「Fake Fate」


Written by 佐々木真史




※この作品には攻撃的な、性的な表現が含まれています。また、原作と設定が違う点や、

キャラクターの性格が原作と異なる点もありますので、これらををご了承頂いた上でご覧

下さい。




 これはフェイトちゃんが死んでから三年が経過したある日のお話。

 その前にまずフェイトちゃんのことについて少しだけ触れておく。私が聞かされたのは、

フェイトちゃんはある任務のため向かった世界で事故死した、と。詳細については機密扱

いのため私でも情報の閲覧ができない。かつてはエースオブエースともてはやされた私だ

けど、今年で二十八になり、優秀な後輩が前線で活躍していることもあってか、表向きは

敬意を表されるが実のところはそうでもない。むしろ、私一人がむやみやたらと強力な力

を持っているため厄介者扱いされることもしばしばある。けれど、そんな扱いももう慣れ

た。

 私のことはどうでもいいとして、最近の管理局は私が言うのもなんだけど腐っている。

人手不足解消のため人材確保に走ったのはいいけれど、肝心の人材の質が著しく悪い。戦

闘面においては一流なのだけど、メンタル面は最悪だった。話によると戦闘に長けた囚人

を登用しているらしい。彼らを見ているととても納得できる話だと思う。

 ここ二、三年の間に、管理局職員による性犯罪の件数が急激に上昇した。これは戦闘要

員を増やした直後に現れた現象だ。つまるところ彼らがヤっているのだろうことは間違い

ない。メディアにあまり取り上げられていないのは報道管制によるもの。本当に腐ってい

る。やることなすことが一々汚い。

 しかし、いくら管理局といえど握りつぶせる限界があるらしく、ある意味画期的な打開

策を打ち出した。それは「セクサロイド」の開発だった。セックスのためだけに存在する

人工生命体。彼らの暴力的な欲のはけ口を人工的に生み出された彼女達に向けさせる。そ

れが管理局の策だった。

 私と彼女が出会ったのは、管理局施設内にセクサロイドが一般配備されて二ヶ月ほど経

過した時のことだった。





「おやおや、これはこれは高町一尉」

 管理局本局の廊下にて嫌なヤツと出くわした。

「こんにちはドブラ三佐」

 ドブラとかいう四十過ぎの男。そんな男のことはどうでもよく、私が気になったのはこ

いつの後ろにいた女子だ。モスグリーンの布をフードみたく被せられている。

「おや? コレが気になりますか? コレは新型のセクサロイドでして、寿命は従来どお

りの三年から五年、でも生産コストは約半分という画期的なモデルなんですよ。おっと、

高町一尉には関係ない……いやいや、一尉も使われてみてはいかがです?」

「結構です」

 少数ながら女性向けのセクサロイドもあるけれど、私は一切興味がない。ましてやコイ

ツの後ろにいるのは男性向けだ。私がフェイトちゃんとそんな関係にあったと知っていて

勧めているのだ。馬鹿にして!

「まぁ、ハラオウン執務官の事故は残念でしたね」

「くっ……」

 こんな下種野郎に名前を口にされただけで腹が立ってきた。

「え!?」

 フードの女子が顔を上げた瞬間、脳髄に電気が走った。

「フェイトちゃん?」

 見間違うはずのない顔、でもしかし……

「これ、大人しくしてなさい。ふふん、どうです高町一尉。よい出来栄えでしょう?」

 ドブラの後ろに立っているのは、見た目フェイトちゃんと同じ顔をしたセクサロイドだ

った。

「あの、えっと、申し訳ありません」

「謝罪はいいから黙ってなさい」

 声まで同じだ。なんて悪趣味な。

「いやね、ハラオウン執務官、人気だったんですよ。本当に惜しい人を亡くしましたねぇ」

「ふざけるな!!」

 気が付けばドブラの胸倉を掴み上げていた。

「ひっ!! ちょ、ちょっとした冗談、ぐっ、くるし」

「次、お前がフェイトちゃんの名前を口にしたら……殺すよ?」

 階級的には上司だけど、今の私にはどうでもいいことだった。アホな上司はクソ食らえ、

だ。

「あの、その、暴力は……いけないと思います」

 フェイトちゃん……いや、ニセモノのフェイトちゃんに止められ、私は力を抜いた。

「ごほっ。まったく、コレの言うとおりです。すぐに腕力にモノをいわせて……」

 レイジングハートをセットアップし、ドブラの目の前でカートリッジを六発ロードした。

次何か口を開いたらコイツを殺すつもりだ。

「なんでもありません。行くぞ!」

「は、はい」

 私は二人が行くのをじっと見ていた。





 それから数日後、私はある部屋の前に来ていた。そう、先日ドブラが連れていたあの女

子の。あの日からずっとこの部屋で彼女は男の慰み者になっていた。その光景を思い浮か

べると冷たい殺意が湧き上がる。

 フェイトちゃんにとてもよく似た作り物の存在。私の卑しい欲求を満たすための、渇き

に乾いた私の心の潤いとなってくれれば、と思うようになるには時間がかからなかった。

この冷え切った心に灯された小さな炎は、今や灼熱の溶岩のごとき熱流で私の胸の内で煮

え滾っているのだった。フェイトちゃんの声が聞きたい。フェイトちゃんの体に触れてい

たい。そんな衝動的欲求に駆られて彼女の部屋の前に私はいる。しかし……

「おいおい、こんなところに高町一尉殿がいるじゃねぇか。ここは野郎達専用の部屋だぜ?

女向けの部屋は向こうだろ」

 バカな男達が列を成して順番を待っているのだった。あの女子を犯すために。

「話はそれだけ?」

 私は廊下の壁を思い切り殴りつけた。殴りつけた部分がめり込み、特殊コンクリートで

出来た壁に放射線状にヒビがはしり、小さな欠片がパラパラ落ちていく。

「オレ、急用があったんだ。忘れてたぜ」

 男共は蜘蛛の子を散らすかのように逃げていった。何て他愛ない。私は部屋の扉を力一

杯開いた。

「おい! まだ終わって」

「うるさい」

 全裸の男の首根っこを掴んで彼女から引き離し、廊下へ向けて放り投げた。気持ち悪い。

「うぎゃっ!!」

「消えなさい」

 最高級の殺意を向けると男は悲鳴を上げながらどこかへいってしまった。バカなやつ。

「あの……」

「ちょっとお話しようか。でも、その前に服を着ようね」

「はい」

 管理局の制服に袖を通すのを手伝ってあげた。背丈といい肉付きといい腹立たしいほど

にフェイトちゃんと同じだ。

「私のこと覚えてる?」

「はい、あの、高町なのは一等空尉ですよね」

「うん、正解。でも私のことはなのはって呼んでいいから」

「いえ、でも上官ですからそういうわけには」

 そうか、セクサロイドの扱いって一番下の位だったっけ。

「いいの。私が許可してるんだから。その代わり、あなたのことをFFって呼ぶから」

「えふえふ?」

「ダメかな」

 名前の由来、それはFake Fateの頭文字をとっただけの簡素なもの。知られた

らきっと嫌な思いをさせてしまうけど。

「いえいえ、そんなことありません。私、そういう固有名詞とかなかったので嬉しいです」

 セクサロイドには管理番号は付けられるけど、名前はない。だから呼ぶときもその番号

でしか呼ばれない。生きてるのにまるで備品扱い。腐ってる。

「じゃ、これからはそういう運用で」

「はい、分かりました。ありがとうございます」

 礼を言われる筋合いはない。なぜなら私の渇きを癒すために行っていることなのだから。

なんと自己中心的な動機なのだろうと、自己嫌悪に陥りながらFFの笑顔に見惚れていた。





 時間が空いたときにFFの部屋を訪れることが習慣となるにも、そう時間は要しなかっ

た。私が足しげく通うためFFを求めて男が部屋を訪れることがなくなったのはとても喜

ばしいことだと思う。私が部屋に行くと、たまにFFの上で腰を振っているアホがいるけ

ど、そういう輩をことごとく病院送りにしてきたことが功を奏したのだろうと思う。上官

から注意を受けたのは一度や二度じゃなかったけれど、そんなの全て無視している。

「こんにちは。今日はココアにキャラメルを溶かしたの持ってきたんだ」

「わぁ。ありがとうございます。甘いものダイスキなんで」

 FFが笑うと黄色い大輪の花が咲いたように思える。なんて美しい。なんて麗しい。

「いじめられたら私に言うんだよ。そんなヤツボッコボコにしてあげるから」

「それはありがたいんですけど、やっぱり暴力はいけないと思います」

「ゴメンね。私は頭で考えるより先に手が出ちゃう方だから。FFが苦しい思いをしてる

と思うと……」

「ダメだよなのは」

 フェイトちゃん? いや、目の前にいるのはFFであってフェイトちゃんじゃない。

 私達はココアを飲みながら雑談にふけっていた。しかし、そう何時間も長居するわけに

はいかない。素行は不良でも成績は維持しておかないと外野が五月蝿い。不良でいるのも

案外面倒が付きまとう。

「私戻るね」

「うん」

 表に出さないようにはしてるのだけど、どうしても寂しさが零れ出てしまう。そういう

のに敏感なFFはそれを察してしまい、少し困ったように笑った。

「ゴメンね」

「気にしないでください」

 私はFFと軽く口付けを交わした。

「また来るよ」

「はい」





 とある管理外世界への任務にて、私は一人の人物と出会った。

 今回の任務は違法研究者の取締りのため、研究所へ向かうというものだった。話による

とソコでは人造生命体の研究を行っているという。管理局からすれば、そういった生命操

作技術を持つのは優秀な自分だけでいいという理屈から取り締まるのだとか。アホか。

 上司が何を思おうと私の知ったことではないけれど、FFみたいな存在が生み出されて

いくっていうのはやっぱり許してはおけない。そういう意味では管理局という組織も私は

許せないけれどそれはまぁ一旦棚上げにしておく。世の中は面倒なことが多過ぎる。

 古い館の地下が研究施設になっているらしい。事前のミーティングどおりに部隊を展開

させ、突入をかけた。他の隊員らは施設のほとんどを制圧し、私は地下施設の最深奥の扉

を叩き壊して最重要容疑者の確保にはしった。

「動かないで。生命操作技術濫用の容疑であなたを逮捕します」

 かつてはフェイトちゃんがやっていた業務の一部を自主的に引き受けている。だからこ

うして警察の真似事なんかもやる。

「最近の若いやつっていうのは扉をぶちぬいて入って来るものなのか?」

 人がすっぽり納まりそうなサイズの培養ケースが四つ並んだ、いかにも研究室然とした

部屋。その場所の奥にデスクが一台あり、ゆったりとしたリクライニングの椅子に腰掛け

たこの部屋の主が私にそう言った。

「多分私だけ」

「で、ご用件は?」

「生命操作技術濫用の容疑であなたを逮捕します」

 部屋の主は太ももぐらいまで伸びた銀の髪に、頭のてっぺんで結ばれた青のリボンが特

徴的であるけど、見た目はどう贔屓目で見ても中学三年生か高校一年生ぐらいにしか見え

ない。こんな少女が生命科学の最先端の技術を有してるとはにわかに信じがたい。

「一応自己紹介、私はこの研究所の所長やってる姉紅(あこう)っていう者だ」

「時空管理局地上本部所属、高町なのは一等空尉」

 私は犯罪者相手に名乗るというわけのわからないことをしていた。なんだかこの人と話

をしてるとペースが乱される。

「逮捕される前にちょいと世間話でもしよう」

「分かった。少しだけ」

 抵抗するそぶりは見えないし、少しぐらいならと思って許可した。

「私はここで何を研究していると思う?」

「さあ?」

 何が何だか、という感じだ。私には難しいことはよく分からない。

「人の寿命について、だよ。人間という生き物は実によく出来ている。その代わりに改造

しにくいことこの上ない生命体でもある。例えば心臓の筋力を二倍にしたとする。すると

血液を送れる量が増える。そうすると血管の強度を上げないとたちまち破裂してしまう。

よしんば血管を強化しても今度は骨の強度や筋力、細胞の弾性も調整しないと動きの鈍い

生き物に成り果てる。そういった事柄を踏まえて、人の寿命を延ばすにはどうすればいい

のか、っていうのが私の研究のテーマ」

 私は考えた。もし、姉紅の研究がうまくいけばFFを人並みの寿命を持った存在に出来

るかもしれない、と。人並みまではムリだとしてもあと十年延ばすことは出来はしないの

だろうか。

「あなたはセクサロイドを知ってる?」

「あぁ、モチロン。お前さんたちの組織が作ってる低コスト低寿命の人造生命体だろ。あ

れはそもそも私が基本設計をやってやったものだから知らないわけがない」

「なんですって!?」

 FFの設計者はこの少女みたいな研究者……これはもしかするともしかして。

「あれには欠陥があるから実験程度に製造するようにって忠告してやったのに、都合の悪

い話はまるで無視。いい性格してるよ君のところのお偉いさん達は」

「セクサロイドって寿命を延ばすことは可能?」

「私が進言した忠告はソコ。連中はアレをベースにして戦闘用のセクサロイド、もうそこ

までいけばセックスのためじゃなくて使い捨ての兵士としての運用になるだろうけど、高

い戦闘力を持ちながらも長期間使用可能な人造人間を作ろうとしてる。が、しかし、それ

はムリだ。そもそも長期運用なんて想定していないのだから。当然管理局の上のやつらは

言ってきたよ。長い寿命のタイプを設計しろって。でも断った。そしてこれがその仕打ち

さ」

「どうして断ったの?」

 この人は間違いなくFFを人にしてくれるキーパーソン。話を聞きだしたい。

「単純にやつらが気に食わない、それだけさ」

「私はどう?」

「お前さん? さぁ、どうだか」

 確かに。まだ会って数分しか経っていない。

「私はあるセクサロイドを人間にしてあげたいと思っている。あなたにそれを依頼したい」

「依頼? 私を逮捕するんじゃなかったのかい?」

 FFのためなら任務を捨てることもいとわない。

「被疑者は逃走、目下捜索中」

「お前さんはソレでいいのかい?」

「いい」

「管理局にもお前さんみたいな真っ直ぐなのがいるもんだね。気に入った、引き受けよう」

「本当に!? ありがとう。ありがとう……」

「ちょっと、いや、そんな泣かれても」

 気が付けば私は泣いていた。嬉し泣きなんて生まれてこの方初めてのことだ。

「ごめんなさい」

「いや、気にしてない。ところで、お前さんのその想い人の名前は?」

「FF。昔フェイトっていう私がダイスキだった人がいて、その子にそっくりで」

「Fake、か。ゆくゆくはもっと違う名前にしてやれば?」

「うん。そのつもり」

 そのときはフェイトちゃんの名前を借りるかもしれないし借りないかもしれない。だか

ら二人で決めようと思う。

 結局被疑者逃亡と偽装して私とその他隊員たちは研究所を去った。





 姉紅と出会ったその日の内に私はFFの部屋に足を運んだ。ついでに性懲りもなくFF

に粗末なものを挿入していたアホを半殺しにしておいた。

「あのね、いい話があるんだ。聞いてくれる」

「うん、今日のなのははすごく機嫌がいいんだね」

「そうかな?」

 言われてみるとあの日以来、私は常に眉間に皺を寄せて不機嫌そうな面をしていたのか

もしれない。しかし、今日は違う。ようやく希望の光らしきものが見えた。気分が高揚し

ないわけがない。

「それは置いといて本題に。あのね、FFを人間にして上げられるかもしれないんだ」

「本当に!?」

 一瞬FFの表情は喜びに満ちたけど、瞬く間に暗く翳ってしまった。

「でも……私はここで造り出されてここで生涯を終えるだけの人の形をしたモノだから」

「それがなんとかなるのかもしれないんだって。実は今日、セクサロイドの設計者に会っ

てきた」

「え?」

「姉紅って人なんだけど、その人が協力してくれるって」

 お約束どおりというか何というか、姉紅は研究所の隠し部屋にこもっている。やましい

施設にはそういう隠された空間というものがあるのが常道らしい。私にはよく分からない

けど。

「だから、もし研究が上手くいったらここを抜け出そう」

「うん!」

 それからはくだらない毎日が違って見えた。希望があると世の中の色彩がいつもと異な

るのだから現金だといわざるを得ない。それからは暇があれば隠れて研究所に足を運び進

捗を確認しに行ったりもした。そんなある日……

「今のモデルは私の設計とは多少異なるみたいで、正直なところ実物を見てみないと確立

できないね」

「つまりFFをココにつれて来い、と?」

「そう」

 セクサロイドの外部持ち出しは思いのほか難しい。基本的に管理局の施設内においての

みの使用が規則になっているからだ。高級なおもちゃは目の届くところに置いておかない

と不安なのだろう。子供か。しかし、手が無いわけではない。長期任務や遠距離な現場に

向かう際には持ち出しが許可される場合がある。

「分かった。やってみる」

「頼んだよ」

 それから数日後、とある次元航行隊の遠距離任務へ半ば強引に参加しちゃっかりFFの

持ち出し許可の申請も出しておいた。アホな管理局にしてはしっかりとした書類審査があ

ったものの、一応申請は通った。ダメなら力づくでも通すつもりだったけれど。

 任務の間FFには私以外指一本触れさせなかった。そのおかげで妙なあだ名がついたみ

たいだけど、上層部から管理局の汚物とか言われてる私からすればどうってことない。汚

物はお前らだ、と思ってるので何とも感じやしないし。

 時間の大部分を移動に費やした今回の任務、ちょくちょく補給をかねてあちこちの世界

に立ち寄ったりしたので、どさくさにまぎれてFFを姉紅のいる世界へ連れ出すことに成

功した。艦長が私の後輩だったので、事を運ぶのがカンタンだったっていうのもあるけど。

「お前さんがFFかい?」

「はい、なのはが付けてくれた名前なんです」

 そこまで気に入られると少し心が痛む。当初はフェイトちゃんの代用品のつもりで接す

るつもりだったから。私も管理局のことバカにできないね……

「じゃ、そこの台へ横になってもらおうかな。いやいや、お前さんの考えてるようなこと

はしないから、その殺意の篭った眼差しを向けるのは止めようか」

「あっ、ごめんなさい」

 つい条件反射的にやってしまった。ちょっと過剰に反応しすぎだね、私。二時間ほどし

て一通り姉紅のチェックが済み、データをまとめている状態だ。

「どう?」

「どう、そうだねぇ……無理やりコストを下げようとしたせいか、当初の設計よりも劣化

してるけど基本骨子は変わってないから手術の余地はあるね。私からすればそこまで無理

にコストダウンしなくてもとは思うけど、価値観なんて人それぞれさ」

「よかった、本当によかった」

「なのは、ありがとう」

「お礼は姉紅に言わなきゃ」

「いやいや、私はまだ何もしてない。礼を言うなら手術が終わった後にしてくれ」

 FFの人間化への道は着実にゴールが見えてきている。そう遠くない将来、FFが人に

なれる日がきっと、来る!





 半年後、姉紅から連絡が来た。実現化のめどが立ったと。途方もなく長い時が経過した

のかと思いきや、カレンダーでは六ヶ月しか経過していない。それほどまでに希望に満ち

満ちた日々だった。お膳立ては整った。あとは管理局を捨てFFと一緒に姉紅の研究所で

手術を行い、人知れぬ静かな世界でのんびりと余生を送る、それが私とFFが描いた今後

のプランだ。絵に描いた餅がホンモノの餅になる時がついに訪れた。

「FF」

「なのは、もしかして……」

「そうだよ。めどが立ったって!!」

「じゃあ私はずっとなのはと一緒にいられるんだね」

「うん!」

 姉紅からの連絡を受けた六日後、私とFFとの逃避行が始まった。FFを連れて任務へ

向かうフリをしながら、あちこちの転送ポートを駆使して行方をくらました。そして姉紅

のいる世界へとやってきた。以前の任務で半壊したままの館の地下施設に向かい、その一

番深くて奥にある部屋、そこが私とFFにとって新たな幕開けとなる場所。

「準備は出来てるからソコの台に横たわってもらおうか」

 手術台の傍には様々な器具や薬剤が準備され、大人一人が収納できそうな大型カプセル

が横たわっていた。

「じゃ、お前さんは外で待つなり奥の部屋で休むなり好きにしていいから」

「分かった」

 私が部屋の奥で休もうとした瞬間だった。

「お遊戯はソコまでにしてもらおう」

 聞き覚えのある声がこだました。そう、ドブラ……今は二佐に昇格したアホ野郎だ。声

のした方を振り向くと武装局員が出口を固めている。しかも、奴等が手にしているのはマ

シンガンだった。魔力ダメージでノックアウトするなんて考えていない。本気で私達を殺

す気でいる。

「管理局の技術力を甘く見てもらっては困りますねぇ。あなたたち二人の脱走が予見でき

ないわけがない。ところが、なかなか尻尾を出さないので少しばかり心配になりましたよ。

とはいえ、結局はこうなったので杞憂に終わりましたが」

 私は即座にレイジングハートをセットアップした。

「それ以上動くと命の保証はしませんよ、高町一尉」

「……」

 このドブラを葬ることぐらいならば瞬刻でできる。しかし、出口を固めている武装隊を

消し飛ばすにはもう一瞬が必要、でも彼らならその刹那の隙を突いてFFと姉紅を消すこ

とが可能だろう。どうしたものか。

「姉紅博士、取引をしましょう」

「あん?」

「そこのセクサロイドに用いようとしていた延命技術を無償で提供してもらいましょう。

そうすればまぁ命ぐらいならば助けてあげないこともないですが」

「……どうしたもんかねぇ」

 ちらっと私へ目線をよこす姉紅。思念通話も傍受されているようだし、姉紅が伝えたい

ことが私には分からない。

「仕方ない、私の机にある端末にデータが一式入ってるから持っていきな」

 ドブラが部下の一人をアゴで指図して、モノを取りに行かせた。姉紅のデスクの上に鎮

座していたパソコンからデータを抜き取り、再び持ち場へついた。

「約束だ、この二人の無事は保証してもらうよ」

「いやはや、違法な研究者は局員に対して抵抗、鎮圧のため反撃を加えたところ死亡した。

という事故が発生してしまいましたとさ」

 ドブラが台詞を言い切った瞬間指を鳴らし、それと同時に局員達の手にしたマシンガン

が一斉に火を噴いた。銃声を皮切りに最大限のシールドを張って台へ疾走する。手術台の

FFを抱きかかえた時点でシールドが割れてしまった。実弾に魔力ブーストまでかけてい

やがった。まさに人を殺すためだけの殺戮仕様だ。

「ぐっ!?」

「姉紅!」

 姉紅の華奢な体に三つの赤い花が散っていた。右肩左わき腹と左大腿部の三箇所に。F

Fを台の陰に身を潜ませ、私は反撃の切欠をうかがう。が、ちらっと私の姿が見えただけ

でやつらは盛大に撃ち返してくる。私は細かい魔力制御がご無沙汰だったが、昔の勘を思

い出して魔力をチャージし始めた。こういったテクニカルな射撃はティアナが得意だった

なぁと、かつてのことを思い出してしまうのは、もはや私自身が終わりを悟っているせい

なのかもしれない。せめてFFだけでも。

「ブラスター3!」

 後がないなら全力全開でいくだけ。レイジングハートから四つのビットを射出した。そ

して台の陰から……

「アクセルシューター」

 頭上を飛び回るビットめがけてシュート、細くて弾数の多いアクセルシューターはビッ

トに命中しそこから乱反射した。兆弾ショットガン的な感じだ。

 今の一撃で何人かは倒れたみたいだけど、如何せん数が多い。残りはざっと三十ほど。

盾代わりの台もいよいよ耐久力が危険な領域に達しているようで、いくつかの弾丸が貫い

ている。

「なのは……」

「大丈夫。全力で守って見せるからじっとしてて」

 小さく頷くFF。フェイトちゃんと違ってFFには戦闘能力が皆無だ。床に倒れ伏した

姉紅の周りには血溜まりが出来ている。まさに絶体絶命の窮地だった。

「レイジングハート、行くよ」

 ごちゃごちゃ考えていてもジリ貧になるだけなら、少しでも数を減らそうとビットを使

って兆弾で撃破の方向で攻めることにした。が、しかし、もう何人かを撃ち抜いたとき、

ビットの耐久力が限界を超え四散してしまった。

「もう万策尽きたのですか高町一尉。だったら終わらせてあげましょう」

 どこから持ち出したのか、ドブラはガトリングガンで所構わず乱射し始めた。あんのキ

チガイめ。

「私の……私の研究所でよくも好き勝手に!!」

 血に濡れていた姉紅が飛び起きたかと思うと、景気よくガトリングガンをぶっ放してい

たドブラの顔面を蹴り飛ばした。頭蓋の砕ける音がしたような。

 姉紅の思わぬ反撃にわずかに躊躇したものの、武装局員は再びマシンガンで応戦してく

る。しかし、紙一重で弾幕を回避していくその様は鬼神を思わせるものがあった。姉紅に

注意が向いている隙に私は最大限まで魔力をチャージし始めた。

「あぅ……」

 咄嗟にFFの方を振り向くと腹部から出血が。まさか流れ弾が!!

「FF!!」

「……なの……は」

 うずくまるFF。どんどん広がる血の海。

「お前らぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 頭の何かが切れる感じがして目の前が真っ白になってそれから桜色の光が全てを覆って

それからFFの血が、血が……





「おい! 起きろ!」

 誰かに叩き起こされた。少しずつ目を開いていくと晴天が視界に入ってきた。

「ここは?」

「そんなことはどうでもいい! とにかく、お前さんの想い人を助けるには私の肝を飲ま

せるしかない。効果は後で説明するから。いいよな?」

「え? あ、うん」

 肝? 効果? 想い人? FFは!! バネ人形見たく飛び起きた私はFFを探した。

「くぅぅぅ……」

「姉紅!?」

 腹部が真っ赤に染まっているFF。その脇で、自らの腹に手を突っ込み肝臓を引きずり

出している姉紅。悪夢は続いていた。

「お、落ち着け。説明は後。やばい、意識が飛びそうだ」

 姉紅は自分の肝臓をさらに細かく千切りFFの口に含ませていく。一体何の儀式だろう

かこれは。悪魔でも召還したいのか。もうわけが分からない。

「これでよ……し」

「姉紅?」

 FFに覆いかぶさるように倒れこんだ。それと引き換えにというかほとんど同じタイミ

ングで、蝋人形のように血の気が失せていたFFに色味が戻り、閉じた瞳がぱちりと開く。

「なのは? え? えぇ!?」

 自分の出血に加え、血みどろの姉紅の姿、そして天井がぶち抜かれて空が見えている研

究施設。驚くのも無理はなく、冷静になって見ると異様な光景にも程がある。

「FF大丈夫?」

「あ、うん。平気だよ。それよりも」

 姉紅だ。撃たれたと思ったら復活するし、自分の肝を引きずり出してFFに服用させる

し一体何者?

「そうだね、とにかく安静に出来る場所を見つけないと」

 姉紅の部屋は大量の瓦礫に埋もれていた。局員の遺体があまり見当たらないのはもしか

して私が消し飛ばしたのだろうか。そのあたりのことはまるで記憶にない。それは置いと

いて、私はかろうじて残っていたシーツに姉紅を寝かせることにした。腹部損傷の重傷者

を動かすなんて言語道断だけど、驚嘆すべきことに姉紅の傷がみるみる回復していくのだ。

ますますもって何者なの? 十分ほど様子を見守っているとなんと姉紅が意識を取り戻し

た。非常識な回復力だ。

「はぁ、無茶するもんじゃないなまったく」

「大丈夫なの?」

「死ぬほど痛かった」

 それは確かに、だね。思い出すだけでも私まで痛くなる。

「言い忘れてたけど、私は不老不死なのさ。不死人の肝を煎じて飲めば、そいつも死なな

い人間の仲間入り。だからそこのFFとやらも私と同類になってしまったというわけだ。

すまないね」

「謝る必要なんてないよ。むしろお礼を言わなきゃ。ね、FF?」

「うん。ありがとう。このお礼はきっと必ず」

「甘い。甘いよ。不老不死ってそんな軽いもんじゃないんだよ? 自分以外の存在がどん

どん歳を重ね消えていくというのに、自分だけはまるで時が止まったままのごとし。これ

がどれほどの重みを持つのかいずれは嫌でも分かるだろうさ」

「じゃあ私もなろうかな、その不老不死とやらに」

「お前さんは私の話聞いてなかったのか?」

「聞いてたよ。でもFFや姉紅がそうなのに私だけ違うっていうのも」

 それにもうFFはそんな体になっちゃったみたいだし、その辛さを一人で背負わせるっ

ていうのは酷な話だと思うの。

「お前さんやっぱり勘違いしてる。そんな軽いもんじゃないんだってば」

「いいのいいの。難しい話は後にしようよ」

「はぁ、お前さんには参ったな。分かった、それはまた後ほど設備が整ったところでして

やるさ。さすがに二回も自分の腹に手を突っ込むのは勘弁願いたいね」

「う、うん。後ほどお願いね」

 あんなショッキングな映像二度と見たくない。

「すまないけど、少し休ませてもらうよ。いささか疲れたのでな」

 そういって姉紅は沈むように深い眠りへ落ちていった。

「黙っていれば歳相応の女の子なのにね」

「だね」

 FFの言うとおり、寝顔はまるで少女のものだった。





 やたら血なまぐさかったあの日から数年後。その間に私は姉紅の仲間入りを果たし、F

Fはフレンディに名前を変え、私とフレンディは管理局の手が届いていない世界でのんび

りと生活していた。姉紅も、と誘っては見たものの固辞されてしまったのは少し残念に思

う。でも、たまに連絡を取り合ったり、姉紅の新しい研究所にお邪魔したりと交流は続い

ていた。

「あのね、本当は私、もっとやましい理由でフレンディを連れ出したの」

 この数年間ずっと伏せてきた胸のうちをさらけ出そうと思っている。

「どんな?」

「私が昔好きだった」

「フェイト・T・ハラオウン執務官でしょ」

「知ってたの?」

「それはモチロン。なのはのことは、実はちょっと調べていたんだ」

 それはすごく意外だった。よくあんな監禁状態で調べ物ができたなぁと思う。

「そしてなのはが私に気をかけてくれたのも、私がハラオウン執務官に瓜二つだったから、

でしょう?」

 そこまで見破られていたなんて。

「うん……」

「知ってたよ。知った上でそれでも私はなのはと一緒にいることを選んだんだよ。それは

私の意志」

「フレンディ?」

「ずっとハラオウン執務官の身代わりとして愛されても構わないって思っていたけど、今

は私のことそういう風には見てないでしょ?」

「うん」

 フェイトちゃんのことは忘れられないけど、今はフレンディを愛している。FFとして

ではなく確固たる一個人として。

「本当はフェイトさんのニセモノを演じ続けるつもりだったけど、なのはがそういう意味

で愛しているのじゃないんだなって気付いたから私嬉しくて」

「うん」

「だから、これからはフェイトさんのニセモノじゃなくてフレンディとして愛してくれま

すか?」

「もちろん!!」










作後贅言

普段の爆裂暴走ギャグとは打って変わってシリアスなダークヒーローっぽいアクションも

のを書いてみたのですがいかがでしたでしょうか。あまりにも普段と異なるテイストなの

で、お口に合わないかもしれませんが、これはこれでイケルじゃんと思っていただけたな

ら幸いでございます。

さて、分かる方には楽勝なのですが姉紅のモチーフはいわずもがな、東方プロジェクトの

藤原妹紅です。えぇ、東方では僕の一番のお気に入りキャラですね。僕の脳内設定では名

前の通り妹紅のお姉ちゃんにあたるんですが、まぁそれはまた別の機会にでも。

フレンディの由来は、Fで始まるいい感じのものを考えていたら、Friendをいじっ

てFriendyに。語感も意味合いも中々いい感じだったので採用してみました。ちな

みになのはに出てくるキャラの大半が車の名前からきているのですが、フレンディもマツ

ダ ボンゴ フレンディという車の種類がありました。面白い偶然ですね。

やっぱり僕は思った。フェイトさんが心底好きなんだなぁ、と。あと、なのはとフレンデ

ィには幸せになってもらいたいなぁ、と。なのフェイが世界の真理なのは議論を差し挟む

余地の全くないものではありますが、皆さまの心のほんの片隅になのフレというオリジナ

ル要素満載ですけど、このカップリングが残ってくれれば望外の幸せでございます。

ご精読ありがとうございました。それではまた。

佐々木真史