ローマの聖堂(1)

ローマを訪れる人たちは、コロッセウムなどの古代遺跡や、ミケランジェロやラファエロのルネサンス美術にまず目を奪われます。それらに比べると地味ですが、ローマには古く由緒ある、美しい聖堂も残されています。

 

ローマ市の北郊にあるサンタ・コスタンツァSanta Costanza聖堂。これはもともと、コンスタンティヌス大帝の娘コンスタンティナConstantinaの廟墓として4世紀前半に建てられました。

コンスタンティナは、354年に亡くなりました。父の生前に聖女アグネスの聖堂を建てるよう勧め、大きな聖堂が建てられたので、自分の埋葬の地としてその隣を希望したものと思われます。

円形の建物は、当時大きな廟墓や殉教者記念堂としてよく建てられた形式でした。

 

 

 

 

サンタ・コスタンツァ聖堂の内部。

中央の円筒形の壁を、2本1組になった柱が支え、その上にドームの天井があります。回りの周廊は天井が低くなっていて、そこにモザイクがほどこされています。ドームと円筒部の壁にもモザイクなどの装飾があったことがわかっていますが、それは失われてしまいました。

 

 

 

 

 

 

周廊の部分。周囲にニッチ(奥まったくぼみ)があり、そこにもモザイクがあります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

周廊天井のモザイク。

中央に故人の肖像と思われる女性像があり、その周囲をブドウのつるが文様になって囲んでいます。男の子どもたちがブドウを収穫して牛車で運び、足で踏んでブドウジュースをしぼりとり、ワインを作ります。

古代以来続いている牧歌的な場面で、酒の神バッカスの祭儀を思わせます。キリスト教の初期には古代宗教的なモティーフがキリスト教の美術・建築に使われることは珍しくありませんでした。

 

 

 

 

トラディツィオ・レギス(律法の授与)の場面。

中央にキリストが立ち、向かって右でペテロが巻き物を受け取り、左でパウロがそれを賞賛する仕草をしています。巻き物には「主は平和を与える」と書かれています。

キリストはひげがなく、若く面長な顔だちをしています。このような顔のキリストは、4世紀にはよく描かれました。

 

 

 

 

 

 

同じくサンタ・コスタンツァのモザイクですが、神がモーセに十戒を授ける場面という説と、キリストがペテロに天国の鍵を渡す場面という説とがあります。

 

 

 

 

 

 

 

 

皇女コンスタンティナの石棺は、かつてはサンタ・コスタンツァの中にありましたが、現在ではヴァティカン美術館に置かれています。最高級の石材であった紫斑岩の石棺です。ここにも童子がブドウを収穫する場面が浮き彫りされています。

それにしても、コンスタンティヌス大帝の両親はコンスタンティウス1世とヘレナ。コンスタンティヌスの子どもは、コンスタンティヌス2世とコンスタンティウス2世とコンスタンスとコンスタンティナとヘレナ。もう少しわかりやすい名前の付け方ができなかったのでしょうか・・・。

 

 

 

 

 

サンタ・コスタンツァ聖堂の隣にある、サンタネーゼSant'Agnese聖堂。聖女アグネスの墓の上に建てられた聖堂です。

コンスタンティヌス大帝による4世紀の建物は残っておらず、現在のこの建物は7世紀前半に建て直されたものです。

 

 

 

 

 

 

 

アプシスのモザイク。中央に聖女アグネスが立ちます。その足下には炎が見えます。聖女アグネスは、ディオクレティアヌスの時代に殉教した女性であると言われています。

アグネスが来ている衣装はビザンティンの皇妃が身につけるものです。両脇に司教の衣をまとった聖職者が立っています。

 

 

 

 

 

 

 

サンタ・サビーナSanta Sabina聖堂。ローマ市内、パラティーノの丘とティベーレ川の間の、アヴェンティーノの丘にあります。

献堂銘によれば、イリリア地方(現在のクロアティア)出身のローマの司祭ペトルスという人物によって、教皇カエレスティヌス(在位422〜432年)の時代に建てられました。

古い聖堂建築の形をよくとどめた聖堂です。20世紀初頭に、後代の装飾や増築部分を取り除いて、できるだけ5世紀の姿に戻す工事がおこなわれました。写真は西側の玄関。

 

 

 

 

 

南東から見たサンタ・サビーナ聖堂。長方形の建物の東に半円形のアプシスが突き出した、典型的なバシリカ式の聖堂です。

教会側では、聖女サビーナは2世紀の殉教者で、その家の上にこの聖堂が建てられたと説明していますが、実際にはサビーナという女性が聖堂の用地を寄進し、その人が後に聖女とされたのではないかと考えられています。

 

 

 

 

 

 

北東から見た聖堂。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サンタ・サビーナ聖堂のナルテックス。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    

ナルテックスから堂内へ入るところにある木製の扉で、浮き彫りがほどこされています。最初期の聖堂装飾として貴重な作品です。研究者には、辻佐保子先生による詳細な研究によってよく知られています。右はパネルの1枚で、預言者エリアが火の馬車で天にのぼる場面(旧約聖書「列王記」下)。

 

サンタ・サビーナ聖堂の内部。結婚式の前で、花が飾られていました。

内部も古い姿に戻され、聖域を囲むテンプロン(ついたて)が復元されました。アプシスのフレスコは16世紀のタッデオ・ツッカリTaddeo Zuccariの作で、修復の際にもこのフレスコは残されました。

 

 

 

 

 

 

 

参考文献

H. Stern, "Les Mosaiques de l'eglise de Sainte-Constance a Rome," Dumbarton Oaks Papers, 12 (1958)

A. P. Frutaz, Il complesso monumentale di Sant'Agnese (Vaticano, 1969)

M. Darsy, Bibliographie chronologique des etudes publiees sur les portes de S. Sabine (Roma,1954)

W. Naumann, "Der fruechristliche Innenraumen: Die Kirche von Santa Sabina in Rom," Antike Welt, 5 (1974)

K. Weitzmann ed., Age of Spirituality (New York, 1979)

辻佐保子「ローマ サンタ・サビーナ教会木彫扉の研究」(中央公論美術出版、2003年)

名取四郎「コンスタンティナ廟堂の北側小アプシスのモザイク」「別府大学紀要」18号(1977年)

「世界美術大全集」第7巻、辻佐保子編「西欧初期中世の美術」(小学館、1997年)

(ドイツ語のウムラウトはeで置き換えています。フランス語のアクセントは省略しています)

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