「あなたのために異議ありと叫ぶ File1」


written by ユラ



9月14日 17:55 リリアン高等部 生徒指導室


この部屋には祐巳と祥子の二人が会議用の長テーブルに向かい合って座っている。

呼び出しを受けたのは、二年生でありながら薔薇さま方に近いぐらいの人気を誇っている、二年松組小笠原祥子である。

生徒指導室へ呼び出されるだけでも事件的な衝撃を持っていたのだが、呼び出された内容はまさに事件そのものだった。

今日この日は学園祭も近いため、手芸部の部員と共に最後の衣装合わせを済ませ、後は演技の練習を残すのみのはずであった。

しかし、シンデレラの衣装が盗まれたのである。

その容疑者として祥子が呼び出され、祐巳はこの部屋で祥子の話を聞いている最中だった。

「祐巳が私の弁護を引き受けてくれるというの?」

「はい祥子さま。私が身の潔白を証明してみせます。ですから事件のことについてお話をお願いします」

リリアン高等部には生徒の自主性を尊重するための制度として、生徒主導による「薔薇裁判制度」なるものがある。

問題を起こした生徒の処罰やクラブ間における対立の仲裁までを行う裁判制度である。

「今日の夕方四時十分ぐらいに薔薇の館の一階の部屋に行ったの。そして部屋を出て、一旦教室へ戻ったわ。そして帰り仕度をしていたら…」

「ここへ呼び出されたということなんですね。一つお訊ねしますけれど、どうして部屋へ行かれたんでしょうか?」

祥子は長い時間強く握られ続け、しわくちゃになった絹のハンカチを見せ、さらにスカートのポケットからロザリオを取り出した。

「これよ。祐巳は今日の衣装合わせに参加していないから知らないのかもしれないけど、今日あの部屋で劇の衣装合わせをしたの。

そしてそれが終ってしばらく経った後、このハンカチが無くなっていることに気が付いたの。だから……」

「あの部屋へ行った訳ですね。それは部屋で見つけられたんですか?」

「そうよ。あの部屋で見つけたの。ハンカチを」

『絹のハンカチ』を証拠品ファイルに綴じた。


『絹のハンカチ』 真っ白な絹のハンカチで、隅に小さく「S.K」という刺しゅうがされている。事件当日に紛失しその日のうちに、

薔薇の館一階の部屋で発見した。


「ということは、祥子さまはハンカチを探すためあの部屋を訪れたんですね?」

「これを見てちょうだい」

祥子は手にしたロザリオを祐巳の顔の高さぐらいまで掲げて見せた。

「これは祥子さまのロザリオですか?」

「一見するとそうなの。私も始めは気が付かなかったけれど、これは私のものじゃないの。すごく似ている類似品ね」

そう言って偽のロザリオをテーブル置いた。コトンという硬い音が部屋に響き渡る。

「ロザリオがすり換わっているのに気が付かれたのは何時ですか?」

「館に行く前なの。だから私はハンカチとロザリオを探しに行っただけで衣装なんて盗んでいないわ」

『偽のロザリオ』を証拠品ファイルに綴じた。


『偽のロザリオ』 祥子が持っているロザリオの類似品。事件当日に本物とすり換えられていた。


「結局祥子さまはハンカチとロザリオを探すために訪れたのですね」

「そうよ。私が盗ったなんて無実よ」

「分かりました。これから私は証拠品を集めに行ってきます。明日の裁判できっと無実を証明して見せますから!」

祐巳の熱意のこもった台詞に祥子の頬には一筋の涙が流れた。

「待っているわ」


同日 某時刻 生徒指導室前


「祥子の様子どうだった?」

祐巳が祥子の話を聞き終わるまで、聖は部屋のドアの側の壁にもたれるようにして待っていた。

「はい、だいぶ落ち着いておられるようで、ちゃんとお話も出来ていました」

祥子は自分に衣装の窃盗容疑がかかった時の取り乱しようはかなりひどく、一時はショック状態で話しかけても反応が返ってこなかったが、

時間が経つにつれ徐々に落ち着きを取り戻し、まともに会話できるようになったのはつい二十分ほど前のことである。

「祥子は何て言っていたの?」

祐巳は訊いた事や証拠品について聖に話した。

「なるほど、じゃあ私の方でも何か手がかりを探しておくよ」

「お願いします聖さま」

聖は部屋の前から何処かへと移動し、そして祐巳も証拠品を探すため部屋の前から立ち去った


同日 某時刻 写真部クラブハウス


「やっ、祐巳さん。祥子さまの弁護引き受けることにしたの?」

「うん、そう。だから蔦子さんに訊きたい事があるんだけどいいかな?」

蔦子は自分の作業机のイスに座りながら、祐巳は置いてあったイスに座って話を訊いていた。

写真部のクラブハウスにいたのは蔦子一人だけで、他の部員はもう既に帰ってしまっている。

何故彼女だけ居残っていたか、それは祥子の犯行現場の証拠写真を撮影していたからである。

そしてその写真は現像中で仕上がるのは明日になりそうだった。


〜事件のこと〜

「蔦子さんは事件があった頃どこにいたの?」

蔦子は腕を組み、左手の人差し指を頬に当てながら記憶を引き出している。

「私は薔薇の館の周辺にいたわ。このカメラを持ってね」

これよ、と祐巳に首から下げたカメラを見せた。

「そのカメラで祥子さまの写真を撮ったの?」

「そうよ。このカメラ『ツタコ零式』っていう私の気に入りなの。事件があった時間はこのカメラで何かいい被写体は無いかなってね」

今のところ話に特に問題はなさそうと判断した祐巳は次の話題へと移った。


〜祥子のこと〜


「蔦子さんは、祥子さまが盗った瞬間は見てるの?」

蔦子はまた、さっきのように指を人差し指に当てながら考えていた。

「残念と言えばちょっと不謹慎かもしれないけど、瞬間は見ていないの。でも、部屋に入って、そして出て行くところは見たわ。

さらに入ってきた時の写真も撮っているから祥子さま以外に犯人は考えられないんじゃないかな」

(衣装が無くなる直前に祥子さまは部屋にいたことは確かだけど、ちょっと何かが引っ掛かるような……)


〜証拠写真〜


「蔦子さんが撮った写真には何が写っているの?」

「その写真のことなんだけど、明日の裁判までに現像が仕上がるからその時まで待っててくれないかな」

蔦子は自分の机をごそごそといじりながら言い、祐巳の視線は机に置かれている「ツタコ零式専用フィルム」という箱に注がれていた。

(これってもしかして蔦子さんのカメラのフィルム?)


〜写真のフィルム〜


「蔦子さんこのフィルムは?」

「あら? 祐巳さんも写真に興味出てきたの? このフィルムはこのカメラ専用のもので、ビックリするほど綺麗な写真が撮れるの。

でも、手に入れるにはメーカーに注文しなければならないし、しかも市販のものに比べてすごく高価なの」

専用フィルムが入っている小さな紙箱には(ニケ入りと表示されている)、残り一つしか残っていなかった。

「このフィルムって今ここにあるだけしか持っていないの?」

「うん。残りはこれ一つだけ。だから今は節約してお小遣いを貯めているのよ」

『蔦子のフィルム』を証拠品ファイルに綴じた。


『蔦子のフィルム』 愛用のカメラ「ツタコ零式」専用のフィルム。一箱にニケ入りで、残り一つしかない。


「お話ありがとう蔦子さん」

「いえいえ。何かあったら寄ってね」

蔦子と別れ、祐巳はクラブハウスを後にした。


同日 某時刻 薔薇の館 事件現場


薔薇の館一階の事件があった部屋には、紅薔薇さまこと水野蓉子が部屋の様子を眺めていた。

「ごきげんよう紅薔薇さま」

「あら、祐巳ちゃんごきげんよう。こんな場所にどうしたのかしら?」

優しく微笑みながら祐巳に話しかけてくる。

「えっと、私は祥子さまの弁護を引き受けたので調査のためにです。紅薔薇さまはこの部屋にいつ来られたんですか?」

「私? ここには今来たばかりなの。そう、祥子の弁護人になったのね。悲しいけれど祐巳ちゃんは私の敵になってしまうわ」

「敵」という強い表現に、祐巳は驚き直ぐには言葉を返すことが出来なかった。

(紅薔薇さまが、私の敵? それはどういうことなんだろう)

「私はね明日の裁判で検事として出廷するの」

「つまり、祥子さまが有罪であると証明されるんですね?」

蓉子は何も言わず、ただ無表情に首を縦に振っただけだった。


〜事件のこと〜


「事件のことについてお話訊かせてもらえないでしょうか?」

「ごめんなさいね。弁護人である祐巳ちゃんには詳しいことは教えられないわ」

祐巳から視線を逸らし、うつむき加減で言葉をこぼした。外はもう日が落ちかけており、部屋は電気が点けられていなかったため、

蓉子の表情はあまりはっきりしない。

「では、どうして妹である祥子さまを助けないですか?」

「私の妹だからこそなのよ。祐巳ちゃんにはまだ分からないかもしれないけど……」

(でも、妹のピンチを助けるのが姉と思うのはマチガイなのだろうか?)


〜祥子の動機〜


「動機……」

突然蓉子が漏らした言葉を祐巳は咄嗟に反応できなかった。

「祥子が盗む動機なら、少し教えてあげるわ」

「はい。お願いします」

祐巳の返答を聞いた後、数秒経って蓉子は口を開いた。

「祥子が男性を苦手としているのはもう知っているわよね? おそらく動機はこれだと思うの。今回のシンデレラ役なんて本人の同意が

全く無いのに決定したでしょ。だからだと思うわ」

「でも……祥子さまはそんな人じゃありません……」

祐巳の反論に沈黙する蓉子。おそらく彼女も同じ事を思っているようで、特に何も言い返さなかった。

「あのね祐巳ちゃん、自分ではどうしようもない時には最悪の手段でもって解決することもあるのよ」


ポツリと蓉子はこんな言葉をこぼした。祐巳には蓉子の意図するところがあまり良く理解できなかったが、その言葉には寂しさや悲しさと

いった感情が複雑に混じっているような気がしていた。


〜明日の裁判〜


「明日の裁判でもし祥子さまが有罪になってしまったら、どうなるんですか?」

祐巳は恐る恐る蓉子に訊ねた。最悪の展開による結末を知るために。

「そうね、おそらく停学処分は免れないわね。さすがに退学にはならないでしょうけど」

停学や退学といった単語に祐巳は背中に冷たいものが走るのを感じた。

(祥子さまが……停学に!? そんなことは絶対にさせない!!)

「私はこれで失礼するわ。また明日ね祐巳ちゃん」

そう言って蓉子は部屋のドアを開け、一度祐巳の方を振り返ってから出て行った。


(この部屋には何か手がかりがあるはず。まずはそれを探し出さなくちゃ)

部屋の明かりを点けた祐巳の視界には事件現場の光景が飛び込んできた。

現場は事件があったころの状況のままで保存されているため、探せばまだ祥子の無実を照明できる何かが残されている可能性があるため、

祐巳は早速部屋の調査を開始した。まず手始めに全体の様子から把握し始めた。

部屋には会議用の長テーブルが中央に置かれており、イスは部屋の左隅のほうに固めてられていた。

右隅は横五列、高さが二メートル弱の物置棚となっており、種々雑多な備品や雑貨が保管されている。

テーブルの左側には手芸部からの借り物であるマネキンが置かれていて、事件発生前にはこのマネキンに衣装が着せられていた。

何も身に纏っていないマネキンの裸像が事件があったことを如実に物語っている。

(さて、何から調べようかな)

祐巳がまず気が付いたのはテーブルの上に置かれているマネキンの異変だった。

(どうもこれ違和感がする。あ!? これは!!)

試しに持ち上げたマネキンの下には祥子のロザリオが隠されていた。ロザリオの上にマネキンを置いていたので、若干傾斜が出来ていたのである。

それが祐巳が感じた違和感の正体だった。

『祥子のロザリオ』を証拠品ファイルに綴じた。


『祥子のロザリオ』 事件当日に紛失した祥子のロザリオ。館の一階の部屋で発見した。


マネキンを持ち上げた時、キラリと祐巳の目に何か反射するものが見えた。

(何だろうこれ? プラスチックの板?)

祐巳は部屋の窓の側に落ちていたプラスチックの板を見つけ、それは透明な板で大きさは、窓のガラスと同じぐらいである。

(もしかして、これガラスと同じ大きさかもしれない。……あっ!! ほとんどピッタリ同じ大きさだ。でもどうしてこんなものが?)

『プラスチックの板』を証拠品ファイルに綴じた。


『プラスチックの板』 窓のガラスとほぼ同じ大きさの板で、柔らかく、多少曲げても割れそうにない。


(この窓どうしてこんな変な汚れ方をしてるんだろう?)

次に祐巳が目をやったのは部屋の窓だった。部屋には窓が四つあり、祐巳が不審に思ったのは左から二つ目の窓である。

その窓にだけ何かが引きずられたような泥の汚れが付着していた。

昨日の天候は終日雨で、今日はそのせいで、あちらこちらにぬかるみや水溜りが出来ている。

(泥の汚れと事件って何か関係有るのかな?)

『部屋の窓』を証拠品ファイルに綴じた。


『部屋の窓』 四つあるうちのこの窓にだけ何かを引きずったような泥の汚れが付着している。


その後しばらくの間祐巳は部屋の中で何か証拠となりそうなものを探していたが、特に見つからないようだった。

(ふぅ、もう他に何か手掛かりになりそうなものは無い……あれ? これは……)

最後に祐巳が気になったものは、物置に立てかけられている窓の予備だった。今備え付けられているものと同じ枠、ガラスであり、二つある。

(この窓、ガラスが一枚だけ無くなっている。しかも鍵の近くのガラスが。どうしてだろう、誰か細工でもしたのかな?)

『細工された窓』を証拠品ファイルに綴じた。


『細工された窓』 鍵の側の窓ガラスが無くなっている。細工された可能性アリ。


めぼしい証拠品を集め終えた祐巳は部屋を出てさらなる証言、証拠品を得るため次の場所へと向かった。


同日 某時刻 薔薇の館 ロビー


「あっ!! 祐巳さん!」

館のロビーでは島津由乃と、その姉の支倉令の二人が会話をしていた。

「ごきげんよう令さま、由乃さん」

「ごきげんよう祐巳ちゃん。紅薔薇さまから祥子の弁護を引き受けるって聞いたよ。頑張ってね」

「はい。頑張ります!」

拳を握って祐巳は力強く言った。この裁判は決して負けられない、という決死の思いをこめて。

(さて、どちらから先に話を訊かせてもらおうかな? よし、同じ学年の由乃さんからにしよう)


〜事件のこと〜


「由乃さん、事件があった時のことを訊きたいのだけど話してもらえるかな?」

「ごめんなさい祐巳さん。それは出来ないの。紅薔薇さまに他言はしないよう言われてるから……」

申し訳なさそうにうつむき顔を横に向ける由乃。

(このまま引き下がるわけにはいかない。何か少しでも情報を引き出せれば)


〜目撃したこと〜


「見たことについて少しでもいいから何か情報をお願い! 由乃さん!!」

迫るように由乃に情報の提供をお願いする祐巳。その迫力に押されて由乃は少しだけ、話をし始めた。

「うっ、そ、そうね、少しぐらいならば……。私は祥子さまが部屋に入っていくのを見たわ。ちょうどここで」

「ここで!? 他に誰かが入っていくところは?」

「いいえ。誰も見てないわよ。あの時間帯に入っていったのは祥子さまだけ。それは間違いないわ」

長い三つ編みのお下げをいじくりながら由乃ははっきりと言い切った。

(また目撃証言か……これで二人目だ。明日の裁判かなり不利かもしれないかも……)


これ以上の情報は訊き出せないと判断した祐巳は、今度は令に情報を求める。


〜事件のこと〜

「令さま。祥子さまのためにも何か情報を!!」

「う〜ん、そう言われても明日の裁判由乃だけじゃ無くて、私も証人として呼ばれているからあまり言えないんだけどなぁ」

右手人差し指でこめかみを押さえながらぼやく令。

「そこを何とか!!」

祐巳の強い姿勢に押され、令は渋々欠片程度の情報を漏らした。

「あの時は私は祥子が入っていく場面は見ていないの」

「では、何を見られたのでしょうか?」

「部屋から出て行くところ、よ。私と由乃の二人で出て行くところ……」

「令ちゃん!!」

話が肝心な部分に差し掛かろうとした瞬間、由乃に止められてしまい訊き出せなくなってしまった。

(仕方ない、詳細は明日の裁判になるか)

「最後に、令さまは事件があったころ何をされていましたか?」

「頼まれごとだね」

(これはもう少し突っ込んで訊く必要がありそう)


〜頼まれごと〜


「その頼まれごととは何でしょうか?」

令は「話していいかな?」とお伺いを立てるかのように視線をちらっと由乃の方へ移し、それに対して由乃は軽くうなづいて応えた。

「昨日のあの時間は、美術部から完成した小道具が入った箱を館まで運んでいたんだよ」

「お一人で、ですか?」

「うん、そうだよ。私だけで。でも、館には由乃がいたから少しだけ手伝ってもらったけどね」

(由乃さんに手伝ってもらった? もしかして由乃さん……)

「その小道具は今何処にあるんですか?」

「二階の直ぐ分かるところに置いてあるよ」

『小道具箱』を証拠品ファイルに綴じた。


『小道具箱』 祥子が部屋に入った時、令が運んでいた箱。美術部の部員が館まで運ぶよう依頼した。


「お話ありがとうございました」

「ごめんね祐巳さん……」


同日 某時刻 新聞部クラブハウス


祐巳は新聞部のクラブハウスへ足を運んでいた。事件があれば喜んで記事にして発行する新聞部がこの事件を放っておくはずが無い、と

判断し訪れたのである。時間が時間だけに部屋には実質部長である築山三奈子だけが居残って作業をしていた。

「お邪魔します」

「あなたは……もしかして福沢祐巳さんかしら?」

祥子さまの妹騒動ですっかり自分の認知度が高まっているという現実に祐巳は苦笑いをしつつ応える。

「はい、私が福沢です。今日は事件のことでお話を伺いに来ました」

「あのね、いいかしら祐巳さん。ジャーナリストである私がそう簡単に情報を漏らすなんて……」

「そこを何とかお願いします!!」

三奈子のメモ帳をペラペラめくる手が止まり、祐巳を呆然気味に見つめた。

「祐巳さん、それ皆に言ってないかしら? でもまぁその熱意に応じて少しだけ。適当なところに座って構わないから」

「ありがとうございます!!」

頭を下げる祐巳の姿に、たまにはこういうのも悪くないわね、とまんざらでもない様子の三奈子だった。


〜事件のこと〜


「私はね祥子さんが館に向かっていくのを中庭で見たの。彼女、ちょっと様子が変だったから声を掛けたわ」

「何ておっしゃったんですか?」

三奈子はメモ帳をぱらぱらとめくりながら話を続ける。

「何かあったのってね。私ジャーナリストだから何かこれは有るなって思って彼女が出てくるまで中庭で待ってたの」

(これで目撃情報が四件目か……。ちょっと自信無くなってきた……)

「祥子さまが入ってから出てこられるまで何分掛かったかご存知ですか?」

三奈子はメモ帳を丁寧にめくりながら記憶を手繰り寄せた。

「そうねぇ……入っていったのは四時十五分ぐらいだから十分ぐらいかしら」

(衣装が盗まれたのは四時十五分から二十五分ぐらいの間、か)

「他に誰か通りかかった人を見られてないですか?」

「写真部の武嶋蔦子嬢なら館の周りをうろついているのを見たけど……他には見ていないわね」

(あれ? それは変だ。三奈子さまは勘違いしてるのかな? まさか嘘を!?)


〜リリアンかわら版〜


「あの、やっぱり祥子さまの事件はかわら版に……」

「それはもちろん!! と、いいたいところだけど明日の裁判が終るまで記事は書けないわね」

あくまで祥子は「容疑者」であるため、判決が確定しない限りシロでもなくクロでもない「グレー」なのである。

そのため、イメージを決定付けるような記事は書くことが出来ないことになっている。

「祥子さんの無罪判決を記事にしたいならば祐巳さんあなたが頑張らないとね」

「はい! やってみせますから!」


〜館について〜


「あの、三奈子さま?」

「どうしたの急に改まったりなんかして?」

祥子が犯人ではないならば、当然他の誰かが盗んだことになり、その手口の解明には事件現場である薔薇の館の見取り図が重要な

参考資料になり得る。よって祐巳は新聞部の資料ならばきっと館の見取り図があるだろうと三奈子に相談をしてみた。

「館の見取り図ってここに無いですか?」

「そうねぇ、ちょっと待ってて」

壁に立ててあるアルミ製の棚には多数のファイルが資料として保管されており、三奈子はそこから見取り図のコピーを引っ張り出した。

「これあげるわ。何かの役に立つかどうか分からないけれど」

「ありがとうございます」

『館の見取り図』を証拠品ファイルに綴じた。


『館見取り図』 一階には部屋が一つと階段があり、二階には部屋が一つ、さらに屋根裏部屋がある。

         屋根裏部屋には、二階の部屋から登っていけるようだ。


「今日は色々とありがとうございました」

「いえいえ、大したおもてなしが出来ないけどまた遊びに来て構わないから」

「はい。分かりました」

お礼を述べ、部屋を出る頃にはすっかり日も暮れ夜が訪れていた。

(三奈子さまの話、やっぱり引っかかる。今日はもう遅いから調査は明日にしよう)

ちなみに祐巳は、帰宅が遅れることを家に連絡するのをすっかり忘れていたため、帰ってくるや否や両親からこっぴどく叱られた。




9月14日 終了

続く



初版2006年2月15日

作後贅言

やっちまいましたよみなさま! 逆転裁判もののSSを!!

今はゲームで言うところの「探偵パート」にあたりますので、次の作品では「法廷パート」になります。

法廷パートでは当然「待った!」「異議あり!」「くらえ!」といった熱いやり取り応酬が交わされることになります。

さて、祥子は本当に犯人なのか、それとも真犯人が別に存在するのか?

この手の小説は、初めてなので不自然な点や矛盾があるかもしれませんが、チャンネルはそのままでお待ち下さい。

では、また。




ユラ