シガテラ魚の誘惑      〜ある意味、冒険・・・〜


 ある日、6月というのに台風が島を襲い、せっかくの予約の客がパァになってしまった。また休みになってしまったので、多少うねりは残る物の、リーフに叩きつける波はカヤックに乗って波乗りの練習をするにはもってこいで、ついでに魚突きをして、食費を浮かせることにした(休みが多いと給料がなくなる)。
 仲間川の桟橋からマーレー沖にでて、少し波とたわむれたあと、そのまま南海岸に向かう。ここのいつも行くリーフの切れ目の上でカヤックを飛び降り、そのまま魚突きをするのだ。
 飛び降りてからウエットを上半身まで着込み、ウエイトを付け、グローブ、マスクをして流れてしまった分、ポイントまで近づいていく。
 着水した時から魚がまったく見当たらず、通常15〜20mはある透明度が5m位しかないのでおかしいとは思っていたが、海底の様相はまったく変わっていた。リーフの際にあった枝サンゴはボキボキに折れ、コショウダイがいつも休んでいる大きなテーブルサンゴは根元から折れてひっくり返っていた。何より驚いたのが、本命のポイントの一つである「ガーラ穴」と僕がかってに呼んでいたリーフの裂け目が、みごとにバラス(珊瑚の死体でできた砂利)で埋まっているのだ・・・。
 「ありゃりゃ・・・まいったなー」
 台風の後とはいえ、ここまで地形が変わっていい物なのだろうか・・・?
 新しいポイントを探さないといけないかなーと考えながら、隣にある穴を覗いていると、なにやら巨大な魚がフラフラと寄ってきた。赤い。
 「アカナーか・・・」
 標準和名バラフエダイ。世界を代表するといってもいいほどのシガテラ毒保有魚の代表格だ。西表島のリーフエッジには必ずといっていいほど居座っており、ここだと思う根を見つけて潜っても、大体こいつが門番をしていることが多いのだ。

 だが、こいつがでかい。だいたい単独というより、2〜3匹でいる事が多いのだが、小さいのがだいたい60〜70cmくらい、そして大きいのは80pからメーターオーバー、下手すれば20sは超えるんじゃないかという化物級もいる。顔も厳つくて、威風堂々とした魚なのだが、シガテラ毒を持っているために獲ることもできず、スルーするしかない。これといってレアな魚でもないことが価値をいっそう低下させている。
 そんな魚が今、まさに自分の射程に近づいてきている。
 普通なら「邪魔だっ!!あっちに行きやがれ、シッシッ!!」と、なるところなのだが、ここで僕の頭にどうでもいいことが頭に浮かんできた。
 「あぁ、アカナー?食べられるよ、西表のは」

 職場のオーナーの嫁さんは、漁業権も何故か持っているダイバーなので、沖縄の魚に詳しい。ある日、いつも潜っているとアカナーばかり見る…と言うと、そんな話を切り出してきた。

 「内臓やアラはもちろん駄目だけど、肉なら大丈夫だよ。」

 「だけど、火を通したら駄目ね。生でならOKだね。」

 「けっこう美味いよ」

 確かにフエダイの仲間というのは美味い物が多い。九州などでシブダイと呼ばれる、白い星模様が一つあるフエダイなどは、異常なまでに脂がのって旨い(因みにバラフエダイは白い点が二つある)。他にも沖縄にいるフエダイの仲間であるオキフエダイなどは内湾などにも普通にいるが非常にうまい。「マングローブ・スナッパー(ジャック)」とオーストラリアで呼ばれているゴマフエダイや、パプア・ニューギニアで最高級魚と言われるナミフエダイなども、現地では大変珍重されている(ただしゴマフエダイは僕はあまり旨いとは思えない)。

 ここまで話を聞いていると、ちょっと試しに食べてみるか・・・という気持ちになってしまう。一人で食べられる40pくらいのサイズが獲れたら食べてみようと思っていた。

 そして再び海の中へ話は戻る。
 ゆらゆらと近寄ってくるアカナー。見る限り50〜60pくらいだと見た。ロックオンまであともう少しの距離まで来ている。
 「あぁ・・・どうしようどうしようどうしよう」
 迷う。かなり迷う。獲るか、獲るまいか頭の中はすでにグルグルだ。あまりにも魚を見ないということもあって、こいつを逃したら今日はボーズかも知れないという物欲と、魚突き師として、このような魚を獲っていい物なのだろうか・・・?究極の選択漁業である魚突きで、食べられるかどうかわからない魚を獲っていい物なのだろうかという自尊心と倫理観、そしてもし食べられるならどんな味なのだろうか?という好奇心が渾然一体となって頭の中を駆けずり回る!!
 そんな悩み多き青年を尻目に奴は「のほほん」と僕の射程に入ってしまった。完全ロック!!
 「え〜い、何事も経験です!!」
 打ってしまった。
 見事に脳天直撃、キルショット。当った瞬間、「ビクーン」っと、奴は動きを止めて腹を上にしながら浮き上がった。難なく回収。
 ところがこいつを寄せてみてびっくりした。
 「でかい・・・でかすぎる」
 思っていたよりかなりでかい個体だったのだ。こんなの食べられるか疑問だったし、なによりデカイ方がシガテラ毒の濃度が濃いらしい。ん〜こんな立派な魚を獲ったにもかかわらず、イマイチ満足できないのはまさに初めての経験だった。約70cm。メチャクチャぶっとくて10s手前はありそうだ・・・。
 頭蓋骨を貫通し、口の中で羽が開いてしまったので、こいつを抜くのに15分くらい時間を用いてしまった。ナイフでこじ開けて何とか抜き取る。カヤックに入れると、〆た時のようにビクビク体が動き出した。
  
南国色豊かなオサカナさん達♪
 これで帰ってもよかったが、もうちょっと安心して食べられる魚が欲しかったので、もう少し粘る。ガーラ狙いで行ったのだが、回遊魚は見ることがなく、柱のようなサンゴの根にへばりついて待ちながら、なんとかゲンナー(ナンヨウブダイ)55pゲット。こいつをカヤックに乗せ、とりあえず浜に上陸してから写真を撮り、日が暮れかかってきたので「ヤバイヤバイ」と急いでカヤックを漕いで2時間かかる所を1時間で仲間川の桟橋に戻った。
 桟橋に着くと、僕が到着するのを待っていたのかと思えるくらいジャストタイミングでオーナーと嫁さんが車で現れた。
 「おウ、どっかいってたのか?魚獲ってきたか?」
 オーナーがそういうので2匹を持ち上げてみせる。
 「あーあー、こりゃまた、いいサイズだねー、ゲンナーも(売るのに)いいサイズだ」
 嫁さんが呆れたように答え、写真を一枚撮ってくれた。二人は船の整備をしていて忘れ物をしていたので取りに来たのだといい、用を済ませるとすぐにいなくなった。僕は2匹のうろこと内臓を取り出し、防水バックに放り込んで家に持って帰った。スロープにはアカナーの赤いウロコと、ゲンナーの青いウロコが散乱し、なんだかカラフルな感じになってしまった。

 家に帰ってから狭いキッチンで無理して魚を三枚にさばく。
 アカナーをさばくと、頭がでかく、やたらと大量にアラが出てしまった。さすがにアラは火を通さないといけないので食べられず、ゴミ袋にしまう。ゲンナーも頭を落とすと寝る前だったのか、口の中が異常にドロドロしており(この手の仲間は寝る時に粘膜を口から出してテントを作りその中で寝るので)、さばいていて「もうこいつは二度と獲らない」と思うのに十分だった。
 さて、目の前にはそれでも大量のカラフルな魚の切り身が横たわった。
 「どうやって食べようか・・・」
 生で食べるのだから刺身しかない。1/4のサクを半分を刺身に、半分をちょうど出回りだしたパイナップルの汁でカルパッチョにしてみた。ゲンナーは皮付きのまま刺身に。水気が抜けたような感じで妙にパサパサしてそうだ。
 残りの切り身はキッチンペーパーで包んでジップロックに入れて冷蔵庫へ。小さい冷蔵庫だから魚で埋まりそうだ。しかし、これを今後食べる機会があるのだろうか?旨ければいいのだが、人に勧めるわけにも行かないし、さて、どうなる物か。
 刺身を目の前にして、しばし眺める。見た目は旨そうだ。ほんのり赤味がかった白身の刺身は、とりたてだけにプリプリしており、これがアカナーだと知らなかったら普通に食べるだろう。
 見ていても始まらないので一口食べてみる。
 「もにゅもにゅ・・・ゴクン」
 美味い・・・というほどでもないが、不味い・・・というほどでもない。普通のプリプリな新鮮刺身である。ゲンナーも食べてみる。こちらの方が淡白すぎて好かん。
 数分待ってみるわけにもいなないので、ビールのつまみにガツガツ食べてみる。パイナップルをのせたカルパッチョも食べてみる。これも旨くもなければ不味くもない。もうヤケだ。味わうと言うより、供養のために食べるといった感じだった。
 正直、けして不味い魚ではないのだが、体がびびってしまい、どうもイマイチ美味しく食べることができない。しかも人には食べさせる訳にはいかないから一人で食べるしかないし、捨てるのも申し訳ないので、最後は皿ごとかっ込んで食べきった。
 
 翌日、目が覚めてもなんともない。腹も痛くなければ体の痺れもない。シガテラ毒の症状はひどい二日酔いに似ているというが、まったくもって健康そのものだった。どうやらあれだけ食べたのにまったく何もないということは、本当に西表島のアカナーは食べても平気なようだ。
 しかし内臓は食べれないというし、火を通したら食べられないという、普通に考えたら逆の発想(普通は火を通してから食べる物だと思う)が、面白いと思ったが、大量にでるアラを食べたり、多くの人間に消費させるには焼いたり鍋に入れたいところだ。
 一匹の肉の量も半端ないし、一人で食べるには無理がある。
 結論を言えば、やはりアカナーは獲るべきじゃない。実際に沖縄県内でもアカナーを食べてシガテラ毒の症状を出している例はあるようだし、それを考えると、そのリスクを考えて食べるほど旨い魚でもないのだから、ほっとしといてやった方がいいという物だ。これがクエやフエダイやトラフグ並みに旨ければ話は別だが、料理を作り終わったあと、アラをゴミ捨て場に持っていったのだが、でかい頭を食べずに捨てるのは何かうしろめたささえ感じてしまった。
 そんな訳でサバイバル状況下にでも置かれ、「喰わなければ死ぬ!」という状況でない限り、食べないほうがいいと思う。
 
 因みに残りの切り身は僕に「食べられるよ」と言ったオーナーの嫁さんに押し付けてあげ、ゲンナーは先輩にあげた。ゲンナーは刺身ではなく煮付けやテンプラにすると美味しいとのことだ。
最後にもう一回書いときますが、バラフエダイはれっきとした毒魚です!!地元の人の話を聞かずに食べる、もしくは鵜呑みにして食べ過ぎてなにかあっても僕は関係ないからな!!けっッして真似しないように!!!




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