「All in Hayate」


Written by 佐々木真史





 管理局地上本部の一階、エントランスには「三女神の像」というものが祭りたてられる

かのように鎮座している。ミッドチルダに伝わる神話において登場するこの女神らは、長

女が慈愛、次女が勇猛、三女が知恵を司っているという。この像は、背筋を伸ばし、正面

に真っ直ぐな眼差しを向けている長女、その長女の左肩に右手を乗せ、羽ばたいている次

女、それと線対称に三女が羽ばたいている、という造詣となっている。落ち着いた彩色が

なされ、柔らかな曲線が多用されているこの像は見るものに一時の安らぎを与え、エント

ランスに位置しているため職員達は毎朝この像を目にすることとなる。

 また、像の周りには長椅子が置かれているため、待ち合わせ場所や昼食時にも利用され

ていた。管理局にとってのシンボルであったといえる。

 そんな女神像が、ある日……




「ねぇねぇ、最近『言語萌え』って流行ってるらしいんです」

「言語萌え? 何なのそれ」

 昼食時に、女神像の元で萌えを語らう女子職員が二人。一人は黒髪のおかっぱ娘、もう

一人は茶色の髪を盾ロールにしている。

「私達が普段使わない、見知らぬ方言を使うキャラに萌えを感じるってことですわ」

「あぁ、アンタの好きな八神課長みたいな喋りをする人のこと」

「そう、それです!! よく分かっているじゃない」

 照れ隠しのためか、バッシバシおかっぱ娘の背中をはたく縦ロール。

「い、痛い。痛いって! そんな照れなくてもいいのに」

「ゴホン。それはともかく、はやてさまが口になさる『関西弁』の人気がとても高まって

いるようなんです。同士がたくさんいて私も心強いばかりで」

「だから、それがどうかしたの?」

「そこでコレです」

 縦ロールがポシェットから一枚のカードを取り出した。そこには「関西弁愛好会メンバ

ーズカード」と記載されている。会員番号も入っており、余談であるが番号は一番だ。

「そんな会あるんだねぇ。じゃあ私も仏像愛好会立ち上げようかな」

「この世界は言った者勝ちですから。それはともかく、この愛好会では日々同士を増やす

べく活動をしているのです。その活動の一環としてこの人目に付く女神像に広告をします」

 縦ロールは、今度はマジックペンを取り出し女神の長女の額部分に「関西弁萌え〜!!」

としたためた。

「ちょ、ちょっと! それはいくら何でもマズイってば」

「あ〜らこれぐらいどうということは無いですわ。我々の崇高なる理念の前では」

「私知らないからね」




「なのは、今日の午後からはオフシフトやったやんなぁ?」

 発端は昼休みの終わり頃だった。私が尋ねた何気ない疑問。

「それはそうなんだけど、フェイトちゃんのその言葉遣いどうしたの?」

「言葉遣い? 至って普通やん?」

「フェイトちゃん気付いてないの? それ、はやてちゃんの話し方と同じだよ」

 なのはに指摘されて初めて気が付いた。自分が「関西弁」を話していることに。

「え? あっ、あぁぁ!? ホンマや、なんでかはやてと同じ言葉に」

 はやてのものとは多少違っているみたいだけど、本質は同じだ。でもどうして急に言葉

遣いなんて変わってしまったのだろう。思考はこうして普通の言葉で出来るのに、いざそ

れを口に出してみると勝手に変換されてしまうみたい。

「いくら普通に喋ろうと思っても勝手にこうなってしまうねん」

「なんでやろ?」

 今度はなのはにまで関西弁が染ってしまったみたいだ。

「なのはも私と同じようになってるで」

「え? ウソやん。あ、あれ? ……ホンマやね」

「…………」

「…………」

 訪れるしばしの沈黙。

「えっと、こういうときは……はやてに聞いてみよか?」

「うん、そうやね」

 黙っていても何も解決しそうに無い。だったらということで、関西弁の専門家に話を聞

いてもらうことにした。さっそく思念を飛ばし通話してみる。

(はいはい、ヴィータとエエとこやったのに何の用かなフェイトちゃん)

(あのね、原因は不明だけど私となのはの喋り言葉が、はやてのものと同じようになって

しまったんだ)

(……それはおかしなことやねぇ)

(そうなんだ。訳が分からなくてもう)

(ちょっと待ってな。昼一にソッチへ向かうから)

 はやてはそれだけ言うと一方的に通話を切ってしまった。やはり「お楽しみ」の優先度

の方が高いらしい。

「お昼休みが終わったら来てくれるって」

「じゃああと十分程待とか」

 適当に雑談しているうちに昼休みが終わり、はやてがなのはの部屋訪れてくれた。

「話し言葉はおかしくなってしもたって?」

「そうやねんコレが。イキナリこんな喋り方になってしもて」

 勝手にスイッチがオンになったぐらいの勢いで。

「実はその症状が出てるのは二人だけやないんよ」

「ホンマに!?」

 なのはの関西弁ってなんだかすごく斬新。

「思いの他影響が出てるみたいなんよ。それがどれくらいかって言うと……ミッドチルダ

全域」

「ウソぉ!?」

 じゃあミッド全部が「関西」になっちゃったみたいじゃない。いずれはお好み焼きでご

飯食べたりするようになるのかな?? 今は言葉遣いのみだけど、ゆくゆくは中身も変わ

ってしまってツッコミせずにはいられなくなったりオチの無い話にキレたりなんかしたり

して……

「フェイトちゃん、今ものすごく失礼なこと考えてなかった?」

「う、ううん。そんな別に考えてへんよ」

 ちょっと冷や汗かいちゃった。なんて鋭いのかしら。

「実はあと三十分程したら会議があるんよ。勿論議題はこの言葉遣い。実害は無いものの

いかんせんみんながみんな、所構わずこんな喋りやと対外的に問題があるとか」

 言われてみればそうだよね。首脳会談の席において「おっ、どないでっか? 最近儲か

ってまっか?」とか言い出すのはちょっとアレだと思うし。この言葉遣いはコミカルな感

じがして嫌いじゃないけれど、やっぱりTPOに合わせた話し方っていうものもあるから、

四六時中コレっていうのも問題あるよね。

「というわけやから、何とかしてあげたいのは山々やけど、原因も何も不明な状態やしも

うしばらく辛抱してくれへんかなぁ。今シャマルを筆頭に解析チームを立ち上げたばっか

りやから」

「オッケー。分かったではやてちゃん。でも、なるべく早く解決してもらえたらとっても

助かるねんけど」

「善処するな。フェイトちゃんも堪忍な」

「私は大丈夫やから。でも、一体この現象って何が原因何やろうなぁ……」




 一時二十七分か。もうそろそろ会議が始まりそうやね。というか皆やたらと静かなのは

やっぱり言葉遣いのせいなんやろかな。

「これより会議始めます〜。議題は言うに及ばず、この言葉遣いの異変についてやで。報

告を八神課長お願いしますわ」

 いやはや厳しい面構えのオジサン達が、こんな会議の席でかる〜い関西弁で話をしてる

っていうのはある意味見ものやね。先日「君、そんなことでは困るんだよ」とかネチネチ

お叱りをちょうだいした某さんもすっかり押し黙ってはるし。

「あの、八神課長?」

「あぁ、申し訳ないですぅ。現状を報告させてもらいますね。正午十二時半過ぎ頃、この

地上本部内にいる人々の言葉遣いが強制的に変化してしまう症状が現れだし、四十五分に

はクラナガン全域で、午後一時過ぎにはミッド全域にまで症状が波及している模様やそう

で。原因は依然として不明で目下調査中、以上です」

「なんや、っちゅうことは当分の間こんな訳の分からん喋り方が続くって言うのんか」

 普段アレだけ偉そうにしてるのに、こうなったらタダの関西在住のオッチャンやわ、機

動一課の課長サン。

「そうやなぁ。早急に手を打ちたいのは山々ですけど、原因が分からんことはいかんとも

しがたいんです」

 ウチはいつも通りに喋るだけやからホンマ気楽でえぇわぁ。いっそ、このまま放置しと

いたろかな。

「とにかく、可及的速やかに事態の解決を図らんと対外的に大問題やでこれわ!」

 あんたの喋りと見てくれとのギャップの方が大問題やわ広報課の課長サン。普段ウチの

風当たりが弱くないから、こんな時ぐらい嫌味の一つ言うても怒られはせぇへんやろ。や

っぱりアカンかな? まぁそこは「堪忍な」の一言で丸ぅ治まるのとちがうかな。

 それから対策やら市民に向けての演説の草案とかも議論してはったみたいやけど、さら

に困ったことが(ウチからすればどうということはナイんやけど)発生してしもた。なん

と、話し言葉のみならず「書き言葉」まで関西弁になったとか。後から聞いた話しやけど、

この会議が始まった直後に納豆関連の株価が大暴落したらしい。ウチは普通に納豆食べれ

るのになぁ。




 某月某日付ヨンダレヤ新聞朝刊

ミッドチルダの言葉遣い乱れる。

某月某日正午過ぎから発生しとる言葉遣いの乱れは、依然として収束する見込みは無く、
その影響範囲はミッドチルダ全域に及ぶねんて。まいったなぁもう。突っ込みどころ満載
っちゅうヤツやで。
時空管理局地上本部代表グナス・キト中将の発表によると、事態の改善見込みは薄いねん
て。ただ、当該現象の発端が地上本部にあるということは分かったみたいやから、もしか
するとロストロギア絡みかもしれへんとか。まぁなんにせよ、この言葉遣いの乱れは当面
の間は続く見通しやねんてさ。以下、当新聞社に寄せられた市民の声。

十九歳・学生 男性
「『ナンデヤネン』って台詞が勝手に出てきよる。アルバイトの面接のときに思わず使っ
てしもて不採用になってしもうた。どないしてくれんねんコレしかし」

二十七歳・弁護士 男性
「異議ありや! が決め台詞になってしもてる……」

三十一歳 女性
「昨日、彼氏がプロポーズしてくれたのはいいんやけど、『あなたがちゅきだから』って
噛みやがったよ! ある意味言葉遣いが乱れてるわ」

年齢不詳・自動車整備士 ♂
「や〜らへんか やらへんか」

年齢自称八百歳・職業自称吸血鬼 女性
「ウチを殺した責任取ってもらうから」

年齢不明・ハラペコニート 女性
「アンタがウチのマスターなん?」

十七歳・高校生 女性
「貧乳はステータスや! 希少価値や! あ、レバ剣拾たで」

十七歳・高校生 女性
「ごきげんお。お姉さま」




某月某日放送GyahunRadio

「みなさんこんにちわ。高町なのは一等空尉です〜」

 なんと、今回の放送は言葉遣いが関西弁になっちゃったままお送りすることに。あぁ、

いつになったらコレ治るんだろう。

「こんにちは。フェイト・T・ハラオウンです」

「えっと、みんなもう知ってると思うけど、ミッドに住む人々の言葉遣いが乱れてしもて

ます。しかも改善する見込みが今んところナイという話なんですわコレが」

「そうなんよ。おかげで誰の台詞か分かりにくいことこの上ない状態になってしもて。ホ

ンマにごめんなぁ」

「その辺りはみなさんの読解力にお任せするとして、それじゃあGyahunRadio

始まるで〜」




 広大な範囲に影響を与えたこの関西弁化、始まりが唐突ならば収束もまた然り。




「WAWAWA忘れ物〜♪ オレの忘れ物〜♪」

 症状が全国に波及して一週間経った日のこと、管理局職員某が、オフィスに忘れた携帯

電話を取りに戻った時だった。

「ん? ん??」

 某の目線がエントランスに鎮座している三女神の像のある一点に向けられた。

「何か書いてるでアレ」

 像に近づく某、あそして彼は目にしたのだった。長女の額に書かれた「関西弁萌え〜」

というラクガキを。

「なんじゃこりゃ!? おいおい誰がこんな落書きしたんやマッタク」

 手持ちのウェットティッシュでラクガキをぬぐう。多少の黒味は残っているものの額に

書かれた文字は消え去った。

「これでよしっと。一体誰がこんなバカな落書きしたんだろうな? ん? いや、ちょっ

と待て、オレの言葉遣いが……治った!! 治ったぞ!!」












作後贅言

ワイという一人称を使う関西人はおりません。ボクの知る限りでは。