輝夜と働くお姉さん達

「いただきます。」

「・・・いただきます。」

二人は丸いちゃぶ台に手を合わせた。

どこかしんみりとした空気で食事が始まる。

「ごちそうさま。」

「・・・・・・ごちそうさま。」

食事が終わった。

別に描写がめんどくさいから省略したわけではなく、

本当に、ものの1分程度で食事が終了したのである。

献立は、

ご飯、半膳。

たくあん、2枚。

お味噌汁、具なし。

―――以上。

「・・・・・・限界です、師匠。」

「耐えなさいウドンゲ。博麗の巫女の食生活はこんなものではありませんよ。」

鈴仙・優曇華院・イナバはその華奢な肩を小さく震わせて、

八意 永琳は能面のような無表情で。

だが、もう限界だった。

ここ、永遠亭にはたくさんの住人が居る。

鈴仙・優曇華院・イナバ。

八意 永琳。

因幡 てゐ。

数え切れないほどのウサギ達。

そして、

「では、私は姫に食事を出してきますので。」

「うぅ、ひもじいよぅ・・・。」

姫、蓬莱山 輝夜。

これだけの人数が居ながら、

この永遠亭の働き手は少ない。

永琳は、『あらゆる薬を作る程度の能力』を活用し、

現在は薬剤師として幻想郷中の村を周っている。

鈴仙は、その助手として永琳の薬の知識を学びながら付いて周っている。

周るのは主に人間達の村だが、帽子をかぶせれば鈴仙は人間と変わらないので問題はない。

てゐは、イタズラ好きで面倒くさがりだが、

最近はあまりの食生活に危機感を持ち、進んで薬の材料を採りに行くようになった。

ウサギ達は、残念だが普通のウサギと変わらないので働くことはできない。

そして最後に、姫だが、

「姫、お食事をお持ちしましたが・・・?」

「ああ、うん。そこ置いといて。」

つまるところ、輝夜は何もしていなかった。

・・・いや、正確には何もしていないわけではなく、

「ああ!! また『ファイナルマスタースパーク』取り損ねた!?

 も〜、話しかけないでよね。」

ゲームに熱中していた。

・・・・・・しかも某弾幕シューティング

ぴきっ、と永琳の顔に何かが走った。

が、永琳は何事もなかったかのように、

「それは失礼致しました。ここに置いておきますからね。」

「はぁ、いいわ。一区切りついたから今食べる。」

輝夜は永琳のほうすら向かずに手でジェスチャーして、

持って来い、ということらしい。

ぴきっ、と再び永琳の顔に何かが走るが、

やはり永琳はさわやかさすら漂う笑顔で、

「はい。それではこちらに置いておきますからね。」

と、輝夜愛用のPCデスク(ちゃぶ台)の隅にお膳を置く。

それに輝夜は、

「またこれだけ!? たったのこれだけ!?

 お腹すいた〜!! え〜りんえ〜りんお腹すいたよえ〜りん!!」

子供のようにだだをこね始め、

いやまあ、見た目は十分子供なので違和感はないのだが・・・。

ぴきぴきっ、と永琳の顔に盛大に何かが走ったが、

それでも永琳は、

「・・・・・・。」

あ〜、いや。

さすがに永琳も限界だったようで。

「姫?」

永琳が輝夜の小さな肩をがしっと鷲掴みして。

永琳はなにか色々なものを超越したような笑顔で。

「ちょ、永琳? 痛いんですけど・・・?」

「働け。」

「いたっ!? いたたたたたただだだだだだだ!?!?

「働け。」

「ちょ、永琳ホント痛いってば!! はずれるはずれる肩外れるよ!?」

「働け。」

―ごきん!!

ひでぶっ!! 外れた!? 今すごい音したよ!?!?」

「働け。」

「まだ力入れるの!? もげるよもげちゃう!!」

「働け。」

―ブチブチッ

「今!! 今筋肉何本か断裂した!!」

「働け。」

「わかった!! わかったってば永琳働くから離してェ!?!?」

ぱっ、と永琳がまるで何事もなかったような直立の姿勢に戻る。

「申し訳ありません、姫。我々の力不足で姫にご苦労をおかけして。

 しかし、姫がそのように仰ってくださるなら、そのご好意に甘えさせていただき―――

「・・・じゃとりあえずLunatic20億点超えたらね〜。」

再び輝夜はゲームパッドを握りなおして、

永琳は、

「・・・・・・。」

ついに堪忍袋の緒が切れた。

それはもう、鋭利な刃物で切られたような綺麗な断面を晒してすぱっと断裂した。

永琳は仮面のように張り付いた笑顔のまま、

PCに接続されているキーボードをそっと手に取り、

Altキーを押しながらF4キーを、

「落ちた!? ゲーム落ちたよ!?」

「あらあら、停電でしょうかね。残念でしたね姫。」

「停電だったらパソコン自体落ちるっつの!! 天才なのにすぐわかる嘘つくな!!」

「あら、姫。賢くなられて私の胸は喜びで一杯ですよ。」

そう言いながら、

今度はShiftキーを押さえながらDelキーに手を伸ばして、

「ちょ、待った!! 私が悪かった!!」

「いいえ、姫に悪いことなど一つも御座いません

 が、わかっていただけたのならうれしいです。」

永琳の手がギリギリで止まる。

輝夜はほっと胸をなでおろして、

「さすがにLunaticで20億はハードル高かったわ。ラストワード全部出したらにしとく。」

「ありがとうございます、姫。本当に頭が上がらぬ思いですわ。」

そう言って、

永琳の手が目にも止まらぬ速さで動いた。

真っ黒い、文字ばかりが表示された画面が立ち上がり、

凄まじい速さで文字が打ち込まれていく。

 

format c:

 

禁忌『format c:』。

それは最強にして最凶のスペル。

ガリガリとハードディスクからデータを貪り食う音がする。

ドライブの内容を初期化するという素敵なコマンドである。

素人にはおすすめできない。

「・・・・・・。」

輝夜は、何が起きているのかわからない、

いや、わかるが信じたくないという顔でぽかーんとそれを見つめ、

永琳は女神を思わせるような慈愛に満ちた微笑で、

「それでは姫、ご健勝をお祈り致しますわ。」

―げしっ!!

自らの主を蹴り出した。

 

* * *

 

それから、小一時間程度が経過して、

「・・・あの〜、姫?」

輝夜はまだ部屋の前で硬直していた。

たまたま通りがかった鈴仙が心配そうに声をかける。

まったく反応がないのでガクガクと揺さぶってみると、

「はっ!?」

「あ、正気に戻った。」

輝夜はようやくこちらの世界に戻ってきた。

それから、ゆっくりと状況を確認して、

「い〜な〜ば〜〜〜!!!」

泣いた。

それはもう、輝夜がいままで生きてきた分をはるかに超える量、泣いた。

「姫、なにか酷い目に会われたようですね。お察しします。(自業自得ですがね。)」

たっぷり10分は泣きじゃくったところで、

ようやく輝夜は落ち着きを取り戻し、

「永琳は鬼だわ!! 私の一番嫌がることを満面の笑みでやっておきながら働けって!!

 働いたこともない私に何も教えず、ひどすぎるわ!!」

「私なら全力で張り倒してますよ?(師匠も酷いことなさいますね。おかわいそうに。)」

「・・・・・・イナバ?」

「ああ、これは失礼。つい本音と建前が逆転してしまいました。

 え〜っと、働くってどうしたらいいのかってことですよね。」

「そうそう。」

鈴仙があまりにも綺麗に流したので輝夜は気付かない。

「幻想郷でも職についている人は意外とたくさん居ます。

 いろいろなところを周ってみて、自分に合う職種を探してみてはどうでしょう?」

「体験学習しろってことね。」

「そうです。幸いにも、いろいろな職業の人が知り合いにいますからね。」

「・・・よし、じゃちょっくら行って来るわね。留守番よろしく。」

「はい。どうかお気をつけて。」

輝夜は珍しくやる気を出していて。

そんな輝夜を鈴仙は笑顔で見送った。

 

やがて、輝夜の姿が見えなくなると、

「さて、今のうちにやっておきますか。」

鈴仙は鈴仙でやることができたので、

輝夜の部屋に入る。

するとそこには永琳が、

「あらウドンゲ。暇なら手伝ってちょうだいな。」

輝夜のPCを粗大ゴミの袋に移していて。

それに鈴仙は、

「奇遇ですね、師匠。丁度今、私もやろうかと思っていたところです。」

「そうだったの。じゃあ、そのケーブルを全部外してくれる?」

「かなり複雑に絡まってますけど?」

「はい、。」

「準備がいいですね、師匠。流石です。」

そんな、

そんな地獄のような光景を、輝夜は知る由もなく。

 

* * *

 

『門番』

「たのもう。」

輝夜が最初に訪れたのは紅魔館。

その雄大ささえ感じる門の前。

そこに最初のターゲットは居た。

・・・もとい、

「・・・・・・寝とる。」

居眠りをしていた。

ゆさゆさと揺さぶってみるテスト。

「うぅ〜、咲夜さ〜ん・・・。眉間は急所ですから〜・・・。」

寝言か。

どんな夢をみているのだろう。

急所?

とりあえず、リクエストにお答えして眉間を指でつついてみる。

「ひゃあ!? 死ぬ!? 死んでしまいますよ!?」

飛び起きた。

別に指でつついたくらいで死にゃせんだろう、普通。

「・・・はれ? い、いや、寝てません!! 寝てませんよ!!

なんだか知らんが言い訳された。

「ああ、なんだ輝夜さん。脅かさないでください。」

「いや、まさかそこまで盛大に驚かれるとは思わなかった。」

なんだか理不尽な気分に襲われる。

「まあ、それはいいとして。門番という仕事に興味があるんだけど。」

「・・・はぁ。門番になりたいんですか?」

「とりあえず体験させて欲しいわ。なるかどうかはそれからで。」

「ん〜、まあ構わないとは思いますけど・・・。」

よし、許可が下りた。

これで私の最初の体験学習は始まったわけだ。

と、館の大時計が鳴った。

「ありゃ、もうそんな時間ですか。ってことはそろそろですね。」

「そろそろ? もしかしてさっそく休憩時間!?」

「ああ、いえ―――

―キーーーーーーィィィィイイイイイイン!!!

はて、何かがものすごい勢いでこちらに向かって・・・?

「あべしっ!!!!!」

どごんっ!!という殺人的な音がして視界が高速で流れた。

なにが怒ったのかわからないが、とにかく悶絶するほど痛いのは確か。

はるか彼方から声が聞こえてきて、

「・・・いかん、なにか撥ねたぜ。」

「ああ、魔理沙さん。こんにちは。」

「おお、中国。・・・ってことは、今撥ねたのはなんだ?」

「定刻通りですね〜。だんだん魔理沙さんが来る時間がわかるようになってきました。」

「そりゃこんだけ頻繁に来てりゃな。今日は妨害しないのか?」

「ええ。最近、咲夜さんのナイフより、

 魔理沙さんのマスタースパークのほうが痛いことに気付きまして。」

「ほう、そりゃ大変だな。」

「ええ、まったく迷惑な話です。」

「まあ強く生きろよ。邪魔するぜ。」

「どうぞごゆっくり〜。」

そんなやりとりが、やはりはるか遠くから。

え〜っと、つまり私は魔理沙のブレイジングスターに撥ねられたわけで・・・。

いろいろあちこちが、曲がってはいけない方向に曲がってしまっている気が・・・。

「・・・駄目。門番はパス。」

 

* * *

 

『メイド』

「・・・メイドの体験学習?」

「そういうことよ。」

そのまま紅魔館の中に入り、メイド長の咲夜を発見した。

メイドならば痛いことはするまいな。

門番よりはずっともマシだ。

「そうねぇ。じゃあ、適当に仕事を割り振ってあげるから、それをこなして見なさいな。」

「簡単なのでよろしく。」

「・・・・・・。まあ、見習いだし、いいか。」

咲夜はどこからか取り出した雑巾を私に手渡して、

「これでそこの中央階段の手すりを拭いて頂戴。」

「・・・たったアレだけでいいの?」

「ええ。簡単でしょう?」

「楽勝だわ!」

ふっふっふ、ついに私の時代到来。

このメイド長も案外気を使って簡単な仕事を割り振ってくれたみたいだし。

この程度、10分かからず終わらせてやるわ!!

「じゃあ、制限時間20秒。以降10秒越えるごとに1本刺すからそのつもりで。始め!!」

「・・・えっ、何? 20秒?」

「1本目。」

―サクッ

いたぁ!? ホントに刺した!?」

「2本目。」

―サクッ

ぎゃあ!! ちょ、20秒とか無理に決まって―――

「楽勝よ? 私なら。3本目。」

―サクッ

「ちょ、お尻刺さった!!」

「じゃあ次は頭ね。4本目。」

―サクッ

鬼!! 悪魔!!!

「それはどうも。5本目。」

―サクッ

「ちょ、ま、ホントごめんなさいあやまるから許して!?」

「ん? 許すも何も怒ってないけど・・・。6本目。」

―サクッ

「こ、殺される!? 私殺される!?

「まあ、死ぬでしょうね。このまま無駄話ばかりしてれば。 7本目。」

―どぶしゃ

「今、今すごい音した!? ありえない音した!?

「早く始めて頂戴。ナイフがなくなるでしょう? 8本目。」

そんな、

そんな地獄のような体験を経て。

しかし、終わった。

信じられないけど、終わった。

もうすでに私の体はハリネズミのようになっていて。

最後の方には咲夜が刺す場所に悩むほどの本数のナイフが突き立っていて。

ほんと、不死身でよかった・・・。

「お疲れ様。次の仕事だけど―――

「もう無理!! メイドなんかやってられるか!!」

私は一目散に逃げ出した。

道中、

同じようにハリネズミにされた門番の姿が掠めて。

もう二度とこの館には近づかないことを心に決めた。

「あら、残念。結構根性あるなって見直したところなのに・・・。」

 

* * *

 

『庭師』

「・・・で、庭師の体験学習をさせて欲しいと。」

「そうよ。」

今度は霊界。

白玉楼の庭師、妖夢のところを訪ねてみた。

「生身のままホイホイ来るな。ここは霊界だぞ。」

「しょうがないじゃない。死ねないんだもん。」

そういう問題では、と妖夢が肩を落とす。

まあ、こいつは真面目キャラなので、咲夜のようなスパルタにはなるまいな。

「まあ、いいだろう。では庭の掃き掃除を手伝ってもらうぞ。

 昼食をはさんで3時までには終わらせるからそのつもりでな。」

「おっけーおっけー。」

妖夢から竹箒を受け取る。

「で、どっからどこまで?」

私は目の上に手をかざして周りを見渡してみて。

それに妖夢が呆れたように、

「・・・何をしているんだ、お前は?」

「なにって、どこら辺までかな〜と思って。」

「見えるわけないだろう。何kmあると思っている。」

はぃ?

単位はkm?

幅200由旬。心配するな。幽々子様の誇張表現で実際にはそれほどない。

 まあ、それに近い数字はあるとは思うが・・・。」

「・・・1由旬って、何m?」

「10〜15km程度だな。メートルに直せば10000〜15000mくらいだが?」

つうか、1由旬ですでにキロ単位!?

「それを3時まで!? 終わるわけないじゃん!?!?」

「終わるぞ。」

何を言ってるんだ、と妖夢が困ったちゃんを見るような目をして、

刹那、

―シュパァア!!

妖夢の姿が霞んだ。

風を切り裂くようなすごい音がして、

はるか遠くのほうで妖夢が、

「早くしろ。本当に終わらなくなるぞ。」

私の位置から妖夢が立っているあたりまでの落ち葉が全部片付けられていて。

また、

―シュパァア!!

と、妖夢の姿が消える。

「え、え〜っと・・・。」

とりあえず、妖夢とは反対側の庭をいそいそと掃き始めた。

 

で、あっという間に昼食。

「・・・わお。」

思わず感嘆の声が漏れてしまった。

しばらく貧相な食事しか取っていなかったせいもあるが、

それを差し引いても食卓は豪勢だった。

幽々子も箸を持って、開幕を今か今かと待っている。

「では、いただきます。」

『いただきま〜す♪』

よ〜し、ではまずは中央の肉じゃがを―――

「・・・あれ?」

かつっ、と器の底を箸が突いた。

幻覚か?

さっきまで確かに肉じゃががあったはずだが・・・。

仕方ないので自分の分の焼き魚に手を伸ばして、

―シュパァア!!

・・・今度は見た。

一瞬で、魚が消滅した

「よ〜むぅ、このお魚おいしいわね〜。」

で、いつの間にか魚を咥えている幽々子。

「先ほど釣ってきた岩魚です。大きいのが捕れましたよ。」

妖夢は何事もなかったかのように。

あれは、あの焼き目は、

多分私の魚だと思うんだが・・・。

―シュパァア!!

と、また空の皿が一つ生まれて。

ってか私の茶碗だろうがそれは!!

なんて手癖の悪い主人だ。

妖夢に文句を言おうとして、

しかし妖夢は、

―キンッ

凄まじい勢いで自分の茶碗に向けられた幽々子の箸を的確に受け流して、

まるでそれが当然であるように自分の皿を守りながら箸を進めていく。

―キンッ

食卓ではおおよそありえない、刀の打ち合いのような音が時折響いて、

―シュパァア!!

―キンッ

―キンッ

―シュパァア!!

気が付いたら、全ての皿が空っぽになっていて。

「ごちそうさまでした。」

「ごちそうさま〜♪」

食事が、終わった。

私、まだなにも・・・、

「おや、食べられなかったのか。残念だったな。

 次は自分の皿をしっかり守りながら食べるんだぞ?」

「どこの宇宙のルールだ!?」

 

* * *

 

『教師』

「給食の時間は終わっちゃった?」

「なんの用だお前は。」

もう動くのはうんざりだったので、今度は人間の村を訪ねてみた。

上白沢 慧音が守る人間の里。

そこで、慧音は教師もしているらしいので、訪ねてみた。

慧音は露骨に迷惑そうな顔をしていたが、

まあたまにはいいだろう、と許可を出した。

「というわけで、教育実習生の蓬莱山 輝夜先生だ。仲良くやるように。」

『は〜い♪』

先生。

先生か。

なんかこう、グッとくる響きがあるな。

「なんの授業をすればいいわけ?」

「好きな科目でやってくれて構わない。こちらで調整する。」

「りょーかいりょーかい。」

「後でまた様子を見に来る。しっかり頼むぞ。」

―ガララッ

慧音が教室を出て行って、

「よし、者共。授業を始めるわよ!!」

 

30分が経過した。

真面目にやってるんだろうな。

慧音はそっと扉の窓から中の様子を覗いて、

「そこで藤原の阿呆はなんて言ったと思う? はい、そこの丸刈り。」

「え、え〜っと・・・。結婚してください、ですか?」

「ブブ〜、残念はずれ〜。正解は、

 『君はまるで夜空に輝く満月のようだよ、輝夜姫。』
 
 もうね、アホかと、バカかと!!
 
 どこからそんな台詞が吐けるのかと小一時間―――

―ガララッ

耐え切れずに慧音は扉を開けた。

「輝夜。」

「あら慧音。授業は順調よ?」

「聞こう。これは何の授業だ?」

「国語。」

「これが?」

「そうよ。国語の授業でやるでしょ? 『竹取物語』。」

実体験を元にした竹取物語のレクチャー。

なんてためになる授業なんでしょう。素晴らしいわ。

慧音もあまりの素晴らしさに言葉もない様子で、

「輝夜、頼みがあるんだがいいか?」

「なにかしら? もしかして本採用?」

「体を扉に向けて、左右の足を交互に前に出してくれ。」

「こう?」

私は言われたとおりに体を動かして、

―ガラララッ、ピシャッ!!

「さ、授業を始めるぞ。」

『は〜い♪』

・・・締め出された。

 

* * *

 

『音楽家』

「で、私達のところに来たと。」

再び霊界に戻ってこようとは・・・。

ルナサ・プリズムリバーは少し困ったように頬を掻き、

「・・・まあ、一応聞くが、何か得意な楽器はあるか?」

「琵琶。あるいは三味線。」

「・・・・・・ほかには?」

「琴でも可。」

「え、え〜っと・・・。」

ルナサは本当に困ったように階段を上がっていって、

2階から声だけが届く。

「リリカ、琵琶とか琴とかはあるか?」

「へっ!? なんでまたそんなマイナーな楽器を・・・。」

―がちゃがちゃがちゃ、

「あったあった。・・・一応。」

「見事に弦が絶滅してるな。」

「最近使ってなかったし・・・。」

「トランペットならあまってるわよ〜?」

「おお、メルラン。ちょっと貸してくれ。」

ルナサが戻ってきた。

見たこともない金色の楽器を持っている。

少し見ない間に随分形が変わったようだが、アレは琴だろうか。それとも三味線?

「とりあえず吹いてみてくれ。」

吹く?

ああ、尺八みたいなものか。

「どれ。」

―・・・ブピッ!?

「・・・・・・。」

「・・・・・・今、すごく恥ずかしい音がした気がする。」

「気がする、ではなく、した。」

「・・・音楽家はやめとくわ。」

「賢明だ。」

 

* * *

 

『保母さん』

「誰が保母さんだ。」

八雲 紫の式、藍を訪ねてみた。

というのも、昼食抜きでそろそろ限界だったわけで。

「というわけなので、昼食がてら保母さんを体験させてもらいに来たわ。」

「メインは昼食か。」

かっくりと顔を落とす藍。

エプロン姿なので、丁度遅めの昼食らしい。

なんたる幸運。

「というわけで、何か手伝わせて欲しいわ。」

「手伝うもなにも、昼食の料理は丁度終わったところだし・・・。

 とりあえず配膳手伝ってくれ。」

「おっけー。」

ほいほいと皿を並べていく。

私は客人用らしい皿を貸してもらう。

・・・ところで、このドでかい皿を使うのはどんな客人だ?

と、ごく遠いところからほんの僅かに子供の泣き声が聞こえて、

「橙!? ちぇーーーーーーん!!

ものすごい速さですっ飛んでいった。

・・・いや、ものすごい速さで帰ってきた。

「うわーーーん!!」

「川で遊ぶときは滑らないようにとあれほど言っただろう。

 擦りむいたのか? ばい菌が入ると大変だな。まずは消毒だ。
 
 ガーゼと、包帯・・・、包帯はどこ行ったかな?」

こ、これが保母さん!?

まさにスペシャリスト!!

ちょっと尊敬した。

「だから保母さんではない。」

橙の手当てが終わったようなので再び昼食の準備を進める。

「輝夜、あとはこちらでやるから紫様を起こしてきてくれ。」

「ほいほい。」

さてさて、あのスキマの部屋はどこかなと。

賢い私は奥から探すことにして、

一発目でヒット!

もしかして私は永琳並の天才!?

「そりゃー!! 起きろグーラタスキマ!!」

こんもり膨らんだ布団めがけてフライングボディープレスを仕掛けて、

「ふべっ!?」

畳に激突した。

いや、畳に激突とかどう考えてもありえないでしょ!?

布団にダイブしたはずなのに?

布団はいつの間にか、あまりに不自然に中に浮いていて。

「あと3時間寝かせてちょ〜だい・・・。」

そんな、紫の威厳も欠片もないような声。

「駄目よ。私のお昼がかかってるんだから。」

「む〜、じゃああと3ヶ月でいいわぁ・・・。」

「何一つよくない!! 私に3ヶ月断食しろと!?

紫は不機嫌そうな顔でのそのそと這い出して、

「しょうがないわね〜・・・。」

ようやく起きだしてきやがったこのスキマ。

「ったく、"年食うと"早寝早起きになるはずなんだけどねぇ。」

私は呆れたように嘆息して、

 

全身を硬直させた。

 

殺気。

名無し妖怪程度ならそれだけで8回は殺せるほどの殺気。

「禁句よ、それ。」

どこまでも冷たく、低い声が届いて。

まずい。

この八雲 紫がこれほどの化物だとは思わなかった。

不死身だろうが関係ない。

この化物は私を、

殺す以上のことができる!?

そんな、そう直感させるほどの圧倒的な気配で、

「さよなら。この世のどこかに落ちれるといいわね。」

唐突に、私の体は暗い、暗い闇の中に落下して・・・

 

「・・・ちょっと脅かしすぎたかしらね。」

紫は、あははは〜、とバツの悪そうな笑顔になって、

「紫様〜? ご飯ですけど・・・、輝夜は?」

「きっと外で伸びてるわよ。お腹すいたわ〜・・・。」

結局、八雲家の食卓は三人で囲まれて。

その家がかろうじて見えるような丘の上で、

「むう、あれを毎日相手にしている保母さん。恐るべし。」

輝夜はさらに藍への評価を上げて、

しかし自分には無理だと、迷い家を後にした。

「だから保母さんじゃないと言っとろうが!!」

 

* * *

 

『記者』

「助かります! 人手が欲しかったところなんですよ!!」

「うわっ!? 初めて歓迎された!!」

射命丸 文は、ほいっと一眼レフカメラを手渡して、

「これでパチュリーさんの写真を5枚お願いします!!」

「え、ちょっと!?」

「大丈夫、行けばわかりますから!!」

 

と、いうわけで、

とりあえず紅魔館の図書館に来たわけだが。

ああ、居た。

パチュリー発見。

とりあえず、撮ればいいんだろうか?

パチュリーにカメラを向けて、

「・・・また来たのね、ブン屋。」

「・・・・・・はい?」

なぜか、ものすごい勢いで睨みつけられて、

「どうやら身代わりを用意してきたみたいだけど、

 生憎身代わりだろうが手加減するつもりはないわ。」

 

月&木符『サテライトヒマワリ』

 

ちょ、まっ!?

いきなりスペル発動!?

なに!?

なんでこんな事に!?

「ぎにゃあああああああああ!?!?」

 

* * *

 

『司書』

「え〜っと、大丈夫ですか?」

「大丈夫に見えるなら。」

「じゃあ大丈夫ですね。」

「見えるのかよ!!」

満身創痍の体をがばっと起こしてそいつを睨みつけ、

「・・・あんた、それなにしてるの?」

「はい? 本棚の整理ですけど。」

目の前の、数冊の本を抱えた小悪魔がにこにこ顔で答えた。

ふむ、悪くない。

割合安全そうな仕事だ。

「仕事を探してるんだけど、手伝わせてくれない?」

「えっ!? そんな、悪いですよ・・・。」

「気にしない気にしない。この本はどこにしまえばいいの?」

「・・・ありがとうございます。

 それはあちらの本棚の下から3段目に。

 アルファベット順で並んでいるので、並べて置いてください。」

「おっけぃ。」

該当の本棚の該当の場所に、その緑のカバーの本を置く。

なんだ、簡単な仕事じゃないか。

これはついに適職見つけたりか?

「次は〜?」

「はい、それではこの赤い本を―――

小悪魔は本棚の向こうを指差して、

「ここから数えて396782番目の本棚の上から2段目にお願いします。」

おっけぃ。

ここから数えて―――

「・・・もう一度言いましょうか?」

「・・・・・・いや、もう結構。」

 

* * *

 

『死神』

なんかこう、寝てるだけでいい仕事とかないものか。

と思ってたら寝てるだけの奴を発見した。

「休憩休憩〜。5分休憩したから10分休憩〜。休憩の休憩〜。

うわっ、駄目な大人の見本みたいだ。

川辺でだらだら過ごしている小野塚 小町を見て流石に若干引く。

「え、え〜っと、死神ってどんな仕事なのか聞きたんだけど・・・?」

「あ〜、死神の見習いになりたいのかい?」

「ええ、そうよ。」

「・・・駄目だね。」

あっさりと、小町は切り捨てた。

「なんでよ。」

「聞きたいかい?」

よっこらしょ、と年寄りくさく小町は体を起こして。

ふわふわと浮かぶ魂たちを見渡す。

すっと目を細めて、

 

「死神の仕事って、なんだと思う?」

 

私は、一瞬言葉に詰まった。

小町の雰囲気が、急に茶化せるようなものではなくなって。

「魂を彼岸に運ぶこと、でいいのかしら。」

「まあ、近いね。ちなみに、三途の川に魂が落ちたらどうなるか知ってるかい?」

「・・・どうなるの?」

「死ぬね。間違いなく死ぬ。絶対に死ぬ。

 死因はまあ、川にすむバケモンに食われたり、溺れ死んだり色々だが。」

「死ぬったって、とっくに死んでる連中じゃない。」

「違うね。肉体の死と魂の死はまったく別物なんだよ。

 肉体が死ぬと、魂は三途を渡って裁判を受け、生前の罪を償って転生する。
 
 魂が死ぬってのは、転生することがなくなるってことだ。
 
 この川に落ちるイコール地獄に落ちるってわけだな。」

「・・・ふうん。で、なんで私じゃ駄目なわけ?」

「まあ、最後まで聞きな。そこで最初の話に戻るわけだが、

 あたいらの仕事は魂を彼岸に運ぶこと、ってのは完全正解じゃない。
 
 本当のあたいらの仕事は、彼岸に渡す魂を選ぶことさ。」

「・・・・・・選ぶ?」

「そう、転生させる魂を選ぶ。

 生前の行いを見て、善人と悪人を差別する。
 
 悪人を振るいにかけて、切り捨てる。
 
 転生させる価値がない人間を、地獄に落とす。」

「・・・・・・。」

「あたいら死神は人間の魂に価値をつけなきゃならない。

 お前は転生してもいい。お前は転生する価値もない。
 
 そこに間違いは許されない。
 
 実際運ぶときに何度か転覆しかけたときがあったが、
 
 そんとき乗せてたのが飛びっきりの善人でねぇ。
 
 ありゃ焦ったよ。あたいも落ちかけたしね。」

「死神が落ちたらどうなるわけ?」

「同じさ。人間の魂と一緒。地獄行きと同義。

 常に死と隣り合わせ、なんて程度の生易しい環境じゃないのさ。
 
 まあ、人間の魂に価値をつけるなんて仕事やってるんだ。
 
 極楽浄土にあこがれてるわけじゃないがねぇ・・・。」

「あんた、死神の仕事が嫌いなの・・・?」

「・・・さてね。ともかく、

 不死身なんてものになって、魂の価値感が曖昧になってるあんたにゃこの仕事は無理さ。」

小町は、飄々とした態度に戻って、

「だから、小町は仕事をしたがらないのですね?」

「そうそう、そういうこと。」

「で、休憩がてらに説教をしていたと。」

「そうそう。」

「・・・素敵な言い訳でしたよ? 私は感動しました。ところで―――

「・・・・・・はぃ?」

「小町が最後に魂を運んだのは23時間46分前です。間違いありませんね?」

「・・・・・・あの、えっと、映姫様?」

「あくび53回、酒盛り2回、居眠り計6時間12分(睡眠8時間別)、

 間違いありませんね?

「・・・ちょ、ずっと見て―――

「ギルティ!!」

―バシーーーーーン!!!

きゃん、という小町の情けない悲鳴が轟いた。

 

* * *

 

『裁判官』

「却下。」

「うわっ、即答!?」

 

* * *

 

『人形師』

「あら、珍しい顔ね。」

「あんたの家に訪ねてくるのはみんな珍しい顔でしょう?」

「・・・珍しい顔にしてあげましょうか?

「ごめんなさいグーは許して。」

こんなんだから友達できないんだぞ、アリス・マーガトロイド。

とにかく、そろそろ行くあても少なくなってきたので、礼儀としてたずねてみた次第。

「で、人形作りの仕事がしてみたいと。」

「オフコース。」

「それ、使い方間違ってるわよ。まあ、やるだけやってみる?」

アリスの後について家の中を歩く。

思ったより広い。

というより、地下室が豪勢なようで。

「ここが作業場よ。」

部屋に入って面食らった。

壁という壁に人形がもたれかかっていて。

ぶっちゃけ不気m

「これで引いてるようじゃあ、一次試験落ちね。」

「わあ、素敵なお部屋ー。(棒読み)」

というわけで、その素敵なお部屋の中央の作業台について。

作業台の上には様々な人形のパーツが所狭しと並んでいて、

なにこのバラバラ殺人現b

「・・・殺人現場にでも見えた?」

「うわあ、人形ってこうしてできるのねー。(棒読み)」

疲れるな、作業開始前から。

「ただの組み立ての段階だから素人にもできるでしょ。

 右腕二本とか付けたりしないでね。」

「大丈夫、左腕二本。

「大丈夫じゃない、やり直せ。」

そんな感じで作業は順調(?)に進んで、

しかし、結構神経使う作業だなこれは・・・。

パーツの細いのなんのって。

特にこの接合部に差し込むところなんか―――

―ボキッ

「・・・・・・。」

「・・・・・・。」

折れた。

しかも、首。

「・・・えっと。」

「・・・・・・。」

「だいじょぶだいじょぶ!! ほら、こうすれば―――

―ゴトンッ...ゴロゴロ.ゴロ...ゴロ.......

「・・・・・・。」

「・・・・・・。」

「・・・え〜、うん。あははは。」

「ありがとう、あなたのおかげで新しい人形のアイデアが浮かんだわ。」

「そ、それはなによりね〜。」

『首折り・蓬莱"山"人形』。もしくは『首撥ね・蓬莱"山"人形』。」

「そ、そそそそれは素敵ね〜。多分、蓬莱"山"じゃなきゃもっと素敵よ〜?」

「そうかしら? そこが気に入ってるんだけど・・・?

「す、すみませんでした〜〜〜!!!」

輝夜は一目散に逃げ出した。

その後ろ姿を目だけで追いかけて、

「・・・・・・お茶くらい、出せばよかったわ。」

アリスは、ちょっとだけ寂しそうに、そう呟いた。

 

* * *

 

『巫女』

やはり最後はここか。

この巫女の世話になるのだけは嫌だったんだが、仕方あるまいな。

「・・・あ〜? 巫女の仕事・・・?」

炬燵でぐったりと伸びている霊夢を発見する。

まてよ?

この霊夢を見る限り、巫女の仕事って案外楽なんじゃ・・・?

「仕事なんて境内の掃除くらいよ〜。あと宴会の後片付けね〜。」

何でもっと早くここを訪れなかったのだろうか。

このグータラ巫女の仕事が一番楽に決まっているじゃないか!!

「私、仕事を探してるのよ。手伝ってもいいかしら?」

「ど〜ぞど〜ぞ、好きにやんなさい。竹箒は裏の物置に立てかけてあるから。」

早速、竹箒で境内を掃き始める。

「こ、これは・・・!?」

驚愕した。

今までの仕事と比べて、なんと楽なことか!!

広さなど白玉楼の庭や紅魔館の図書館と比べれば猫の額ほど。

のんびりやってもナイフが飛んでくることはなく、

隕石のごとき魔理沙の襲撃もない。

・・・いや、来るには来るのだが、轢かれたりはしないだろう。

すばらしい。

これこそまさに私の天職!!

「霊夢!! 私、巫女になるわ!!」

「あ〜そ〜、好きになんなさい。」

よし、霊夢の許可も下りた。

これで私は、晴れて博麗神社の巫女となった。

―きゅるるるる...

ほっと安心したらお腹が鳴ってしまった。

そういえば、結局私は朝からなにも食べてなくて・・・。

「霊夢、ご飯にしましょうよ。」

「そ〜ね〜、好きにしなさいな。」

よし、腹ごしらえもできる。

まさに最高の職場。

私は意気揚々と霊夢の台所をあさり始めて、

あさり始めて、

・・・あさり、続けて、

「ちょっと霊夢!? どういうことよ!!」

「なにがよ?」

「なんにもないじゃない!!」

「素敵なお賽銭箱なら外よ?」

誰が賽銭箱の場所なんぞ聞くか!! 食べ物の話よ食べ物の!!」

「ああ、食べ物・・・。そりゃないわねぇ。」

「なんでないのよ!?」

霊夢は本当にめんどくさそうに、

深い深〜いため息をついて、

「巫女になりたいんでしょ?」

「・・・ええ、そうよ。」

「なら数日間の断食くらい耐えなさいよ。

 年中無休。年中無給。年中むきゅ〜。
 
 この三重苦に耐えられないなら巫女になる資格はないわ。」

「ちょ・・・!? つか、年中むきゅ〜ってなによ?

「食べ物がなくてぐったりしている様。」

「今のアンタね。」

「オフコース。」

「それ使い方違うわよ。」

とにかく、と話を切ってお茶をすする。

「楽して生きたいならほかを当たりなさい。

 楽はできるけど生きられるとは限らないわよ。
 
 ああ、アンタは不死身か。」

「不死身でも腹は減る。」

「じゃあなおさらあきらめなさい。空腹で死ねないなんて地獄よ。」

「らしいね。やっぱり巫女はやめとくわ。」

「オフコース。」

「それも違うと思う。」

 

* * *

 

『薬剤師の助手』

永遠亭に戻ってくる。

灯台元暗しとはまさにこのことか。

これほどまでに身近に職があるとは思わなかった。

鈴仙もこれに当たるのだから問題はあるまいな。

「姫、適職は見つかりましたか?」

「それなんだけどね、永琳。」

「はい。」

「私、永琳の助手をすることにしたわ。」

「私の、助手ですか?」

「ええ、いいでしょう?」

「・・・う〜ん、ウドンゲで十分手は足りてるんですけど。」

「そこをなんとか。イナバだけじゃできないことだってあるでしょう?」

「・・・・・・あるには、ありますが。」

「それよ! なんでもするわ。」

「なんでも、ですか?」

「なんでもよ。」

永琳は、それでも悩んで、

本当に、悩みに悩みこんで、

「・・・わかりました、姫。」

「本当!?」

「ええ。姫、とても成長なされたようですね。

 私は本当に、嬉しく思います。」

「永琳・・・。」

「さあ、お腹も空いているでしょう。

 夕飯は私が腕によりをかけてご馳走しますよ。」

「・・・うん!」

 

そして、とても豪勢な夕食が輝夜に用意されて、

2食も抜いていた輝夜はそれを残らず平らげて。

本当に、美味しい食事だった。

散々働いた後のご飯は、また格別だと輝夜は知った。

そして、充足した気分を楽しみながら永琳の部屋を訪ねて・・・、

 

「それで、永琳。仕事って何を手伝えばいいの?」

「はい。まずはそちらの椅子に座ってください。」

「うわっ、なんかごっつい椅子ねぇ。玉座みたいだわ。」

「はい、手を手すりに掛けて下さいね。」

「こう? ・・・永琳、何してるの?」

「ベルトで固定しているんですよ?」

「へぇ〜、なんのために?」

「もちろん、逃げられないようにするためですわ。」

「・・・誰が。」

「姫が。」

「・・・・・・誰から?」

「私から。」

「・・・・・・・・・ちなみに私の仕事ってのは?」

「姫は最近、付近の集落で疫病が流行っているのをご存知ですか?」

「初耳だわ。」

「死亡率100%。感染すればまず助からない病です。」

「そんなものがあるのね。」

「血液が毛穴という毛穴からにじみ出る様から、赤汗病と言われています。」

「うわっ、想像したらグロいわね。」

「最後には全身血まみれになったミイラのような死体が残ります。」

「うっ、ちょっと吐きそうだわ。食べ過ぎたし。」

ああ、それは困ります。絶対に吐かないでくださいね。」

「・・・・・・なんで?」

「せっかくの仕込みが台無しになってしまいますから。」

「ちょっといい? ものすごく嫌な予感がしてきたわ。」

「姫、あなたの仕事は世界に貢献する偉大な仕事ですよ。誇りを持ってくださいね。」

「いやいやいや、普通の仕事で満足よ? 世界の隅っこでちっぽけな仕事が私の幸せよ?

「またまた、そんなご謙遜を。」

「永琳、ぶっちゃけ?」

「ぶっちゃけ、先ほどの夕食にそれを仕込みました。」

「ぶっちゃけすぎだろ!! どんだけ!? どんだけ!?!?

「生憎、ラットを切らしてまして・・・。」

「ラ"ビ"ットなら沢山居るじゃん!? それで良くない!?」

「・・・・・・使い捨てより詰め替え用?」

「意味がわからない!! その詰め替え用に当たるのは私か!?!?

「オフコース。」

「使い方合ってるけどやめろ!!」

「だって、こんなことウドンゲには頼めないし・・・。」

「お前も不死身だろ!? 永琳がやりゃいいじゃん!?!?」

「嫌。」

「私も嫌だっつーの!!!!」

「というわけで、姫。まずは発症何時間で死に至るのか計測しますので。」

「もう死ぬこと前提!?!?

「一時間ごとに様子見に来ますからね〜。」

「ちょ、まっ、え〜りん!?!?」

 

* * *

 

「あら、鈴仙じゃない。げっそりしてるけど、どうかしたの?」

「それが聞いてよ霊夢。最近、師匠の部屋から奇妙な呪文が聞こえるのよ。」

「へぇ〜。どんなの?」

エ〜リンエ〜リンタスケテエ〜リン、って。怖くて夜も眠れないわ。」

「永琳が奇妙な魔術でも始めたんじゃない?」

「それがね、その時師匠は普通に台所でご飯作ってたのよ。」

「へぇ〜、怖いわね。」

「でしょう?」

「宴会でウケるわよ、その怪談。」

「実話だってば。」

「そういえば。永琳が新しく赤汗病の特効薬作ったとか。」

「そうなんですよ。でも次から次へと新しい疫病が発見されて・・・。」

「大変ねぇ。」

「ええ、本当に大変そうですよ、姫。」

「・・・輝夜が?」

「いえ、別に・・・。」

 

それから、輝夜の姿を見たものは、・・・あんまりいない。

 

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