指でこめかみをカリカリとかきながら令は述べる。

「一人っきりでだよ。由乃には少ししか手伝ってもらってないから」

(やっぱり由乃さんはウソをついているのかな……?)

「そのときに祥子が部屋から出て行くのを見たんです」

「令さま。もう少し詳しく証言して下さい」

「えっと、私達は階段から見下ろすような格好で見ていたの、だから後姿しか見えなかったね」

ここで裁判長はカツンと木槌を一打ちした。

「どうですか弁護人。この証言は重要なんですか?」

「えぇ、重要ですので証言に付け加えてください」

びしっと指を指して祐巳は証言の追加を要求する。

「よろしい、証人はこのことを証言に付け加えてください」

「私達は、階段から祥子の姿を見たので後姿しか見えなかったの」

「では、祥子さまが何かを持っていても見えませんよね?」

「うっ、それは……」

「異議あり!! 祐巳ちゃん、祥子が何も持っていなかったと言えるのかしら?」

(うぅそれは……立証できないか)

「立証できないようね。裁判長、次の証人、島津由乃さんを召喚します」

カツンと木槌を叩いた裁判長は証人の召喚を認めた。

「では、証人。あなたが見たことを私達に話してくれないかしら」


由乃の証言 〜目撃したこと〜


「祥子さまが部屋に入って行くところをちゃんと見ました。

確か時間は四時を少し過ぎたぐらいだったと思うけど。

しばらくして祥子さまが衣装を手に持って出てきました」


「これは有力な目撃証言のようですね」

(もろに見てたんだ由乃さん。でも、一つおかしな点がある)

「さて祐巳ちゃん、どうぞ尋問を始めていいのよ」

(紅薔薇さまもかなり強気だ。でも、負けない!!)


尋問開始 〜目撃したこと〜


「祥子さまが部屋に入って行くところをちゃんと見ました」

「それは何処でですか?」

三つ編みのお下げをいじくりながら祐巳の尋問に答える由乃。

「薔薇の館のロビーで見たの」

「では、どうして由乃さんはロビーにいたんですか?」

祐巳の尋問に対して蓉子は即座に異議を申し立てた。

「異議あり!! 祐巳ちゃん、今は由乃さんが何処で何をしていたのかではなくて、由乃さんが何処で何を見たのかが問題なの」

蓉子の異議に裁判長は木槌を鳴らして、それを認めた。

「検察側の異議を認めます。弁護側はもう少し尋問に注意をして下さい」

(うぅ、注意されてしまった……)

「大丈夫祐巳ちゃん、まだ負けたわけじゃないから」

聖に励まされ、祐巳は尋問を続ける。

「確か時間は四時を少し過ぎたぐらいだったと思うけど」

「それは間違いないですね?」

「腕時計が正しければ、確か四時十分か十五分ぐらいだったと思う」

(この証言には特に問題はなさそうだ)

「しばらくして祥子さまが衣装を手に持って出てきました」

「異議あり!! 由乃さん、いいですか、祥子さまが手に持っていたのはこれなんです」

『絹のハンカチ』をつきつけた。

「祐巳さんそれは?」

「そもそも、何故祥子さまがあの部屋に行ったのか。その理由の一つがこの絹のハンカチです。事件当日の衣装合わせの際に祥子さまは、

このハンカチを失くされました。そして、その失くしたハンカチを探し出そうとあの部屋へ行ったのです。

ですから、部屋から出てきた祥子さまが手に持っていたのは衣装ではなくこのハンカチだったのです!」

「えぇぇぇぇぇ!!」

祐巳の異議に由乃は冷や汗をダラダラ流してうろたえている。

「ちょ、ちょっと待って下さい。あの、証言をし直していいですか?」

カツンカツンと木槌を二度打ちした裁判長は、やや不審気な目で由乃を見ながらも証言の修正を認めた。

「島津さん、証言は正しくして下さい。あなたの信用に関わりますよ」

「はい、すいません……」


由乃の証言 〜目撃したこと・2〜


「だって私は館の出入り口から見たから、ちょっと勘違いしていたのかもしれないけど、

部屋に入っていくときには手ぶらで、出てくる時には白いものを持って出てくるっていうことは、

やっぱり祥子さまが犯人ということになるんじゃないの? だって私は祥子さまが部屋から出るのを見たんだから」


「では、弁護人尋問を始めてください」

「分かりました」

(由乃さん、また勘違いをしているのかなぁ?)


尋問開始 〜目撃したこと・2〜


「だって私は館の出入り口から見たから、ちょっと勘違いしていたのかもしれないけど…」

「勘違いしてしまうほどロビーから部屋のドアまでって遠かったんですか?」

由乃は三つ編みのお下げをいじくりながら弁解する。

「見間違いって誰にでもあるでしょ?」

(それを言ってしまうと何でもアリのような気もするんだけどなぁ……)

「部屋に入っていくときには手ぶらで、出てくる時には白いものを持って出てくるっていうことは、

やっぱり祥子さまが犯人ということになるんじゃないの?」

「ですから、祥子さまはハンカチを」

祐巳の発言をさえぎるかのように台を右手でバシンと叩いて蓉子は異議を唱える。

「異議あり!! 祐巳ちゃん、あの状況で部屋から何かを持ち出すことって不審に思われても仕方ないでしょう?」 「それは……」

裁判長はカツンカツンと木槌を二度打ちし、証言を続けるよう促した。

「だって私は祥子さまが部屋から出るのを見たんだから」

「異議あり!! 由乃さん、あなたはロビーから祥子さまが部屋から出てくるところを目撃した、そう証言しましたね?」

由乃のお下げをいじくる手が止まった。

「そうよ、それがどうかしたの?」

「そんなはずはないんですよ」

祐巳は、『小道具箱』をつきつけた。

「由乃さん、あなたは祥子さまが何か持って部屋から出る姿を見ることができたんですか? 令さまの手伝いをしていたにも拘らず」

「そ、それは!!」

怯む由乃を一気に突き崩すべく、祐巳はさらに追い詰める。

「本当に祥子さまがシンデレラの衣装を手に持って出るのを見たんですか? 由乃さん?」

「ちょ、ちょっと待ってよ、だって令ちゃんと一緒に見たんだから間違いないはずよ!!」

「では由乃さんは、令さまと一緒にロビーで祥子さまの様子を見たと、そう証言するつもりなんですか?」

由乃は冷や汗をアヒルのタオルでぬぐいながら「そうよ」と主張する。

それを、「いいえ」と首を左右に振って由乃の発言を否定する祐巳。

「由乃さんさっきの令さまの証言ちゃんと聴いていましたか? 令さまはこう証言されました。『階段から見たので後姿しか見えなかった』と。

ですから後姿しか見えないはずなんです。どうなんですか由乃さん!!」

「い、いやぁぁぁぁぁぁぁ!!」

もともと病弱だった由乃は祐巳の異議の衝撃に気絶してしまい、保健室へと運ばれていった。

「裁判長、陪審員の意見を聴いてもらってもいいかしら?」

未だに衝撃の余韻が漂う中、江利子は裁判長に発言の許可を求める。

「発言を許可します」

「陪審員は、検察側の証人は信用に値しないと判断するわ。次に出てくる証人で決定的な証言が得られない場合、無罪の判決を下すわ」

江利子のひいては陪審員の判断に蓉子は焦りの色が隠しきれなくなっていた。

「やったね祐巳ちゃん。陪審員が味方についてくれたよ」

「そうですね聖さま! あと少しで……」

「検察側は最後の証人、築山三奈子さんを召喚するわ」

蓉子に呼ばれた三奈子は証言台に立った。

「では、築山さん証言をお願いします」


三奈子の証言 〜祥子の様子〜


「祥子さん? 見たわよ中庭で。

不安そうな顔で館の方へ歩いて行ったわ。

ちょっと様子がおかしかったから、彼女が出てくるまで庭で待っていたの。

十分ほどして彼女が出てきたから声を掛けたの。その時に手に何かを持っていたのは確かね」


「築山さんの証言を聞くかぎりでは、弁護人は小笠原さんは自分のハンカチを持っていたと主張していますが、

衣装を持って出た可能性も考えられますね。では、弁護人尋問を開始して下さい」


尋問開始 〜祥子の様子〜


「祥子さん? 見たわよ中庭で」

「他に誰か館に入って行くのを見ていませんか?」

三奈子は手に持っているメモ帳をめくりながら尋問に答える。

「武嶋蔦子さんなら館の周りをうろついていたけど他には特にいないわね」

(どうも引っかかるんだけど……。何故そこで令さまの名前が出てこないんだろう?)

「不安そうな顔で館の方へ歩いて行ったわ」

「そこで祥子さまと会話されてないんですか?」

ぺらりぺらりとメモ帳をめくりながら三奈子は証言した。

「してないけど?」

(あれ? なんか昨日と言ってることが違う)

祐巳は台を両手でバシンと叩いて異議を申し出る。

「異議あり!! 昨日お話をお伺いした時には『声を掛けた』って聴きました。どうして昨日と今日とでは話が違うんでしょうか?」

「いや、それはね……そう記憶違いね」

「築山さんも証言は正確にお願いします」

裁判長に注意され、三奈子は証言を修正した。

「不安そうな顔で館に歩いて行ったわ。彼女の様子がおかしかったから声を掛けたの」

「祥子さまは何ておっしゃったんですか?」

三奈子はぺらぺらぺらとメモ帳をめくりながら記憶を辿り、証言し始めた。

「確か、何か探し物があるからって言ってたわね」

「それで、証人は会話のあと何をしていたのかしら?」

三奈子に証言を促す蓉子。

「ちょっと様子がおかしかったから、彼女が出てくるまで庭で待っていたの」

(昨日真美さんの話と決定的に違う。理由は分からないけど、とりあえず)

「異議あり!! それは昨日真美さんから聴いた話と食い違っています」

右手で台をバンと叩いて蓉子は異議ありと発言した。

「異議あり!! 祐巳ちゃん、それは事件に関わる重要なことなのかしら? もしそうならば証拠を見せてちょうだい」

「もちろんこれは……重要なことです」

祐巳は腰に手を当ててきっぱりと言い放ち、裁判長は木槌をカツンと一打ちして祐巳に証拠品の提出を求める。

「弁護人、その証拠品を提出して下さい」

祐巳は『リリアンかわら版見本原稿』をつきつけた。

「これは何ですか弁護人?」

「これは次の号のリリアンかわら版の原稿です。三奈子さま、あなたは祥子さまと会話をされた後この原稿を書かれていたんじゃないですか?」

「いっ、えっとそれは……」

そこにすかさず蓉子は異議を唱え、ふぅ、とため息を漏らした。

「いい祐巳ちゃん、法廷でものを言うのは証拠品が全てなのよ。だから、祐巳ちゃんの主張を裏付ける証拠を見せてもらわないと」

「ちょ、ちょっと待って、祐巳さん。私その時間あたりには作業していないのよ? どうやって証拠品を見せるのかしら?」

三奈子は何かに怯えるような様子で、あるものをつきつけらることを恐れているようである。

(いいでしょう紅薔薇さまそして三奈子さま。これで引導を渡します)

祐巳は『原稿ファイル』をつきつけた。

「これは、三奈子さまのノートパソコンに保存されているこの原稿の作業ファイルです。最終更新日は昨日の四時二十七分となっています。

今日同じ新聞部の真美さんから聴いた『四時過ぎに作業をしていた』という話とも辻褄が合います」

「そんなバカな!!」

「うぅぅぅぅぅ……」

焦りを隠せない蓉子と、冷や汗ダラダラの三奈子に祐巳止めをさす。

「ですから三奈子さまの証言にはある人物の情報が欠落していたのです。それは、令さまです。

昨日お話を訊いたときに、令さまを見たという事実に全く触れらていない。それは当然です。

何故ならば、原稿を書いていた以上中庭の様子を見ることなんて不可能だったのですから」

「あは、あは、あははははははは!!!!」

手に持っていたメモ帳がぽろりと手からすり抜けるように落下し、三奈子は壊れたかのように笑っていた。

「静粛に! 静粛に! 静粛に! これまでの証言をかんがみて本法廷は、ある一つの結論に達しようとしています」

「バカな!! どうしてこんなことに!!」

拳を振り下ろすように台をドン、ドンと叩き続ける蓉子。

「本法廷はこれ以上の審理を必要としません。検察側の証言は信用に値しませんでした。よってここで小笠原祥子さん判決を下したいと思います」

    無   罪    


祥子の無罪判決に傍聴人席から拍手喝さいと、祝いの紙吹雪の嵐が巻き起こっている。

「やったね祐巳ちゃん。祐巳ちゃんの勝利だよ!」

「やりました、祥子さま……」

裁判長はカツンと木槌を一打ちし、場の静粛を促した後、話を続ける。

「小笠原さんの容疑は晴れました。ですが、ここで二つの疑問が残っています。それは、衣装の行方と真犯人です。

この調査を引き続き水野さんと福沢さんにお願いしましょう。では、本日はこれで閉廷します」


同日 18:26 薔薇の館二階


「祐巳!! あなた本当に……」

祐巳の偉業に感極まった祥子は涙があふれ出していた。

「やりました。祥子さま。無罪判決おめでとうございます!」

祐巳はもらい涙に濡れながら、祥子の手をぎゅっと握り締めた。

(やっと終ったけど。私はまだ調査が残ってるんだ。でも、少しの間だけこうしておこう……)

「祐巳ちゃんすごいね。蓉子に勝っちゃうなんて。多分蓉子に勝ったのは祐巳ちゃんが初めてなんじゃないかな?」

「えぇぇぇ!! そ、そうなんですか??」

(私、すごいことやっちゃったんだ)


〜気が付いたこと〜


「そうそう祐巳ちゃん。感動のシーンの最中で申し訳ないけれど、祐巳ちゃんの仕事はまだ残ってるんだよ。ほら、裁判長が言ってたでしょ?

事件の解決の調査を指名されてたし」

(裁判長もどうして私なんかを指名したんだろう?)

「それで、祐巳これからの方針とか決まってるの?」

「それがまだ何も決まっていません。祥子さまのことで頭がいっぱいなので……」

祐巳の台詞に顔を赤くして祥子は照れる。

「祐巳、そんな誤解を招くようなことを言わないの」

「す、すいません祥子さま」

祥子に叱られながらも祐巳はどことなく嬉しそうだった。

「もういいかな祐巳ちゃん。ところで祥子のロザリオが盗まれたって本当なの?」

「はい、そうです。おそらく昨日の衣装合わせの時に紛失したと思います」


〜盗まれたロザリオ〜


「祐巳ちゃんはもう見つけたのそのロザリオ?」

祐巳は証拠品ファイルから『祥子のロザリオ』を取り出した。

「これ、何処で見つけたの?」

「館の一階、事件があった部屋でです」

聖は左手でアゴを触りながら何か考え込んでいる。

「あの部屋でねぇ……もしかして、いやまさかね……」

「どうしたんですか聖さま?」

「いやあのね、昨日あの部屋で衣装合わせしたの蓉子と祥子だけだなって思ってたんだけどね」

(そんなまさか!! 紅薔薇さまが犯人だなんて……)

「祐巳ちゃんもそう思うでしょう? まぁ調べてみないと何ともいえないんだけどね」

(可能性はゼロじゃなさそうだし、調べてみよう)



続く


初版2006年2月19日


作後贅言


残っていた探偵パートそして今作のメインである法廷パートお楽しみいただけたでしょうか?

法廷パートは原作のノリを重視すると地の文(会話文以外のこと)がほとんど無くなってしまうので、いかにこの地の文を挟み込むかに、

ものすご〜く苦労しました。もしかしたらそのせいで、多少読む際のテンポが悪くなったかもしれません(汗

さて、次には真犯人を探るべく祐巳は調査を開始します。

チャンネルはそのままでお待ちくださいませ。

では、また。


ユラ