ミステリー研究室2 笠井潔ブックリスト


(注)最新情報は、mixi内コミュニティ「笠井潔 ヴァンパイヤーハウス」にて、随時アップしてお
ります。


私のミステリーの読み方は、作家主義であって、気に入った作品があると、系統的に読んでゆ
くというものです。
 竹本健治の『匣の中の失楽』(講談社文庫)と笠井潔の『サマー・アポカリプス』(角川文庫)を、
ほぼ同時期に発見して以来、この二人の作品については、すべてチェックするようになりまし
た。
『黒死館殺人事件』(小栗虫太郎)、『ドグラマグラ』(夢野久作)、『虚無への供物』(中井英夫)とい
ったアンチ・ミステリーの系譜に注目するようになったのも、この二人の影響です。
 現在は、このアンチミステリーを、日本幻想文学の黒い潮流の中に位置づけることもできると
考えています。なぜなら、謎解きが終わった後に、人間という謎が始まるからです。社会派ミス
テリーは謎解きの後に、損得勘定だけのステレオタイプの人間像が残るのですが、これらの作
品は損得だけではない、何かしら過剰な観念に操られる人間や、異常な快楽の嗜好者が登場
しますから。
 聖なるものの探求のためには、極限の悪も知っておく必要があります。

T.本格ミステリーの分野



<矢吹駆>シリーズ(完成すれば全10巻の予定)
1『バイバイ、エンジェル〜ラルース家殺人事件』角川書店1979.7.30→角川文庫S59.3.10→創
元推理文庫1995.5.19
  シリーズ第一作。連合赤軍事件を経て、マルクス主義の論理的必然性を持ったテロリズムへ
の転化を拒否し、マルクス葬送派となった笠井のデビュー作。エラリー・クイーン直系の本格推
理小説としての完成度と、ドストエフスキー的な思想小説の見事な融合。矢吹駆は現象学的本
質直感を武器とする哲学探偵である。本作で矢吹駆と思想的闘争を行う相手は、永田洋子を
モデルとした人物である。
2『サマー・アポカリプス〜ロシュフォール家殺人事件』角川書店1981.10.5→『アポカリプス殺人
事件』角川文庫S59.6.25→『サマー・アポカリプス』創元推理文庫1996.3.22
 シリーズ第二作。矢吹駆のシリーズ全体を通しての宿敵としてニヒリスティックなテロリスト、
ニコライ・イリイチを配置。本作では原子力産業を背景に、イリイチの影が。黙示録をもとにし
た本格ならではの重厚さと、シモーヌ・ヴェイユをモデルとした女性活動家との矢吹の思想的論
戦。初期三部作の中でも、ひときわ完成度の高い作品。
ここで、現代の黒魔術(ナチズム・アーリア民族至上主義)と、白魔術(ルドルフ・シュタイナー、シ
モーヌ・ヴェイユ)の闘争の図式が提示される。
3『薔薇の女〜<アンドロギュヌス>殺人事件』角川書店1983.3.31→角川文庫S62.12.10→創元
推理文庫1996.6.28
 人体をバラバラにして、新たな両性具有の肉人形をつくる狂気の犯罪。矢吹駆と、ジョルジ
ュ・バタイユをモデルとした人物とのエロティシズムと死をめぐる論戦。はたして、地上における
天使の存在可能性はあるか。果て無き超越への志向が伺える問題作。
1〜3の合本『天使/黙示/薔薇 笠井潔探偵小説集』作品社1990.12.25

黒魔術
白魔術
ナチズムの聖書
人智学の聖書
アルフレート・ローゼンベルク著
『二十世紀の神話』
吹田順助・上村清延訳
中央公論社
ルドルフ・シュタイナー
『第五福音書』
高橋巌訳
イザラ書房
VS


4『哲学者の密室〜ダッソー家殺人事件』 光文社1992.8.31→カッパノベルス(上下2巻)1996.7.
25→光文社文庫(上下2巻)1999.3.20→創元推理文庫2002.4.12
 第二次世界大戦下のユダヤ人収容所と、現代を舞台にするふたつの三重密室殺人事件を
貫通する真実とは?マルティン・ハイデッガーをモデルとする人物との駆の闘争。駆自身の思想
的変貌をも要請する全シリーズの中でも、とりわけ重要な作品。一切の人間性を奪われた収
容所世界での<あること(イリア)>とはなにか?二十世紀最大の哲学者ハイデッガーの限界が暴
露される。
5『オイディプス症候群(シンドローム)』 光文社2002.3.25→光文社カッパ・ノベルス、2006.10.25
 後天的免疫不全症候群をめぐる現代の黙示録的世界を背景に、ミッシェル・フーコーをモデ
ルとする人物の外の思考、監視と権力、友愛の哲学と、駆のまなざしの現象学が交錯する。笠
井流の<孤島もの>であり、隔絶された世界でまたひとり、またひとりと殺されてゆくパニックも
のである。
6『吸血鬼の精神分析』 ジャーロ連載中
 『オイディプス症候群』で描かれた事件に巻き込まれたナディア・モガールの精神的な危機。
ジャック・ラカンとジュリア・クリステヴァをモデルとする人物の登場し、やがて新たな事件が…
…。
番外編『熾天使の夏』講談社1997.7.7→講談社文庫200.12.15
 矢吹駆の前歴を物語る番外編。左翼活動家としての駆のニヒリスティックな世界が、開示さ
れる。重厚な観念小説の文体で書かれており、現在の矢吹を生み出した思想的背景がうかが
われる。本作と『バイバイ、エンジェル』の間に起きた矢吹の転向と、雪山での離脱体験につい
ては、未だ直接的に語られていない。
番外編『青銅の悲劇 瀕死の王』講談社2008.7
 ナディア・モガールが登場する番外編。日本の消費社会を舞台にしている。『ヴァンパイヤー
戦争』のムラキの正体や、<天啓>シリーズとの関連も描きこまれている。

<天啓>シリーズ
『天啓の宴』 双葉社1996.11.25→双葉文庫2001.6.20
 三島・大江による<絶対>もしくは<最後>の小説という観念をめぐるメタ・フィクション。シリーズ
全体が竹本健治のウロボロスシリーズへの批評の意味合いをもっており、ウロボロスを読まず
して、天啓シリーズを読んではならない。
『天啓の器』 双葉社1998.9.25→双葉文庫2002.7.20
 中井英夫(塔晶夫)による『虚無への供物』をめぐるメタ・ミステリー。超テクニカルな作品であ
り、「大文字の作者」を消すために、反則技(?)を仕掛けている。
『天啓の虚』双葉社小説推理連載中

<私立探偵飛鳥井の事件簿>シリーズ…社会派ミステリーのスタイルで書かれた本格ミステリー
『三匹の猿〜私立探偵飛鳥井の事件簿』 ベネッセ1995.3.10→講談社文庫1999.8.15
『道 ジェルソミーナ〜私立探偵飛鳥井の事件簿』 集英社1996.10.30→集英社文庫1999.10.
25
『魔』 文藝春秋・本格ミステリー・マスターズ2003.9.30→文春文庫2007.2.10

<スキー探偵大鳥安寿>シリーズ
『天使は探偵〜スキー探偵大鳥安寿』 集英社2001.2.10

<文芸ミステリー>
『黄昏の館』 徳間書店1989.9.30→徳間文庫1994.3.15
  コムレ・サーガと、メタ・ミステリーを結合する試み。笠井潔にとって、超越とは何かが本作を
読むことによって理解されよう。
『梟の巨なる黄昏』 廣済堂1993.8.15→KOSAIDO BLUE BOOKS1996.2.10→講談社文庫2000.
2.15
 人間を呪縛し、死と殺意へと駆り立てる絶対的な完成度を持つ書物とは何か?笠井は、正面
きって埴谷の『死霊』のような作品を書くのではなく、メタ・フィクションによって、そういう種類の
書物の効果を描こうとしている。

<歴史ミステリー/デュパン・シリーズ四部作>
『群集の悪魔〜デュパン第四の事件』 講談社1996.10.10→講談社文庫2000.6.15
「奇妙な果実」(構想のみ)…南北戦争を背景に、ポーの危篤の報を受け、渡米したデュパン
が、リンチによって殺され、木にぶら下げられた黒人の死体に遭遇する。
「五稜郭の密室」(構想のみ)…五稜郭に向かったフランスの仕官一行に紛れ込んでいたデュ
パンが出会った密室殺人事件。
「(題不明)」(構想のみ)…地球を一周し、フランスに帰国したデュパンは、パリ・コミューンに出
会う。

<冒険スパイ小説>

『復讐の白き荒野』 講談社S63.4.25→講談社文庫1991.9.15→<新版>原書房2000.4.7

『鏡の国の殺人』(新潮社・未刊)

『未定』(講談社ミステリーランド)

「赤い蛸」 e−NOVELS 1999.12
「二重奏 ショート・ショート競作集(小池真理子との競作集)」 e−NOVELS 2000.11
「黄泉屋敷事件」 e−NOVELS 2001.1


U.伝奇SFの分野

<コムレ・サーガ>シリーズ

『ヴァンパイヤー戦争(ウォーズ)』
1吸血鬼ヴァーオゥの復活 角川ノベルス1982.1.25→角川文庫H1.6.25→講談社文庫2004.6.15
2月のマジックミラー 角川ノベルス1984.10.25→角川文庫H1.8.10→講談社文庫2004.6.15
3妖僧スペシネフの陰謀 角川ノベルス1985.4.25→角川文庫H1.10.10→講談社文庫2004.9.15
4魔獣ドゥゴンの跳梁 角川ノベルスS60.11.25→角川文庫H元.11.10→講談社文庫2004.10.15
5謀略の礼部クーデター 角川ノベルスS61.7.25→角川文庫H2.1.10→講談社文庫2004.11.15
6秘境アフリカの女王 角川ノベルスS62.5.25→角川文庫S2.3.10→講談社文庫2004.12.15
7蛮族トゥトゥインガの逆襲 角川ノベルスS62.10.25→角川文庫H2.5.10→講談社文庫2005.1.
15
8ブドゥールの黒人王国 角川ノベルスS63.3.25→角川文庫H2.7.10→講談社文庫2005.2.15
9ルビヤンカ監獄大襲撃 角川ノベルスS63.6.25→角川文庫H2.9.10→講談社文庫2005.3.15
10魔神ネヴセシブの覚醒 角川ノベルスS63.9.25→角川文庫H63.9.25→講談社文庫2005.4.15
11地球霊ガイ・ムーの聖婚 角川ノベルスS63.11.20→角川文庫H3.1.10→講談社文庫2005.5.
15
番外編『ヴァンバイヤー血風録 九鬼鴻三郎の冒険1』 角川ノベルス1989.6.25
番外編『ヴァンバイヤー風雲録 九鬼鴻三郎の冒険2』 角川ノベルス1990.1.25
番外編『ヴァンバイヤー疾風録 九鬼鴻三郎の冒険3』 角川ノベルス1990.9.25

『巨人伝説<復活篇>』 徳間ノベルス1983.2.28→『巨人伝説1<復活篇>』徳間文庫1988.7.15
『巨人伝説<崩壊篇>』 徳間ノベルス1987.2.28→『巨人伝説2<崩壊篇>』徳間文庫1988.12.15
『巨人伝説<遍歴篇>』 徳間ノベルス1983.7.31→『巨人伝説3<遍歴篇>』徳間文庫1989.7.15

『サイキック戦争(ウォーズ)』 講談社ノベルス1986.4.15
『サイキック戦争(ウォーズ)2』 講談社ノベルス1987.4.5
『サイキック戦争(ウォーズ)』(上記ノベルス2冊分に加え、完結篇を加えた完全版) 講談社文庫
1993.5.15

『エディプスの市』 講談社1987.5.15→早川文庫1994.4.30

『ノヴァ、ノヴァ』徳間ノベルス1991.8.31

『笠井潔伝奇小説集成 全5巻』 作品社
第一巻 ヴァンバイヤー戦争T 1995.12.20
第二巻 ヴァンパイヤー戦争U 1996.2.20
第三巻 ヴァンパイヤー戦争V 1996.4.25
第四巻 巨人伝説         1996.11.25
第五巻 サイキック戦争     1997.2.10 

『無底の王』(未刊)

『嵐が丘〜鬼丸物語』(吉田喜重原案の映画のノベライズ) 角川文庫S63.5.25


V.評論

<観念批判論>シリーズ
『テロルの現象学〜観念批判論序説』 作品社1984.5.10→ちくま学芸文庫1993.7.7
 連合赤軍事件という思想的アポリアを通して、マルクス葬送派に変貌した笠井の思想的主
著。党派観念が生まれる過程を、現象学的な文芸批評を利用して描き、そこに民衆憎悪・生
活憎悪・肉体憎悪の観念のラディカル化を見出し、民衆のための革命から、革命のための民
衆虐殺に転化する必然性を説く。そして、いかなる収容所社会においても、外部を目指す集合
観念の噴出は起こりうるとして、そこに観念による観念の浄化という希望を見出すのである。

<現代思想批判>
『ポストモダニズム批判〜拠点から虚点へ』(柄谷行人との対談) 作品社1985.5.4
『闇の都市、血と交換〜経済人類学講義』(栗本慎一郎との対談) 朝日出版社1985.5.25
『<戯れ>という制度』 作品社1985.6.25
『象徴としてのフリーウェイ〜笠井潔第一エッセイ集』 新時代社1985.6.20
『不断革命の時代』(吉本隆明・川村湊・竹田青嗣との対談集) 河出書房新社1986.7.10
『近代を裏返す〜魔術的世界からSFまで』 河合ブックレット 1986.10.25
『外部の思考・思考の外部』 作品社1994.6.20
『ユートピアの冒険』 毎日新聞社<知における冒険7>1990.5.25
『黙示録的情熱と死』 作品社1994.6.20
『スキー的思考』 光文社1998.10.30
『動物化する世界の中で〜全共闘以降の日本、ポストモダン以降の批評』(東浩紀とのWeb上
で先行公開された往復書簡) 集英社新書2003.4.22

<文芸評論>
『機械じかけの夢〜私的SF作家論』 講談社1982.8.23→<新版>筑摩書房1990.2.25→ちくま学
芸文庫1999.2.10
『秘儀としての文学〜テクストの現象学へ』 作品社1987.6.10
『物語のウロボロス〜日本幻想作家論』 筑摩書房1988.5.25→ちくま学芸文庫1999.9.9
『SFとは何か』(編著) NHKブックス S61.10.20
『村上春樹をめぐる冒険』(加藤典洋、竹田青嗣との共著) 河出書房新社1991.6.28
『終焉の終り〜1991文学的考察』 福武書店1992.3.25 
『球体と亀裂』 情況出版1995.1.30
『物語の世紀末〜エンターテイメント批評宣言』 集英社1999.4.30
「ラディカルな自由主義の哲学的前提」 e−NOVELS 1999.12
『徴候としての妄想的暴力〜新世紀小説論』 平凡社2003.1.16

<ミステリー評論>
『模倣における逸脱〜現代探偵小説論』 彩流社1996.7.10
『本格ミステリの現在』(編) 国書刊行会1997.9.20
『探偵小説論I氾濫の形式』 東京創元社1998.12.15
『探偵小説論II虚空の螺旋』 東京創元社1998.12.15
『探偵小説論序説』 光文社2002.3.25
『ミネルヴァの梟は黄昏に飛びたつか?〜探偵小説の再定義』 早川書房2001.3.31
『探偵小説と二〇世紀精神 ミネルヴァの梟は黄昏に飛びたつか?U』東京創元社 キイ・ラ
イブラリー2005.11.20
『探偵小説と記号的人物(キャラ/キャラクター)』東京創元社 キイ・ライブラリー2006.7.28

※その他、探偵小説研究会の中心人物として、『本格ミステリ・ベスト100』東京創元社1997.9
の他、毎年「本格ミステリ・ベスト10」を刊行している。

<国家論>
『日本型悪平等起源論〜「もの言わぬ民」の深層を推理する』(島田荘司との対談) カツパサイ
エンス1994.3.30→光文社文庫1999.12.20
『国家民営化論〜「完全自由社会をめざすアナルコ・キャピタリズム』 カッパサイエンス1995.
11.25→『国家民営化論〜ラディカルな自由社会を構想する』

<その他>

『ORGAN(オルガン)』 現代書館 (編集委員、小阪修平、笠井潔、竹田青嗣)
 創刊号 現代思想批判 1986.11
 第二号 欲望の市民社会論 1987.4
 第三号 日本・その不可視のシステム 1987.9
 第四号 性的存在とエロス 1988.3
 第五号 旋回する権力 1988.8
 第六号 鉄腕アトムの涙〜テクノロジーの夢と臨界 1989.1
 第七号 宗教の臨界点 1989.7
 第八号 甦えるフェノメノロジー 1989.12
 第九号 社会主義の解体 1990.6
 第十号 現代思想批判 パート2 1991.4

『両翼の騎士〜笠井潔の研究読本』 北宋社1985.5.5



<参考>黒木龍思時代の著作

笠井潔が、政治運動を行っていた際のペンネームが黒木龍思である。その後、マルクス主義
が究極的に「連合赤軍事件」に転化してしまうアポリアに直面し、ペンネームを捨て、<マルク
ス葬送派>として転向を遂げることになる。その思想的展開の軌跡は、『テロルの現象学』に
詳しい。

「階級形成論の方法的諸前提」(『拠点』1969.10)
「戦術=階級形成論の一視点」(『情況』1969.10)
「マルクス主義革命理論における権力論と危機論」(『構造』1970.5)
「七〇年代反帝闘争の立脚点」(『革命の武装』1970.9)
「革命の意味への問いの究明」(『構造』1970.11)
「第三世界革命への合流に向けて」(『構造』1971.3) 
「戦後解体期の時代精神」(『情況』1972.1)
「日本革命思想の転生」(『情況』1972.4、5、7、8、10、1973.7)
「観念と歴史」(『情況』1974.7)
「ふたたび「革命の意味」を問うこと」(『全共闘 解体と現在』田畑書店、1978.10)









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