「北タイの食習慣」 (キンカオ)

 タイ王国の主要民族を、ひとまとめにして「タイ人」と呼ぶのが普通ですが、数百年前かそれ以前に南下して現在の地に住み着いた中部や南部のタイ人と、北タイや東北タイのタイ人とは、風俗・習慣もかなり異なるものがあり、今では、言語などは、同系とはいえ、言語学的にも異なる言語に分類されるほどです。
 中部や南部のタイ人も、出自が同じ「タイ系民族」なわけですから、かつては、ほとんど同じような生活文化を持っていた人たちでしょうが、先住の「モン・クメール文化」や「マレー・インドネシア文化」などの影響を強く受けるとともに、インドや中近東などの影響も大きく、人種的にも、これらの文化圏の人たちとの混血により、現在に到ったものと思われます。

 そのようなわけで、北タイと中部タイの間には、食習慣上のちがいも大きいのが現状です。
 lannaworld.com の WEBサイトで見かけた記事を参考に、北タイの食習慣について紹介したいと思います。
 元記事の作者は、ラッタナー・ポームピチャイ( รัตนา พรหมพิชัย )さんという方です。
( 注 : タイ語表記部分 には、北タイ語 を タイ文字表記 した部分も
ありますので、普通の辞書では見つからない語もあると思われます。)


キンカーオ( กินเข้า )
 ランナー・タイの人たちは、食事をすることを、「 キン・カーオ 」 ( กินเข้า )といいます。
中部タイなどでは、「 ラッパ・ターン・アーハン ( รับประทานอาหาร )」といいます。
食事どき前後に、「 キン・カーオ・ラ?( 食事済んだ? )」というのが、挨拶言葉になっています。

主食・副食
 主食は、蒸したもち米( เข้าหนึ้ง หรือข้าวนึ่ง )です。
 おかずのことを、「コン・キン( ของกิน )」、「コン・クヮイ( ของไขว่ )」、「カム・キン( คำกิน )」などといい、「ケーン( แกง )」、「ナムプリック( น้ำพริก )」、「ヤム( ยำ )」、「タム( ตำ )」、「サー( ส้า )」、「ラープ( ลาบ )」、「クア( ขั้ว )」などがありますが、中でも、「ケーン」、「ナムプリック」は、毎食欠かさず食卓に登場するおかずです。

食事どき
 ランナー・タイでも、一日3回食事をとります。( ミャンマーでは、2回というのがふつうのようです。)
 朝食を「カオ・ガーイ( เข้างาย )」、昼食を、「カオ・トーン( เข้าตอน )」、夕食は、「カオ・レーン( เข้าแลง )」といいます。
 「ガーイ(朝)」、「トーン(昼)」、「レーン(夕)」という単語は、中部タイでは、古語扱いされているようです。

食事をする場所
 昔から食事は家屋のそと( ชานเรือน )、すなわち、庭先きでするのが普通でした。
来客のある場合は、高床式住宅のベランダ( เติ๋น )が居間を兼ねた客室の役割を果たしており、来客には、ここで食事が振舞われるのが慣例でした。
 客の食事に、同席すできるのは、ホスト役の主人だけで、そのほかの家族が客と一緒に食事をするということはありません。特に、女性や子供が同席するということはまったくなかったようです。女性は、給仕役ということになっているのでしょう。小生も、客として当地を訪れていたころは、女性や子供が食事をするところを見たことがありませんでした。

 最近では、家族が食事をする場所も、ダイニング・キッチン風に台所が食事の場所になっていることも多いようですが、やはり、よほど親しい間柄でもない限り、客には別の場所を提供するのがエチケットのようです。

食卓・食器など
 土間やベランダなどに、茣蓙を敷いて、その上に食器を並べて、座って食事をするのが普通でしたが、最近では、テーブルを使う家も多くなったようです。

 - カントーク卓( ขันโตก または、サトーク:สะโตก )
 木製(豪華なものは漆塗り)または、籐製の高さ20cmほどの円形の食卓で、サイズは、直径30cmくらいから1m近いものまであります。大勢そろって食事を取る習慣がありますので、一般には、「銘々膳」というのはないようです。
 カントーク卓は、裕福な家庭や客用の食卓としても使われていたようですが、最近は、テーブル・椅子といった食事スタイルが多くなり、「観光用レストラン」くらいでしか、お目にかかれなくなってしまいました。
 - どんぶり・深皿( ถ้วยแกง )、単に、トイ( ถ้วย )ともいい、主として汁けの多いケーンなどに使われる「どんぶり」ですが、最近は、プラスチック製が主流になってきたようです。
 - 平皿( ถ้วยแบน ) チャーン( จาน )、またはチャーム( ชาม )ともいい、琺瑯びきの金属製のものやプラスチック製の皿で、炒め物、揚げ物、生野菜など、汁けのない料理や、ときには、主食のおこわを盛り付けるのに使われているようです。
 どんぶりにしても、皿にしても、おかずが銘々に盛り付けられることはありません。麺類などを除いて、2,3人で一皿というのが普通です。
  - ( ตะเกียบ )・スプーン( ช้อน )・フォーク( ซ่อม )
 箸はクイティオなどの麺類でしか使われません。
 また、スプーン・フォークのセットというのも、カオ・パット(チャーハン)、カオ・マン・カイ(鶏めし)など、北タイの固有の料理ではない場合だけに使われ、通常は、箸などのかわりに「手」を使って食事をします。
 中部タイなどでは、「手」で食事をするということはなくなり、スプーン・フォークのセットが常用されています。
 以前は、スプーンは、節を生かした竹製または椰子の実の殻が使われていたそうですが、最近では金属製の中華スプーンに取って代わられ見かけなくなってしまいました。
 汁気の多いケーンの汁をすするために使われる(慣れてくれば、ケーンの汁は、スプーンなしで味わうことができる。)ほか、味の調整用 ( ケーン は、薄めの味でしあげてあって、どんぶりに盛ってから、好みに応じてナンプラーを追加し、味を調整します。この際、どんぶりの中身をかき混ぜるのに使うのですが、毎度のように、ナンプラーを追加しているのを見て、この人たち料理の味見はしないのかと思いましたが、気遣いの意味もあるようで、気にしないことにしました。) とか、ケーンの具の 「天地返し」 に使われます。(これは、面白い習慣で、ケーンの表面に食べたい具がなくなってきたとき、どんぶりの中身をかき混ぜて、下の方にある具をゴソゴソと取り出します。 少々、品のない行為のように感じましたが、普通のようです。)

 スプーンは、各どんぶりにひとつだけということが多く、同じスプーンを交代で使うことが多く、結婚式や葬式などで、戸惑いを見せる小生には、同席の人が気をきかしてくれて、小生専用のスプーンを用意してくれることもあります。
 銘々皿に小分けして盛り付けられる日本の食事風景とは異なりますが、昔の 「汎家族主義」 の名残なのでしょう。気にする人はいないようです。
 そうはいうものの、手で食べる食事方法にも、それなりにエチケットというのはあるわけで、大勢で食べあうわけで、汁気の料理のなかに、直接指を突っ込むような品のないない食べ方は嫌われることになります。
 食事を同席するということは、「同じ釜の飯」 あるいは、それ以上の間柄ということになるのでしょう。小生と同席した人の中には、「日本人と一緒に飯を食ったゾ」と、喜んで言いふらしている人もあるくらいです。
  - 飯籠( กล่องข้าว )
 かつては、蒸したもち米は、竹または椰子の葉で編んだ小さな飯籠(2,3人用)に小分けして供されるのが普通でしたが、現在では、蒸しあがった「おこわ」は、飯台の上で、蒸気を飛ばしたあと、プラスチック製の大型の魔法瓶のような保温容器( กระติกน้ำ )にうつされ、必要な分量だけ、皿にもって出されることが多いようです。結婚式などでは、小さなビニール袋に入れて、一人分づつ出されるのが普通です。

食時の作法
 まず、食事の前に欠かせない礼儀として、「手をよく洗う」ということがあります。「手」で食事をし、しかも、ひとつの皿やどんぶりに盛られたおかずを、2,3人で共有するわけですから、不潔な手で食事をするということは、大変失礼なことになります。

 また、家族で食事をする場合、食べ始める順番というのがあります。年長者・両親が、まず食べ始め、それから、子供たちが食べ始めるのが、礼儀にかなった食事方法です。テーブルに料理が並んでも、年長者が席に着かないと、家族のみんなが迷惑することになります。
 さらに、客と同席する場合は、客が「手」をつけるのを待つのが礼儀です。
もし客が遠慮して待ていると、出された料理が気に入らなくて食べられないのではないかと、要らぬ心配をかけることになるかもしれません。

 食事の席での座り方
 茣蓙などに座る場合ですが、エチケットに沿った座り方というのがあります。
以下のようなものです。
 胡坐(あぐら); ナン・コッタワーイ ( นั่งขดถวาย )といいます。この座り方は、男性専用で、僧侶や役人の正座は、必ずこの座り方になります。女性の胡坐(あぐら)は非礼ということになっているのは、日本と同じです。
 横座り; ナン・モー・メー ( นั่งหม้อแหม้ )または、ポー・レ・メー ( ป้อหละแหม้ )といいます。
片方の足を、胡坐(あぐら)のように曲げ、足の裏を上にして座り、その足の先(足の裏)にもう一方の膝あたりをのせるようにして、後ろにまわして座ります。「にじり座り」とも呼ばれるようです。
女性専用の正座ですが、仏事や高位高官の前では、男性もこの座り方になります。
 慣れないと、座った状態で背筋を真っ直ぐにするのが難しいので、体が傾いたほうの手を床につけることもあるようです。また、足がしびれて困ることが多いですが、随時、左右の足を入れ替えることは問題ないようです。
 長時間座らされる場合は、日本式の正座よりは、いくらか楽かもしれません。
 立ち膝座り; ナン・ヨーン・コ ( นั่งหย่องเขาะ้ )、ヨーン・ヨ ( หย่องเหยาะ้ )などといいます。
 いわゆる「ウンチング・スタイル」です。野山などで食事をする場合など、座る場所がなく、やむを得ずこんな座り方で食事をとることがありますが、礼儀正しい座り方ではないことは言うまでもありません。昔の兵士は、食事をする場合、この座り方で食事を取ったそうです。いつ敵が攻めてきても、すぐに立ち上がることができるのが、この座り方だそうです。
 かつて、日本でも職人などは、こんな座り方で食事をとったもののようです。
 片膝立て座り; ナン・ポック・フア・カオ ( นั่งปกหัวเข่า้ )といいます。
 高齢者など、足腰が弱っている場合にのみ許される座り方で、肉体的に問題がある場合には、儀式などでも許されるのですが、やはり、一般には、非礼な座り方になります。
 かつて、日本では職人などは、こんな座り方で食事をとったもののようです。

 おこわの食べ方の作法
 おこわは、カオ・ヌン ( ข้าวนึ่ง )といいますが、中部タイなどでは、カオ・ニオウ ( ข้าวเหนียว )というようです。おこわは、手にとって食べるのですが、手を洗うときに洗剤など使うと、蒸したもち米がベタベタと手にくっついてしまい、行儀が悪くなります。それを防ぐには、揚げ物や炒め物などの油気のあるおかずを少しだけ手にとってこすりつけると、手にくっつかなくなります。適当なおかずがない場合には、食用油を一滴使うなどということもあるようです。

 まず、おこわが盛られている容器に近いほうの手で、一握りつかみ出します。遠い方の手を使おうとすると、体を大きくひねらなければならないため、非礼になります。
 そのあと、利き手に一口分をわけ、握って丸めます。大きすぎるのは、非礼になります。
 このとき、握り方が不十分だと、おこわをケーンの汁に浸したときに崩れてしまい、大変失礼なことになってしまいます。
 握ったおこわは、ケーンの汁に浸したり、おかずをつまむのにも使われるのですが、慣れないと、指まで汁の中に浸してしまい、これまた非礼ということになります。慣れないうちは、ケーンの汁やおかずには、スプーンを使うのが無難かと思われます。
 かくいう私は、家での食事は箸とスプーンで済ませております。箸を使わないと、食べた気がしないのも、その理由ではありますが・・・。

 食事中にしてはいけないこと
 食事というのは、人生の中でも大変重要な行為で、北タイの家庭では、やむを得ない事情がない限り、家族全員がそろって食事をとる習慣があります。
 年長者は、食事の作法を通じて、子供たちに範を示し、食べ物にありつけた天恵に感謝する気持ちを伝えてきました。

 人生のなかでも、このように重要な位置づけにある食事中に、してはならないことというきまりごとがあります。多くは、きわめて常識的なことですが、以下のようなことは、厳禁されています。
  ・ オナラをすること
  ・ 口にしたものを吐き出すこと
     ただし、北タイの食事風景には、調理しながら食べるみたいなところがあって、肉や魚の骨、野菜などの
     硬くて食べられないものなどの場合は、口に入れたものを吐き出しても、大目にみられているようです。

  ・ ふざけあうこと
  ・ 喧嘩すること
  ・ 大声で喋ること
  ・ 大笑いすること
     食事中あまりお喋りをしない静かな食事風景は、日本と似たところがあるようです。
  ・ スプーンや皿を打ち鳴らすこと
  ・ すっかりなくなるまでケーンをすくいとること
     おかずが底をつきかける前に補充するのが給仕係りの大事な役目です。
     まだ食事が終わらないうちに、皿やドンンブリなどが、空になるのをいやがるようです。

  ・ 食事中に他人の陰口を言うこと
  ・ 食事が終わって、食いすぎたと嘆くのは、ほどほどを知らないバカということに。
    ただ、”ごちそうさま”という意味で、「イム・レーオ(満腹しました)」ということはあるようです。
  食事が終了したものは、静かに立ち上がって、食後の水を飲みに行き、手を洗います。
 全員食事が終了すると、子供たちや高齢者、食事の準備をしなかったものが、後片付けをし、残った食べ物は、量が多ければ、食器棚や冷蔵庫にしまいます。   ( 我が家では、後片付けは、子供たちの仕事と決まっていて、男性陣は、準備はおろか後片付けもしないで「関白」ぶりを発揮しております。)
 いつ何時、来客などがあっても、食事を振舞えるように、2,3人分のおかずは、余計に作っておくのがしきたりで、余ることが多いのですが、次回に食べることができないものや、少量の残飯は、家畜や養魚の餌用に片付けるのが普通のようです。

 食事が済むと、大人たちは、あるものは、ミヤン(噛み茶)を噛み、タバコを一服ということになりますが、最近は、時代の流れで喫煙しないものも多くなり、それに連れて、ミヤンも廃れてきたようです。かつては、マーク(キンマ)を噛むものもいたようですが、今では滅多に見られない習慣になってしまいました。
 余談ですが、「キン・マーク」を試してみたい方は、メサイの市場のタイヤイのオバサンたちの売り場の一角で、若いお嬢さんが店だししていますので、話のタネに是非。
                                          (2006年10月作成)