2005年NF研究発表「視覚障害者と食」

目次

  1. はじめに
  2. 視障者とは
  3. 視覚障害者用の調理器具
    1. 視覚障害者用の調理器具とは
    2. いろいろな器具
    3. まとめ
  4. 食生活に関するアンケート(その1 統計編)
    1. 調査目的
    2. 調査方法
    3. 質問文
    4. 回答結果
    5. まとめ
  5. 食生活に関するアンケート(その2 個人編)
    1. 調査目的
    2. 調査方法
    3. 質問文
    4. 回答結果
    5. まとめ
  6. おわりに

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1.はじめに

こんにちは。このたび京都大学点訳サークルでは、第47回京都大学11月祭において、「視覚障害者と食」というテーマを採択し、研究発表することになりました。

駅の手すりやエレベータの操作盤、缶のタブに付いている点の配列。それは「点字」という文字で、主に「視障者」(視覚障害者の略)と呼ばれる人が使います。それに対して、目に不自由のない「晴眼者」が普段目にする活字や文字。これを「墨字」と呼びます。サークルでは、視障者やその周辺の方から墨字で書かれた依頼を受け取り、それをパソコンで点字データ化するという「点訳」活動を普段は行っています。11月祭では例年、パンフレットの点訳にも力を入れています。

また、土日には関西圏にある他大学の点訳サークルやボランティアサークル、あるいは視障者と一緒に交流を図り、視障者に関する問題を勉強する機会が多々あります。視障者と食事を共にすることも重なり、「どうやったら視障者と一緒に食を楽しめるだろうか」という素朴な疑問が提起されました。そこに今回の研究テーマは端を発しています。

今回発表するにあたり、準備段階には非常に多くの視障者に協力を仰ぎ携わっていただきました。この好意を無駄にしないように我々も努力し、考察したつもりです。読者の皆様が「食」を通じて、視障者とのあり方について見識を深めていただければ幸いです。

2005年度京都大学点訳サークル会長
吉川貴章

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2.視障者とは

視覚障害者は平成8年版「障害者白書」によると、35万3千人となっています。そもそも視覚障害者の定義とはどういったものなのでしょうか。

身体障害は、抱える障害の種類によって細分化され、視覚障害は聴覚障害・音声言語障害・肢体不自由、あるいは臓器・免疫不全という区分と同等になります。身体障害者は身体障害者福祉法第1節第4条より、「この法律において、『身体障害者』とは、別表に掲げる身体上の障害がある18歳以上の者であって、都道府県知事から身体障害者手帳の交付を受けたものをいう。」と定義されています。身障手帳(身体障害者手帳の略)を持つことによって、更生医療や補装具の交付などの福祉サービスが受けられるようになります。あるいは、JR・私鉄・飛行機・タクシーなどの各種交通機関の運賃の割引、高速道路の通行料金の割引、映画館・テーマパークなどの入場料金の割引も認められます。

手帳は重度の方から順に1級〜7級に区分されています。級による区分は視覚障害や聴覚障害など、障害の種類により定義が異なっています。下記は視覚障害についての区分方法です(平成7年4月20日改正)。

(区分で利用される視力は万国式試視力表(注3)によって測ったものをいい、屈折異常(近視、遠視、乱視など)のある者については矯正視力について測ったものをいいます。)

視覚障害の場合、区分は6級までしか使われません。障害の種類により利用される級が異なります。例えば音声・言語障害になると3級と4級の区分しかありません。また、視覚障害で同じ1級であっても、光を感知できるのか、あるいは全くの闇の中で生活しているのかといったところまで細かくは区分できていないのがわかります。級が同じだからといって、状況は各人で異なるのです。

級は先述のとおり1級から7級までありますが、この区分法を利用して全体を重度・軽度の2種類に分けることがあります。前者は「第1種身体障害者」、後者は「第2種身体障害者」と呼ばれ、この境界は障害の種類で変わってきます。視覚障害者の場合ですと、1級から3級及び4級の1が第1種身体障害者、4級の2、5級及び6級が第2種身体障害者に分けられます。第1種・第2種による区分は公共の交通機関を利用する際に、その割引額あるいは割引の範囲に関係します。視覚障害者を含め、身体障害者は「級」と「種」の2つの方法で分けられることになります。

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3.視覚障害者用の調理器具

  1. 視覚障害者用の調理器具とは
  2. 視障者は晴眼者とは違い、視覚に頼って調理をすることが困難、あるいは不可能です。そのため視障者が実際に調理するには、視覚を使わなくても作業できる形に特化した道具類が有効となります。それが視覚障害者用の調理器具です。炊事、食事、後片付けなど、それぞれ場面に応じたものがあり、同じ作業に対しても数タイプの製品が出揃っています。一般的な製品との相違点を包括的にとらえると、

    1. 音が出る、振動する
    2. 安定性を良くする
    3. 動作を単純化する
    4. 触覚に依存する部分を増やす

    といった点が挙げられます。また、視障者にとって使いやすいだけでなく、高齢者や肢体不自由者にとっても利用しやすいものが多く見られます。(共用品、ユニバーサルデザインといいます。)

  3. いろいろな器具
  4. 視覚障害者用の調理器具には多くの種類がありますが、それらをカテゴリ ーに分けて紹介します。

    1. 計量器具
    2. 利用者が自分の感覚で量るのではなく,器具の方で自動的に計量する工夫 があります。

      <具体的な特徴>
      • 計量スプーン、普通のスプーンの内側に凸目盛がある。(触るとどこまで入ったかを確認できる。)
      • 計量カップ、容量別に大きさが違う。例えば、50ml・100ml・200ml等。(計量カップいっぱいに食材・調味料を入れる。すると、難しい計量作業をせずに量がわかる。)
      • 計量ポット、調味料容器に計量機能がついている。(容器の側部、注ぎ口近くの突起などを押すことで、一押しで一定量出すことができる。計量する必要が無い。)
      • 一定量まで液体調味料が入ると音が出る。(聴覚を利用できる。)
      • 台の上においても安全なように、すべりにくい素材を使っている。「さじかげん」、「押しかげん」、「プッシュワン」などの商品があります。

      <さじかげん>

      ワンプッシュで一定量の液体調味料などを取り出すことができる調味料容器。取り出す量は押す位置によって、10ccと15ccに分けられる。(台和、500円)


      <液体インジケーター>

      コップ8分目を音声表示する。本体から出ている金属端子でコップの縁に引っかけるようにして使う。金属端子は長い針が2本、短い針が1本あり、センサーとしてはたらき、二段階の液量が測れる。(RNIB、2940円)

    3. タイマー
    4. 視覚に頼らず、目的の時間が来たことがわかるような工夫がされているものや、シンプルな動作で使用できるものが多くあります。

      <具体的な特徴>
      • アラーム、音、振動、発光などで時間を知らせる。(視覚に頼らず感知することができる。発光は光の認識できる視障者が利用できる。)
      • ボタン自体が数字の形をしていたり、大きかったり、色分けされたりしている。(触ったら数字がわかり、大きいボタンは押しやすい。色分けは、光を認識できる視障者が利用できる。)
      • タイマーのふちを回すだけで時間の設定ができる。(触覚を使って時間設定ができる。)
      • ほかにも、伝言機能がついているもの、時間に従って家電製品のオンオフができるものもある。「りんごちゃん」、「光るメロディータイマー」、「押しやすいタイマー」などがあります。

      <タイムスイッチ「りんごちゃんスペシャル」>

      円状に並べた操作ボタンの、1から0までの数字が凸字になっている、わかりやすいキッチンタイマー。1分から99分までセットできる。電子音で正確にお知らせ。本体コンセントにプラグをさせば、家電製品のオンオフも可能。磁石、ひも付きの小型タイマーもある。(松下電工、3950円)

    5. 調理器具
    6. 視覚に頼らなくても扱いやすいような工夫や、色や光は認識できる視障者のための工夫が凝らされています。

      <具体的な特徴>
      • 色のコントラストがはっきりしている。(色が認識できる視障者はどこに食材・調味料があるかがわかりやすくなる。)
      • 丈夫にできている。(間違えて落としても破損しない。破片の掃除をせずにむ。)
      • 衛生的である。(視障者にとって困難な、衛生管理を簡単にする。)
      • 底に吸盤やゴムがついていてテーブルなどにくっつき、片手でも扱えるようになっている。(安定性が確保されている。)「指ガードマン」、「KNおろし器」、「黒色しゃもじ」、「白黒両用まな板」、「ポット・ストレーナ(湯きり器具)」などがあります。

      <白黒両用まな板・黒色しゃもじ>

      まな板…片面が白、片面が黒のまな板。弱視の方は、黒い面を使うと白い物を切るときに便利である。刃あたりがよく、包丁を痛めない。抗菌仕上げ。(ジオム社)

      しゃもじ…表面の特殊な突起パターンでご飯がくっつきにくく、水につけて利用する必要が無い。そのため衛生的である。黒色は炭によるもので抗菌作用がある。(株式会社日本ウォーターシステム、315円)

    7. 調理器具(電子レンジ関連)
    8. 電子レンジを利用することで、調理がより簡単になります。また、火を使わない調理方法なので、安全性が高いのも特徴です。

      <具体的な製品とその特徴>
      • 電子レンジ専用マジックプレート「魔法のお皿」…この台は電子レンジで加熱しても熱くならないので、容器をこの上にのせて使います。この台ごと取り出せば熱い思いをしません。
      • 「クッキングコンポ」…電子レンジ用の容器です。野菜をゆでる、蒸すなど幅広い用途に対応しています。
      • 「楽ちん御膳」…電子レンジでご飯が炊けます。吸水時間と蒸らす時間を充分とれば、とてもおいしいご飯が出来上がります。あらかじめ必要量の水を計量できる別容器が必要です。

    9. 食器
    10. 安定性と安全性を重視したつくりになっています。

      <具体的な特徴>
      • 色のコントラストをはっきりさせる。(黒い茶碗だと、白い米粒が目立ち、最後まで食べられる等。)
      • くびれがあるなど通常の形態と一部異なる。(それにより安定性・安全性が増す。)
      • 通常より頑丈に作られている。(間違えて落としても破損しない。破片の掃除をせずにすむ。) 「ご飯くっきり天目茶碗」「モノトーンマグカップ」「れんげ」「業務用強化グラス」「滑り止めおぼん」などがあります。

      <れんげ>

      おわんの角に立てかけられるようにくびれた形になっている。知らないうちにすべりこむことがないので、その他のれんげよりは使いやすい。

  5. まとめ
  6. 調べた結果、ソフト面・ハード面にかかわらず、様々な種類の調理器具が見つかりました。その多くが視障者に限らず、他の種類の障害者や晴眼者にとっても使いやすい道具であることがわかりました。上に記載したように、電子レンジで調理可能な容器というのがありますが、これを利用すれば、ご飯を炊いたり、麺類を戻したり、煮物を作ったりすることも可能です。視障者が、調理を簡単にできるように作られたものですが、実際には調理者の障害の有無・その種類にかかわらず便利なものです。逆に視障者用ではなく、一般の流通経路で販売されながら、視障者にとっても使いやすい器具もありました。

    このように一般の器具であっても視障者は利用できるので、視障者用の調理器具は普及していないように思われます。同じ用途の器具どうしで比べると、大量生産されている製品の方が安いことも原因にあげられるのではないでしょうか。上記に列挙した製品は視障者用に特化したもののうち、かなり特徴的なものを掲載しました。調べていると、一般市販されている製品と大差ない器具の方が多かった気がします。たいした違いもないのに高い視障者用の調理器具をわざわざ使おうとは思わないかもしれません。一般市販品を使いやすいように改造するケースもあるようです。視障者用の調理器具の入手経路は調べると簡単にわかるので、やはり金銭的な問題がネックになっていることが推測されます。

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4.食生活に関するアンケート(その1 統計編)

  1. 調査目的
  2. 今回の研究発表にあたっては、視障者の方にアンケートを実施することにしました。「家庭での調理にどれほど参加しているのか」、「もし調理ができない状況にあるなら、それはなぜなのか」、「外食をする際、何か気になることはないのか」など、多くのことが私たちにはわかりませんでした。このような問題にスポットを当てて発表するには、単なる推測や書物からではなく、実際に生活している方の生の声を聞くのが一番だと考えました。その中でも、この章では、全体的な動向を知るのに主眼を置きました。選択式のアンケートに答えていただき、統計をとることによって、より多くの方 に共通する悩みや問題点を明らかにしようと試みました。

  3. 調査方法
  4. 調査は九月上旬から十月中旬にかけて、「日本ライトハウス」「京都府立盲学校」と個人的に親交のある全盲・弱視の視障者にアンケートを実施する形で行いました。日本ライトハウスから21名、京都府立盲学校から14名、その他の方々から7名の計42名から回答をいただきました。日本ライトハウスでは、前で拡声器を使って質問を伝え、選択肢の数字で答えていただく形式をとりました。点字の打てる方には点字板と点筆で記入し ていただき、点字が打てない場合は職員の方に代筆をお願いしました。弱視の方には、拡大して質問と選択肢の番号だけを記した回答用紙に、該当する選択肢の番号に丸をつけていただきました。

    京都府立盲学校では、文書データを渡し、学校を訪れた一般の方に回答し<ていただきました。なお、中等部以下の方は調査の対象から外しました。親交のある方では、直接会う、メールで送る、電話の三種類の方法でアンケートに回答していただきました。

    答えるべきでない質問を回答したものは結果から除外しています。選択肢<の総数を足しても回答数に満たない質問は、一部の方が回答を保留したということです。

  5. 質問文
  6. <自炊について>

    Q2、Q3でともに,氾えた方はQ4のみ答えてQ8へ進んでください。それ以外の方はQ4をとばして、Q5〜Q7を答え、Q8へ進んでください。

    <外食について>

    以上

  7. 回答結果
  8. (男性29人、女性13人、計42人)


    <自炊編>


    <外食編>

  9. まとめ
  10. 今回は男女、年代という区分のみでしたが、全盲と弱視の区別もとるべきだった、という反省があります。「その他」に票が集まった質問もあり、回答枠の考察も不十分であったように思います。プライバシー保護の観点から家族構成は聞きませんでしたが、食生活に与える影響を考えると、やはり聞くべきではなかったか、といった意見も出されました。

    大規模な調査では、点字メニューを出すことをマニュアル化している店もあるのですが、こうして直に聞いてみると、まだまだ整備が不十分だという印象を受けました。回答者の中には点字を練習中で、まだ読めない方も多かったことから、「点字メニューだけでなく、拡大文字のメニューも必要なのではないか」とも感じました。

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5.食生活に関するアンケート(その2 個人編)

  1. 調査目的
  2. この章では、視覚障害者の方のうち何人かが、実際にどのような食生活を送っていて、どのような要望を持っているのかを取り上げたいと思います。

    先ほどの「統計編」では、一般的な数字データをとることを目的としていました。そのため、どうしても回答が選択式になってしまい、より立ち入った、具体的な意見を提示することはできていません。そこで、「視覚障害者の食生活をより理解する」という本来の目的のためにも、そういった個別的な意見も掲載しよう、ということになりました。前章と対比して、このような「違い」を考えるのも意義あることだと思います。

  3. 調査方法
  4. 調査は統計アンケートをとった時に、一緒に行いました。個人的に親交があった7名の方に、前のアンケートに続けて4つの質問を提示し、記述式で自由に答えていただく、という方式をとりました。7名中4名はメールで質問文を送り、メールで回答していただきました。残る3名のうち、1名は電話で、2名は直接お会いして質問し、サークル員が回答を書き取って編集しました。

  5. 質問文
  6. (Q16までは統計編と同じ。以下、Q17〜Q20までを記す。)

    Q17, 得意料理や調理した際の失敗談についてお答えください。
    Q18, 食べやすい・食べにくい料理や食器を教えてください。
    Q19, 墨字用のメニューを同伴者(晴眼者)に呼んでもらうとき、どのように読んでもらいたいですか?
    Q20, 外食をする際に、店員や店の構造・サービスなどについて意見や要望があれば、お聞かせください。

  7. 回答結果
  8. (それぞれの人の食環境がわかるように、記述回答の前に、4章の回答結果を掲載する。また、答える必要のない質問に答えてくださった場合も、その回答は消さずにそのまま載せている。)

  9. まとめ
  10. メニューの読み上げ方や食べにくい食器など、意見が一致する箇所も多く見受けられます。同時に、点字メニューの捉え方などでは違いが見られます。このような各人の考えを考慮していくことは、福祉施策を進めていくにあたっても重要であるように思います。

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6.おわりに

以上で見てきたように、実際に生活している方から見れば、視障者をとりまく食環境は十分なものとはいえません。誰もが快適な食生活を営めるように努力していく必要があります。このような問題に対しては、一人ひとりが実情を知り、考えることが重要であり、この研究発表の目的はそのための資料の提供にありました。これをきっかけにぜひ、そうしたことについてもう一度見つめ直していただきたいと思います。


京都大学点訳サークル

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