「聖さまのカレー NG take ver」


Written by 榎木津巽




「祐巳ちゃんは私の家に泊まります」

 聖さまと二人きりな薔薇の館で、いきなり聖さまがこんなことを言い出した。

 あの、スイマセン。意味が分からないです。脈絡も何もないし。しかも語尾が「ます」

ってどういうこと!?

「それはどういうことですか?」

「あのね、今日から三週間、両親不在なんだよ。はい、というわけで祐巳ちゃんのお泊り

けって〜い!! 聖と祐巳はラブリーナイト! これぞ正しくfate/lovely 

nightって感じ?」

 一人で勝手に盛り上がる聖さま。私には選択肢というものが無いんですか!? あえて

fate〜にはツッコミを入れない私。祐麒と違って何でもツッコムわけじゃありません

から。

「聖さま。まずは落ち着いてください。なぜご両親が不在なことと、私が泊まることが繋

がるんでしょうか」

「鈍いねぇ。鈍い! 小うるさい親がいないんだから、することなんて分かってるくせに

祐巳ちゃんたら。あ、もしかしてハッキリ言って欲しいからこんなこと聞くんだね。そう

かそうか、えろすは程ほどにね」

 一人頷く聖さま。なんかもう、私が泊まること前提だ。受け答えがズレてる上に、さり

気にネタを織り交ぜてるし。

「まだ私はお泊りするなんて一言も口にしてませんが」

「ん? 言ったじゃんか。一分後に」

 一分後って、未来の話を過去形で言わないで下さい。一瞬本当に無意識のうちに答えて

しまったかと心配してしまったんですから。

「まだ言ってません」

「今から言わしたる! めっちゃイワしたるでぇ」

 なんでそこで関西弁なんだか。しかも後半の「イワす」って「言わす」という意味じゃ

ないような……。

「もう卒業が近いからさ、私は祐巳ちゃんと思い出が作りたいだけなんだけどなぁ……」

 ダメ? と、聖さまは私の顔をうかがう。

 あぁ、そんなお美しいお顔でじっと見詰められたら……

「分かりました。いいですよ」

 と、簡単に折れてしまう福沢祐巳だった。えぇい、これは不可抗力なんだから仕方ない。

 聖さまのお家に宿泊させてもらうのはいいとして、いや、よくないか。まぁ、それは置

いておこう。えっと、問題なのはどうやって親を説得しようかということだ。

「そこは任っかせなさい! 私の素晴らしいネゴシエーションを披露してあげるから」

 どことなく胡散臭かったけれども、私では手に負えそうも無かったので、私の携帯電話

を聖さまに渡した。

「お久しぶりです、佐藤聖です。今晩祐巳ちゃんを一晩お借りしたいのですが。はい、そ

うなんですよ全く困ったものでして。はい、はい。え? お母さんも家に来られたい、で

すか? それはご勘弁願えませんでしょうか。今晩は私が美味しく調理してから、いただ

こうと思いまして。そこはご心配には及びません。慣れてますからねぇ。はい、それはま

たご家族がいらっしゃらないときにいたしましょう。それでは、お借りしてよろしいでし

ょうか。ありがとうございます。大丈夫です、優しく料理しますから。はい、はい、それ

では、えぇ。はい、ごきげんよう」

 電話では調理がどうとか言ってた。お母さんは晩御飯の心配をしたのかな。でも、なぜ

だか分からないけど、私の体に寒気が走った。なんだろう。嫌な悪寒がする。

「はい、お待たせ。めでたく一晩の間祐巳ちゃんを借りることに成功したよ。これで問題

は無くなったというわけだ」

「えぇ、まぁそうですね」

 私達は後片付けを手早く終わらせて、薔薇の館を後にした。

 今後の予定としては、まず、一旦私が家に帰って着替えの用意をする。聖さまも自宅へ

戻り、車に乗って家までお出迎えをしてくれ、そこから佐藤家まで送ってくれるという寸

法になっている。

「それでは聖さま、私の用意が出来たらメールで連絡させていただきます」

「うん。待ってるよ、それじゃ」

 私達はこうして駅で別れた。

 自宅に戻って直ぐに、クローゼットから着替えを取り出したり、タンスから替えの下着

を用意し、準備完了のメールを送信。

 それから十五分ほどで、聖さまが車でやって来た。が、しかし……

「なんじゃこりゃぁ!!」

 言葉遣いが全力で乱れるほどのショッキングなモノが目の前に。家の前に停まっていた

四輪車のカラーは、蛍光ピンク一色。目がチカチカする。

 そしてボンネットにはでかでかと「祐巳・命」、ドアには「Lovely Yumi」、

トランク部分には「ところてん」と、黒い文字でペイントされているのだ。

 恥ずかしいことこの上ない! しかも「ところてん」ってどこから出てきた?

「聖さま、この車に乗るんですか? 本当に」

「祐巳ちゃんがどうしても歩きたいって言うのならば、私は別に構わないけど」

 もしここで私が「歩く」って言った場合、このイタイ車を一晩の間ずっと家の前に止め

ておくことになる。うわぁ、それも嫌だなぁ……。

 家の前で考え込むこと五分。私は断腸の思いで乗車することを選んだ。福沢家の恥を思

えば、私一人が犠牲になればいいのだから。しかしこれは何ていう罰ゲームなんだろう。

 佐藤家までの車中は、お正月のときに比べると多少穏やかに乗っていられたと思う。

「はぁい、着いたよ。ここが私の家」

「…………」

 顔から火が出そうなほど恥ずかしい、とはよくいったもので、信号待ちで停車中とかに

は、通行人がちらっと車の中を覗き見てくる。その度に私は下を向いて「私は化石。私は

化石」と何度も心の中で念じるのように繰り返した。これ何ていう公開羞恥プレイ?

 聖さまの手を引かれながら(あれ、いつの間に?)、玄関までやって来た。ポケットか

ら鍵を取り出し開錠、明かりの点いていない家の中は人気が無く、しんと静まり返ってい

た。ご両親が不在というのは本当らしい。

「遠慮なく上がってちょうだいな」

「はい、お邪魔いたします」

 一旦荷物を聖さまの部屋に置こうということで、二階へ案内された。

 二階には三つの部屋があり、一番奥のが聖さまのお部屋だとか。残りは物置と寝室だそ

うです。

「適当なところに置いといていいから」

 初めて拝見する聖さまのお部屋。扉を開けた瞬間そこには……なんか置いてあった。

「聖さまこれ何ですか?」

 なんとなく楽器のドラムに見えるけども、本物のドラムは太鼓がいくつも並んでいる。

でもこれは太鼓の代わりに丸いゴムのパッドが並んであった。

「あぁ、コレ? こいつはいわゆる、電子ドラムってやつでさ、叩いても音が鳴らないん

だ」

 聖さまは背中から(どうやってしまってるんだろ?)スティックを取り出し、適当にパ

カパカ叩く。当然叩いたときには乾いた音がするけども、太鼓の音は全くしなかった。

「この叩いた音は機械に繋いだヘッドホンからしか聞こえないの。だから防音設備の無い

家でも、あんまり他所には迷惑がかからない代物なんだ。その代わり下の階に振動が響く

けどね」

 なるほど。家でも練習してるから、あんなバカみたいに早く叩けるんだ。素直に感心し

てしまった。え? 何のことかって? それはMahooシリーズをご覧下されば一目瞭

然です。

「夕食の支度するから、私は下りるね」

 壁にかかっていた時計を見ると、午後五時四十二分。もうそんな時間だった。

「聖さま。何を作られるんです?」

「カレーだよ」

 そういえば聖さまの手料理って始めて食べるような気がする。コーヒーやお茶は何度か

淹れてもらったことがあるけども。期待していいのかな? かな?

「出来上がるまで適当にくつろいでてよ。出来上がったら呼ぶからさ」

「いえいえ、私もお手伝いしますよ」

「私、特級厨士だからおいそれと調理方法を人様に見せられないんだよねぇ。ほら、企業

秘密ってやつだ」

 そんな肩書き初めて聞いた。秘匿しなければならないカレーの調理方法ってどんなだ?

「私だけのんびるするのもちょっと……」

「つべこべ言ってると蝋人形……じゃなくてカレーの具材にしちゃうヨ?」

 蝋人形って何のことか分からなかったけれど、ここでいつまでも意地を張るのもかえっ

て迷惑かな、と思ったので従うことにした。

「それでは、出来たら呼んでくださいね」

 聖さまはスティックを机に置くと、部屋を出ていった。

 さぁて皆さまお待ちかねの、聖さまのお部屋家宅捜査タ〜イム。色んなところを家捜し

しちゃいます。一体どんなデンジャラスアイテムが飛び出してくるんでしょうか!?

 まずは机の引き出しを、上から下まで開けていきましょう。

 普通です。特に変わったものはありません。プリントや文房具が入っているだけでした。

 が、しかし、一番下の段の底の辺りにこんなものを見つけました。

 小学生のときと、中学生のときの卒業アルバム。

 若かりし頃の、いや、幼い頃の聖さまのお姿を勝手に拝見します。

 聖さまのお顔は結構目立つので、集合写真であっても割と簡単に見つけられた。

 ほぅ。これが小学六年生のときの聖さまですか。

 この頃から「アタイはナイフなんだぜ」的なオーラを発していた模様です。どの写真も

結構目つきが鋭くて、笑顔を見せてるものがほとんど無かった。今のよく笑う聖さまから

はちょっと想像できない。

 でもそういうツンとしたところがカワイイなぁ。

 当時の聖さまに話しかけたりしたら、「なんだアンタは。用が無いなら話しかけないで

くれる?」とか何とか言っちゃったりするんだろうね。

 お次は中学時代のアルバムを拝見しましょう。

 髪は中学生のときから伸ばし始めていたみたいで、中学三年生ぐらいになると結構長か

った。肩甲骨ぐらいまであるかな。

 蓉子さまと同じクラスになったことがあるって言ってたっけ。中学時代の蓉子さまも拝

見しちゃいましょう。

 今と全然変わらないですね。この頃から真面目な委員長気質を持っていたみたい。蓉子

さまの性質はどうも生来的なものですな。これは。

 おや? これは夏の校内水泳大会のときの写真だ。

 ほぅ。これは中々に。うん。えへへぇ。ごちそうさまでした。

 アルバムの前で合掌する私。

 しばしの間堪能した後、これらを元に戻し、次はイケナイ物を隠すときのお約束な場所

である、ベッドの下を拝見しちゃいますよ。

「うわっ!!」

 こ、これは……見てはいけないものをミテシマッタ。

 うん。今のはなし。ノーカウント。ワタシ何も見てないネ。祐巳は嘘言いません。

 でも、あれって通販か。通販で買ったのか!?

「祐巳ちゃ〜ん。ご飯でけたよ〜」

「はぁーい。今行きまーす」

 おっと時間だ。今回はコレぐらいにしておいてやる〜。

 階段を下りていくうちにカレーの美味しそうな香りがしてきた。ついでにお腹もぐぅと

鳴った。

 居間に置いてあるテーブルには、既に二人分のお皿が用意してあり、ご飯とルーが盛り

付けられていた。

「美味しそうですね」

「そうでしょう? 力作なんだから」

 エプロンをはずした私服姿の聖さま。いつの間に着替えたんだ、と思ったらソファに制

服が脱ぎ捨ててあった。その周りには聖さまのものらしい服が適当に置き散らしてある。

 どうも自分の部屋で着替えるということはあんまりしないみたいだ。

「じゃあいただこうか」

 両手を合わせて、いただきますをしてから早速スプーンで一すくいして口に運んだ。

 甘い。甘口じゃなくて甘い。溶かしたカレー臭いチョコレートをご飯にぶっかけたみた

いだ。

「せ、聖さま。これ……」

「祐巳ちゃん甘いものが好きだからと思ってチョコを足してみたんだ。後他にも色々と。

美味しくない?」

 困った顔する聖さま。

 私も困った。せっかく作ってもらったのはありがたいんだけど、これは褒めにくい。美

味しい不味い以前に「甘い」のだから仕方が無い。

「いえ、大丈夫です。食べれますから」

 もう一すくいして口に運んだ。

 やっぱり甘い。とても。

 涙目になりながら無理やり一皿分を胃袋に押し込んだ。よくやった私。偉いぞ。自分で

自分を褒めてあげたいです。

 食後の後、片づけを終わらせしばらくの間雑談にふけっていた。

 そして午後八時ごろ。

「もうそろそろお風呂に入らない?」

「聖さまお先にどうぞ」

「ん? 何を言ってるの。一緒に入るに決まってるじゃない。入って祐巳ちゃんを美味し

く頂くんだから」

 さらっとそんなことをおっしゃられても困る。すごい困る。頂くって何ですか!?

「いえいえそんな、私は後で構わないですから」

「今日の祐巳ちゃんいつもと違ってお堅いねぇ。普段のあのノリはどうしたんだい?」

「そんなことありませんから」

 聖さまの方がいつもより緩くなってるんだけどなぁ。

 なんとか入浴は別々になりました。今日の聖さま食欲旺盛だし。

 一晩なんて時間はあっという間に過ぎていくものだ。お風呂から上がってしばらくはテ

レビを見たりして、それに飽きたら聖さまのお部屋で、お喋りに興じていた。

 どんな内容だったかは、本人の名誉のため伏せておきますけど。

 次の日の朝。帰りは最寄り駅まで歩こうと思い、聖さまに送ってもらうのを丁重にかつ

頑なにお断りした。流石にあのイタイ車に二度も乗るのは勘弁していただきたいからね。

 え? また行きたいかって? うんとね、行きたい……かな。









作後贅言

 OKバージョンとNGバージョンを平行して書いていたので、感覚が狂う狂う(笑

先にOKの方が仕上がったので、NGの方にもそれとな〜く甘い香りがするような??

基本的に、OKで「ある」ものはNGでは「ありません」。

OKではカレーを一緒に作ってますが、NGでは聖さま任せです。

ですので、NGバージョンといいながら内容は殆ど別物だったりしたわけですねぇ。

それでは、また。