「箱の奥底に」
Written by 佐々木真史
レリックの反応があったのは、第七十七管理世界にある大都市の廃墟だった。かつては
かなりな繁栄を謳歌していたであろう都市の廃墟、その都市の郊外に位置する朽ち果てた
聖堂らしき建造物から反応を感知していた。
私、フェイト・T・ハラオウンは周囲を警戒しながら高空より地上へと降り立つ。人気
の全く無い捨てられた街。曇天がより一層雰囲気を重いものにしている。人が住まなくな
ってからどれほどの年月が経過しているのだろう。風化した建物だけを見るに数百年は、
といったところだろうか。
聖堂へと歩みを続ける。路面の石ころを踏みつけると、砂糖菓子のように脆く踏み潰れ
てしまった。昔は荘厳であっただろう聖堂も、朽ちてしまえば「廃墟」と括られる。重厚
な木製の扉を押してみると、思いのほかあっさりと開いてしまった。抜けた天井、色あせ
たステンドグラス、崩れた壁面、埃にまみれた長椅子、そして澱んだ空気。それらが一体
となってこの廃墟を形成している。
反応を聖堂の前方部の中央に据えられた、壇から感知していた。どうもレリックを秘宝
か何かとして崇めていたようだ。ただ、信仰の対象を保管するにはあまりにも露骨な置き
場所だとは思うけれど。
床が抜けないかと若干冷や冷やしながら壇に近付く。私の魔力に反応する様子は特に無
い。壇の裏に回り、ソレを見つけた。
「この箱に?」
叩けば崩れてしまいそうなほどに粗末な木箱、そこからレリックの反応がある。そっと
持ち出してみると、重みがある。確かに中に入っているようだ。レリックを持参した回収
用のケースに収納しようと、木箱の蓋を開けようとした。
「開かない……」
粗末で古くて脆そうな木箱なのに、開けようにもまったくびくともしない。固く締め過
ぎた鮭フレークのビンでもここまで頑固ではないのに。それから数分ほど木箱と格闘して
みたけれども、全くダメだった。
その間に天候が曇りから雨へと変わり、隙間だらけの屋根から雨水が滴ってきた。ふと、
箱を裏返してみるとコンソールがあり、パスワードを入力しなければならないようだ。そ
のコンソールの下には小さい文字で一文がしたためられていた。
<この世で一番手に入りにくいものとは?>
「パスワードを入れるんだ」
この世で一番手に入りにくいものと言われたら、何だろう。地位やお金ではない気がす
る。それ以外となると……
六課の隊舎に戻り、持ち帰った木箱を早速シャーリーに預けて解析をお願いした。しば
らくかかるとのことなので、私はテラスでお茶をすることにした。一人で次の仕事の資料
を確認していると、教導を終えたなのはがテラスにやってきた。
「フェイトちゃんお仕事終わり?」
「まだなんだ。レリックを見つけたのはいいんだけど、ちょっとね」
私の向かいにアイスコーヒーのグラスを持ったなのはが座る。
「その、ちょっとというのは?」
「古い木の箱に入ってたんだけど、それが全然開かなくて。で、その箱はパスワードを入
れないと開かないみたいで今シャーリーに解析してもらってるの。なのは、この世で一番
手に入りにくいものって何だと思う? パスワードのヒントみたいなんだ」
なのはは、私の質問をおうむ返しに呟いて首を傾げる。
「絶対的にコレって言えるものが有りそうな無さそうな」
二人で何だろうと思案している最中だった。シャーリーからの入電が。
「フェイトさん。一応解析のほうが終わりましたので、部屋の方まで来てもらえませんか」
「了解。すぐに行くから」
通信を切り、なのはも誘ってみた。
「解析が終わったみたい。なのはも見てみる?」
「うん。ちょっと興味あるかな」
二人で分析室へ向かうことに。着くとシャーリーが迎えてくれて、すぐに結果を報告し
てくれた。
「見た目はものすごくボロいんですけど、かなり強力なシールドが張られてるんです。だ
から魔力干渉も物理干渉もほとんど効果無いみたいですね。肝心のパスワードですけれど、
これがまたものすごく複雑なプロテクトがかかってて、解除にはもうしばらく時間がかか
りそうですね。コレを作った人ってよっぽど心配性だったんでしょうね。ちょっとやり過
ぎな気もするぐらいに」
「解析って何日ぐらいかかるかな」
「そうですね、今のままでしたら一週間は……」
大昔でもレリックは危険物という認識があったのだろうか。
「パスワードのヒントって『この世で一番手に入りにくいものとは?』なんだよね?」
なのはがシャーリーに確認する。
「はい、箱にはそう書かれています」
「もしかしたら、だけど、答えが分かったかもしれない」
「ホントですか!?」
「うん、答えは……」
なのはが告げた解答を入力してみると、あれほど頑なに開くことを拒んできた木箱はあ
まりにも呆気なく開いてしまった。箱の中にはレリックが一つと映像データ保存用のディ
スクが一枚収められている。
「シャーリー、これ再生できそう?」
「どうなんでしょう。かなり古いので期待はできませんけどやってみます」
再生機にディスクを挿入し、収められている中身を再生してみた。
『このディスクを見ているということは、君は答えを見つけてくれたんだね』
本がずらっと並んだ部屋を背景に、二十七、八歳ぐらいの男が正面を向いて写っている。
これは誰かに向けてのビデオメッセージのようだ。
『もしかしたら気付いてくれているかもしれないけれど、好きだから。君のことが好きだ
から。君に愛してもらえない僕は、こんな方法でしか伝えることが出来なかった。済まな
いと思う……。そうだ、中に入れてある宝石は君に譲るよ。僕にもそれが何なのか分から
ないが、君の役に立つことを願うよ。それj……』
それ以降は画面には何も写らず、ノイズだけが響いていた。なのはやシャーリーの様子
を伺うと二人とも若干顔を赤らめている。かくいう私もほんのり頬を染めていることだろ
う。
「なんでしょうか。見た目結構控えめな人なのに、意外にストレートな告白でしたね」
「う、うん。そうだね。小細工なしっていうのも心に響くね」
もしかしたら、なのははテクニックよりもパワープレイの方が好みなのかもしれない。
だったら……
「好きだから」
「え?」
「なのはのこと好きだから」
私はこの映像の男とは違って、本人を前にして告白が出来る。その上。
「っ!?」
さっきよりも顔を赤らめるなのはの唇を奪う。
「フェイトちゃん、ほら、シャーリーも見てるし」
「いえいえ、私のことはお構いなく」
興味津々なシャーリー。勉強の一環としてここでするのも悪くはない。
「続きはここでする? それとも部屋でする?」
「部屋でお願い」
「ごめんねシャーリー」
なのはがそう言うのならば仕方ない。無理強いはしたくない。
「いえいえ、そんなお気遣いなく」
「じゃあ行こうか」
「うん……」
完
作後贅言
おおよそ察しは付くかと思われますが、パスワードは「愛」です。
フェイトの考えるように、お金や地位じゃないと思います。こればっかりはホントどうし
ようもないですよね。誰か僕に愛を下さい(笑
以上、愛情に飢えている佐々木がお送りいたしました(笑
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