「熱湯卒業式」


Written by ユラ



 今日はリリアンの卒業式の日だ。花寺の生徒会長といっても別に出席する義務は無いん
だが、祐巳のやつがどうしても来てくれというかほとんど強制的に……


「ねぇ祐麒、明日の卒業式来てくれるんでしょう?」

「何でだよ。俺は関係ないだろ?」

「あらぁ、お姉さんの小さなお願いぐらい聞いてくれても罰なんて当たらないわ」

「いや待て、明日平日だし。学校どうするんだよ?」

「そうねぇ、この写真があれば休みたくなるでしょう?」

「……はい、休んででも出席させていただきますお姉さま」


   いつから蔦子さんは祐巳の手下になったんだ? っていうか何時撮ったんだよアレ。

 そういう訳で、祥子さん達の卒業式に父兄として出席することになったんだが、何なん
だろうかアレは? 舞台には、スピーチ用の台とマイクが設置されているのは当然だが、
舞台の右端に「実況席」と書いてある三人分の席はどういうことだ??

 そんな疑問が解決されること無く、時刻は午前九時になり式が始まった。

「卒業生入場!!」

 教員の声が式場に響き渡り、三年生が入場してくる。そして、めでたく薔薇様を就任す
ることになった祐巳、由乃さん、志摩子さんが何時の間にやら実況席に着席している。

 よ〜く目を凝らして見ると、

「実況 福沢祐巳」「解説 島津由乃」「解説 藤堂志摩子」ってネームプレートが置い
てある。はぁ、何がやりたいんだ祐巳は?

「はいごきげんようみなさま。とうとう始まりました第234回熱闘リリアン卒業式、実
況は福沢祐巳、解説は由乃さん、志摩子さんの三人でお送りいたします。さぁて卒業生が
入場してきましたがこれをどう見ますか由乃さん?」

「そうね、キレが足らないよね。軍人たるもの走って入場が基本よ!!」

 な、リリアンは軍隊なのか??

「おっと三年松組が入場ですね。お姉さにゃぁぁぁぁん!!!」

 イスの上に立ち上がり思い切り祥子さんに向かって全力で両手を振る祐巳。止めろ!!
恥かし過ぎるから!! 「お姉さにゃん」って何だよそれは!!

「その後ろはどうやら菊組の入場です」

「令ちゃあああああああん!!」

 うぉぉぉぉい!! 由乃さんまで!! どうなってるんだこれは!!

「乃梨子ぉぉぉぉ!!」

 えぇぇぇぇぇぇ!!! 志摩子さんあんたまで!! 何がやりたいんだあの実況席の連
中は? 乃梨子ちゃんは在校生だけどお構いなしだな。

「さぁてようやく三年生の入場が終りました。先任、所要時間は?」

 先任と呼ばれた由乃さんはストップウォッチを止めてタイムを告げる。

「七分十二秒」

「遅い!! 訓練の時では三分を切れとあれほど厳しく警告しておいたでしょう!!」

 拳を震わせながら怒る祐巳。先任って、先任伍長のことか?

「これでは本日ご出席いただいた来賓の方々のご紹介をいたします」

「来賓の紹介ですが、由乃さんは誰が来ていると思いますか?」

「そうねぇ、N監督?」

 いやいやN監督は今でも必死にリハビリされてるから無理だって。

「志摩子さんは?」

「えぇっと、真我寺(まがじ)の住職、由良島(ゆらしま)さんかしら?」

    ちょっと待てぃ!! あくまでカトリックの学校だぞここは。

「私は、お隣の西川さんだと思います」

 隣に西川さんなんていないよ!

「ごほん。それではご紹介いたします。文部科学大臣浅倉良橘さま、米国大使館次官ヤン
ヨーステンさま、東京小笠原銀行頭取小笠原神道さま、東京都知事北条國子さま、以上四
名の方にご出席いただきました」

 嘘だろおい!! 一高校の卒業式には豪華過ぎる来賓だな。なんか緊張してきたぞ。

「あぁぁこれは面白みに欠ける来賓ですねぇ。もう一捻り欲しいところでした。残念!」

「私も同感」

「以下同文」

 あの三人にしてみれば「つまらない」と。いやぁビッグだよあんた達は。

「続きまして、いただきました祝電を読み上げさせていただきます」

「ここできついボケをかまさないと、観客は引いてしまう瀬戸際、さあさあさあどんなネ
タが飛び出してくるのか期待が高まります!!」

「頑張れ先生!!」

 由乃さんは手でメガホンの形を作って大声で声援を送る。祝電だから先生頑張りよう無
いぞ?

「げふんげふん。それでは、日本国内閣総理大臣藤井博さまからいただきました祝電を、
読み上げますのでご清聴お願いします。

晴たる青空輝く雲。今日はリリアンを卒業する君たちにお祝いの言葉を贈ろうと思う。
この学園で君たちは様々なことを学んだと思う。例えば鉛筆の持ち方とか、歯磨きの仕方
とか、初めてのお使いとか、これらの知識やスキルは君たちの骨肉となり血潮となって、
輝ける未来の布石と為り得るだろう。
美しき推理が囁く真実、ズヴァリ君たちは一人前でしょう。あは、あははははははは。
それでは君達の前途を祝してごっつぁんチョップ。ではでは。
藤井博。

以上、藤井総理からの祝電でした」

 え? 今のが?? 冗談だと言ってくれ!!

「グッジョブ! グッジョブ!」

 祐巳は両手叩いて喜んで、

「今のは評価に値するぞ掌砲長!! 大義なり!!」

 竹刀を床に叩きつけてはしゃぐ由乃さんに、

「ただいまの点数は、ダラララララララ、ジャン、91点!! おめでとう!」

 一人で採点して勝手に盛り上がる志摩子さん。頼む、もう少し静かにしてくれないか?

「え、あ、で、では次に、保護者会代表の佐藤聖さまに挨拶をいただきます」

 え? えぇ? 聖さんが代表?? いやいや待て、落ち着け俺。同姓同名ということも
有り得ないことは無い。そうだ、きっとそうだ。

「ごきげんよう」

 ぎゃぁぁぁす!! 本物じゃないか!!

「今日は今日は保護者会の代表としていいたいことがある。よぉく聴け。一つ、卒業式は
つまらない上に眠たい」

『そうですね!!』

 在校生、卒業生問わず元気良く返ってくるレスポンス。事前に練習したのか??

「一つ、ぶっちゃけ証書は郵送してくれ」

『そうですか?』

 あら? 反論?

「一つ、本当の保護者会代表は祐巳ちゃんのお父さん」

『そうなんですね』

 なんか妙に息ピッタリだよ。

「一つ、この式の後私と祐巳ちゃんはデートに行くんだ」

『えぇぇぇぇぇぇぇ!!!』

 おいおい。ブーイングが巻き起こる卒業式なんて初めて見たぞ。

「以上、佐藤聖でした。ごきげんよう」

「はい、聖さまのお言葉心に刺さりましたね。由乃さんはどんな印象受けましたか?」

「良かったんじゃないの?」

 適当だなぁ。「私には興味ありません」という顔してる。

「志摩子さんはどうでしたか?」

「お姉さにゃぁぁぁぁん!!」

 志摩子さん!? その呼び方流行ってるのか? ねぇ流行ってるのソレ?

「学園長よりお祝いの言葉をいただきます」

「さぁて学園長の今日のネタは何でしょうか? 志摩子さんはどう思われますか?」

 待て待て! 学園長のネタ?

「そうですね、私は法廷ネタのコントがお気に入りですわ」

 それは、『あなたのために〜』を読めば済むと思うけどまだ満足してないのか志摩子さ
んは?

「卒業生のみなさんごきげんよう。そして、卒業おめでとう。今日は天候にも恵まれて晴
れやかな気分で送り出すことが出来て嬉しく思っています」

「来ました恒例の天候ネタが! 王道ですね。由乃さん何か一言」

「あ」

 それ「一言」じゃなくて「一文字」だから!

「皆さんがこのリリアンで学んだことをどう生かすかは皆さん次第です」

「これは無責任な発言ですね。教員ならば具体的な道を示していただかないと。志摩子さ
んはどう思われますか?」

「何と言えばいいのかしら、そうね、桜の木下はお勧めの出会いのスポットだわ」

 何の話をしてるんだ志摩子さん。間違いなく関係無いぞそれは。

「皆さんには無限の可能性と、そして限りない未来が待っています」

「それは違いますねぇ。私達にはほんの僅かな可能性と未来しか無く、少ない選択肢の中
で自分が良かれと思うものを選んできたに過ぎませんから」

 何てネガティブな思考なんだよ!! もうちょっと明るく行こうよ祐巳。いくらなんで
も湿っぽ過ぎるぞ。

 ことあるごとにツッコミを入れられる学園長は涙目になってきてるぞ。実況というか、
まるでいじめっ子じゃないか。

「え、うぁ、そのマリアさまのような人になって下さいね」

「おっとこれは安い台詞だ。小学生に言うようなことだぞ」

 容赦なく言葉の暴力(そう言っていいと思う)をぶつける祐巳。何か恨みでもあるのか?

「え、いやあのそういう訳ではなくて……以上で終ります」

 学園長の言葉を強制終了させた祐巳。いつの間にかいじめっ子キャラになってたんだ。

「在校生、送辞」

「おっと送辞です。この送辞の原文は確か乃梨子ちゃんが書いたものなんですよね、志摩
子さん」

 確かに乃梨子ちゃんは学業はものすごい優秀だけど、送辞って一年生が書いてもいいも
のなんだろうか??

「よく知っているわね祐巳さん。私もほんの少しだけどお手伝いしたわ」

「在校生代表、福沢祐巳」

 名前を呼ばれた祐巳は席から立ち上がり、卒業生に向かって挙手敬礼をした後、舞台中
央まで歩き、懐から鼻メガネと原稿を取り出し、おもむろに鼻メガネをかけてから原稿を
読み始めた。なんで鼻メガネなんだ?

「卒業生諸君! 私が在校生代表福沢祐巳であ〜る!」

 違う! 祐巳はそんないかついオッサンキャラじゃないだろう!

「え〜三年生の皆さんが卒業されるということでですね、やっと私の天下です。ずっとこ
の時を待っていました」

 いつからそんな野心家になってたんだよ!?

「私がいるのでみなさんはちゃっちゃと卒業しちゃって下さい。後のことは私がいいよう
にいじくり回してうふふふふ……」

 黒い!! めっちゃ黒いぜ祐巳!!

「以上です」

 おいぃぃぃぃ!! なんか犯行声明みたいな送辞っていうか本当に原案書いたの乃梨子
ちゃんなのか??

 送辞を読み終えた祐巳はかけてた鼻メガネを在校生の席に向かって思い切り放り投げ、
「サンキュー! バン」

 指で形作ったピストルを撃つマネをすると何人かの在校生がクラクラしていた。え? 
撃たれたのか??

「引き続いて、卒業生、答辞。卒業生代表小笠原祥子」

 前紅薔薇さまの祥子さんが答辞を読むようだ。あの祥子さんのことだから、きっとまと
もなものに違いない。と、思いたい。そろそろツッコミ入れるの疲れてきた……。

「いやぁ皆さんごきげんよ。小笠原祥子です〜。え〜なんや皆さんの前で五分ほど喋れ言
われましてね、というわけで、何か喋ります〜。
 今日は卒業式やからつい先日通販で買うた『MOYASIスーツ』いうの着てこようと
思ったんやけど、おかんにものっそい止められてね、泣く泣く制服着とるんですわ。
あのスーツの何があかんのやろね〜。血の様に真っ赤な色があかんのか、それともポッケ
から溢れんばかりにつめこんだグミがあかんのか。皆さんどう思いはる?
   え? 今で何分? まだ二分?? それでやね、え〜っと、何の話しやったっけ?
 それはまぁどうでもえぇか。今年一年はホンマ色々ありまして、梅雨にはあやうく祐巳
と破局しかけたり、通販番組の司会やったり、ポケモンに出演してみたり、被告人やった
りと、まぁ体一つでよぅこなせたなぁと思うわけです。
 で、今日でうちらは卒業するわけやけど、え〜っとまぁぶっちゃけうちは大学リリアン
やからそう感慨深いことも無いねんけどな〜。
 あぁもうそろそろ時間やから、終わりにしよか。ほっだらまた。シ〜ユ〜」

 ………………。何で関西弁なんだとか、答辞にしては内容が軽すぎるとか、「MOYA
SIスーツ」を着て来ようと思うその感覚とか色々ツッコミ所満載だけど、あえて今のは
聞かなかったことにしよう。うん、そのほうがいいや。

「心に染み入る深いお言葉の素晴らしい答辞でしたねぇ由乃さん!!」

「うん。良かった」

 あんなんでいいのか? じゃあ俺もあれぐらいの内容の送辞をっていかんいかん。惑わ
されるな俺。

「志摩子さんはどんな感想でしたか?」

「出会いの季節と言えばやっぱり春でしょう」

 グレート!! 意味不明過ぎてグレート!!

「最後に校歌斉唱」

「その校歌斉唱待ったぁぁぁ!!」

 実況席のマイクを握り司会進行役の教員に向かって人差し指を突きつけながら異議を唱
える祐巳。今度は何なんだ!?

「校歌の変わりに私が歌を歌います」

 祐巳が指をパチンと鳴らすと、舞台の後ろの垂れ幕がすうっと上がり、ギターの蓉子さ
ん、ベースの江利子さん、ドラムの聖さんがスタンバイしている。もう何処でも来るんだ
なあの人達は。

 由乃さんと志摩子さんが台をどかし、祐巳は舞台中央で歌い始めた。

「聴いて下さい。『卒業ロケンロール』」


 (前奏32秒)  卒業式だぜ 出力全開ロケンロー!! (ロケンロー!!)

 サムライソードで一刀両断ロケンロー!! (ロケンロー!!)

 花粉症でこの季節になると鼻水や目のかゆみや
 くしゃみが止まらないぜロケンロー!! (ロケンロー!!)

 高校卒業すればいろんなことができるぜ あんなことやこんなことも解禁解禁
 アダルティックな世界へレッツゴー!!

 「あたいはもう大人なんだぜベイビ〜」 (ベイビー)

 履歴書にもやっと「リリアン女学園高等部卒業」って書けるぜロケンロー! (ロケンロー!)

 お礼参りするぜ ありがとよロケンロー!! (ロケンロー!!)

 イタリアいいとこ 一度はおいでロケンロー!! (ロケンロー!!)

 高校卒業すればまぁ大多数は大学行くけど 就職する人は偉いと思うぜ偉大偉大
 社会の荒波に一足先に揉まれてくるぜあばよ!!

 「あたいが子供だなんて呼ばせないぜベイビ〜」 (ベイビ〜)

 (間奏45秒)

 この桜吹雪が目に入らないのかロケンロー!! (ロケンロー!!)

 桜で思い出したけど 「桜田門外の変」って何だったっけロケンロー! (ロケンロー!)

 卒業式の後には 打ち上げに行ってくるぜロケンロー!! (ロケンロー!!)

 高校卒業すればなんか一人前になった気がするけど 実際はそうでないぜ半人前半人前
 本当の意味での大人には一体何時になれば成れるんだ?

 「あたいは答えを探しに行ってくるぜベイビ〜」 (ベイビ〜)

 青春の証だ!! (ロケンロー!!)

 明日への一歩だ!! (ロケンロー!!)

 屋台で熱燗一杯!! (ロケンロー!!)

 事務所で一服!! (ロケンロー!!)

 週末は競馬の予想だ!! (ロケンロー!!)

 イタリア生まれだ!! (ロケンロー!!)

 私の名前だ!! (ロケン=ロー)

   グラデュエーションロケンロー!!


 僕もう帰っていいですか?

「祐巳さんに盛大な拍手を!!」

 由乃さんが拍手を促すと、会場が割れんばかりの盛大な拍手が巻き起こった。

「以上で、卒業式を終えたいと思います。卒業生退場」

「はい。というわけで234回熱湯リリアン卒業式終わりです。今日の感想を志摩子さん
からお願いしましょう」

「乃梨子。後で薔薇の舘に集合ね」

 感想と連絡を取り違えてるのか志摩子さん? 

「それでは次に由乃さんどうぞ」

「令ちゃんも後で薔薇の館に集合してね」

 いやだから感想は??

「以上で、実況終了です。今日は皆さんありがとうございました。それではまたお会いし
ましょう。ごきげんよう」

「「ごきげんよう」」

 次は祐巳達が卒業生だって分かってるのか?? まぁいいや、帰ろう。疲れたから寝る。




FIN?



初版2006年3月18日


作後贅言

いやぁやってしまった感が溢れてる作品ですねぇ。

実際にこんな卒業式ならば退屈せずに済みそうですが、ひたすら五月蝿いことこの上ない

かもしれないですね(笑

本文中にはいくつか小ネタを仕込んでみました皆さんはいくつ気が付かれましたか?

例えば、「美しき推理が囁く真実、ズヴァリ〜」は逆転裁判3の星威岳哀牙の喋りで、

文部科学省の大臣「浅倉良橘」は終戦のローレライの海軍大佐、東京都知事の「北条國子」

はシャングリ・ラの主人公、とまぁちっさいネタですね(笑

ちなみにタイトルの「熱湯」は誤植ではなくて仕様ですので〜。

それでは、また。




ユラ