Melting with you 第六章〜プロローグ
「Melting with you」
Written by ユラ

 第六章

 主を喪った城は崩壊を始める。城全体が小刻みに揺れ、壁にはひびが入りみしみしと崩
れ、天井には穴が開き氷の塊を落下させた。
「お姉さんがまだ出てこないねぇ」
「中に入るぞ」
 ブラウンとホワイトは、聖が入っていった真っ青な扉を蹴り飛ばし中に入る。仰向けに
なって倒れている聖をブラウンが、祐巳をホワイトが背中に負ぶって部屋を出た。
「急に壊れだしやがって!」
 がぁ、と悪態をつくブラウン。
「もうちょっと待ってねぇ」
 相変わらずのホワイト。
 もと来た道を全力疾走で駆け抜ける。二人がなんとか城の外に出て、城門まで走り切る
と同時に城は轟音を立てて完全に崩壊した。
 冷たい雪の大地に聖と祐巳の二人を寝かせ、ホワイトはまず先に祐巳治療から始めた。
「お、おいホワイト!? 何やってるんだよ!」
「うっさい! お前はだまってろ〜」
 白く光る両手を、金色の剣が突き刺さっている傷口に当てる。剣は刺さったままである。
「無駄だ。もう死んでる」
「黙ってろ」
 普段の気の抜けたような喋り方からは想像も出来ないぐらいに重い声で、ブラウンを沈
黙させた。
 ホワイトが体に宿す、白い光の力は本来、守護、補正、再生といった「強化」に関する
癒しの力だったのだが、それをホワイトは無理矢理戦闘用に使っていたのであり、今彼女
が必死に行っている治療こそが本職なのである。
 祐巳の胸に突き刺さった剣を慎重に抜き、再び白く光る手で治療を続けた。
 それでも目を覚まさない祐巳。
「ふぅ……」
「お? 生き返ったのか?」
 祐巳の体を覗き込むように見たブラウンは遠慮なく訊ねた。
「ん〜半々かな。仮死状態ってやつ?」
 それだけ答えたホワイトは、祐巳から今度は聖の体に手を触れた。
「あ! お姉さん生きてるよ!」
「ホントか!?」
 白い光に当てられた傷口からの出血は止まり、ホワイトは聖の体に刺さっている刃をそ
っと引き抜き、さらに治療を続ける。
「うっ、ん……」
 聖は閉じていたまぶたを薄っすらと開いた。そしてホワイトの顔を見る。
「やぁ、迷惑かけてゴメン」
「気にしな〜い気にしない」
 ホワイトは無邪気に笑っていたが、目の端にはうっすらと涙が浮かんでいた。
 その時、ブラウン、ホワイトは強大な力の気配を感じ取った。
「こんな時に!!」
「…………」
 何も無い空間から紫色の光が渦を巻き、そこから全身を紫色のローブとフードで覆った
「魔女」が現れた。
「よくも私のお楽しみの邪魔をしてくれたわね。この借りは高くつくわよ」
 邪悪に過ぎる悪意に満ちた笑みを浮べて魔女は言う。
「逃げろ!」
 ブラウンはそう叫ぶと、ホワイトは聖と祐巳の体を両脇に抱えこの場から全力で離脱し
た。
「まずはあなたから始末してあげるわ」
「そんな簡単にやられてたまるかよ!」
 刀と剣を構えたブラウンは、地面が抉れるほどの踏み込みで間合いを詰めた。
「はぁぁぁ!」
「All opponent gains weakness equal my blackcolor」
(全ての者は私の黒い力だけ弱くなる)
 魔女の高速詠唱が終わったその刹那に、黒い光がブラウンを包み、彼の身体能力や茶色
い力全てが著しく弱体化した。
 今の身体能力は小学生以下と成り果て、手にしていた刀と剣を落としてしまった。
「このぉぉぉ!」
 戦意を剥き出しにして吼えるブラウン。されど体には力が入らず、満足に動けずにいた。
「ふふふ。あなたは茶色だから地面を這いつくばっているのがお似合いよ。さて、次にあ
なたの力を封じてあげましょう。
Name a color.Remove that color from target opponent untill the time」
(「茶色」の力は一時的に失われる)
 黒い光がブラウンの体にまとわり付き、彼から茶色い力の脈動が止まった。
「うぅぅぅ……」
「もうこれで、抵抗すら出来ないわね。さて、さっさと止めを刺してあげるわ。
It deals damage equal my blackcolor to target opponent」
(私の黒い力だけおまえに傷を与える)
 真っ黒の光のうねりがブラウンの体を覆い尽くし、数十秒後光が消え去った後には動か
なくなったブラウンの遺体だけが残されていた。
「はい、終わり。あとはあの小娘だけね」

「さっきの魔女みたいなのは誰??」
 さっきいた場所から随分離れた雪原で、突然現れた魔女についてホワイトに訊いた。
「う〜ん、まぁ……私のお姉ちゃんなんだけどね」
「今何て!?」
「口で言う時間が無さそうだから直接聞かせてあげる〜」
 ホワイトは私の顔に自分の顔を近づけ、やがて額をぴったりとくっつけた。
「え? これは……」
 私の頭の中にものすごい勢いでホワイトの「過去」の映像が流れてくる。

 今から遡ることおよそ二千年。古代ローマ帝国が成立して間もない頃、イギリスブリテ
ン島北部のとある山村。この村には紫色の髪をした姉、銀色の髪をした妹の姉妹がいた。
 この姉妹の両親はすでに亡く、二十代半ばの姉と十代前半の妹の二人で細々と生活をし
ている。
 そのあまりにも目立ち、一般人とはかけ離れた風貌を持つ姉妹は、畏怖と嫌悪の対象と
して村人からは忌み嫌われていた存在であった。
 時には魔を司る者の使いとして崇められることもあったが、往々にして悪魔の使者だと
謗られ、酷い時には石を投げつけられることもある。
 そんな時、姉アルレンは、いわれの無い中傷に涙にする妹のピュリティに優しい言葉を
投げかけ、なだめていた。
「姉さんどうして私達だけがこんな目に遭うの?」
「これはきっと試練なのよ」
「試練?」
「そう。この辛い試練を乗り越えればきっと私達は幸せになれる」
 姉のなんら根拠の無い言葉にも妹は、救いを感じ、涙を拭いて微笑むのであった。
 しかし、健気に生きる姉妹に訪れる試練は徐々に辛さを増していく。
「誰がこんな酷いことを……」
「落ち着いてピュリティ。もう一度やり直せばいいのだから」
 彼女達の持つ小さな畑が荒らされることもあった。そんな時であっても、姉アルレンは
決して折れることなく、妹ピュリティと共に強く生きていことしていた。
 そしてとある冬の夜、この健気に、強く生きる紫と銀の姉妹に人災が襲い掛かった。
「おいお前ら!!」
 手には鍬や鋤やを握り締め、憤怒の感情をたぎらせた農夫達が玄関のドアを蹴り破る。
「な、なんですか?」
 流石のアルレンも、家の中にずかずかと入ってくる農夫達の、腸が煮えくり返っている
かのような攻撃的な雰囲気に気圧され、動揺していた。
「とぼけるな! 今年は麦がものすごい不作だったんだぞ! これは呪われたお前達の仕
業に違いない!」
 この年は、ブリテン島全域は異常気象のため麦の収穫量は前年と比べて五割程度にまで
落ち込んでいた。当然アルレンとピュリティは関係があるはずがなかったが、それでも村
人達は、先の見えないひもじい生活に対するやり場の無い怒りを二人にぶつけることにし
たのだった。
「それは違います。私達は関係ありません」
「そうよ。私達の畑だって全然採れなかったのだから」
「はん。そんなもんどうだっていい! とにかく村から出て行け! さもないと……」
 まるで理不尽な勧告。アルレンの目には深い悲しみの色が映ったもののすぐさま持ち直
し、毅然とした態度で、暴言を吐く熊のように体毛が濃く大柄な男に向かって主張する。
「私達は何も悪くないわ。だからここを出て行くつもりはありません」
「この女ぁ!」
 この男は本気でアルレンを殺そうとしていた。手にしていた鍬を振り上げる。
「姉さん!」
 姉の手を引いたピュリティは裏口へ走り、扉を跳ね開け暗く冷たい闇夜の中を息が切れ
るまで走った。
 二人を追いかける多数の足音と喧騒が刻一刻と近づいてくる。
「どうしよう姉さん」
「そうね、どこかに隠れてやり過ごすしかないわ」
 着の身着のままの二人は外気の冷たさに身を震わせた。そして彼女達が立ち止まってい
た場所は、普段村人が畏れて近寄ることの無かった森の中だった。
 冷たい風が吹き、光の無い世界に葉の擦れる音が、足音と喧騒に混じる。
「姉さんあれは何かしら?」
 月が照らし出すほんのわずかな光を頼りにピュリティは、ほこららしきものを見つけ、
指を指した。
「何でしょうねこれは? 私も初めて見たわ」
 そのほこらは無骨な岩で出来ており、入り口が、吸い込まれそうなほど深い闇を放って
いるように見える。
「見つけたら殺してしまえ!」
「どこにいやがる! 出て来い!」
 深夜の森に轟く村人の怒号。風によるものではない葉の擦れる音や、小枝が踏み折られ
る音がどんどん近づいてくる。
「行きましょう」
「姉さん、でもここが本当に安全かどうかわからないのよ?」
「それでも行くの。ピュリティはここで大人しくしているつもりなの?」
「それは……」
 アルレンを先頭に、先を手探りでゆっくりと歩みを進めた。ほこらは緩やかな坂になっ
ており、まだ終わりが見えなかった。
 壁に手を触れながら恐る恐る歩みを進め、ようやくほこらの最深部まで着いた。実際に
はおよそ五十メートルほどしかなかったのだが、灯りが全く無い状態で歩いていたため、
たっぷり十分以上はかかってしまっていた。
 ほこらの最深部には、赤、緑、青、茶、紫、黄、金、黒、白の小さな宝石のような珠が、
岩の台座に円状に置かれていた。
 この九つの珠はそれぞれの色と同じ色の光をぼんやりと放っており、台座の周辺は、儚
いものの色とりどりの光がこぼれていた。
 この光無きほこらでは貴重な光源であり、二人はそれを見るだけで少し気分が落ち着い
た。
「綺麗な光」
 台座の前でピュリティは光る珠を見つめている。
「本当ね」
 アルレンも同様に、この不思議な感じのする珠に見入っていた。
「姉さん。私達はこのまま出て行かなくちゃならないの?」
「…………」
   答えに窮し、投げかけるべき言葉が出ないアルレン。
「何だこのほこらは?」   姉妹のほんのささやかな休息を、村人の声が壊した。
   ほこらに声がこだましたその直ぐ後、乱暴な足音が幾つも聞こえ、音がどんどん近づい
てきた。
「姉さん……」
「ピュリティ」
 松明を灯りに持った村人達が二人のいる台座にまで侵入してくる。
「大人しく生贄になれ!」
 松明を後ろにいた老人に渡し、細身の男は狩猟用のナイフでピュリティの下腹部を容赦
無く突き刺した。
「うぐっ!」
「ピュリティ!! どうしてこんな! 私達が何をしたの!」
 ピュリティの体からナイフを抜き、その切っ先をアルレンへと向けた。
「いやぁぁぁぁ!!」
 その時だった。アルレンに右手が台座に置かれていた紫色の珠に触れ、次の瞬間には、
ほこら全体が紫の光で染まりアルレン達を襲っていた村人全ては腐乱死体と化していた。
 アルレンは目の眩むような紫色の光を発する珠を握り締め、やがて珠は彼女の手に吸い
込まれるように同化していった。
「ふふふ。愚かな……なんて愚かな人間達。今度は私がお前たちを追い詰めてあげる。時
間をかけてじっくりと……」
 アルレンは白い珠を掴み取り、仰向けに倒れているピュリティの傷口に白い珠を押し当
てた。すると傷口から溢れていた出血は止まり、ぱっくりと開いていた傷は、痕跡ひとつ
残さず塞がっていった。
「姉さん……?」
 目を開いたピュリティは不思議そうな眼差しで姉に視線を向ける。
「おはようピュリティ。私達の夜明けの時が来たわ」
 残り七つの珠もアルレンの体と同化していった。

「そんな……」
 私にはこれ以上言葉が出てこなかった。
 祐巳ちゃんをあんな風にした忌まわしきアルレンという魔女は、実は今目の前にいるホ
ワイトの血を分けた姉だったのである。
「でもどうして姉妹なのに?」
 あの殺気は本物だった。ブラウンがいなければ、あの場で即座に皆殺しにされていても
おかしくないぐらいのものだった。
「姉さんは今でも人間が憎いのよねぇ……」
 村人達から理不尽に迫害されてきた姉妹。そして目の前で大切な妹を傷つけられた燃え
尽きることの無い憎悪と怒り。
 それならば私だって同じだ。祐巳ちゃんをこんな酷い目に遭わせたアルレンを私は決し
て許すことは出来ない。
 でも、憎いアルレンは私を助けてくれたホワイトのお姉さんなんだ。ホワイトは姉妹同
士で殺し合いをすることには何も感じないのだろうか。
「ホワイトは自分のお姉さんと戦えるの?」
「それはねぇ……やっぱり出来ないなぁ。今まで長い長い間、姉さんを止めようと必死に
努力したけれどダメだった。私には出来ない。だからお姉さん」
 短い間だったけれど、私が見てきたホワイトの表情で一番切なくて強い表情で、彼女は
続きを口にした。
「私の命をこの祐巳ちゃんに譲ろうと思うの」
「ちょっと待ってよ!? それはどういうことなの?」
 自分の命を譲るってことは、自分は死んでも構わないってことじゃないか。ということ
は祐巳ちゃんはやはり……。
「この祐巳ちゃんは仮死状態だからねぇ。私も頑張ってはみたけれどこれが精一杯だった
んだよ〜。だから足りない分は私が払う」
「でも、それじゃあ……」
「でもタダではあげないよ〜。姉さんを絶対に止めてくれるって誓うならばね」
 なんと残酷な選択肢なんだろうか。二人とも助かる道は本当に考えられないのか。何故
どちらかしか生きれないのだろうか。そんなむごい選択私には出来そうにない。
「時間だね。じゃあ答えを聞かせてよ。誓ってくれる?」
 私は……、私は……
「分かった。誓う。必ず止めてみせるから」
 私は祐巳ちゃんを選んだ。決断の重さに、体の底から苦い感情がせり上がってくる。
「ありがとう。じゃあお別れだね。姉さんを倒して、祐巳ちゃんといつまでも幸せになっ
て欲しいなぁ……」
 私の分まで、と小さく囁くような声で付け足した。銀の芸術的なまでに美しい髪が風に
揺れる。
 ホワイトは、屈んで雪の大地に横たわる祐巳ちゃんの傷口に手を触れ、自分の胸元にも
手を当てる。ホワイトの体から視界いっぱいに広がる白い光が発せられた。
「じゃあね、お姉さん」
「ごきげんようホワイト」
 ふっと光が消えた。ホワイトの姿も消えた。
「聖さま?」
 人形のようにぴくりとも動かなかった祐巳ちゃんは、上体を起こし、私の顔を見る。
「やぁ、ごきげんよう。ねぼすけ祐巳ちゃん」
 嬉しさと悲しさが入り混じった感情のせいで涙が止まらなかった。
「どうしたんですか聖さま?」
 私の涙を不思議そうな眼差しを向ける祐巳ちゃん。 「いや、何でもないよ。ところで祐巳ちゃん、何故自分がここにいるのか分かっているか
な?」
「何故、ですか? ……はっ」
 記憶が多少なりとも残っているらしい。どこまでかは定かじゃないけれど。
「もしかして、私を助けてくれたのは白い女の子ですか?」
「そうだよ。名前は……ピュリティっていうんだ」
 あえて「ホワイト」じゃなくて本名で呼んだ。彼女のことを決して忘れないために。
「そうなんですか……。感謝しないといけませんね。ピュリティさんに。これで分かりま
した。何故かさっきから胸の奥がぽかぽかと暖かい理由が」
 その暖かさがホワイトの命なんだろう。
「これは!」
 猛烈な濃度の紫色の殺気の塊が、何も無い空間から現れた。
「あらあら。死んじゃったのね、ピュリティ」
 この紫の魔女がアルレン。今回の大惨事を招いた、祐巳ちゃんを酷く傷つけた張本人。
この魔女の姿を見るだけで私の中から熱を持った怒りが湧いてくる。許せない。絶対に。
「さて、あなた達には用が無いわ。だから、さっきの茶色い坊やと同じようにさっさとや
られなさい」
 紫の魔女に「赤い」力が集まるのが感じ取れる。
「It rains to target opponent」
(煮え立つ鉄の雨がお前を焼く)
 アルレンは右手人差し指を私のほうに向けると、真っ赤に溶けた鉄が雨のように降って
きた。それを後ろに飛び退いてかわすと、着弾した地面周辺の雪は一気に蒸発し、底の見
えない穴が開いていた。
「あら、すばしっこいのね。じゃあこれをかわせるかしら?
It burns each opponent」
(紅蓮の火炎が全ての者を焼き尽くす)
 アルレンを中心にして、同心円状に紅蓮の炎が荒れ狂う。
「きゃっ」
「祐巳ちゃん!?」
 爆発的な炎の勢いに勢いよく弾き飛ばされてしまい、地面へと叩きつけられてしまった。
なんて火力なんだ。
 痛む火傷の傷をおさえながらも体を奔る金色の力の流れを感じ取り、左拳に金色の力を
凝縮し、それを拳を振りぬいて撃ち抜いた。
 回避するそぶりも見せず、黄金色の砲弾はアルレンに直撃し爆発した。
「中々やるのね。これならば良い絶望が得られるかもしれないわ」
 ダメージを受けてはいるはずだけど、余裕たっぷりな様子のアルレン。流石一撃で仕留
めらるわけがないか。
 祐巳ちゃんは、氷の槍を具現化し、それを白い光の力で加速して投げつけた。まさに光
の矢のように空を奔る槍。アルレンはそれを顔だけ動かし、最小限の動きだけでかわした。
 かすった頬に横一文字な赤い筋が出来ている。アルレンは傷口の血を一指し指でぬぐい、
それを口に含んだ。
「Deatroy target land」
(お前の足場は無くなる)
 自動車のような大きさの岩の塊が、隕石の落下のようにいくつも降り注ぐ。それを落下
する岩の影で判断しながら左右に動いて回避した。
「私が接近戦を仕掛けるから祐巳ちゃんは援護をお願い」
「分かりました聖さま」
 石の雨が止み、数十メートル離れてしまったアルレンとの間合いを、雪が吹き上げるほ
どの爆発的な力で地面を蹴って詰める。
「It burns divided as I choose among any number of target opponents up to six」
(六つの炎岩がお前たちに降り注ぐ)
   私が間合いを詰めるよりも早く、祐巳ちゃんが行動するより早くアルレンが詠唱を終え
た途端、合計六つの、炎を吹き上げながら燃え盛る家一件分ぐらいはありそうな巨石が祐
巳ちゃんに三つ、私に三つ落下する。
 下手に攻撃し破壊しても、破片となった高熱の石ころが結局は降りかかるし、回避する
にしても岩が大きすぎて間に合わない。
「聖さま危ない!!」
 祐巳ちゃんの声。青い光が空をベールのように覆い、巨石の赤い炎が瞬く間に消え去っ
て、ただの岩石となった。これならば破壊は容易だ。金色の砲弾で六つの岩石を次々と破
砕していった。
「まだ粘るのね。もうそろそろ焼けてしまいなさい」
 再び紫の魔女に赤い力が収縮していく。しかし、そう何度もやらせるわけにはいかない。
高速の飛び道具で詠唱を阻止するには……私はホワイトが使っていた黒く大きな拳銃のイ
メージを練り上げた。
 両手に握った黄金色の大型の拳銃でアルレンに狙いを定め、引き金を絞る。
 獣が吼えるような銃声が二回、びりびりと体に響く反動。そして右腕と左わき腹に真っ
赤な染みを作るアルレン。
「はぁ……あなた……何でもありなのかしら」
 アルレンは傷口を押さえ呻いた。止めを刺そうと私はアルレンの頭に照準を定め引き金
を引いた。
「Counter target spell」
(お前の攻撃を打ち消す)
 放たれた金色の弾丸は、青い光に包まれ消滅した。
 祐巳ちゃんは動きの止まっているアルレンに向かって背後一面に氷の刃を展開させ、次
々と射出する。
「Prevent all damage that would be dealt to me」
(お前の攻撃力は失われる)
 白い光がアルレンの体を包み込み、氷の刃はアルレンを貫くことなくその光に吸い込ま
れていった。さっきよりも防御力が著しく高くなっている。
「Enchanted opponent can't attack or block」
(お前は木偶人形と化する)
 白い光の輪が祐巳ちゃんの体を縛り身動きを封じてしまった。
「聖さま、これ取れません!」
 私が解呪しようと手を触れると、ばちっと電気が奔り触れる手を弾く。
「祐巳ちゃんを放せ!」
 黄金銃を解いて、今度は剣を練り上げた私は、それを両手でしっかりと握り締めアルレ
ンに斬りかかった。およそ二十メートルほどの距離を一瞬にしてゼロにするほどの勢いで
突進し、そのままの勢いで胴を払う。
「The next damage that a source of I choice would deal to me is dealt to target
opponent instead」
(私は無傷でお前が代わりに傷を負う)
「痛っ!」
 私がアルレンを切り払った場所と同じ場所に同じだけのダメージが。そしてアルレンは
全くの無傷。
「あなた、もう少し考えて攻撃しなさい。いくらなんでも勇ましすぎるわ。それは無謀と
いうものよ?」
 下腹部からの出血が激しく、脚が少しふらついてきた。でも負けない。絶対に負けない。
剣を握り締め、それを投槍よろしく投げつようとした。
 アルレンと私の距離は二メートルにも満たない。これならかわしようがないはずだ。
「Return opponent player to over there」
(お前は向こうへ行ってしまえ)
 後ろ襟を見えない力で引っ張られ、思い切り跳ね飛ばさた私は、アルレンとの間合いが
大きく離れてしまった。
 地面にどさっと落下した衝撃が傷口にひびく。
 自らは攻撃をしてこないが鉄壁の防御でそれをいなすアルレン。さっきの火力連発とは
戦法が大きく異なっている。一体どういうことなんだ。
さっきは赤い力がみなぎっているのが見えたけど、今は青と白の力が。そうか、アルレ
ンは全ての色の力を使えるのか。
ホワイトが見せてくれた過去の記憶の最後の部分に、置かれていた珠が全てアルレンと
同化していた場面があった。
全ての色の力を使うなんて。これはいくらなんでも反則だな。
「聖さま大丈夫ですか!?」
「大丈夫……。ちょっと傷が痛むけど」
 精一杯強がりを言って私は祐巳ちゃんに笑って見せた。しかし、出血はまだ止まらない。
このままじゃちょっとマズイな。意識がぼやけてきたし目がかすんできた。
「あなた達はよく頑張った方ね。だからこれで終わりにしてあげる。
Put soldier token into play」
(我が精鋭達よ、ここに集え)
 アルレンの詠唱によって、さっきの戦った青い板金鎧の門番と同じく、今度は白い板金
鎧を身に纏った兵士が現れた。その数ざっと数えて三十。
 これを私一人で相手するには辛いかな。しかしこんな奴らに負けてなんていられない。
 それぞれ同じサイズ、デザインの剣を腰に携え、アルレンの号令で一斉それを引き抜き
構え、そして綺麗に横一列に並んで突撃を開始する兵士達。
 立て続けの戦闘と、この浅くない傷によって引き出せる金色の力も余裕は無い。体中を
巡る力の勢いが目に見えて落ちていた。短期決戦で望まないと勝ち目は無い。
 機械的に揃えられた速度と歩調でどんどん迫ってくる白い軍団。そしてこいつらは横一
列に並んでいる。この状況を短い時間で打破するには……薙ぎ倒すしかない。
 残る金色の力を両手に集める。近づく軍勢。残る距離は十メートルあるかないかぐらい。
そして私は集めた力を解き放ち、物干し竿よりも長い刀を練り上げ、それを野球のフルス
イングの要領で振り回した。
「おぉぉぉぉぉ!!」
 左端の兵士から順に、力いっぱい白い板金鎧の胴体を切断していく。
「あなた……本当にデタラメだわ……」
 そうして右端の三十体目兵士を薙ぎ払った。上半身と下半身にばらけた三十の兵士は、
活動を停止した。
 肩で息をしながらアルレンを凝視する。
「ならば私が直々に手を下してあげる」
 アルレンの体の周りには炎が渦巻き徐々に渦の大きさが巨大化していく。
「Destroy all opponent」
(全ての者を灰燼に帰す)
 渦巻く炎が視界を真っ赤に埋め尽くす。
「聖さま!!」
 膨大な熱量と爆圧が迫る。もう助からないな。ゴメンみんな。ゴメン、ホワイト。

 私はこの忌々しい光の呪縛のせいで一切の身動きが取れないでいた。動く部位といえば
頭ぐらいしかない。聖さまは一人でアルレンと戦っているが、相性が悪くほとんど一方的
にやられてしまっていた。
 迫り来る三十の兵士を薙ぎ払って倒したのも束の間、アルレンからおぞましいほどの力
が放出されようとしていた。
 せっかく聖さまに助けてもらったのに。ピュリティさんから貰った命なのに、こんなと
ころで喪うなんて。そんなこと黙って許せるわけが無い。
 体中を奔る青と白の力。体が熱い。青白い力のうねりに身を任せてそれを解き放つと、
鎖のように体に巻きついていたアルレンの白い光の輪を弾き飛ばした。
 容赦なく力を発したアルレンの爆発が聖さまを今まさに焼き焦がそうとしている。
「聖さま!!」
 私の体から発した青白い光は、触手のような動きで聖さまの体に巻きつき私の元へ引き
寄せた。当然数メートル離れた程度では状況は変わらず、さらに力を解放し、青白いガラ
スのような箱を作って、その中に聖さまと二人籠もってやり過ごした。
 箱の外を真っ赤な炎が撫でるようにほとばしり、箱全体ががたがたと揺れる。
 私は傷ついた聖さまの体をぎゅっと抱きしめた。聖さまは気絶しているらしく反応が無
かったのは寂しくもあり、変なところを見られずに済んで安堵するという複雑な気分だっ
た。
「ありがとう。そしてゴメンなさい。必ず倒してみせますから、少し休んでいてください」
 聖さまの右わき腹を走る鋭い切り傷にそっと手を触れ、白い力を注ぎ込んだ。箱が派手
な音を立てて割れる。砕けた箱から遠くにアルレンの姿が見えた。
 私は箱から出てアルレンに向かってゆっくりと歩いた。アルレンの方も何故だか分から
ないけれど私が歩いてくるのを待っていた。
 そして私はアルレンと対峙する。倒すべき敵を目の前にして、全く緊張や畏れといった
ものが無かった。
「あなたはもう用済みなのよ。だから私に消されなさい」
「そうはいきません。逆にあなたこそ消えて下さい」
 アルレンの、深い紫色した瞳はどこまで冷たい。射抜く視線はそれだけで足がすくみそ
うになるほどの圧迫感や恐怖をはらませている。けれども私は何故だか平生を保てていた。
 私は巨大な氷塊の斧を練り上げ、柄の部分を両手でしかっりと握り締める。
 対してアルレンは武器を一切持たない。
 もちろんそんなことに気後れすることなく斧を高々と振り上げ、全身を使ってアルレン
を叩き潰そうと振り下ろす。
「It deals damage to target opponent and I gain life」
(稲妻がお前を焼き私は力を得る)
 赤色と白色が入り混じった稲妻が奔り、それの直撃を受けた私は、斧と一緒に後ろへ倒
れてしまった。
 直撃を受けた部分の制服が焦げてしまっている。でも不思議と痛みをあまり感じなかっ
た。痛みよりも、体中を血液よりも早く駆け巡る青と白の力の脈動の方を感じていた。
 むくりと起き上がりさっと斧をを掴み取って体制を立て直す。
「何故立ち上がるの? ダメージを受けていないのかしら?」
 僅かに焦燥感を表すアルレン。
「It burns to target opponent」
(猛火がお前を焼き尽くす)
 ごうごうと燃え盛る火の塊。空気が焦げ付きそうなほどの高温。
 心臓が熱を持っているのか、それに呼応するかのように私の体も熱くなる。
 炎の塊が視界いっぱいに広がったかと思うと、右半身と左半身からそれぞれ青と白の光
が現れ、その炎は何事も無かったかのように消え去った。
「くっ。そんな馬鹿な。あなたも使えるというの?」
 アルレンの質問の意味は分からない。けれど、アルレンの攻撃は私には効かないようだ
ということは分かった。
「Target player gets power and thoguness」
(私の力を強化する)
 私とアルレンとの間合いは約三メートル。アルレンは緑色した、装飾等が一切無いナイ
フを練り上げ、右手に握り締めた。アルレンが初めて見せた武器。   私は両手に持った斧を力いっぱい横に振り回し胴を払うが、がきんと鈍い音がした。
 アルレンはナイフ一本で私の一撃を受け止めた。
「どうしたのお嬢さん? それで終わり?」
 全力で斧を振るい続けるけれど、その全てをナイフだけでしのがれている。
 何度も何度も防がれ、なかなか隙を見せないアルレン。 「さようならお嬢さん」
 アルレンの瞬時の反撃。緑の閃光のような鋭い刺突を超人的な反応でよける。でも、ナ
イフの刃が左肩に食い込んでいた。
 左肩から全身に走る冷たく鋭い痛み。
   ナイフが肩から抜かれ今度はお腹に痛みが走る。
 真っ赤な血が肩やお腹から零れ落ち、雪の大地に鮮血の模様を描いていく。
 ふっと斧を握る力が抜け、どさっと重い音がした。血と一緒に立ってる力も流れ出てい
き、大の字になって倒れこんでしまった。
 血に染まったナイフを引き抜き、アルレンはそれを高々と掲げ笑う。 「さぁ、これで終わりよ。おやすみなさい」
「おいあんた。もういい加減にしろよ」
 聖さまの声だった。聖さまはすごく怒っていた。体からは金色の光の粒子が無数に漂っ
ていて幻想的な美しさだった。
「いい加減にするのはあなたの方よ!!」
 アルレンはこちらへ向かって歩く聖さまめがけてナイフをダーツのように投射した。
 でも緑の刃は聖さまに傷一つ付けることなく、聖さまの目の前で静止していた。
「なぜ!?」
「分かったんだ私。鈍いから理解するまで時間がかかっちゃったけれど。これ以上祐巳ち
ゃんを傷つけるならば……あんたを殺す」
 静止していたナイフが、空中でくるりと向きを変えアルレンに向かって飛び、彼女の紫
フードに切れ込みを走らせた。
 聖さまの瞳や髪は神々しい金色だった。に金の瞳がアルレンを刺し貫くような視線を放
つ。私には聖さまの瞳は少し恐かった。
 もらった白い珠の力のおかげなのか、傷が徐々に塞がっているようだけど、動けるだけ
の体力が私には残っていなかった。
「私を殺す? やれるものならやってみなさい!」
 アルレンが狂ったように緑色のナイフを次々と投げまくる。
 でも、一本のナイフも聖さまを傷つけることなく全て空中で静止していた。
 それらは力を失って、ぼとぼとと地面に落ちた。
「なぜ!? そんな馬鹿な。お前ごときが!」
 露骨にうろたえるアルレン。
「終わり? 意外と芸が無いのね」
 ふっ、と鼻で笑う聖さま。
「私の邪魔だけは絶対にさせない!!」
 アルレンに膨大な量の力を放とうとしている。力の色は赤、緑、青、茶、紫、黄、金、
黒、白、全ての色だった。
「聖さま!!」
「大丈夫だよ祐巳ちゃん」
 聖さまはにかっと白い歯を見せて笑った。
 アルレンの体から九つの色の筋のような光が発せられた。次の瞬間には、アルレンの全
身全霊を賭けた、破滅的なほどの破壊の力が解放される。
「消えろお前たち!!
Destroy all……」
「End the time」
 聖さまがそう呟くと、アルレンの力が急激にしぼんでいく。
「力が消えていく!! どうしてこんなことに!?」
 力が抜けたアルレンは地面に手を付いて脱力に苦しんでいた。
「あんたの時間は終わったんだ。もうこれ以上は無駄だよ」
「ふざけないで! お前なんかに私の気持ちが分かるわけないでしょう!」
 立ち上がったアルレンは、憎しみに顔を歪め、懐から緑色のナイフを取り出し聖さまの
胸を貫こうとナイフを振り上げた。
 金色の剣がアルレンの胸に突き立っている。私の目では捉えきれないほどの動きで聖さ
まは逆にアルレンを貫いていた。
「嫌よ……こんな……」
 紫のローブに赤黒い染みがじわりと広がっていく。
「…………」
 聖さまは黙ってアルレンを見下ろしていた。
 力なく仰向けに倒れたアルレン。赤い血が雪を少しずつ溶かしていく。
「まだ……やらなきゃ……」
   そしてアルレンの鼓動が止まった。
「祐巳ちゃん。帰ろうか」
「……そうですね。帰りましょう」
 アルレンというとっても悪い人だけど、目の前で死んでしまったのは少なからずショッ
クだった。
「ぎゃうっ!」
「あぁ。なんかその声久しぶりに聞いたような気がする」
 聖さまに真正面から抱きしめられた。暖かい。たったこれだけのことで、現金な私は、
気持ちは安らいでいく。
「じゃ、戻ろうか」
「はい、聖さま」

 エピローグ

 アルレンが死亡した瞬間に、小笠原の屋敷にそびえ立っていた氷柱は消滅し、首都圏を
覆っていた鉛のような重い雲、そして市街地に覆いかぶさっていた分厚い雪は、手品みた
いにあっさりと消えてなくなってしまった。
 今回の異常降雪による被害は甚大なもので、特に武蔵野市中心とする地域での、雪の重
みによる建物の損壊が著しかった。
 交通機関も大ダメージを受けており、特に一般道路に放置されていた事故車両の撤去に
は、数日を要していた。
 気温も平年の六月の気温に戻り、街も少しずつ立ち直ってきたのがアルレンが倒されて
から一週間ほど後のことだ。
 およそ十日ぶりに授業が再開されることになったリリアン女学園。
 朝の八時を少し過ぎた頃、リリアンの校門には祐巳と祥子の姿があった。
「今日は久しぶりの学校ですね」
「そうね。色々と大変だったわ。祐巳も私も」
 そうですね、と祐巳が言うと祥子は立ち止まり、改めて祐巳の顔を見つめた。
「あなた、そして聖さまにはいくらお礼を言っても言い足りないわ」
「そんなお姉さま、お礼だなんて……」
「お礼になんかくれるんだったら、祐巳ちゃんをちょうだいよ?」
 登校する他の生徒にはばかることなく、後ろから、聖は片手を上げながら祐巳と祥子の
方へ歩み寄ってきた。
「せ、聖さま!?」
「いくら聖さまの頼みでもそれはできませんので」
「え〜。じゃあ、祐巳ちゃんに選んでもらおうか。私と祥子、どっちを取る?」
「あ、その、えっと……ごめんなさぁい!」
 祐巳は回りの視線お構い無しにセーラーをひるがえしながら勢いよく走り出した。
「祐巳! ちょっと待ちなさい!」
「祐巳ちゃん待ってよ! 答えを聞かせてくれないと!」
 二人は祐巳を追いかけて走り出した。
 六月の梅雨の合間に訪れた快晴。雲ひとつない空の青さはどこまでも広がっていた。


  FIN


初版2006年4月28日


作後贅言

まずは、この長い作品をここまでご覧頂いたことに無上の感謝を記したいと思います。

本当にありがとうございました。

容量143KB、原稿用紙200枚分、65700文字という巨大戦艦みたいな太い作品

となりました。執筆期間約一ヶ月。サイトと平行して書き上げました。

書いたのはいいのですが、非常に不安です。自身がありません。

せっかくこれだけ長い物を読んで頂くのですから、かなり必死になっていましたね。

最後に一つ。

一人称の戦闘描写を書くのはは止めておこう(笑

それでは、また

ユラ