如何にして獲った魚を保存するか?


 自給自足の旅を謳っていながら、なかなか東京近郊にいると難しいことではあります。せめて旅はできなくても魚を獲って食べるくらいは週末にでもやりたいところです。
 キャンプをして、その時獲った物をすぐさま現地で調理して食べてしまうのならば、あまり気にはならないのですが、家に持ち帰って食べるとなると、如何にして新鮮な状態で持ち帰るかが、美味しく食べる為のコツとなります。

 ここでは基本的な魚の持ち帰り方。そして家での保存方法、簡単な保存食、干物の作り方を紹介したいと思います。

 

 有名な話ですが、どんなに新鮮な生きた魚でも、長時間、無給餌で水槽に入れていれば過度の疲労とストレスでどんどん身は痩せてくるし、かといって死んだ魚でもしっかり〆て血を抜き、腐らないように保存すれば長時間、美味い時間を保つことができ、それどころかうまみが熟成されてより美味くなったりもする。
 魚を食べる時、美味いと感じる要素は@新鮮な歯ごたえ、それか、A熟成した肉自体の旨み…の二つだと僕は思っています。Aは魚の種類別の旨味もありますが、獲った後の時間と処理によって左右されると見ていいです。

 

〆る(締める)

 ■活け締め

 魚を釣った時、バケツに入れておくとしばらくは生きていますが、そのうち死んでしまい、持ち帰る頃には死後硬直がおきて体がそり返っている事が多いと思います。そして家に着いて、翌日になって料理をすると再び柔らかくなっていると思います。
 魚はこの死後硬直がおきるまでの段階を「活魚」とし、死後硬直からの段階を「鮮魚」と分けています(大学の講義で習った気がします)。活魚というと、生きている魚の事をいうのが常識ですが、死んでいても活魚となる場合があります。
 それが「活け締め」した魚です。
 これは魚の神経を切断して瞬時に殺すことによって、脳が自分の体が死んだ事を理解できず、信号が送られないため身体を動かす事ができなくなります。また、同時に動脈も切断し、うまく血を抜けば筋肉間の血栓や、筋肉の変色などを防ぐことができ、生臭さがなくなり味も高まります。
 そのため、この活け締めをすることにより死後硬直までの時間をのばすことができ、魚の鮮度を保つことができるのです。

 通常、漁師がまき網や定置網で獲る魚は「氷締め」(浜締め、野締め)といって、氷につけて低温で魚を殺し、そのまま出荷しますが、魚は氷締めを受けるとその時点から死後硬直をはじめるので、見た目は鮮度が高そうですが、良い鮮度でいられる時間は短いです。
 そのため、一本釣りなどで釣られる高級魚やブランド魚は、活け〆を行い出荷するのが流行っています。


 ■方法

 簡単な理屈で言えば、首と尾びれを生きている段階で落とせばいいのです。市場に出す訳でもなく、自分で食べるのであればこれで十分〆た事になります。
 しかし、切断面を多くするとそこから血抜きなどで水に浸けた時、旨味が流れ出てしまうので一般的なやり方では次の通りです。
@魚の頭の首の上辺り、人間でいう延髄あたりを一撃、脊髄を完全に切断するまで切れ目を入れます。
Aそして尾びれの付け根にも切れ目を入れます。
Bこの状態で常温(15℃)の海水に入れ、エラから血の色が抜けるまで血を抜きます。この時、氷水に入れると硬直が始まってしまうので注意。
C血が抜けたら(20〜30分)低温化(〜5℃)で保存する。

 これは屋久島の首折サバや日本海の寒ブリ、江戸前のアナゴ、関西のハモなどの方法です。

 @で、首をかっさばいてしまうのではなく、「裏締め」といって、鰓ブタを開けて鰓の中から背骨を切断する方法もあります。僕はもっぱらこの方法を取ります。

 また、魚突きをやる人などは獲ったその場で〆てしまうので、血抜きも同時にできるし魚を食べるには最も効率の良い漁法かもしれません。
 キルショット(イチコロ)など最高です。暴れる魚は簡単に眉間や、眼のやや後ろ辺りからアイスピックやナイフを刺して締め、鰓を切断して血抜きをするのが手っ取り早いですが、できれば尾びれの根元もしっかり切断したほうが全身の血がムラ無く抜けていいと思います(青物や大型ハタなどは血が抜けきらず、血栓ができていることが多い気がする)。


 ■神経締め

 活け締めでも十分ですが、より効果を高める為に「神経締め」というものがあります。
 これは活け締めをした段階で、さらに背骨の切断面を見るとわかるのですが、脊髄の上、背中側に白いものが見えます。これが神経筋で、これにハリ金(ピアノ線など)を差し込んで神経を抜くのです。
 神経を取り払うことでさらに魚体は自分が死んだ事がわからず、鮮度が保たれます。
 しかしこれは魚を取り扱うプロの仕事で、僕は実際にやったことも見たこともないので説明できません。下のURLに若干載っているのでそこを見るか、その道の人(市場の卸売り業者の人など)に教えてもらってください。

神奈川県西湘地区行政センター農政部水産課・西湘の魚と漁業、活け締めマニュアルhttp://www.pref.kanagawa.jp/osirase/seisyoac/seisyooachp/nousei/suisan/h15fukyu/ikejime.htm

※ここで注意!

「〆る(締める)」という行為は、あくまで死後硬直までの時間を長引かせる為の方法であって、神経締めは今のところその究極の方法といえます(麻酔や針、等で仮死状態にして輸送する方法もありますが、これはもうプロの領域なので、ここでは割合します)。
 しかし、あくまでこれは魚を輸送する時間が長くても、活魚として保てるようにとした方法で、魚の味その物を美味くする方法ではありません。つまり、活き造りの味を死んだ魚でも可能にしようとした方法です。新鮮な歯ごたえを第一に求める人で輸送に時間がかかる人ならばこれは有効ですが、獲ってすぐに食べるのならば氷締めで血抜きさえすれば十分だともいえます。
 このことに関しては「寝かせる」を参考にしてください。

 

家まで持って帰る

 ■クーラーボックスの入れ方

 釣りの本など読むと、必ずクーラーボックスに魚を入れて持って帰る時の断面図などが載っているので、今更書く必要もないとは思いますが、寂しいので触れます(笑)
 〆て血が抜け終わった魚は0℃〜5℃に保ってもって帰る、もしくは死後硬直が起きるまではそのまま常温で保存するのが最良だということです。
 冷やす氷は一番いいのは海水の氷で、これはとくに注意は要りません。しかし、通常の真水の氷だと、溶けた水と魚体が触れ、互いにpHが違うので中和反応を起こしてしまい、魚が水を吸う、もしくは魚のドリップ外にでてしまいます。これを防ぐ為にもなるべく魚体は血を抜いた後は真水や真水の氷に直接つけない方がいいです。
 そんなこと言っても海水氷なんて滅多に手に入りませんから、市販の氷冷剤ペットボトルを凍らした物がいいといいます。
 魚体は新聞紙でくるみ、ビニール袋などに入れ、その下、上に氷冷剤をいれ持ち帰るべきです。魚の数が多いときは、中心部の魚に冷気が届かないこともあるので、なるべく均等に氷がいきわたるようにしたほうがいいでしょう。
 ただし、ここで注意するべき事は、活け締めや神経締めにした魚は、あまり冷やしすぎると硬直が始まってしまい、〆た意味がなくなるとの事です。そのため、関サバでは活け締めにして5℃に保存したものが味、歯ごたえ共によかったというデーターがあるそうです。
 ちなみに「洗い」とは、活け締めにした魚の刺身を急に冷やすことにより、氷締めと同じ事をしてある意味、死後硬直を起こして作る刺身のようです。そのため、あの独特な歯ごたえになるわけです。

 

 ■魚をどの程度処理しておくか

 魚を持ち帰るときに、現地で締めるのはもちろん、さらに内臓やウロコ、鰓も取って持ち帰る人がいます。家でこれらの処理をするのは面倒くさいということもありますし、「魚の生臭さは内臓から移るので、死後は早めに処理した方がいい」と思っている人が多いからだと思います。
 僕の感想では魚を完璧な状態で食べたいのなら、鰓は血抜きの意味も含めて別に構わないと思いますが、内蔵とウロコは取らない方が良いと思います。
 内臓は臭みもそうですが、旨味と脂を備えていて、これが死ぬと全身に廻られていきますから取るのはもったいない。しかも内臓を取ったことによって切断面が増えるのは魚の旨味を逃すことにつながり、損です(トロの部分ですし)。
 内臓の臭みは内臓を取る時に傷つけてしまったり、獲るときのやり取りによって何らかの理由で内臓が傷ついたためだと思います。あんまり内臓を入れたまま保存すると、さすがに消化管の内容物から腐敗し、海藻食の魚などは特に臭みを伴うとは思いますが。
 ウロコの処理も少なくとも三枚にさばく段階まではやらなくていいと思います。
 僕としては、一般的な魚は内臓ごと持って帰り、アイゴや二ザダイなどの特に臭いといわれる魚や、内蔵の多いブダイなどはウロコを取らず、内臓だけ上手く処理して新聞紙に包み、ビニールなどに入れて持ち帰るのがベストだと思います。

 

 ■イカ・タコ

 イカやタコは魚以上に水に濡らしては駄目です。身が焼けてしまい、イカなどはせっかく透明感のある獲りたての身が、白濁し、皮が赤くなって見栄えがすこぶる悪くなります。
 しかも墨袋を取っておかないと墨が破けてクーラーの中が真っ黒になってしまいます。そのためアオリイカやモンゴウイカなどの大型のイカは墨袋を除去してから、筒イカの仲間はそのままビニールの袋に入れて保存したほうが無難です。
 タコも同様、もしくは生かしたまま持って帰るべきです。


寝かせる 

 魚は死後、自分の体内にある酵素によってたんぱく質の分解が促されていきます。この酵素が多く、体内に熱を帯びやすい魚がとくに「腐りやすい魚」、「足が早い魚」と言われます(サバ、ソウダガツオ、イワシなど)。
 しかし一方で、酵素がたんぱく質を分解することでうまみ成分であるアミノ酸を作り、旨味が増すということもあります。俗に言う「肉は腐りかけが美味い」という奴です。
 魚もこれが当てはまり、同じサバ科の魚でもマグロはある程度寝かさないとあの美味さにはなりません(クロマグロは〆てから4日後が最高なのでシビと呼ぶそうです)。他には獲ったばかりだと身がゴリゴリしているカンパチやヒラマサなどのアジの仲間や回遊魚(カツオは除く)は獲ったばかりよりも2〜3日、〆てから置いていたほうが美味くなります。
 まぁ歯ごたえ重視の人は話が別ですが。
 白身の魚もある程度置いたほうが旨味は増します。が、それに反比例して独特の歯ごたえは失われていきますので、食べる頃合は各自個人の好みとなります。
 ちなみに養殖者の魚はあまり寝かせすぎると天然物に比べ脂が悪いのか、変なにおいがして生臭くなるため、すぐに食べた方がいいかもしれません。

 

 ■さばいた後

 僕は魚をさばいて3枚にした物やサクになった物はよく水気を切り、キッチンタオルなどに包んでからサランラップで包む、もしくはそのままジップロックなどに入れて冷蔵庫、もしくは冷凍庫で保存しています。とにかくドリップをあまり滴らせないことがさばいた後の身を保存する最良の方法だと思います。

 ■化学的ウンチク

 ここまでの事を化学的に説明してみたいと思います。
 まず魚が死ぬと、体内に取り込まれる酸素の量が減り、これによって体内のグリコーゲンが分解されるようになります。グリコーゲンはリン酸となり、リン酸は解糖作用により乳酸に変化します。この解糖作用にATP(アデノシン三リン酸)が使用されます。
 高校生物をさらに思い出してもらうと、筋肉繊維というのはミオシンとアクチンという太いのと細い繊維が重なり合ったり離れたりする事で収縮するのですが、この収縮の縮める作用を促すのがカルシウムイオン、緩める作用をするのがATPです。
 魚の死後、リン酸から乳酸への化学反応にATPが大量に使われる事によってカルシウムイオンが出っ放しになり、筋肉は収縮を続け、どんどん硬化していきます。
 これが死後硬直です。
 この時、ATPはエネルギーを放出する事によってイノシン酸という物質に変わりますが、このイノシン酸が旨味の素になるのです!
 つまり死後硬直が進むにつれATPは減少し、まったくなくなった時、イノシン酸は最も多く含まれており、一番の旨味を持っていることになるのです。
 しかしこれを境に死後硬直は次第にとけ、魚体の鮮度はみるみる劣化。組織の小片化、胞弱化がおきて筋肉の熟成が進んでいきます。イノシン酸はヒポキサンチンへと分解され、終いには尿素となり、アンモニアとなっていきます。一方たんぱく質は己の酵素によって自己消化されてアミノ酸やペプチドなどの別な旨味成分へと変わっていくのです。
 その後、細菌などが生息しだすと、あとは腐敗していく事になっていきます。

 

 ここで重要なのは2つ。

1つはATPの減少、乳酸の上昇を遅らせることが死後硬直を遅らせる事につながるということです!だから活け締めをする際はなるべく暴れさせない事が必要で、魚にストレスをかけず、一瞬で勝負を決める事が重要です。
2つ目は魚によって食べる頃合が違うということです。もう何度も書いていますからわかるとは思いますが、獲りたてプリプリの歯ごたえを楽しむと、熟成した旨味のある身は食べられず、熟成してしまうとあの獲りたての歯ごたえがなくなるということです。どちらを取るか、この間をとるかは料理人の好みによりますが、魚によっても熟成までの時間に違いがあるので難しいところです。

 

まとめ

 魚が獲れた場合一番いいのは
@獲れた物はあまりストレスを与えない、暴れさせない。
A一撃で安心しきった状態で活け締め、血抜きを行う。
Bあまり冷たくせずに、水に浸からないように保存し持ち帰る
C獲りたてプリプリが好み、もしくは足が早い青物、オコゼ、ヒラメなどの歯ごたえが命の魚はこの時点で食べてしまう!
D熟成物が好き、タイ、ハタ、マグロなどは冷蔵庫で熟成させて食べる。

これでバッチリなはずです!

 

参考サイト

http://www.fishml.com/  fishmlホームページ   

http://dandoweb.com/backno/20030814.htm   団藤保晴の記者コラム「インターネットで読み解く!」

http://www2.odn.ne.jp/shokuzai/Shokuzai.htm 食材事典



保存食、干物の作り方は後日、更新します!とりあえずこれだけ!


戻る