ラック虫  ( キ・カン 採集 )


 「ラック虫」というのは

 「カイガラムシ」の一種で、「カイガラムシ」類は、栽培植物に寄生する大変厄介な「害虫」ですが、「ラック虫」だけは、人類に貴重な資源を提供してくれる有用な昆虫の一種なのです。

 熱帯・亜熱帯地方独特の「カイガラムシ」だそうで、その「カイガラムシ」の作り出す「レシン(樹脂)」を「キ・カンขี้ครั่ง )」といいます。
その利用の歴史も古く、中国では、数千年前から利用していたことが、遺物からわかっているらしいです。

 塗料、染料、薬、充てん材、レコード盤など、さまざまに利用されており、食品染料やチョコレートのコーティングなどにも使われていて、もしかすると、あなたも、知らずに口にしているかもしれません。

 雨期が明けて、しばらく過ぎた、10月末から11月初めの頃が、「ラック虫」の採集時期で、仲買の業者なども、「ラック虫」の居場所を嗅ぎつけて、買いに来ます。

 参考文献 : 『イサーンの子 ( ลูกอีสาน )』 ラック虫採りの項
         本邦訳 『東北タイの子』(星野龍夫訳・勁草書房刊)
 (余談)
 少し古い(1975)小説ですが、いわゆる「もち米を常食にする」北タイ、東北タイの田舎の暮らしを理解するのには、大変適した書き物です。北タイ、東北タイの田舎に興味をお持ちの方に、是非、お勧めいたします。


ミカンコナカイガラムシ
 「カイガラムシ」

 左の写真は、「ミカンコナカイガラムシ」といって、柑橘類の大害虫です。

 外国から天敵の「ベダリアテントウ」を導入したことにより、以前よりは、恐れられなくなったようですが。
 「カイガラムシ」類は、農薬による駆除も容易ではなく、ずっと昔のことですが、真っ黒くなったミカンを、いやいや食べたものでした。

 「カイガラムシ」に取りつかれた植物は、葉も枝も果実も、その排泄物で、黒くすすけてしまいます。


ラックムシ
 「ラックムシ」

 「ミカンコナカイガラムシ」に近い仲間の「カイガラムシ」の一種です。
 やはり、「ラックムシ」が繁殖した木は、排泄物で、黒くなっています。

 学名を、Laccifer lacca KERR といい日本では、「ラックカイガラムシ」と呼ばれているようです。

 「ラックカイガラムシ」の成虫の写真としては
インターネット上では、今回が初出(?)の貴重な写真です。



サンサーの木
 「ラック虫」採り

 「ラック虫」は、イチジク属の木やアカシアの仲間の木でよく繁殖します。
 この木は、アカシアの仲間の「サンサー( สารสา  または ฉำฉา )」という木です。

 数年前に「ラック虫」を移殖したものですが、今年採取できるようになりました。
 天然のものは、ほとんど採りつくされてしまい 、人為的に移殖したものでないと、たくさん採れません。
 樹高20mほどありますが、これぐらいの木になると、100kg近く収穫することができます。
ラックを採られた後
 枯らさないために、わずかな枝だけ残してありますが、これで、あと数年は、この木から「ラック虫」を採取することはできません。
それにしても、なんとも見事に取ってしまったものだと感心いたします。

 以前には、このあたりにたくさんあった木らしいのですが、「ラックムシ」採りなどのために、かれてしまったものも多く、大樹はほとんど見られなくなってしまいました。

 場所によっては、「ラック虫」の好む木を植林して、培養しているところもあるようですが、我が家のあたりでは見かけません。
「ベトナム」には、「ラック虫」のプランテーションがあって、タイにも輸出しているらしいです。
この木なんの木

  実は、この木は、日立のCMで有名な「この木、なんの木」(左)と非常に近い種類の木なのだそうです。

 この木の脇を通るたびに、「この〜木なんの木〜♪気にな〜る木〜♪」と口ずさみたくなった理由がわかりました。




小枝についたラック
 「生ラック」

枝を包むようにして、こぶ状の「生ラック」がついています。
 中には、生きた「カイガラムシ」が、たくさん入っていて、このまま長期保存すると、品質が劣化して商品になりません。
 小枝から取り外した「ラック」は、できるだけ早く、熱処理して、せんべい状の製品に仕上げます。
 輸出用には、薬品を使って精製し、ガラスのかけら状のペレットにするらしいです。

 生ラックは、現在、1kgあたり、100B前後で取引されているようです。


刃物の固定
 必需品「キ・カン」


 「キ・カン」は、地元の人たちにも、なくてはならない必需品です。包丁、鉈などを新しく購入したとき、取っ手の柄から刃先が抜け落ちないように固定するために使います。買ってきたものも、一応は刃先は固定されていますが、かなりいい加減な取り付けで、そのままだとすぐに抜け落ちてしまいます。購入したばかりの刃物の刃先を抜き取り、その穴に「生ラック」をつぶしたものを充てんします。そして、鉄の刃物の柄側をうす赤くなるまで熱したものを、ジュジュジュッと差込み、冷えれば、今度は簡単には抜け落ちることはありません。
 アユタヤ時代以来の「タイの刀」は、このようにして刃先が固定されていたに違いありません。



タイ・シルク
 「ラック虫」の用途さまざま

 「ラック虫」は、赤い色をしており、赤色の有機染料として食品類の赤色付けにも利用されています。
 有機着色剤だけを使っている、サンキストのゼリーなどにも使われているようです。
 タイの露天などで見られる赤い色のデザート食品(コン・ワーン)にも、使われているそうです。
 また、色鮮やかで、色落ちのしにくい「ラック」は、最近、特に有名になった、OTOP(一村一品運動)商品の「タイシルク」の染料にも使われているようです。

ラックの用途  「ラック」は、熱で硬化する性質があり、蛍光灯や電球のガラスと金属部分の接合部分、電子部品のインシュレーション材など、現在でもひろく利用されているようです。
 また、この「カイガラムシ」の塗料は「シェラック」と呼ばれていて、家具などの高級塗料として用いられているそうです。(「ラッカー」塗料とは、また別のものらしいです)

 アユタヤ王朝時代からの重要な輸出品で、日本にも、かなりの量の「ラック」が輸出されているらしいです。
 薬用効果もあるらしく、正倉院御物の中にも薬として名を連ねているとのことです。




追記

 「ラック虫」を採った大木は、芯が落雷(?)で焼けていて、弱っていた上、「ラック虫」を採ったとき、残しておいた小枝が十分ではなく、とうとう枯れてしまいました。
 我が愛猫、日本から連れてきた「シン」が息を引き取った前日、何者かによって切り倒されてしまいました。(合掌)
 仏暦2549年(2006年)、9月3日のことです。
毎日のように、眺めていた「この木なんの木」がなくなってしまい、淋しくなりました。

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