
「40mの悲劇」
written by ユラ
第一章「行ってきま〜す」
三咲町にある山の頂上には遠野家の屋敷が今日もまた威圧的、高圧的な威容を湛えていた。
その遠野屋敷の地下にある王国では、使用人兼料理人兼裏の主である琥珀は今日も今日とて、怪しげな研究に邁進している。
琥珀は、ふんふふ〜ん、と楽しげに鼻歌なんぞ歌いながらぼこぼこと沸騰する真っ青な液体に、妖しげな粉末を丁寧に注いでいく。
粉末を注ぎ終え、それをよ〜くかき混ぜた。そして、
「は〜いやっと完成です。あは、これで志貴さんは私のものに…」
彼女の容姿はお世辞抜きに可愛らしい。肩口まで伸びた赤い髪を青い大きなリボンで結んだ、いつも笑顔が素敵な少女が、
妖しさ満点なフラスコを片手にうっとりとした表情で独り言を呟いた。
素敵な笑顔の裏に隠されたその腹黒さも彼女の魅力の一つであると言えるのだが、この話題はまたの機会にしておこう。
さて、薬品の調合も一段落し、彼女は次の行動を起こすべく街へ買い物に出かける準備をし始めた。
出発する前に、たった今完成したばかりの青い液体をスポイトで適量吸出し、それを小さなガラスの瓶に移し蓋を確りと締め、
瓶を大事そうに胸元にしまうと、晴れやかな笑顔で研究所をあとにした。
主の去った研究所にの台の上には真っ青な液体の薬品「まききゅーX」が、フラスコの中で静かに揺れていた。
「まききゅうーX」 これを投与された者の新陳代謝は急激にかつ猛烈に活発になり、さらに限界を超えた成長を促し肉体に劇的な
変化が訪れる。つまるところ、「巨大化」してしまうのである。
さらに、まききゅうーXはたったの一滴でも効果を発揮する劇薬で、まさにケミカルウェポンなのである。
琥珀はこの化学兵器「まききゅうーX」を、誰に、どのように、何のために使うつもりなのだろうか。
もちろんそんなことは本人にしか分からないのではあるが…
第二章「あら、ごめんあそばせ」
鳥居江利子は可愛い後輩の差し入れを買うためメイプルパーラーへやってきた。
この6月という梅雨の季節に何故彼女は後輩に差し入れなんかしようと思い立ったのか当の本人にもあまり分かっていない。
現在大学一年生の彼女は、去年まで高校の生徒会に所属し、今日はその後輩達への差し入れのためにわざわざこの店まで
足を運んだのである。
「メイプルパーラー」 都内に何店舗もの店を構える有名な洋菓子の専門店であり、クッキーやゼリー、ケーキといった甘いものに
目が無い若い女性達の間では一般教養的な知名度を誇る名店である。
メイプルパーラーK駅前店の店内は今日もまた学校帰りの女子高生でわいわいと賑わっていた。
そんな店内で江利子はある人物に目を向ける。
あら? すごく浮いてるわ。
店内は制服を着た女子高生が主である。しかし、その中に一際目立つ格好をした女性がいた。
女性というよりかは少女というべきだろうか。年齢は私と同じぐらいとは思うのだが商品を眺める表情は妙に幼く見える。
しかし、その彼女が纏う雰囲気はこれまた妙にしっとりと大人びてた。
でも、一番気を引いたのは彼女の服装だった。
なぜこの場で着物なのか?
彼女の服装はこげ茶色の着物(といっても結婚式等で着るような大袈裟なものではない)をさらっと着こなしていた。
洋菓子店に着物。どう考えても違和感はぬぐえない組み合わせ。
私はもう既に買い物は済ませているのだけど、名前も知らない着物少女の姿をしばらく観察していた。
その彼女も買い物を済ませており店内の商品を眺めるばかりだった。
私の視線に気づいてかどうかは定かではないけど、彼女は店の出入り口へ向かう。
そして、私の側まであと一メートルのところで、
「うわ」
「きゃっ」
「あら」
彼女の近くにいた女子高生の一人がつまずき、彼女にぶつかり、ぶつかられた彼女もまたバランスを崩し私にぶつかった。
三人による玉突き事故発生。
ぶつかった拍子に私と彼女は手に持っていた紙袋を床に落としてしまった。奇遇なことに私と彼女は同じものを買っていた。
私は二つ紙袋を拾い上げ一つを着物の彼女に手渡す。
「大丈夫かしら?」
「はい、平気です。すみません」
にこりと笑う笑顔が素敵だった。普段からこういった表情をしていないとこんな素敵な表情は出来ないものである。
「不注意でしたごめんなさい」
と、女子高生は謝った。別になんとも思ってないので、その場は平穏に解決された。
とある店でのちょっとした出来事。しかし、これが後々とんでもないことになるとは誰にも分からなかった。
第三章「いらっしゃいませ」
それはまさに嵐のように過ぎ去った。
放課後、私達は薔薇の館に集合し学園祭の準備のための作業をしていた。
しばらく薔薇の館を敬遠していた私だったけど、由乃さんにせがまれて仕方なく館へやってきた。
今、私と祥子さまの関係は残念ながらよろしくない。お互いゆっくりと話をすれば解決するのだろうが、しかし
肝心の祥子さまは今日もまた学校を休んでいた。
館には令さま、由乃さん、志摩子さん、乃梨子ちゃん、私の計五人がいた。
そして、五人は黙々と作業をしていると階段がぎしぎしと鳴った。誰かが訪ねてきたのだろう。でも誰も心当たりが無い。
「ごきげんよう。お久しぶりね」
旧黄薔薇さまである鳥居江利子さまが紙袋を手に館を訪ねてきた。皆一斉にビスケット扉の江利子さまを見る。
「お、お姉さま!? 突然どうされたんですか」
令さまはあわてて尋ねる一方私は、「えっ?」とも「へっ?」とも言えずにただ固まっていた。
「どうもしないわよ。ただ寄っただけ。はい、これ差し入れ。みんなで食べてね」
とすんと紙袋をテーブル置いた江利子様は皆の反応を待たずに「じゃあね」と帰られてしまった。
訪れて帰るのに三十秒もかからなかった全く想定外の来訪者に、館の二階の時はしばらく停止していた。
「これどうされますか。開けてみましょうか」
一番に冷静さを取り戻した乃梨子ちゃんが尋ねる。
「ちょっと待って。これ何か怪しくない? まずは中身を確認しましょ」
名探偵由乃さんが紙袋から慎重に箱を取り出したそれは一見ごく普通のメイプルパーラーのクッキー詰め合わせセットのだった。
「別になんとも無いようね。じゃあお茶にしましょう、乃梨子お願い」
「はい志摩子さん」
と、流しへお茶を淹れに乃梨子ちゃんは向かった。
由乃さんが箱の蓋を開けると何の変哲も無いクッキーの詰め合わせだった。なんか心配して損したような気もする。
いくら面白いものが好きな江利子さまといえども未開封の市販のお菓子に細工するなんてできっこない。
「由乃。今なんか変じゃなかった?」
令さまが由乃さんに訊いた。でも私が見る限りおかしなところはない。
「た? お姉さまはこのクッキーじゃなくて包装紙に何かあったって言うの?」
「変じゃない?」ではなく「変じゃなかった?」。でもやっぱり私にはおかしなところは見当たらなかった。
「由乃がなんともないっていうならそれでいいんだけど…」
人数分の紅茶が用意され、乃梨子ちゃんも席についた。
ずずっと紅茶を飲む音がいやに響いた。まだ誰もクッキーに手をつけていない。
このまま置いておくのももったいないので、いただくことにしチョコチップクッキーを一枚つまんでそっと一口かじってみた。
美味しい。クッキーといえばやっぱりチョコチップに限る。
「祐巳さん大丈夫?」
と、心配そうに由乃さんが訊く。誰に頼まれたわけでもないのに私は進んで毒見役を引き受けてしまっていた。
「大丈夫。このクッキーすごくおいしいよ」
私はもう一口かじってみた。やっぱり甘くて美味しい。
「じゃ、大丈夫そうね」
由乃さんが箱に手を伸ばそうとしたその瞬間…。
あれ? あれあれあれ?
体が急に熱くなり、全身からなんかこうエネルギーみたいなものが溢れんばかりに湧き出てくる。
「どうしたの祐巳さん!!」
「きゃあ!!」
みんながだんだん小さくなっていく。あれ? あれあれあれ?
「逃げるのよ!!」
私以外のメンバーが大急ぎで館から避難するその一方、私の周りの世界はどんどん小さくなっていく。
あっ。これは周りが小さくなってるんじゃなくて、私が大きくなってる!!
とうとう館の二階の床がぬけ、それでもまだ私の体は巨大化していく。どうなってるのこれ??
およそ五分ほど経過してやっと福沢祐巳の巨大化が終った。
結局彼女の体は全長四十メートル、体重三万五千トンという人間を遥かに凌ぐ巨人になってしまった。
その方面に博識な方ならばこの数字をみてピンとくるだろうと思われる。それはなぜか。
そう、彼女の全長と体重はかの有名な英雄ウルトラマンと同じサイズなのである。
地球の平和を幾度となく護った英雄と同じサイズになれたことは、名誉なというよりかひたすら迷惑な話である。
全長は人間のおよそ二十四倍、体重にいたっては人間の五千八百万倍という超ジャンボサイズの生き物になってしまった祐巳。
「どどどどど、どうしよう!!」
体が大きくなっても彼女の道路工事は快調だった。
「う、うーん…」
と、現実に耐えられなくなった彼女は気を失い、中庭の木々を何本か薙ぎ倒しながらその場に崩れる様に倒れてしまい、
ドーンという激音と共に濛々と砂埃や塵が舞い上がった。
第四章「それはあかんやろ」
琥珀は遠野家の現当主遠野秋葉と、その義理の兄、遠野志貴と共にちょっと遅めの午後のティータイムを、屋敷のテラスで楽しんでいた。
しかし、楽しんでいるのは表面だけで、その内心は時とともに焦りがつのっていく。
おかしい。秋葉様がクッキーを召し上がってから既に三十分が経とうとしている。
秋葉様が純粋な人間ではないという点を考慮したとしても、効果が現れるのにこれだけ時間がかかるとはどうしても思えない。
普通の人間ならば摂取後約三十秒ほどで効果が現れ始め、三〜五分後には巨大化が完了する。
のであるが、しかし、未だに何の変化の兆しも現れず、秋葉様は実に優雅に紅茶を嗜んでおられる。
「琥珀」
「はい、何でしょうか秋葉様」
内心の焦りを一ミリたりとも表に出さないよう、普段通りに対応した。
「何故あなたはクッキーをいただかないのかしら?」
「いえいえ私のことはお気になさらずに。後で翡翠ちゃんと一緒にいただきますから」
「そう。それならいいんだけど」
残念ながらこれを愛する双子の妹、翡翠ちゃんと一緒に食べることはできない。
だってそれには薬品混入してますから〜!! ざんね〜ん!! 遠野家転覆計画斬り…
さて、これだけ時間が経っても何の変化も見られないということは、ある一つの結論に到らなければならない。
秋葉様には「まききゅーX」が効かない、と。
いやまてよ、頭にまた別の可能性が浮かんできた。それは、
そもそもこのクッキーにはまききゅーXが入っていなかった、と。
この可能性のほうがよっぽど納得できそうだった。生き物であるかぎりアレが効かないなんてことは有り得ない。
あの薬の製作者だからこそ力強く断言できる。
では、薬入りのクッキーは何処へ行ってしまったのか、と、考えること約二秒すぐに思い当たった。
メイプルパーラーK駅前店。そこである高校生にぶつかられ、バランスを崩し、近くの女性にぶつかり手に持っていた紙袋が…。
さて、あの女性はどうしたのだろうか。もう既に食べてしまったのだろうか。
もし、アレを食べてしまったならば非常に面倒なことになる。さて、一体どうしたもんか…。
第五章「もしもし、ちょっとお尋ねしたいことがあるんやが」
祐巳が中庭で気絶してしまってからおよそ五時間が経過した頃ようやく彼女は目を覚まし立ち上がった。
自分が巨大化してしまったという現実がやはり夢ではないと理解し再び気絶しそうになったが、今度はなんとか持ち堪えた。
リリアン女学園の敷地内及びその周辺では、警察官や報道関係者、現場を一目見ようとする野次馬達でごった返し、
大変な騒ぎとなっている。
リリアン上空ではTV局のヘリコプターが何機か周囲を飛行し、警視庁のヘリコプターがそれらを牽制するように飛んでいた。
たったの数時間前の午後のひと時からは想像も出来ないぐらい学園の平和は大きく乱されてしまっている。
これからどうしようか。こんなに大きくなってしまったら祥子様に会えない。
会えない? いや、まてまて。会えるじゃないか。今の私には怖いものなんて一つも無い。
ドリルなんて恐るるに足らず。祥子様に会ってちゃんとお話しよう。いざ小笠原邸へ参らん!!
今まで全く動きの無かった祐巳は、愛しのお姉さまの住む小笠原の屋敷目指してドシンドシンとその巨体を歩ませていく。
「う、動いたぞ! こっちに来る! に、逃げろ!!」
慌てふためく人々を知ってか知らんでか、祐巳は最短距離で小笠原邸を目指す。
塀を蹴り壊し、電柱を薙ぎ倒し、自動車を踏み潰し、家屋や建造物を踏み潰しながらズンズンと歩いていくその姿は、まさに怪獣だった。
東京の夜に突然そびえる黒い巨大な影。それがもたらすものは…。
第六章「まじで?」
「遠野、お前テレビ見たか」
有彦からの電話は夕食を摂ってからしばらく経った後だった。
残念ながらうちの屋敷にはテレビは一台しかない。妹の秋葉がこの屋敷の主となった時、
「こんな俗っぽいものは遠野の屋敷には不要です。捨ててしまいなさい」と、のたまったそうだ。
よって、その貴重なテレビは琥珀さんの部屋にあり、たまにお邪魔しては見せてもらっていた。
「いや、お前うちのテレビ事情知らなかったっけ」
「そういえば…。いやあ悪い悪い。とりあえず、今すぐに見ろ。なんとしてもだ。分かったな? じゃ」
ほとんど一方的に喋って電話を切ってしまった。まだ、うんとも言っていないのに。
しかし、電話を寄こしてまで見せたい番組とはなんだろうか。あ、しまった。番組の名前を聞き忘れた。
とりあえず琥珀さんに頼んでテレビを見せてもらおう。
コンコンと部屋のドアをノックし、
「琥珀さん。今ちょっといいかな」
はい、なんでしょうか、とドアが開く。
「悪いんだけど、テレビを見せてもらおうかなと思って」
そう言うと一瞬だが琥珀さんの表情が暗くなったような気がした。なにか見られてはまずいことでもあるんだろうか。
「はい、構いませんよ。どうぞ入ってくださいな」
テレビの前に座ってリモコンでチャンネルを変えようとしたが、思わず手からぽろっとリモコンを落としてしまった。
「……………」
そこにはものすごいものが映っている。これは何かの冗談なのか。ギャグややらせと言って下さい。
「武蔵野のリリアン女学園に巨人出現!!」
画面の右上にはLIVEと書かれていることから、この映像は何の編集もされていない生の映像ということになる。
番組によると事件の概要は次のとおりらしい。
武蔵野にあるリリアン女学園の中庭で、今日の夕方突如として生徒が巨大化したらしい。
そして、全長四十メートル、体重三万五千トンという怪獣サイズの巨人となった生徒Yはそのまま気絶してしまい、
特に主だった動きもなく今に到るということらしい。
さらに、生徒Yと親しい生徒のインタビューが流されている。
※本人のプライバシー保護のため映像と音声に加工をしています。
「なぜYさんは巨大化してしまったんでしょうか」
「それが私達にもさっぱり分からないんです。夕方に卒業された先輩からの差し入れのチョコチップクッキーを食べたYさんが、
急にあんな風になってしまって…」
「そうなんです。一口食べてなんともないからって二口目を食べた後すぐに…」
巨大化の原因はその「卒業された先輩からの差し入れのチョコチップクッキー」ということか。
こんな事件を引き起こしそうな人物といえば、今、俺の横に座って一緒にテレビを見ている琥珀さんぐらいなものなんだが、
残念ながら彼女は高校に通っていない。
だから彼女は白だ、と言い切れないところがなんとはなしに悲しいものがある。
俺もいっちゃなんだが、普通の人に比べて、人外なやつらを若干見てきた。
吸血鬼の真祖の姫君、体内に六百六十六匹の獣を内包する吸血鬼、不死身の肉体を持つ教会の代行者などなど、
誰も彼もとびっきりの変り種なんだが、この事件の生徒Yは彼らと同等かそれ以上な変り種だ。
今現在は、校舎の施設の一部を破壊し中庭の木を何本か折った以外の被害は無いため、自衛隊や在日米軍はまだ出動はしていないが、
警戒態勢には入ってるようだ。
第七章「おとしまえつけさせてもらおうやないか」
「もしもし。遠野先輩、今すぐにテレビ見てくださいテレビ」
後輩の瀬尾晶から携帯に電話があったのは夕食を摂ったあと、自室で明日の予習をしているところだった。
兄さんに強く勧められてつい最近購入した携帯電話にはテレビがついているが、そんな機能を私は使ったことが無い。
私はテレビなんて有害で不必要なものと思って疑わないからだ。
「瀬尾、私がテレビを見るわけが…」
「とにかく大変なんですよ先輩。お願いですから見てください。チャンネルはどこでも同じですから」
半分涙声で瀬尾はテレビを見るように訴えてくる。何があったというんだろうか。
「分かったから、少しは落ち着きなさい。また、後で電話するわ」
「はい、ありがとうございます先輩」
通話を終え、携帯電話のテレビを起動させる。
そこには、さすがの私も驚いてしまうような映像が映っていた。
「何よこれ…?」
そこには巨大化した女子高生が映っていた。
それを見て、ある一人の人物の名前が頭に浮かんだ。琥珀。
部屋を飛び出した私は、琥珀の工房がある地下施設へ向かった。
俺は琥珀さんと一緒に一時間ほどテレビを見ていると、
「琥珀!! いるんでしょう?」
秋葉が廊下から大きな声で怒鳴っている。
「すいませんね志貴さん。はい、なんでしょうか秋葉様」
了解も得ず秋葉は、バンと勢いよくドアを開けズカズカと部屋へ入ってテレビを一瞥する。
「本当に… 琥珀、あなた一体どういうつもり?」
「ちょっと待った秋葉。一体琥珀さんが何をしたって言うんだ」
「兄さんは黙ってて下さい!! これはあなたの仕業でしょう」
と、テレビの画面を指差す。そこには可愛そうな生徒Yの姿が…って、あれ?
いつの間にか目を覚ました生徒Yは、何処かを目指して歩き始めた。彼女のズンズン歩く様はまさにゴジラそのもの。
建物を破壊しながら突き進むその姿は怪獣としか形容できまい。
「本当に私が何も知らないと思っているの。これは何?」
秋葉は後ろ手に隠し持っていた毒々しい青い液体が入っているフラスコを突き出した。
「それは…」
「もういいでしょ琥珀。私はこの土地の管理者としてこの事件を解決しなければいけないの。だから説明してくれるわよね?」
やばい。今日の秋葉は何かやばい。俺なんか一秒でごめんなさいって言ってしまいそうだ。
ふーっと、息をはいた琥珀さんは、
「分かりました秋葉様、ご説明いたします」
なんと、琥珀さんが折れた。珍しい。あの策士琥珀さんが何の反論も弁解もしない。
「あの巨大化は{まききゅーX}という薬の効果でして」
あぁ琥珀さん。やはり犯人はあなたでしたか。
「解毒剤はあるんでしょうね?」
「はい、{となみんZ}という薬品が解毒剤です。これを投与すれば元にもどるかと」
「なぜ生徒Yがこんなものを服用したか今は問いません。とにかくその解毒剤を出しなさい。あと、まき…なんとかというものも」
「「えっ?」」
俺と琥珀さんの驚きの声がはもる。
解毒剤は分かるがなぜ巨大化する薬まで出せと言うんだ秋葉は。まさか自分が飲むつもりなのか。
「秋葉様もしかして…」
「そうよ、私があのYとかいう生徒を止めて解毒剤を飲ませるわ。分かったならば早く出しなさい!!」
「はい、秋葉様」
決戦の時は近い。果たして結末やいかに。
第八章「無制限一本勝負 G祐巳VSG秋葉」
祥子さまのお屋敷までもうすぐだ。途中何か踏み潰したような気もしないではないんだけど、今は気にしないでおく。
そんなことより、お姉さまに会ってお互いの誤解を解かなくてはならない。
!? お姉さまのお屋敷から見たこともない誰かが現れた。厳密に言えば私と同じように巨大化しながら現れた。
「待ちなさい!!」
私と同じような年齢の少女が刺すように言う。その少女はお姉さまと同じぐらい長い黒髪が夜目にも美しく、
その凛々しい存在感はお姉さまと同じぐらいに強い。まさにお嬢様といったところである。
「あなたその体で何をするつもりなの」
「私はお姉さまとお話したいだけです」
私も負けないように、気圧されないように精一杯言い返す。
「迷惑だって分からないの? とにかく大人しく帰りなさい!!」
帰れない。お姉さまと私の誤解を解くまでは帰れるわけが無い。
「帰りません! それに他人のあなたは関係ないじゃないですか。退いてください」
ふんと鼻をならし、呆れたといった表情で、
「仕方ないわね、力ずくでも大人しく帰ってもらいますからね」
「私も負けないんだから」
ここに前代未聞のでっかいバトルの火蓋が切って落とされた。
先にしかけたのは祐巳の方だった。
猛然とダッシュしタックルを見舞おうとするもひらりとかわす秋葉。かわした瞬間に祐巳の右腕を掴み、
突進の勢いと遠心力を利用して振り回すように祐巳を投げ飛ばす。
投げ飛ばされた祐巳はズザーっと何十メートルか地面を滑った。何件かの家屋や建造物を破壊しながら。
追い討ちをかけようと秋葉は走りジャンピングエルボードロップを仕掛けるが、間一髪ごろんと体を丸太のように転がし回避した。
アスファルトにでっかい穴が空き、その穴から水道水が勢いよく噴き出す。
「乱暴なのね」
制服についた塵をパンパンと払いながら祐巳は言う。
「それは、あなたのせいなのよ。大人しくやられなさい!!」
素早い動きで祐巳のバックを取った秋葉は、祐巳の腰に両腕を巻きつけそのままバックドロップをぶちかます。
祐巳が叩きつけられた地面の周囲では強烈な衝撃により最大震度七の地震が起こり軒並み建築物は倒壊、崩壊し、
さらに叩きつけられた時の衝撃音は、人間の可聴音域を遥かに越える爆音となって人々の耳を襲い、地震で生き残った市民を、
ことごとく気絶させた。
「痛ったぁ〜い。う〜…」
地面に大の字になって倒れ、後頭部を地面に直撃した祐巳はほとんどKO寸前だった。
「もういいでしょ? それとも、まだやるのかしら?」
両腕を組み仁王立ちに祐巳を見下ろす秋葉。これてにて決着かと思われたがしかし、
「はっ、笑わせないで。必ずお姉さまに会うんだから!!」
勝ちを確信し油断した秋葉は、がばっと起きた祐巳に両足を掴まれ、足をすくうように押し倒しされた。
マウントポジションを取り圧倒的な優位に立つ祐巳、しかし、そこは鬼妹秋葉そう簡単にはやられはしない。
自分にまたがる祐巳を体の強靭なばねで跳ね飛ばし、上空へ跳ね飛ばされた祐巳はそのまま地面に落下するはずが…。
「大切な人を想うその気持ちは痛いほど分かるけど、時と場合があるでしょう!!」
という熱い叫びとともに秋葉は落下する祐巳の無防備な腹部に突き上げるような正拳を叩き込んだ。
「がはっ…」
決着。 一分四秒 正拳ガンダム撃ち KO 勝者秋葉
第九章「おつかれさんっしたあ!!」
あれ? ここはどこだろう。
ぼんやりと目が覚めていき、寝ているベッドから身を起こし辺りをぐるりと見回す。
自分の部屋ではないことは確かで、今、私は全く知らない部屋で寝かされているようだった。
コンコンと、ノックする音が聞こえたので「どうぞ」と、返事した。
「ごきげんよう、祐巳」
「お姉さま!?」
お姉さまがここにいるということはここはお姉さまのお屋敷なんだろうか。でも、そんなことはどうでもよくなってしまった。
「ごめんなさい祐巳。わたしのせいでこんな目に合わせてしまって…」
今、目の前に大好きなお姉さまがいて、お話が出来るだけで私はよかった。
さっきまでの出来事は未だに実感が湧かなく、やっぱり夢だったんじゃないのかなとも思えてくるからお姉さまの力は偉大だ。
「いえ、私もはやとちりや変な誤解のせいでお姉さまに迷惑や心配をかけてしまって…」
「祐巳…」
「お姉さま…」
小笠原邸では祐巳と祥子の感動的な再開を果たしているその一方、遠野の屋敷では…。
「ご苦労様でした秋葉様。これにて一件落着ですね」
努めて明るく振舞う琥珀だが、それに対して秋葉は冷静かつ優雅に紅茶を嗜んでいる。
「姉さん。珍しく凡ミスを連発されましたね」
秋葉の側に彫刻のように佇む琥珀の妹、翡翠が口を開いた。
「さあて、琥珀。覚悟は出来ているんでしょうね」
「あう〜、勘弁してくださいまし」
「そうはいかないわ、普段やられてるお返しなんだから!」
「タスケテ志貴さん」
「すまない琥珀さん。今の俺には秋葉はとめられないや」
「そんな〜」
こうして事件は一応の解決をみたのでした。めでたしめでたし。
FIN
参考:『空想科学読本1』柳田理科雄 メディアファクトリー
初版 2005年11月23日
作後贅言
どうもこんにちは。ユラです。
さて、皆さんは元ネタとなっている「月姫」という同人ゲームをご存知でしょうか?
それよりまず「同人」という単語をご存知でしょうか?
とりあえず単語の話は置いといて、簡単に「月姫」という作品について触れてみたいとおもいます。
詳しいことは「月姫」で検索していただければ分かるかと思いますので、ほんのさわりだけを。
この作品は「TYPE−MOON」というサークルが製作したビジュアルノベルゲームで、魅力的なイラストのキャラクターや、
非常に緻密に練り込まれた世界観やシナリオにより空前の大ヒットしたものです。
同人ゲームの性格上現在では入手が非常に困難で、また購入にはものすごい費用がかかりますが(およそ1万弱)それだけの対価を
支払ってでも一度はプレイされることをぜひぜひお勧めします。
さてさて、本編についてですが、一応ギャグですこれは。
でも、筆者の性格上なんか余計な描写が含まれてるかもしれません。
最大の見せ場である格闘シーンも当初の予定よりも随分とあっさりしたものなってしまい、実力不足を痛感しました。
これからも修行に励むので、どうかご容赦くださいませ。
ここで、本編でちょっと分かりにくいかなと思われる部分を補足しようかなと思います。
Q,琥珀はいったいいつ「まききゅうーX」を混入したのか?
A,メイプルパーラーの店内でこそこそっとやったようです。彼女ならば出来るかと。
Q,秋葉は何故、小笠原邸から現れたのか?
A,遠野グループの情報収集能力を活用すれば、リリアン女学園の姉妹制度、福沢祐巳という生徒の存在、紅薔薇ファミリーの
すれ違い、という情報に行き着きその結果祐巳の向かう先は、小笠原邸だと判断したようです。
以上で説明終ります。では、また。
ユラ