四日市市に降り立った11羽のナベヅルたち  2,008年11月 

 2,008年11月22日 四日市市の水田に11羽のナベヅルが降り立った。 
 群は2羽の幼鳥と9羽の成鳥で構成されていた。  ナベヅルの生態を知りたくてネットで調べていたら日本の越冬
地として有名な出水市のホームページに、群は1羽ないし2羽の幼鳥と2羽の親の家族単位で飛来し、春先の渡り
の頃まで家族で行動すると書かれていた。 ここで疑問が生じた。  

 
この群は何故11羽なのだろう? 

 幼鳥が2羽いるということは幼鳥を2羽連れた1家族4羽か、幼鳥を1羽づつ連れた2家族の6羽のどちらかで、残りの
5〜7羽は繁殖入り前の若い個体だろう。   

 今年産まれの幼鳥は首から頭の辺りが淡い褐色で体が黒っぽいので一目で区別が付き、成鳥は首から頭が白くて
体は全身が灰色とわかっている。
また、若鳥は頭上の赤い部分が無いか小さいとも言われており、この点も比較ポイントとして役立ちそうだ。

 手持ちの図鑑やネットで調べてみたら幼鳥以外の個体は全て成鳥と十把一絡げに扱われていた。 幼鳥以外は
全て成鳥とするのはあまりにも荒っぽいではないか。
 11羽の群が降り立った・・・でも良いのだが、それで終わらせてしまうのはちょっと勿体無い・・・とあくまで個人的な
興味から考えてみただけなのであくまで参考程度に見ていただきたい。
 
なお、成鳥とは繁殖年齢に達した個体を指すこととします。

*羽衣による年齢推定
 この写真には、左端で下半身しか写っていないものを含めてかろうじて11羽の全てが写っている。 
群を見ていて一番目に付くのは体の色で、この色の違いから年齢が推定できないかと言うのが今回の発想である。
 右から3羽目と左から2羽目は首から頭に掛けて淡い褐色色をしているので今年の春産まれの幼鳥とはっきりして
おり、翌春までは親に連れられて行動する。 
 左端から3羽目と4羽目・右から2羽目は首から頭が白いが体の色は幼鳥と同じく黒っぽい色をしており、右から
6羽目は全体的に灰色っぽい色をしている。   
       


 フィールドスコープで見たときに後頚部付け根付近から背中にかけてシギ・チドリなら冬羽に換羽中とでも言えそう
な白っぽい羽が覆い始めている個体がいてとても美しかった。 
ナベヅルも冬羽に換羽するのかと一瞬思ったが、1羽づつ見ていったら全体的に白っぽい灰色のものや背中の一部
だけ白いもの、体の後ろの方まで白い毛が覆っているものなど大きく分けると4つに分けられることがわかった。 

 もう少し詳しく見てみる。  一番左は幼鳥と同じくらい黒いので2年目の冬を迎えていると推定した。
 右から3番目は幼鳥。  右から2羽目は全体が白いので成鳥と思われる。  右端と右から4羽目は黒っぽい体
に僅かに白い毛が生え始めているので3年生。  左から2羽目と4番目は体の後ろの方だけ黒っぽいので4年生。
 こういう区分で見れば成鳥になるまで5年という計算になる。
       


 次の写真の左側は体に白い毛がまったく生えておらず、幼鳥と同じ黒っぽい色をしているので2年目の若鳥。
 右側の写真の左側の個体は僅かに白っぽい毛が覆い始めているので3年目の若鳥。 4年生と似通っているが、
頚が黒っぽいので3年生とした。  4年生は頚も白っぽい毛で覆われてきている。 右側の個体は全体的に白っぽい
ぽいので成鳥と思うが体は小柄だ。  ♂♀の違いが有るのかもしれない。
       

              







  首を上げて辺りを警戒しているのは全身が白っぽい毛で覆われた成鳥。  その向こうで右向きに2番穂をついばんで
 いるのも成鳥と見られる。
  左端は白い毛が生え始めた3年目の若鳥と推定する。   もっと白い部分が多いのは4年生と推定。
        

               次の写真は幼鳥を主に、右側は4年生。  左側は曖昧・・・・。
        


 首筋から背中にかけてかなり白い毛で覆われてきており、もう少しで成鳥並みに全身が白っぽくなりそうなので4年目と
判断した。 頭上の赤い部分も群れの中では比較的目立っている。   3年目とした個体にも白い部分の多いものがいる
が、首が黒っぽいところが異なっている。
        


*この群れの構成
  きっちりと11羽揃いの写真が残っていないのでこれがなかなか難しい。 おおよそ推定してみると、幼鳥・2 
 2年生・2  3年生・3  4年生・2  成鳥・2 となるだろうか。 

*腰に垂れ下がっているのは3列風切羽
  ナベヅルを見たときに真っ先に目に付くのが腰の辺りに垂れ下がったモップのような羽だ。 一見尾羽のように見える
 が3列目の風切羽で羽ばたいている写真を見ると次列風切羽より長いのがよくわかる。
  ナベヅルは初列・次列・3列とも同じ色をしているので羽を閉じてしまうとわかりにくいが、タンチョウは初列が白く次列
 3列が黒いので判りやすい。  垂れ下がっている羽は黒い色をしているので初列ではないことがわかる。 

         

  この3列風切羽で年齢が推定できないかという示唆をいただいた。  見比べてみると幼鳥は未だ伸びきっておらず短
 いが2年目以降では羽衣の違いほど顕著な差は見られなかった。   この写真は1枚目のものをトリミングしたもので
 右端にいる幼鳥は明らかに短いが、他の6羽に差は認められない。

        


*額の赤い斑
  ナベヅルの群を見るときに額の赤い部分も若いかどうかの判断の目安になるそうだ。  この赤い斑は毛が抜け落ちて
 地肌が見えているもの。  下の写真は羽衣の色から2年生と判断した個体で群れの中では比較的目立っていた。

        

  図鑑や越冬地で撮影された写真の中には見事に真っ赤な額のものがいる。  特徴的な個体は目立つので撮影される
 機会が多いと思うが、越冬地ではこのようなものがどれくらいの割合で混じっているのか知りたいものだ。 
  1枚目の写真を見ても、この写真を見ても今回飛来した11羽の中には際立って赤いものは見られなかった。
        

   この個体は頚の色が黒っぽいことから2年生と判断したが、2枚目上のものより赤が目立たず個体差が見られる。   
                   

 下の写真は全体的に白っぽいので成鳥と判断したものだが、額に赤い部分がまったく見られない。
        
   
  越冬地に来るときは家族単位で行動する原則から見ればこの群れに繁殖入りした成鳥が必ず混じっているはずで、そ
 れが正しいとすると額の赤い斑の濃さ・大きさで成鳥かどうかの判断は付かないことになる。
  群れの中には2年生と見られる個体に比較的赤いものが見られることから個体差も有りそうだが、ナベヅルの寿命が
 おおよそ20年と見られているので成鳥になってから徐々に赤くなって行くのではないかと思考する。

 多分、この群を率いてきたのは繁殖入りしたばかりの若い夫婦の成鳥で、本来なら出水市に行くべきところを若気の至り
 でミスリードしてしまったのではないか。
  そう考えると面白い。
 
*個体識別
  「伊勢豊浜ナベヅルを守る会」によれば11羽のナベヅルは香川県を経由してきた群で、額の黒い部分に白い部分の
 有る個体が混じっているのを群れの識別に使っている。
 四日市市で撮った私の写真に顕著な個体が写っていないのでどのようなものか問い合わせをして教えていただいた。
 そして探し出したのが次の写真である。  カメラのファインダーを通してみると相手が遠いこともあってまったく目立た
 なかったので数枚しか写っていなかった。 
  確かに額の真ん中に対称の位置に二つの白い星がある。  この個体は羽衣の色から2年生と判定したもので、白い
 星は生長に従って消失するのではないかと思考する。  その点も興味を持って観察したい。

          

*親子の決別
 越冬の為に日本に飛来したときは家族単位で行動していたナベヅルたちも繁殖地に向かう前に親子の別れのときがや
ってくる。 阿寒国際ツルセンターによれば、タンチョウの子供たちは春になると両親から激しく追われて親離れするという。
ナベヅルの親子も春になると同じように親離れ子離れするのだろう。

 旅立ち前に親鳥は子供たちを家族から追い出し、子供たちは若鳥の群れに混じって行動するようになる。 
今回飛来した群れは成鳥の家族に付いてきた若鳥のグループだろう。


*群れのその後の行方
 
11月25日に鈴鹿市に移動した群れは11月26日に飛び立って北の方向・・名古屋方面に向けて消えていった。
名古屋市を海沿いに越えて三河方面に行くか、右に回って伊勢市方面に向かうか消息を待っていたら12月に入って
伊勢市に降り立ち、新聞やテレビでニュースとなって注目を集めた。
 越冬してくれれば旅立ちの頃に幼鳥たちがどんな色になっているのかわかってとても興味深い。

 伊勢市の豊浜地区に羽を休めていた11羽の群れは、12月21日にハンターの鉄砲音と猟犬に驚いて飛び立ってから行
方がわからなくなっているそうだ。  とても残念なことだ。  

*1月12日情報
 
愛知県の田原市の水田地帯に降り立っているのが確認された11羽の群れは1月12日の朝伊勢市に戻っているのが
確認された。  鶴の幼鳥の生存率は50%との見方もあるので無事でよかった。
 これからの興味は幼羽と第1回冬羽との違いである。


 これまで述べてきたことは四日市市に降り立った11羽のナベヅルを観察しての考察であることを改めてお断りしておく。



                              
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